全国ボランティア研究集会の実施における各市町村での協働の状況
日本青年奉仕協会事務局
1. はじめに
全国ボランティア研究集会(以下、集会)は、1970年に第1回をスタート、その後全国各地においてプログラムの企画ならびに運営を行ってきた。特に開催地においては、集会を準備する過程でさまざまな機関、団体が連携することで、集会本番を有意義なものにすることはもちろんのこと、その終了後に何らかの新しいつながりや活動が生まれていくことを期待し、また目指してきた。
そういう意味で、今回の集会では、山形県庄内地域の全14市町村をフィールドにして開催することを各方面に働きかけ、それぞれの市町村が実行委員会を組織し、分科会や交流会を企画、運営した。
それぞれの地域で、市民ボランティア、NPO、行政、企業などの各セクターがどのように協働をすすめ、その成果や課題が何であったのかを明らかにし、今後の地域の活性化、ボランタリーな活動のエンパワーメントや組織間の協働を行っていくうえでの参考にしたいと考え、各市町村の実行委員会に対してアンケートを実施した。お忙しいなか、アンケートにお答えいただいた関係者の方々に、この場をお借りしてお礼を申し上げたい。
以下、その内容と結果について報告する。
2. アンケートの内容ならびに結果
以下にアンケートの設問ならびにその回答を順に示す。14の市町村のうち、11の実行委員会から回答をいただいた。
(1)実行委員会の楕成など、今回のプログラムの実施にあたってどのような立場の人が関わったか。
回答として多く挙がったのは、社会福祉協議会(以下、社協)職員、行政職員、ボランティア団体構成員である。社協職員は回答した全てのところで、行政職員は1つを除いて全て挙げられていた。これは、今回各地で実行委員会を組織する際において、社会福祉協議会ボランティアセンターや役所(役場)の福祉部局または市民活動・まちづくり部局がボランティア活動に関連する公的な窓口の役割を果たしたことに関係していると思われる。ボランティア団体の関わりは、ボランティア研究集会である以上、当然の結果であろう。
ほかには、企業経営者、女性団体長、青年団体長、老人クラブ会長、高校教員、福祉施設職員、大学生などが挙げられていた。
(2)それぞれの立場の組織が、どんな役割を果たしたか。
各実行委員会で少しずつ異なっているが、だいたいの傾向として以下のようなことがいえる。まず、社協や行政が事務局として各機関、関係団体との連絡・調整を図っていることである。なかには財政援助や運営にあたっての人的支援を行っているところもあった。企業の役割を挙げていたところが4ヵ所あったが、もっぱら費用負担(協賛)であった。また、ボランティア連絡協議会が企画・運営の主となり、社協、行政、企業が費用負担や運営支援をしているところもあった。
(3)異なるセクターの協働は、どの程度うまくいったか。
「とてもうまくいった」から「まったくうまくいかなかった」までの四択で答えていただいた。「とてもうまくいった」ところが3ヵ所、「まあまあうまくいった」ところが5ヵ所、「あまりうまくいかなかった」ところが3ヵ所であった。「まったくうまくいかなかった」ところはなかった。
(4)〔(3)に関して〕どんなところがうまくいった(うまくいかなかった)か。その理由は何か。
「うまくいった」点については、「これまで以上の縦・横のつながりができた」「実務レベルでの実行委員会の運営については、特に支障なく進めることができた」「参加者、協力者の拡大」などの回答があった。その理由としては、「全国大会ということで同じ目標をもてたため」「連絡を密に取り合うことができたため」などが挙げられた。
一方、「うまくいかなかった」点については、「実行委員一人ひとりのボランティアに対する思いに温度差があった」「社協とのやりとりのなかで一部トラブルがあった」などの回答があった。その理由としては、「自分たちの活動に固執するあまり、全体が見えなくなるのでは」「行政の側でボランティアとの協働という意識に立てなかった」「想いが先行して書類上の手続きが不十分だった」などが挙げられた。
(5)協働してプログラムを企画、運営したことで感じたメリットやデメリットは何か。
メリットとして、「組織のあり方を見直すきっかけができた」「今まで個々に活動していたことが今回のプログラムの企画・立案を通して一つになることができた」「さまざまな情報が共有できた」「さらに強力なネットワークができた」「仲間意識の醸成」などが挙げられた。
一方、デメリットとしては、「事務手続きや調整作業に時間をとられることが多く、草の根のボランティア事業として目的や想いを共有してともに進めるというところにエネルギーを注げなかった」「企画変更時の対応が大変だった」という意見に象徴されるように、連絡調整などの事務の大変さを挙げるところが4ヵ所あった。
(6)協働してプログラムを企画、運営したことで感じた課題は何か。
「既存の組織同士がどう連携していくか」「人材、社会資源を発掘し、それを活用することの難しさ」「それぞれの組織や団体により、手続きやアプローチの方法などが違うことについての知識や対応が足りなかった」「組織を運営するうえでもう少し役割分担をして進めていくことが必要だった」「行政が傍観者的立場であったのが心残りだった」などの意見があった。
(7)本集会に関わったことが、コミュニティや関係者、住民に与えた影響はあるか。新たに生まれたもの(有形無形を問わず)はあるか。
「新しいネットワーク」「関係者のなかでは、本集会を開催したことにより、それぞれの課題が確認できた」「集会に参加したことで、ボランティア同士に一体感が生まれた」「全国の参加者と触れ合えたことで、さまざまな方がボランティアをしていることを知り、自分たちの活動を見直す機会になった」「自立したボランティア観」「ボランティアに対する認識が幅広いものになった」といった回答のように、新たな意識やつながりが生みだされたという声は、どの実行委員会からも挙がっていた。
その一方で、住民や地域に対しては、「行政、及び町民のボランティアに対する意識の向上に大きくつながった」という意見の反面、「住民一般に対して影響を与えるというところまではいかなかった」「各個人は貴重な経験をしたが、全体、地域としては不明」という意見もあった。
また、「伝統を守ることの大切さ、難しさを実感した」「人と人とのつながりのおもしろさ、大切さを体感した」といった回答もあった。
(8)今回の取り組みでつくられた地域内外のネットワーク(実行委員、講師、参加者など)はどのように活かされていくと思うか。または、どのように活かしていきたいか。
「ボランティア連絡協議会の必要性を痛感した」「今後事業を行うときに実行委員や講師として呼びかけたり、それぞれの事業の情報交換や参加を呼びかけたり、必要があれば協働で事業を行っていく」「今回の出会いを大切にし、さまざまな情報の共有を図っていきたい」「地域内のボランティアネットワークが広がり、ボランティア活動がより活性化し、住民が主体的に活動できる地域づくり、まちづくりに取り組んでいきたい」「広報紙等を通じて情報提供を行っていくとともに、社会資源と伴わせてさらなるネットワークづくりに努めたい」「次年度の事業に組み込み、全V研(注:全国ボランティア研究集会)での「きっかけ」から「次のステップ」へと新たな関係づくりをしてゆきたい」などの回答があった。
(9)その他、今回の集会を実施しての感想、意見
「「2003年2月10日」がスタート」という思いは、実行委員みんなの気持ちと感じました。気づいたこと、やれそうなことをみんなで話し合い、まず行動を起こしていきます」「今回の全V研を開催することによって、自分たち個人や組織の力量やネットワークの再確認ができたように思う。(中略)全V研をやってみてどうだったか、5年後10年後にその成果が現れるようにこれからの日常の業務に活かしていきたい」といったような回答があった。
3. 考察ならびに今後の課題
アンケート結果を総合的に見ると、概ね協働はうまくいったし、やってよかったという思いが垣間見られる。それは、全国ボランティア研究集会という、一つの大きなイベントを共に創り上げていく過程で、新しいネットワークが生まれたり、それぞれの課題が確認できたといったような影響があったこと、そしてそこでつくられたっながりを今後の各地域での取り組みに活かしていくという決意に表れている。
しかしながら、一方で今後に向けての課題も出てきている。以下にそれを整理してみたい。
(1)主体(アクター)の多様化が図れるか
今回、各市町村における取り組みの主体は、ほぼ社協と行政が中心であったことは、アンケートの結果に表れている。これは、先に書いたように、都市部は別としてボランティア活動に関連する公的な窓口といえば、この国においてはこの2つの存在が大きいという事実を図らずも示している。
だが、ボランティア活動は本来、地域や社会をより豊かにするための市民の自発的かつ多様な取り組みであることを考えると、より多様な主体が出現していくことが望まれる。そして、社協や行政が中心的役割を果たしてボランティア(市民)も含めた他機関・団体がそのお手伝いをするといった状況ではなく、ボランティア(市民)やさまざまな市民活動団体も社協や行政と同じ土俵に立って取り組んでいく状況を創り出していく必要がある。そういう意味で、某実行委員会においてボランティア連絡協議会が実施主体となり、行政、社協、企業は資金・運営支援という位置付けで役割分担がなされていたのは、今後のあり方を示唆するうえで興味深い。
(2)既存のボランティア団体の殻を打ち破れるか
今後の課題として、既存の組織同士の連携、人材や社会資源を発掘し、それを活用することの難しさを挙げていたところがあった。裏を返せば、地域における団体同士の相互認識や理解がまだまだ十分でないことの表れであろう。
言うまでもないが、ボランティア活動はあらゆる社会課題、生活課題に関係するものであり、またサービス・補完型から提案型の活動まで幅広いタイプの活動を含有するはずであるが、現実にはまだまだボランティア活動について限られたイメージや理解にとどまっているところがある。それが、ときに幅広いつながりを妨げてしまうことになることもあろう。
ボランティア団体と名乗ってはいないが、地域の課題にボランタリーに取り組む団体も交えたネットワーキングを図っていくことがますます求められる。
(3)互いの「文化」をどう理解するか
組織や団体によって手続きやアプローチの方法が違うことへの知識や対応が足りなかったという声に代表されるように、各セクターにはそれぞれ物事の進め方について違いがあり、そのなかでどう相互理解と調整を図っていくかが問題となる。協働のデメリットとして挙げられていた事務手続きや調整作業の煩雑さもそこに起因するところがあると思われる。
一人ひとりの想いから出発するボランティア活動ではあるが、それをかたちにしていくときには組織内外での手続きが求められるし、それを避けて通ることはできない。かといって杓子定規なやり方ではボランティア活動のもつダイナミズムを活かせない。
ボランティアとの協働について行政の理解がなかったという声もあったが、そうなってしまった原因はいろいろあるだろう。お互いの「文化」や特質を理解していく努力がいずれのセクターにも求められる。
(4)つなぎ役の役割と存在価値
これまでに挙がっているさまざまな課題を克服し、地域において協働を図っていくうえでは、異なるセクターや団体の間に入ってその調整役を担う人・団体の存在が不可欠になってくる。いわゆる中間支援的な立場に立ってその役割を果たすことが求められてくる。
今回については、その役を社協あるいは行政が担ったケースが多かったと思われる。両者がその役割をどこまで果たせたか、アンケートからははっきりわからない。むしろ、本集会で得た財産をこれから活かしていく過程で、その真価が問われてくるだろう。
4. まとめ
地域における諸団体や異なるセクターの協働を推進していくうえで、本集会への取り組みは一つの機会であった。今回の14市町村は、人口規模が上は10万人から下は6000人まで幅があり、それに伴い地域の状況もさまざまであろう。当然、協働の進め方においても地域独自の事情に応じた方法が求められてくるし、課題もまた違ってくる。
各市町村における今回の取り組みが住民や地域に対して与えた影響については、意識の向上に大きくつながったという評価の反面、そこまではいかなかったという認識もあるが、少なくともコミュニティのエンパワーメントに向けてのきっかけにはなったと思われる。いずれにしても今回得られた成果と確認された課題を新たな出発点として、これからそれぞれの地域でさらなる取り組みが行われていくことを期待したい。
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