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番号 採集日 死亡日 採集場所 採集方法 種名
(数字は個体数)
体長 備考
1 7月12日 採集日 国後島 泊湾 潜水 シモフリカジカ1 54mm  
2 7月12日 採集日 国後島 泊湾 潜水 ダルマコオリカジカ属1 2 15〜17mm  
3 7月12日 採集日 国後島 泊湾 潜水 ギスカジカ属1 15mm  
4 7月12日 8月12日 国後島 泊湾 曳き網 ヤセカジカ成魚1♂ 40mm  
5 7月12日 8月12日 国後島 泊湾 潜水 イソバテング1 28mm  
6 7月12日 8月12日 国後島 泊湾 潜水 ニジカジカ2 19,26mm  
7 7月12日 12月19日 国後島 泊湾 潜水 キンカジカ1 37mm  
8 7月16日 採集日 国後島 白糠湾 潜水 不明2    
9 7月16日 7月19日 国後島 東ビロク 潮間帯 オホーツクツノカジカ5 18〜20mm  
10 7月16日 8月2日 国後島 東ビロク 潮間帯 オホーツクツノカジカ1 25mm  
11 7月16日 11月7日 国後島 東ビロク 潮間帯 ギスカジカ 33mm  
12 7月16日 12月17日 国後島 東ビロク 潮間帯 オホーツクツノカジカ1 22mm  
13 7月16日 飼育中 国後島 東ビロク 潮間帯 未査定    
14 7月16日 飼育中 国後島 東ビロク 潮間帯 未査定    
15 7月16日 飼育中 国後島 東ビロク 潮間帯 未査定    
16 7月16日 飼育中 国後島 東ビロク 潮間帯 未査定    
17 7月17日 8月27日 国後島 アトイヤ岬 潜水 クロカジカ属1 Type2, DVIII: AI,3 14mm サドル班明瞭、皮弁2対、隆起大凹、背鰭先端長い
18 7月17日 1月4日 国後島 アトイヤ岬 潜水 クロカジカ属Type2 20mm 頭骨隆起あり
19 7月17日 1月7日 国後島 アトイヤ岬 潜水 クロカジカ属Type2 25mm 鼻棘鋭い、napeに骨隆起
20 7月17日 飼育中 国後島 アトイヤ岬 潜水 未査定    
21 7月19日 採集日 国後島 荒島 潜水 不明 16-19mm 肩帯の上に棘、糸眼上皮弁
22 7月19日 採集日 国後島 荒島 潜水 ギスカジカ属16 15〜25mm  
23 7月19日 採集日 国後島 荒島 潜水 カンムリフサカジカ18 D VIII,18; A16; P14;PI,3 13〜25mm 25mmで初めてカンムリ出現、隆起弱、背鰭皮弁1本長、皮弁2対目基部太短1本
24 7月22日 11月10日 択捉島 レコルダ岬 潜水 クロカジカ属Type1 D IX,18; A15; P1 14;P2 I, 26mm 背鰭房なし1本、2対目糸状、隆起弱
25 7月22日 1月22日 択捉島 レコルダ岬 潜水 クロカジカ属Type1 D VII,18; A14; P1 15;P2 I,3   浮遊稚魚育成個体、上標本に同じ
26 7月22日 採集日 択捉島 レコルダ岬 潜水 種不明(浮遊期の稚魚)1 13mm  
27 7月22日 採集日 択捉島 レコルダ岬 潜水 種不明(浮遊期の稚魚)6 12〜16mm  
28 7月22日 12月14日 択捉島 レコルダ岬 潜水 クロカジカ属1 Type1 25mm 鼻棘鋭い、napeに隆起なし
29 7月22日 1月24日 択捉島 レコルダ岬 潜水 クロカジカ属1 Type1 34mm 頭部以外浮腫の病気
30 7月22日 採集日 択捉島 ウルマンベツ 潜水 イソバテング2 31,32mm  
31 7月22日 採集日 択捉島 ウルマンベツ 潜水 種不明4 10〜13mm  
32 7月22日 採集日 択捉島 ウルマンベツ 潜水 カジカ以外8(ギンポ、シワイカナゴ) 6〜9mm  
33 7月22日 飼育中 択捉島 ウルマンベツ 潜水 未査定    
34 7月22日 飼育中 択捉島 ウルマンベツ 潜水 未査定    
35 7月23日   択捉島 萌消湾 潜水 ダルマコオリカジカ属未記載種 成魚1   鶴岡理氏保管(水産動物学講座)
36 7月23日 採集日 択捉島 萌消湾 潜水 種不明(クロカジカ属2タイプ)32 10〜13mm  
37 7月23日 採集日 択捉島 萌消湾 潜水 種不明(クロカジカ属)9 9〜13mm  
38 7月23日 採集日 択捉島 萌消湾 潜水 種不明(クロカジカ属)5 6〜8mm  
39 7月23日 採集日 択捉島 萌消湾 潜水 種不明(クロカジカ属2タイプ)44 11〜13mm  
40 7月23日 採集日 択捉島 萌消湾 潜水 種不明(浮遊期、仔魚後期)1 10mm  
41 7月23日 8月20日 択捉島 萌消湾 潜水 オニカジカ 10.6mm  
42 7月23日 1月9日 択捉島 萌消湾 潜水 ダルマコオリカジカ属未記載種 23mm 頭部に鱗、皮弁2対
43 7月23日 1月16日 択捉島 萌消湾 潜水 ギスカジカ属 31mm  
44 7月23日 9月5日 択捉島 萌消湾 潜水 クロカジカ属2Type1 D VIII, 19; A15; P15;PI,3 53,57mm 隆起弱、背鰭皮弁短2〜4、頭部皮弁2対
45 7月23日 飼育中 択捉島 萌消湾 潜水 クロカジカ属1Type1 80mm以上  
46 7月23日 飼育中 択捉島 萌消湾 潜水 未査定    
47 7月24日 8月4日 択捉島 ウタスツ湾 潜水 クロカジカ属2Type2 D IX,15; A15; P15; P I,3,
クロカジカ属3Type3 D VIII,17; A15; P15;P I,3,
12-13mm,
12-15mm
Type3糸状皮弁2対、隆起なし、Type1と違う班紋、背鰭皮弁短、D VIII,17; A15;P16; PI,3
48 7月24日 9月21日 択捉島 ウタスツ湾 潜水 クロカジカ属 16mm 標本状態悪い
49 7月24日 9月17日 択捉島 ウタスツ湾 潜水 クロカジカ属2(カンムリフサカジカ?)、クロカジカ属1Type2,オニカジカ2 14〜17mm  
50 7月24日 11月14日 択捉島 ウタスツ湾 潜水 オニカジカ1 17mm  
51 7月24日 11月26日 択捉島 ウタスツ湾 潜水 クロカジカ属1Type2 24mm 頭骨隆起有り、その間凹、サドルバンド
52 7月24日 11月29日 択捉島 ウタスツ湾 潜水 種不明 37mm 側線鱗尾部近くで下方、鋸歯状鱗側線下胸鰭域ランダム、前鰓棘平2叉
53 7月24日 12月14日 択捉島 ウタスツ湾 潜水 クロカジカ属Type2 18mm 頭骨隆起有り、その間凹、サドルバンド
54 7月24日 12月14日 択捉島 ウタスツ湾 潜水 クロカジカ属Type3 D VIII, 18; A15; P15;PI,3 25mm 隆起なし、腹鰭長い、背側白班黒緑、背鰭皮弁短複
55 7月24日 1月3日 択捉島 ウタスツ湾 潜水 オニカジカ1 22mm  
56 7月24日 1月3日 択捉島 ウタスツ湾 潜水 クロカジカ属2Type1 27,34mm 鼻棘広い、頭骨隆起なし、背鰭皮弁短複
57 7月24日 飼育中 択捉島 ウタスツ湾 潜水 ダンゴウオ属    
               
               
               
  7月14日 採集日 国後島 古釜布沖 集魚灯 ホッケ1、マダラ1、イカナゴ7    
  7月21日 採集日 択捉島 六甲 集魚灯 m)、アブラガレイ5(18-35mm)、ギンポ1(36)、イトヨ(78)    
  7月23日 採集日 択捉島 内保湾 集魚灯 ヨコスジカジカ1、イカナゴ    
               
  7月17日 採集日 国後島 アトイヤ岬 潜水 シワイカナゴ卵塊   (ウガノモクに付着)
 
 
 
はじめに
 平成15年度北方領土専門家交流での海上班全体の目的として、海鳥や海棲哺乳類を中心にその海洋環境と海底環境について観察を行い、国後島の生態系とその保全に貢献することが挙げられている。つまり、海鳥・海棲哺乳類の分布を制限する要因を探る手がかりとして、彼らの生息地環境を評価することが重要な目標の一つであると言える。生息地環境の評価には潜在的餌資源量や生産性といった栄養的側面の評価が不可欠である、なぜなら栄養的側面は生物の生命維持活動に直結しているため、生物の分布と個体数を制限する重要な要因となりうることが生態学の多くの研究で報告さてれきたからである。
 本年度の海底環境班では、沿岸域の魚類及び底生生物群集構造の空間パターンを明らかにすることを目的としている。なぜならこの海底環境班のデータは、今年度の海洋環境班が取るクロロフィル及び海洋物理環境データから推測できる沿岸の潜在的一次生産性データと組み合わせることによって、群集生態学の重要なテーマである“生産性と食物連鎖構造の関係”に関するいくつかの仮説を検証することが可能になるからである。それに加えて、海鳥や海棲哺乳類の餌生物である底生生物・魚類の生物群集構造を明らかにすることは大型動物の生息地環境評価にもいくらかの知見を提供することが出来るであろう。そこで本研究では、国後島沿岸の各調査海域で1)海底環境の景観、2)底生生物群集の特徴、3)魚類群集の特徴、4)底生生物・魚類群集を統合した食物網構造を明らかにするための調査を行った。本報告書では、筆者が担当した目的1と2の結果とその解釈について述べる。
 
調査地と方法
 国後島沿岸の海底環境調査は訪問団全体の日程調整とロシア側の意向を考慮し、以下に示す5地域:1)泊湾周辺(ケムライ岬〜ケムライ湖内)、2)荒島〜礼文磯周辺、3)白糠泊(東ビロク湖)周辺、4)アトイヤ岬〜西ビロク湖内、5)中ノ沢〜エビカラウス・ポンベツ崎周辺、で行った。このうち、調査区域2)及び3)が太平洋側、4)及び5)がオホーツク海側、1)が野付水道側(国後島最南端)に位置している。
 母船から調査海域への移動には5トン未満の磯舟を使用した。各調査海域では、まず沿岸に沿って低速で移動しながら海底の景観を観察し、底質を4タイプ(藻場、砂浜、岩礁、干潟)に類別した。残念ながら今回の調査では干潟が確認されなかったので、残る3タイプの海岸でそれぞれ以下のような調査を行った。まず最低速(約0.5m/s)で水深数m以浅を直線的に走り、船上から10m×10m四方毎に底質上を被覆する海藻の被度を計測した。次に調査海域の底質が藻場と砂浜の場合は船上から採泥器(エクマン型採泥器:底面積625cm2)を用いて底質表面と底質内の底生生物の採集を行った。採泥器による採集は一調査海域につき最低15回行い、採集されたサンプルは母船に持ち帰って可能な限り種レベルまで同定した。さらに調査海域の底質が藻場の場合はソリネットを曳き(船速約0.6m/sで3分間×5回)、採泥器採集及び潜水採集で捕獲不可能な葉上性の大型甲殻類と魚類(主に稚魚)の採集を行った。最後に潜水を行い、手網と素手で底生生物を採集した。潜水採集サンプルも母船に持ち帰って可能な限り同定を行い、採泥器採集サンプルと合わせて生物相リスト作成に用いた。なお、潜水は一調査海域につき最低2地点、海域内で出来る限り広範囲に行い、5海域で合計11地点の潜水調査を行った。
 
結果と考察
1)海草藻場:泊湾周辺
 泊湾内では大規模な海草群落が確認された。ケムライ岬の先端から基部に向かって徐々にスガモのパッチ状構造が観察され、岬の中ほどでスガモ密度が最大になった。その後、岬の基部に向かうにつれてアマモパッチに置換し、岬の基部に位置するケムライ湖内は一面がアマモ群落になっていた。このケムライ湖では湖内の殆どの場所で水深が1〜2mと浅く、波も穏やかでアマモ場の形成に適した汽水湖であった。ここではクサイロモエビ(Heptacarpus grebnitzkii)、スナエビ(Pandalus prensor)、ミツクリエビ(Pandalopsis mitsukurii)、ホッカイエビ(Pandalus kessleri)など、モエビ類とタラバエビ科の種を中心とした動物群集が形成されていた。
 ケムライ湖アマモ群集の種組成をケムライ湖と類似した水深をもつ北海道東部厚岸湖のアマモ場群集の種組成と比較してみると、非常に類似した種構成をしていることがわかった(向井 2001, Hori and Hasegawa, unpublished data)。しかしながら現存量も加えて比較してみると、湖間で優占種がまったく異なっていることがわかった。例えばケムライ湖ではモエビ類、タラバエビ科の種の現存量が優占的に多くなっている一方で、厚岸湖ではそれらの餌生物であるアミ類の現存量が圧倒的に多いといった食物網構造上の違いがみられる。この違いを生み出す要因は今回の調査ではわからないが、食物連鎖構造が国後島と道東のアマモ場で異なる場合があることは事実であろう。ただし厚岸湖と国後島泊湾との間は約80kmも離れているため、この2地域の比較では不十分な推測しか出来ない。道東と国後島のアマモ場群集の生物群集構造の違いを正確に議論するためには今後、国後島対岸の野付半島のアマモ場とも比較する必要がある。
 
2)砂浜海岸
 火山が多く、また大河川が存在しない国後島では、砂浜海岸はオホーツク海側、太平洋側共に海岸線に占める割合が非常に小さかった。砂浜海底に出現した植物では珪藻類が最も優占し、底質表面を薄いマット状に覆っていた。波当たりの強い国後島の砂浜海岸では、この状態は非常に奇妙な現象といえる。なぜなら底生珪藻は一般的に波当たりの弱い海岸でしかマット構造を形成しないからである。考えられる理由としては、1)珪藻の生産性が高く、波に撹乱されても早急に回復する、または2)波当たりに強い珪藻種である、ことがあげられるが今回の調査からは要因を絞り込むことは不可能であった。
 動物相では、ヨコエビ類、コツブムシ類、アミ類などの甲殻類が圧倒的に優占し、砂浜海岸の代表生物である多毛類は非常に少ない傾向が見られた。一因として国後島沿岸の殆どの砂浜海岸は波当たりが強くて砂の粒度が粗く、多毛類の生息に適さないことが挙げられるだろう。このことはDexter(1983)が、甲殻類は露出度が最も高い砂浜海岸に、多毛類は最も遮蔽的な砂浜海岸に優占することを示した結果からも推察できる。現に、採集された多毛類の殆どが捕食性の表在型や遊泳型多毛類で、比較的粒度に関係なく生息できる種がほとんどであった。また、珪藻マットが優占甲殻類の餌となり、かれらの高い現存量を維持している可能性も無視できないだろう。なぜなら優占していた甲殻類の殆どがデトライタス食もする一方で植食性の強い分類群だったからである。おそらく、波当たり・砂粒子の粒度組成・一次生産の相互作用によって甲殻類優占の生物群集が形成されていると推測される。







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