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(2)国後島・択捉島の遠洋海鳥調査報告
小城春雄
 
1. 同定できた出現海鳥種は以下の41種であった。コアホウドリ、フルマカモメ、ハジロミズナギドリ、オオミズナギドリ、アカアシミズナギドリ、ハイイロミズナギドリ、ハシボソミズナギドリ、コシジロウミツバメ、ハイイロウミツバメ、ウミウ、ヒメウ、(チシマウガラス)、アカエリヒレアシシギ、ハイイロヒレアシシギ、トウゾクカモメ、クロトウゾクカモメ、シロハラトウゾクカモメ、ウミネコ、オオセグロカモメ、セグロカモメ、ミツユビカモメ、カモメ、アジサシ、ハシブトウミガラス、ウミガラス、ツノメドリ、エトピリカ、ウトウ、ケイマフリ、ウミバト、エトロフウミスズメ、マダラウミスズメ、ウミスズメ、ハシジロアビ、シロエリオオハム、オオハム、アビ、シノリガモ、オジロワシ等であった。
2. 国後島の荒島より弁天島に至る海域では7月中旬まではウトウが最優先種であったが、7月16日に突然南半球のタスマニアから赤道横断渡りをして渡ってきたハシボソミズナギドリ20〜50万羽の大群がカタクチイワシを捕食するため集合した。このハシボソミズナギドリは今年の初めに生まれたばかりの幼鳥群である。親鳥は、6月にこの国後島周辺海域に達し、既に北方へと渡ってしまったため、遅れて到着したと考えられた。
3. 海鳥の分布密度を見ると、国後島の太平洋側は濃く、オホーツク海側は薄い事が判明した。これは、オホーツク海側の海水温が今だ低いため、海鳥類の餌生物である多獲性浮魚類のカタクチイワシ、サンマ、マイワシ等の来遊が、水温が上昇する8月初旬まで待たねばならないことが原因として考えられた。
4. 国後島南端域沿岸は、海草類の繁茂が顕著であり、アビ類の餌生物が豊富であるらしく、アビ類の非繁殖鳥の夏季の生息場として貴重な海域であった。
5. 択捉島の萌消島(通称ライオン岩)海鳥繁殖地は、周辺海域に海鳥の餌場が無く、繁殖鳥は国後海峡まで索餌に出かけている事が判明した。また国後海峡の前線域はフルマカモメやエトピリカの索餌場として利用されていた。
6. 国後島や択捉島の海鳥繁殖地では、エトロフウミスズメの繁殖の可能性が窺われた。
7. ロシアでは政治情勢や経済状態が厳しい中にあっても、海洋動物を保護するための努力が関係者により必死に為されている。特に海面を自然保護区とする法制度の存在がする事が、有効に機能していると考えられる。わが国では殆どのウミスズメ科海鳥類が滅びつつある現状にあるものの、それらの種に対しての保護対策は、何ら有効な成果を挙げていないばかりでなく、将来の明るい展望も見えない。それはわが国には、海面を動物保護区に指定する法制度が無いからである。このような現状にあっては、例え北方四島が返還されても、ロシアがこれまでに営々と努力してきた、多様な海洋生物を含む自然環境を継続的に維持できない現状にある。
 
福田佳弘
 
調査方法
 海鳥類の海上分布調査は、調査船「ロサルゴサII」約50トンに乗船し、約7ノット以下で、船の喫水に考慮しながら出来る限り沿岸を航行し、船から沿岸側の海上に生息する海鳥類をカウントした。海鳥類の繁殖分布調査は、海鳥類の海上分布調査と同時に行い、ウ類・カモメ類については、抱卵中または育雛中の巣をカウントし、ウミスズメ類については、断崖の穴や岩の隙間そして地中などで繁殖するため巣の確認が困難なことから、今回は繁殖の確認にとどまった。
 調査期間は、2003年7月12日〜7月24日。この時期は、海鳥類の繁殖期の後期にあたり、特に繁殖期の早いウミウは巣立ちはじめている繁殖地もあり、オオセグロカモメは雛が成長し巣から離れている所もあった。繁殖分布調査としては少し遅いように感じられ実際の繁殖数より少なくカウントしたと推察された。また、ウトウ・オオセグロカモメ・エトピリカ・ウ類の繁殖地である安渡移矢岬の弁天島の調査は天候と船のエンジンの不調で詳しい調査が出来なかったが残念だった。沿岸海鳥類の海上分布は、国後島のほぼ全域を調査できた。
 
国後島沿岸で確認された海鳥類(水鳥・猛禽類を含む)
オオハム・シロエリオオハム・フルマカモメ・ハイイロミズナギドリ・ハシボソミズナギドリ・ウミウ・ヒメウ・クロガモ・ビロードキンクロ・シノリガモ・アカエリヒレアシシギ・ハイイロヒレアシシギ・トウゾクカモメ・オオセグロカモメ・ウミネコ・ミツユビカモメ・ケイマフリ・マダラウミズズメ・ウトウ・エトピリカ・ツノメドリ・ウミバト・ウミスズメ・ミサゴ。
25種。
 
国後島沿岸で繁殖が確認された海鳥類
 ウミウ・オオセグロカモメ・ケイマフリ・ウトウ・エトピリカ。(ウトウは夜間に帰巣するため餌を持って飛行する方向で推察した)5種。
 
国後島の特色
 太平洋側の荒島と国後島東北端の安渡移矢岬弁天島でケイマフリとエトピリカの繁殖が確認された。オホーツク海側では、海鳥類が極端に少なく、近隣の知床半島斜里側と比較すると非常に少なかった。また、太平洋側の北でミズナギドリ類を中心とした海鳥類の群れが非常に多かった。
 また、変わったところでは、難破船や廃船にウミウやオオセグロカモメが繁殖していた。
 希少種であるマダラウミズズメは、古釜布周辺で1羽、音根別周辺で2羽、安渡移矢岬から西へ2km200m沖で2羽を確認した。この鳥は森林で繁殖し苔むした針葉樹の枝で繁殖するという特異な性質を持ち国後島ではこの条件の合う森林が多く見られ繁殖の可能性が高いと感じられた。
*択捉島では、昨年調査ができなかったオホーツク海側のポロノツ鼻からトリカモイの地域において繁殖分布の補足調査を行った。チシマウガラスの新しい繁殖地が2ヶ所とエトピリカとケイマフリの新しい繁殖地も見つかった。
 
国後島沿岸海鳥繁殖・海上分布区域割り図
 
 
国後島沿岸における海鳥の海上分布
 
 
国後島における海鳥類の繁殖分布







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