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III 調査結果
1. トウフツ湖周辺
 
トウフツ湖東岸 シマフクロウ風切羽
 
 
トウフツ湖東岸 植生景観
 
 
トウフツ湖東岸 風切羽採取地点
 
T-A: トウフツ湖東岸(ピシャンヌイ湖 oz. Peschanoye)。7月13日現地調査。トウフツ湖東岸の小河川流入付近で、湖岸に打ち上げられているシマフクロウの風切羽を2枚採取。2枚は同地点で採取されたが、うち一つは羽根上に薄く藻類が付着していたため、落下時期は異なっていると思われる。周辺に分布する河川はいずれも川幅が1mほどと非常に小さく、また潅木やヨシにより水路が覆われているため、植物の繁茂する時期にはシマフクロウは湖岸で採餌していると思われる。羽根が採取されたのは湖に突き出た枯木の下付近であり、このような枯木に止まって湖の岸辺に寄る魚や河川遡上する魚などを狙うと考えられる。周辺の森林はDBH60cm程度を最大とするハンノキ、ハルニレ、ミズナラなど広葉樹とトドマツの針広混交林。営巣環境としては従来知られているようなDBH1m程度の広葉樹がほとんど見られないことから、あまり良い条件ではないと思われる。ここに出現する個体が以下のT-Bと同個体かどうかは今後の精査が必要である。またつがいであるかどうかの近年の情報もない。ロシアの情報では生息地として記載されている。
 
トウフツ湖周辺調査地点
 
T-B: トウフツ湖南岸(ピシャンヌイ湖 oz. Peschanoye)。7月11日および13日調査実施。トウフツ湖南岸のトウフツ川流出口近辺から右岸の小沼付近にかけて複数の情報があり、2000年に風切羽根採取、2003年春に鳴き声(単独)をレンジャーが確認している。また、2000年の日本野鳥の会調査でもトウフツ湖流出口で採餌痕跡が見られている。トウフツ川両岸には湿原が大きく広がり河畔林がないが、わずかにハンノキなどが点在する。砂丘列や斜面にはトドマツ林、広葉樹林が広がるがDBH1mに達するような樹木は見られなかった。T-Aの環境に似ており、シマフクロウは湖岸やトウフツ湖流出口で回遊遡上する魚類を採餌していると思われるが、加えてトウフツ湖南の小沼や湿原など広範囲で採餌していると思われる。T-Aとの距離があまり離れていないため、T-A、T-Bで1つがいの縄張りか、もしくは家族とも考えられるが、国後島北部では北海道よりシマフクロウの行動圏が小さいことがわかっているため別個体の可能性もある。今後の精査が必要である。
T-C: トウフツ湖西岸(ピシャンヌイ湖 oz.Peschanoye)。7月13日調査実施。トウフツ湖西岸は入り江状になっており、流入河川河口で数年以内の鳴き声情報がある。周辺は風の影響を受けにくいため比較的樹高の高いアカエゾマツ、トドマツなど針葉樹が見られる。広葉樹の樹種は多様で比較的太い木も散見される。アカエゾマツは湿原の縁に立地しておりDBH80cmの大木が多い。湖岸近くは湿地になっており調査時点は極めて歩行困難であった。流入河川は川幅1-2mで、古い地図には上流に孵化場の記載があるため冬も凍結しないと思われる。T-A、TBの個体とは明らかに別個体である。
T-D: アンドレエフカ川Andreyevka(ウラロクシベツ川、地形図川名表記なし)。7月14日調査実施。河口部にレンジャー小屋があり、しばしば情報がある。2003年春にもつがいの鳴き声と個体が見られ、羽根が採取されている。河口の川幅は3-5mであるが、河口から約200mで階段状の滝や滑滝が200mほど続き落差は合計で10m以上になる。魚類の遡上は不可能と思われる。滝の上部は台地になっており、河川は川幅3mで緩やかに蛇行する。森林は比較的太いトドマツを部に含む針広混交林であるが、台地上は広い開拓跡地になっており、周辺の森林は伐採されて二次林化している。河川は農地の中を流れており河畔林がほとんどない。河口にはカラフトマスやアメマスが遡上するという。滝の上流で魚影は見られず、分布している魚類やその密度は不明である。
T-E: 島登川(ロシア名不明)。7月13日ヒグマ班による情報提供。島登川を踏査したヒグマ班が、河口から約500mの支流分岐付近でシマフクロウの胸部羽根を採取。川幅は2m程度である。河川近傍は広葉樹の二次林や針広混交林で、広葉樹の太いものは見られない。環境からみて島登川のみで定着繁殖している可能性は少なく(竹中は2000年の調査で同所を踏査)、周辺の河川や海岸域を同時に利用している可能性が高い。この河川には温泉が産するため、カエルを捕食するのに好都合かもしれない。今後の精査が望まれる。
 
アンドレエフカ川 レンジャー採取の尾羽
 
 
アンドレエフカ川景観







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