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(6)国後島の陸上鳥類調査報告
高田令子
 
1. はじめに
 千島列島での鳥類の研究は比較的長い歴史をもち、19世紀初頭から20世紀初頭にかけて盛んに行われていた。しかし、日本人研究者による報告は数少ない。近年の報告としては、「南千島の鳥類」(Nechaev 1969)や、「南千島鳥類目録」(ネチャエフ・藤巻裕蔵 1994)が詳しい。ビザ無し専門家交流が開始されたことにより、日本人研究者による北方四島の鳥類研究が急速に進み、より詳細な状況が明らかになりつつある。
 今回の調査は、国後島に上陸し、陸上から観察できる鳥類全てを観察の対象としたが、我々の行動に若干の制約が生じたため、ラインセンサスや定点観察などの定量調査は一切行わず、シマフクロウ調査の竹中氏と行動を共にし、出現鳥類を記録するにとどめた。オジロワシやミサゴなどの希少種については、可能な限り詳細を記録するよう努めた。今回の調査で観察できた鳥類は、15目32科69種(表1)。この中には、陸上から観察できた海鳥類も含まれている。調査を行った時期が、小鳥類の繁殖最盛期を過ぎていたことから、さえずりを行う鳥類が非常に少なく、また、前半は悪天候にも見舞われ、本来の鳥類相すべてを把握できたとは言えない。しかし、北方四島の鳥類相は北海道の特に道東地域の鳥類相と類似しているというこれまでの報告と合致する結果は得られたと思う。
 ここで記載した地名は、基本的に国土地理院の地形図(5万分の一)から引用したが、その地形図に地名の記載がなかった場所については、「北方四島」のアイヌ語地名ノート(榊原正文 1994)を参照し、必要に応じてロシア語名も併記した。
 
2. 調査結果
2-1 古釜布地区
2-1-1 東沸湖東部(調査日:2003年7月11日、13日)
 3つの沢が並ぶ湖東部。うち最も北側に位置する沢口に上陸。沢口の周囲は、湖岸まで針葉樹、広葉樹が密に生育し、湖岸は砂地で歩きやすく、ヒグマの痕跡が残されていた。
 森林内部へは入らなかったため、森林性の鳥類は確認できなかった。
《確認できた鳥類》トビ、オジロワシ(羽)、オオセグロカモメ、シマフクロウ(羽)、アマツバメ、カワセミ、アオジ、ハシブトガラス
 
東沸湖東部の湖岸
 
2-1-2 東沸湖西部(調査日:2003年7月11日、13日)
 福洲崎奥の入り江、2本の沢が流出。湖岸の沢筋は、針葉樹が密生。河口部は、面積は小さいがヨシの生える湿地となっている。福洲崎では、上空を飛行するハヤブサ1羽を確認した。国後島では、稀に繁殖するとされており(ネチャエフ・藤巻1994)、渡りの時期には亜種オオハヤブサが渡来するとの報告もある(Nechaev 1969)。しかし、生息数や営巣地については不明な点が多く、今回の調査でも確認できたのはこの一回のみであった。また、東沸湖周辺においては、2000年のロシア人調査員による繁殖期の調査で3つがいのミサゴが確認されているとの報告があるが(川那部2002)、今回の調査では確認することが出来なかった。
《確認できた鳥類》キンクロハジロ、トビ、オジロワシ、ハヤブサ、オオセグロカモメ、コマドリ、ルリビタキ
 
東沸湖西部の福洲崎奥入り江と沢の河口部
 
 
2-1-3 東沸川湿原及び周辺部(調査日:2003年7月11日、13日)
 東沸湖から太平洋側へ流れる河川沿いに広がる高層・低層湿原。東沸川は、湿原の中央を蛇行しながら流れ、湿原の東西には森林地帯が広がる。湿原内には、数は多くないものの小沼が点在する。東沸川の河口部は海岸草原と砂浜である。東沸湖沼口にて、シロエリオオハムの若鳥と思われる1羽を確認した。
《確認できた鳥類》シロエリオオハム、アオサギ、マガモ、キンクロハジロ、オジロワシ、ノスリ、クイナ、オオジシギ、オオセグロカモメ、ウミネコ、カッコウ、アマツバメ、ハクセキレイ、ノビタキ、シマセンニュウ、コヨシキリ、シジュウカラ、アオジ、カワラヒワ、ベニマシコ、ハシブトガラス
 
東沸川と東沸川流域に広がる湿原
 







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