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人力船の最適チューニングのための動的シミュレータ作成
 
人力船最適セッティングのための動的シミュレータ作成
東京大学工学部HPVプロジェクト2003
 人力船のチューニング項目は多岐にわたりそれぞれが複合的な作用をもたらす為に、人力船の最適なチューニングを行うことは骨の折れる作業である。特に翼端を削り、翼面積を小さくした場合の検証などは実際に試行することが難しく、シミュレーションを用いることが不可欠である。本論文では人力船の各部の調整を容易にするために、その挙動を表現するシミュレータを作成し、実船のチューニングへ活用することを試みた。まずシミュレータに組み込むための翼、船体、推進機構に関する力学モデルを構築し、実装した。また、自分達は人力船においては「最高速」と共に「浮上しやすさ」も重要なスペックであると考えたので、それらが評価できるように始動から加速、浮上、最高速という一連の流れを再現できる動的シミュレータを開発した。その上でそのシミュレータを用いて前翼・後翼取り付け角や選手の馬力・体重等を変化させた場合、船の挙動にどのような影響を与えるのか調べ、その感度解析をもとにいくつかのセッティング案を提案した。
 
1. はじめに
 今年度の東京大学HPVプロジェクトチームの船は、去年と同じ船体を用いた二人乗り、プロペラ推進の水中翼船である。前大会の反省としてチューニングが不十分であったことが挙げられたため、今年度は船のポテンシャルを最大限に引き出すための最適なセッティングを見出すことを行うこととした。しかし、人力船の調整項目は多岐にわたるため実走によって各部のチューニングデータを採ることは大変手間がかかる上に、仮に翼端を切り、翼面積を減少させた場合などのデータを実走によって採ることはやり直しがきかないために現実的ではない。そこで自分達は人力船の走行状態を再現できるシミュレータを作成し、そのデータをもとに最適なセッティングの検証を行った。なお、プログラムの実装にはプログラム言語としてjavaを使用した。
 
2. 人力船の力学モデル
 人力船の力学モデルとして前進運動・ピッチ(上下動)・ヒーブ(縦揺)の3自由度のモデルを作成した。前進運動については運動方程式を解き、ピッチとヒーブは動的に取り扱うのが困難であるため静的な釣り合いを仮定した。
 作用する力として、(1)前後の翼に働く抗力と(2)揚力、(3)船体の抗力と(4)浮力、(5)プロペラの推力、(6)重力、(7)空気抵抗(図1)を考えた。
 
図1 力学モデルに組み込んだ各部に作用する力
 
3. 各部に働く力のモデル化
3.1 翼
 無限流体中においての翼に働く抗力、揚力は以下のように表わされる。
抗力[N] Fx=-1/2ρCdU2S
揚力[N]  Fz = 1/2ρClU2S
Cd:抵抗係数 Cl:揚力係数 ρ:水の密度[kg/m3
U:船の速度[m/s] S:翼面積[m2
 
 なお、CdClは、実験による測定値をそれぞれ2次曲線及び2次曲線と直線に近似した値を用いた。(図2、3)
 
図2 後翼の迎角−Cd近似曲線
後翼Cd-aグラフ
 
図3 後翼の迎角−Cl近似曲線
後翼Cl-aグラフ
 
 実際には水面近傍においてClが変化する現象1)が存在するため、この水面影響もモデルに考慮した。文献1)より参照した図4のグラフから、水面影響係数se(=Cl/Cl∞を没水深度とフルード数の関数として(Cl∞:無限流体中の揚力係数)、以下のように表わした。
 
se = tanh(b・df/c) b = 0.7682/Fr1/4
 
Fr:フルード数 df:翼の没水深度[m] c:翼のコード長[m]
 
図4 没水深度と揚力係数の関係1)
 
 前翼には迎角を自動的に制御するハイトセンサーが備わっており、これにより船の浮上高度が一定に保たれる。図5に示す幾何学条件を考え、浮上状態での船体の姿勢と前翼迎角との関係をニュートン法によって求めるルーチンを作成した。
 
図5 ハイトセンサー・モデルの幾何学条件
 

参考文献
1)兼子忠範、内田誠、西川栄一:水中近傍を航走する水中翼の性能、関西造船協会誌 第233号 pp.17-22(2000)







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