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第3章 滑走板とAMCSの比較
3.1 離水状態の比較
 Fig.3.1、Fig.3.2はそれぞれ離水状態の前センサ高さとピッチ角の推移を比較したものである。これを見るとAMCSでは前センサ高さが上昇開始直後から素早く6deg付近まで上昇し、10秒付近で離水速度に達し離水している。滑走板は8秒付近で艇体ピッチ角が5degまで上がり、20秒付近で離水を開始し23秒で離水した。比較をすると滑走板がAMCSに比べて2倍以上の時間がかかっていることが分かる。
 これは滑走板の抵抗による加速度の減少や、低速時の前翼迎角の減少が考えられる。低い速度では、滑走板が水面で働かず水中にいるため、前翼迎角が小さくなっているためである。その点、AMCSでは滑走板による抵抗もなく、また、速度に関係なく水面の位置を捉えているため、滑走板よりも早く浮上することができると考えられる。ほかに、今回用いた滑走板の場合、セッティングにある程度の制約があり、初期前翼迎角を大きくしすぎると、浮上高さが高くなりすぎることもあった。
 離水後の姿勢に関しては、滑走板による制御では姿勢が安定したのに対し、AMCSでは安定せずに着水した。これはプログラムの問題であり、その後のプログラムの改善、調整で安定して翼走することができるようになった。
 
Fig.3.1 離水状態の前センサ高さ
 
Fig.3.2 離水状態のピッチ角
 
3.2 定常状態の比較
 Fig.3.3、Fig.3.4、Fig.3.5はそれぞれ定常状態での前センサ高さ、艇体ピッチ角、速度を示している。前センサ高さのグラフを見ると、滑走板の場合は470mmから450mmの間で小さな上下動を繰り返しているが、変化幅が小さいのに対して、AMCSの船550mmから450mmの100mmの幅で大きく上下動を繰り返している。艇体ピッチングを見た場合も同様で、滑走板御はピッチング幅が1deg程度なのに対して、AMCSは2degの幅でピッチングを繰り返している。これはAMCSのセンサ出力が計算されてステッピングモータが駆動されるまでにタイムラグがあり、それをそのまま制御に反映してしまう為にこのような結果になったと考えられる。滑走板は水面の上昇に対しリングを介して即座に前翼が動く為、時間遅れがなく定常状態では安定した姿勢になった。しかし前翼の迎角を変えるのに手間がかかり可動幅も小さく、滑走板による水面からの抵抗もある。AMCSではこれらはないが、ステッピングモータを動かすのに電力を必要とする。同じ位の追従性があり、効率が悪くなければAMCSを用いた方が良いと考えられる。速度に関してはプロペラや主翼の迎角などが同じ条件なのでほとんど違いがないが、艇体がピッチした際の速度が進行方向のみの移動距離なのでピッチした際の上向き方向の移動距離が考慮されていない為若干、ピッチングが大きいAMCSで速度が下がっている。上向きと横向きの移動距離を合成して計算すれば速度はすべてほぼ同じ速度になったはずである。これも、プログラムの改善、調整でピッチングせず安定して翼走することができるようになった。
 
Fig.3.3 定常状態の前センサ高さ
 
Fig.3.4 定常状態のピッチ角
 
Fig.3.5 定常状態の速度
 
・AMCSでの船体姿勢制御は、滑走板での制御より離水では優秀であり、定常走行では同等な状態を実現できる。
・AMCSのほうが、浮上が早くスタートで有利である。
・浮上させるにはプログラムと初期前翼迎角をうまく調整する必要がある。
・比例制御でも安定して翼走することができるため、微分制御や積分制御はそれほど必要ないと考えられる。
 
1)加藤学、野田誠:水中翼を用いたソーラーボートの設計製作'02〜艇体姿勢制御システムの設計製作〜平成14年度 工学設計IIIプロジェクトレポート







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