5)【層流櫓とは】
層流櫓は、こんな形をしています。
部分の名称
1:ブレード(櫓脚) 2:アーム(櫓腕)
3:スティック(櫓柄) 4:スラストロープ(早緒/はやお)
層流櫓の全体の構造は至って簡単です。
従来の櫓全体を180度回転させて(上下反対に)取り付けて、さらに櫓脚(ブレード)部分を90度回転させた様な形態になります。
別の表現をすると、従来櫓の櫓腕(アーム)部分を180度、櫓脚(ブレード)部分を90度回転させるとも言えます。
また層流櫓は全体が緩やかな「V」の字状に曲がっています、これは従来の櫓が「へ」の字状に曲がっているのと反対で、外見上の大きな特徴です、この曲がりの理由は後で説明します。
6)【層流櫓の理論】
これからは、層流櫓の原理と仕組みを説明します。
もう一度、水中の櫓の動きをじっくりと観察してみましょう。
従来の櫓と新たな「層流櫓」の動きを図で比較してください。
層流櫓の運動
高速ほど返しの量が小さくなる
注目していただきたいのは、櫓が左右に動きを切り替える(「返し」の)瞬間です。
ご覧になってお解りのように、返し部分で必要とされる角度の変化量は一見両者同じですが、角度変更の方向がまるで逆なのです。
つまり「伝統櫓」は高速域で非常に無駄な角度変更を行っています。
これに対して「層流櫓」では(伝統櫓)とは反対方向に角度変更を行いますので、その変化量が非常に少なく、しかも渦(抵抗)の生じない向きに廻るのです。
この「返しの領域」をさらに詳しくするために、今度は櫓の位置を固定して眺めます。
すなわち、櫓から見たら周りの水はどう流れているか?を図示してみます。
上の櫓の動きの図を対照しながらご覧ください。
伝統櫓周りの水の流れ
層流櫓周りの水の流れ
上の返しの操作の瞬間(図B)の水流の違いは、一目瞭然です。
これは「乱流」と「層流」の違いです。
ですからこの新しいタイプの櫓を「層流櫓(そうりゅうろ)」と呼ぶことにしたのです。
でもそう呼んでしまうと、従来の櫓のことを「乱流櫓」と呼んで区別することになり、先人の工夫に対して申し訳ないことになりますが、伝統櫓はその当時のフネの形態と手に入る材料の制約からすれば究極のデザインであったと言えます、先人たちの偉大な発明には敬意を払わずにはいられません。
次に、層流櫓の第2の特徴である「V」字状の曲がりについて説明します。
第2の特徴と言っていますが、一見したところ伝統櫓ともっとも違った感じを受けるのがこの「V」字状の曲がりであるかも知れません。伝統櫓では「へ」の字状に曲がっていますね。
そもそも日本の櫓の特徴であるこの「曲がり」は何のためでしょう?
曲がりの理由について、通説(学説?)では・・・
1)櫓先を深く水中に入れて、推力を稼ぐことができる。
2)漕ぎ手の手元で、櫓腕が都合の良い高さに来る。
・・・と言うことになっている(筆者の独断による)ようです。
しかし「GLラボ」独自の研究により、櫓の曲がりは「櫓を自動的に返すため」にある!と結論づけました。
まず、ブレード(櫓脚)は水中では水の抵抗のため前後軸方向を中心にして回転を起こしやすいのです。ですからアーム(櫓腕)を左右に動かすと自然にブレードの前後軸周りに回転が起き、ブレードを適切な迎え角の方向に導きます。
この様に「V」字状の曲がりは、ブレードが返しの操作の初期の段階で自動的に適切な迎え角を作るのを助ける働きがあるのです。曲がっていないと、かなり難しい操作になります。
これがまた、もし伝統櫓のように「へ」の字状に曲がっていると、フネが後退してしまいます。
第3の特徴である「スラストロープ(早緒)周りの形状」について・・・
まずお断りですが、この「層流櫓」に関しては、伝統的な名称を使わないことにしています、「層流櫓」が新しいシステムであるとの自負からです。
伝統櫓での「早緒(はやお)」という名称は実に素晴らしいもので、言い得て妙です。この早緒が無かったら、漕ぐたびに櫓腕が飛び上がってしまい、素人にはとても難しい手漕ぎ装置となってしまいます。
推測ですが、初期の段階では「早緒」は存在しなかった。
欧米のスカリングという漕ぎ方では、早緒を用いません。しかしさらに大型の櫓を漕ごうとすると、櫓が発生する強力な推進力が櫓先を押し下げるので、漕ぎ手は持ち上げられるようになります。
何度も紹介しているように、その力は漕ぐ方向の(横向きの)力の10倍以上にもなります。この推進力をロープで支え、漕ぎ手に負担を掛けないのが早緒の素晴らしい役割なのです。
この早緒のおかげで漕ぎ手は片手でも軽く漕ぐことができるのです。このロープのあるなしで、船の速度性能が大きく変化するので「早緒」と名付けられたのでしょう。
その機能上の特徴をふまえて、GLラボでは「層流櫓」の早緒のことを「スラストロープ」と呼ぶことにしています。
層流櫓の場合の「スラストロープ」の特徴は、アーム(櫓腕)の下側に取り付けられたスティック(櫓柄)の先に繋がっていることです。
また、先の画像でお解りのように、スティックの先端の位置は、ブレードの回転軸の延長線上にあるのです。
言葉だけでの説明は難しいですが・・・アームを横に動かして漕ぎ始めるとまず「V」字形状のおかげで層流櫓が回転軸周りに回転して、水を掻く方向に向きます。しかし実は放っておくと90度近く、まったく水を掻かない(抵抗の少ない)角度まで回転して、落ち着こうとします。しかしその過程で層流櫓に推力が発生してスラストロープが緊張します、これは層流櫓が回転し過ぎない方向に引き戻そうとする効果があります。このような働きは伝統櫓の早緒には見られない、まったく新しい機能です。
●つまり伝統櫓の早緒は、推力を受け止める頼もしい働きものだが・・・
●層流櫓の「スラストロープ」は推力を受け止め、しかもブレード(櫓脚)の面を適切な角度に保つと言うインテリジェンスな知恵者でもあります。
実際に漕いでみると解ることですが、層流櫓の返しの操作は伝統櫓より格段に簡単なので、初めての人でも簡単に扱うことができます。
以上が「層流櫓」の基本理論の説明の総てです。
7)【最後に】
長い説明を読んでいただきありがとうございました。
果たして、層流櫓で理論通りに高速が出せるかどうか?・・・これはまだ実験の機会の少ないわたしたち自身にも、大変興味があるところで、今大会は実験の一環ととらえています。
皆さま方には、今大会で「層流櫓」の実物と実態をご覧になって結論づけていただきたいと思います。皆さまを驚かすことができれば、嬉しいことです。
なお、層流櫓の開発に関するさらに詳しい実験経過などは
「GLラボ・ホームページ」をご参照ください。
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