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 現在、東海地震については、御前崎という先のところの沈み具合を調べておりますが、2000年になって、どうもこの沈み込みが少し速度が鈍ったんじゃないか、という話が時々出てくるようになりました。つまり、沈み込みが段々停滞してきて、ストップしてしまう。そしてもうストップした後に、反転し始めるという事になりますと、これは、いよいよ東海地震が目前に来ているということになるわけです。
 そういういろいろな現象を緻密・精細に捉えまして、そして一刻も早く東海地震の切迫性を訴えようという手法のきわめつけのケースというのが、歪計というもので、地下100メートル、200メートル、300メートルといったところに、非常に感度の高い歪を計る機械といったものが気象庁によって埋め込まれています。
 先ほど話しました、GPSの変化といいますものは、精度のいいデータが入ってくるためには、2、3週間かかるわけですね。どんな異常が起こったぞ、と分かった時には、もう、その地点では、実際それが起きている2、3週間後なんですね。それではとても東海地震がいよいよ迫ってきたというそのリアルタイムのその瞬間の状況に対応することができない。中・長期的な異常の検知には、非常に役に立ちますけれども、重要というときには別の手法を使わなければいけないのですね。GPSによってどうもおかしいというようなものが、今起こっている訳ですが、GPSによって捉えられたゆっくりすべりがだんだん速度を増してきて、想定震源域の中に入ってきたということになりまして、その前段の速度よりも数段くらい速度が増えてきますと、今度は、歪計というもので異常を捉えられることが出きると思います。
 そういうものを設置しまして、大手町の気象庁にある観測室まで引き込んで、24時間見張っているわけです。もし、東海地震を起こす断層がずるずると動き始めるとどういう事になってくるかといいますと、この歪計の記録に異常が捉えられるという事になるわけです。それはどのくらい前になったら分かるのかと言いますと、概ね、内陸で前兆滑りといいましょうか、巨大な断層の一部分だけがゆっくりと何センチかずつ滑り始めれば、少なくとも半日前にはそれをキャッチすることができる。
 つまり、警戒宣言が出るというのは、断層が全面的に大破壊して、大地震がきてゆさゆさとゆれ始める、そういう事件が起きる半日くらい前までに、もし、内陸部でそういうゆっくりした前兆すべりで内陸の断層が動くのをつかむことが出きれば、運良くすれば、二日三日前につかむことも出きるかもしれない。
 しかしながら、観測点もない海域の海の海底も東海地震の震源域の一部になっておりますが、そこにはこういった歪計などは埋め込まれておりません。したがいまして、海で事が始まるというようなことが起こり始めますと、われわれはもうどうしようもない。海がだんだんと押し上げられて、巨大な断層が急激に滑って東海地震が起こるとすると、その始まりが海であるとするとなかなかことは難しいのであります。
 で問題は、いよいよ来るぞ、来るらしいという事が分かった時にすぐさまそういう事を発信するというのは、なかなか難しいんですね。そういうものを判断するわけですけれども、まだわずかなノイズレベルの段階では、いよいよくるぞということを躊躇する人がおるかと思います。しかし、30分、1時間と経つたびにだんだん顕在化してきます。そして、その怪しいよというような段階では気象庁は、観測情報というのを出します。まだ確信は持てないけれども、これまでには見たこともない、いよいよ巨大な断層がゆっくりと東海地震に向けてゆれ始めたというような、あぶないという可能性の有るものが見つかった場合にですね、こういう観測情報が出ますので、要注意ですね。
 そして、そのうちにあるレベルを超え、いよいよその地震があるレベルを超えたところで、判定会召集とかのように国も手を打つようになります。それがいよいよ加速してきますと、気象庁が小泉総理に対して、警戒宣言を出すように提案します。
 
 
 そこで閣議討議になるわけですが、なるべく確実な情報を出したいと思っていますけれども、確実な情報をピシッと小泉さんに手渡そうと思えば、データをじーっと見て、判断したいというのは人の常ですね。でも、あんまりゆっくりと確実なデータを取ろうと思っていますと、時間ばかりが経ってしまって、その間にどんどんどんどん東海地震は近づいてきてしまう。それから、もうちょっと早めに出そう、そういう段階であんまり早く出すとですね、それは案外早すぎる、早とちりという事になるかもしれません。
 そこでですね、そこはワザというのもありまして、いくつかの観測点に異常が出てきます。それをレベル分け致しまして、どのレベルにきたらどういう情報を出すか、ということを事前に観測点ごとに決めておく。観測点によって非常に感度のいい観測点、そして鈍いやつなど、いろいろあるんですね。機械が悪いわけではなくて、その地盤の状況もあるわけです。そういうことで、その変化がどの点になったらどういう判断を下そうかとか、何点か束まって起こってきたらどういう判断をしようか、など、地下のプレート境界が崩れるのが近づくというということを捉え始める、そういうソフトを開発しようということでやっています。
 もともと東海地震のしくみというのは、犯人を突き止めているわけですね。それが、電車に乗って怪しげな行動をとっていて、そして、手がポケットの中に入り込んだという時に、現行犯逮捕をしよう、と。そういう、早期検挙なんですね。どうか誤解のないように。予知ではないんです。
 予知というのは非常に現段階では難しい。ましてや、こういう地震では、できそうには思いますけれども、実は、この昭和の東南海地震の時に、大先輩の地震学者で今村明恒さんがですね、準備して私財を投じて観測網を張ったわけです。当時の観測網ですから、今の1000分の1くらいのものです。しかしそれでも異常を捉える可能性は十分ありました。ところが戦争だったんです。私財をなげうってやったんだけれども、戦争中で記録紙の記録も、地震計の針も買えない状態のまま地震が来てしまって、そして、その先生は長年の努力の罪滅ぼしだといって、死んでいったんですね。
 今回は、第2の挑戦といいますか、東海地震の直前の状況をつかまえようということで、現在24時間の観測態勢がしかれているのであります。
 ここで今日、誤解を解いておきたかったのは、第1に、震源域が、東海地震というのは極めて広いもので、神戸の地震と違って10倍くらい大きい地震で、そして震源域は海にありますよ、ということ。それから、南海・東南海地震の切迫性と東海地震の切迫性とは少し、区別していただきたい。そして、予知・予知っといいますが、早期検知・現行犯逮捕なんです。
 そして、強化地域の問題ですが、強化地域の外は大丈夫で中は大変だというのは、ちょっと間違いなんですね。強化地域の中でも地盤のいいところと悪いところ、西と東では大分違います。それは、強化地域の外であっても、地盤の悪いところ、埋め立てたところ、そういう所では、強化地域の中のあるところよりももっと強く揺れるかもしれない。そういう、行政が「0」と「1」という感じで内と外を分けているような、それは訂正したほうがいい。
 いろいろありますが、時間が来ましたのでこれで終らせていただきます。
 どうもありがとうございました。
 
−防災協働社会をめざして−
内閣府参事官(地震・火山対策担当) 布村 明彦 氏
 
 内閣府とは2年前の省庁改編で新しくできた役所です。従来、トップダウンで政策を実現しようとしても難しく、結局、いろいろな会議の後、大臣のところまで意見が上がった時には政策の中身はほとんどがちがちに決まっていました。そこで、総理大臣の近くで政府全体に関わるような重要政策を決めた後、トップダウンの形で各省庁に指示できるために政策を扱う役所です。
 内閣府の主な仕事は、具体的に2つあって、まず第1に、全閣僚や溝上先生などが関わっている中央防災会議や、東海地震なら東海地震を扱う専門調査会などがあります。もう1つの重要な役割としては、災害時には、行政の本部が基本的に市町村レベルに設置される事になっているけれど、より大きな災害が起こると県レベルへ、そして県をまたがるような大規模災害が起こった場合には、国の本部が内閣府に設置されることになっています。特に東海・東南海地震、南関東の首都直下の地震などの災害が対象にされています。
 では、国の災害対策というのがどんな柱で作られているのかというと、災害が起こる前の対策、災害が起こった時の応急対策、そして、復旧や復興に関する対策という3本柱で立てられています。どの柱をないがしろにしても、緊急時の対策というのは成り立たない。こういうこと全体が国の防災対策として行われています。
 ところで、東海地震について、今なぜこういう話がされ始めたのかというと、自然災害といえども、その相手の形を知っておかなくてはならない。現在、いろんな事が科学的に分かってきて、改めて、東海地震がどういう被害をもたらすような災害なのかというのをきちんと知っておかなくてはならない。
 東海地震のなすび型の想定震源域が西に動いて、愛知県も強化地域に入りましたが、愛知県だけでなく静岡県も強化地域の範囲が増えている。つまり静岡県が一番揺れが大きくて、被害地域も広く、一番大変という状況は変わっていないんです。津波の影響を受ける地域も、従来は愛知県・静岡県くらいの範囲だったのが、例えば、三重、和歌山、千葉、伊豆諸島などまで広がりました。三重県には、リアス式海岸もあるため、ちょっとの波が大きくなるので、昔から津波の被害が大きく、対策も打たなくてはいけない地域ですね。
 東海地震対策というと、なすび型の想定震源域と強化地域がよく指摘されます。もちろん、観測や測量もする。それから、警戒宣言が出た時の対応策まで含めた予防対策も一生懸命する。けれども、強化地域とか、警戒宣言にスポットライトが当たりすぎているのではないだろうか。当たり前の事ではありますが、東海地震が起こった時には、強化地域の外も揺れるんですね。その事も含めて、周辺の人たちとの協力を視野に入れた防災対策をもっと考えておかなくてはならない。
 強化地域の中に新しく名古屋が入りまして、警戒宣言が出れば、電車が止まるというようなことも取り沙汰されていますが、警戒宣言では人は死なない。大規模地震対策特別措置法という法律もありますが、もっと大変な事が起こるかもしれないという事が忘れられがちになっているのではないだろうか。そのあたりを改善しなくてはいけないと考えています。
 今、専門調査会が東海地震の被害想定を行っていますが、これは目的ではありません。想定することによって、地震にどう立ち向かうのかという点を知らないとどうしようもない。
 一般の災害対策と比べて、東海地震の特徴的な防災対策というものは、警戒宣言や強化地域があるということです。強化地域の中だけでなく、外も含めた全体としてのマスタープランを作ろうということも考えています。ですが、未だに作られていない。
 それから、これほど大きな災害になると、情報も一番被害が大きいところからは2日くらい入ってこないでしょう。とすれば、災害時の情報の有無に関らない形で、事前に応援ルールを作っておくなどの広域災害対策が必要とされるのではないだろうか。耐震化を進めるとか、行政の防災計画など、今まではあまり知られることのなかった情報も含めた、情報の共有化を進めなくてはならない。それから警戒宣言や観測情報が出されたとき、どういう行動をとればいいのかという行動の明確化も必要となるでしょう。
 「防災協働社会」という視点から考えますと、阪神・淡路大震災以降、行政もNPOやボランティアにとっても、たくさんの反省や、改善がありました。その中で明らかになった課題は、今までのような形式的な防災体制や防災訓練というのではなく、実効性のあるものを行う必要があるということがあります。また、耐震法の制定だとか予算だとかはついたけれども、実際、耐震化が進んでいるかというと、半分くらいです。またこれほど広域な災害になってくると、協定などができたとしても中身ができていない。中身を入れることが優先されなくてはならないですね。
 さらに、阪神・淡路大震災以降、社会情勢も大きく変化しました。財政事情が悪化し、また、少子高齢化が進んで、災害弱者といわれる人が増加している。これほどITが進化してきても、高齢者や障害者というような、一番、緊急時に情報が入らなくてはならない人には、情報が集まりません。コミュニティの崩壊といわれる現象も進んでいる。今までは政府が対応するとされていた事も、地震の時などは、政府がすぐに対応できません。そうなると自分が助かった後に周りを助けなくてはならない。つまり、公助だけではなく、自助、共助、公助といういくつかの助け合いが必要になっているんですね。
 また、僕が一番心配をしているのが、こういう災害の話というのは時間とともに風化していくということです。阪神・淡路大震災直後は、行政も民間も改善の意識が高まるのですが、すーっと変化する。災害対策というのがいつも後追いになっています。耐震化を例に挙げても、阪神・淡路大震災のとき亡くなった方の80%が建物の下敷きだったのに、耐震化が進まない。災害の後、行政も防災計画を見直しのために、人を増やし、また投資も増える。しかし、日常の対応に追われるにつれて、だんだん予算も人も減ってしまいます。防災というのは大切な事だけど、昨今の財政状況を捉えると後回しにされる。
 なぜ、こうも防災が後回しになるのかというと、これを環境問題と比べてみると、少しわかりやすいのではないでしょうか。環境問題は365日、地域的に発生する。しかし、災害は何十年に一回でなかなか遭遇しない。
 Public mindという意味での公共心とは?ということを考えてみますと、日本では今まで行政が何でもやりすぎてきたという反省も指摘できるのではないでしょうか。権利を主張する時には、周辺社会に関わる責任や義務も同時に考えられなくてはならない。その意味では、防災協働社会ということを考える時には、環境問題や福祉と同様に、自分たちの地域経営という意識が必要とされるのではないでしょうか。
 今後、国の施策には、徹底した情報の共有を進めていくという事が必要となっています。また、役所が作ってみんなに広めるという形の防災計画ではなく、市民が策定過程に参加し、行政にも反映できる形での、防災計画作りというのが必要となってくる。さらには、新たなコミュニティ作りとして、地域社会が持っている知恵を活用したり、住民たちが地域経営という立場で関わっていく事が大切だと考えています。
 防災とか災害対策というのも、わざわざ特別な事というのはやりにくいんですね。そういう意味では、平常時の社会システムと融合した形の対策を見つけなくてはなりません。例を挙げれば、災害が起こった時には、避難所にいる人だけが被災者なのではない。自宅で待機する人たちも被災者なんですね。そうした人たちにも食料支援が回るように、コンビニやファミリーレストランと協力関係を持つということも考えられるのではないでしょうか。つまりこれが災害時に動いてもらえる官民協働という視点なのではないだろうか。
 これからは、防災にも経済原理が働かせられなくてはならないと思っています。たとえば、環境問題のように、きちんとすると経済的にも意味があって、企業が商品開発を進めていく際に防災に強い製品をつくるとか、企業会計上有利になるとか、そのほうが売れるといった社会をみなで作っていけなくてはならないのではないでしょうか。







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