3. SRSVの検出(RT-PCR法)
検出方法は、厚生労働省が作成している「ノロウィルスの検出法」(国立感染症研究所 西尾 治室長監修)に従った。以下にその概略を示す。
(1)必要な器具と試薬
1)器具
サーマルサイクラー、超遠心器、冷却遠心器(5,000rpm)、マイクロ冷却遠心器(15,000rpm)、ホモジナイザーあるいはストマッカー、Vortex、電気泳動装置、UV照射写真撮影装置、ヘラ、ハサミ、メス、ピンセット、濾紙、マイクロピペット(2、20、200、1000μl)、チューブ(0.2ml、0.5ml、1.5ml)、遠心管(15ml、50ml)、1ml注射器、18G注射針
2)試薬
ショ糖、ポリエチレングリコール6,000、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、エタノール、Distilledwater(Deionized, Sterile, autoclaved, DNase free、RNase free)(和光純薬工業Cat No. 318-90105, (以下「Distilled water」という。))、
ノロウイルス検出用プライマー(以下、「NVプライマー」という。詳細については後述。)、
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na)、電気泳動用アガロースME(岩井科学、250g入りCat.No.50013R)、エチジュウムブロマイド
Random primer hexamer: Amersham Pharmacia、Cat.No. 27-2166-01
Super Script II RNase H- Reverse Transcriptase: Invitrogen, Cat.No. 18064-014、
100mM DTT: Super Script IIに添付
QIA Viral RNA Mini Kit: QIAGEN、Cat.No. 52904
DNase I: TaKaRa、Code No. 2215A
Ribonuclease Inhibitor:TaKaRa、Code No. 2310A
Takara EX Taq:TaKaRa、Code No. RR001A
50倍濃度TAE buffer : Tris 242g、氷酢酸 57.1ml、0.5M EDTA(pH8.0)100mlを蒸留水で1,000mlとする。
(2)二枚貝試料の処理
1)貝の中腸腺を用いる方法(今回は超遠心法を用いていない)
本項ではノロウイルスによる食中毒の原因食品として最も重要視されている二枚貝類の処理方法について記す。他の食品においても基本的にはこの方法に準じて行うことができる。超遠心器のローターとの関係もあるが、貝の中腸腺(消化盲嚢部位のこと、胃と中腸、桿晶体嚢の一部を含んでいると考えられる)が1gあるいはそれ以上の時は1個または2個を1検体とし、貝1ロットに付き3検体から10検体(中腸腺として合計12gから24g程度を目途とする。)の検査を行う。シジミ、アサリ等のように中腸腺が1g以下の貝では中腸線1gから1.5gを1検体として、3検体から5検体の検査を行う。ただし、本研究では個体ごとのウィルスの有無を知りたかったので、1個体ずつ試料とした。
(1)殻付き貝類はヘラ、メス等で貝柱を切り、殻を開く。
(2)貝の外套膜を取り、次いで中腸腺の周りに付いている脂質部分をメス、ハサミ等で可能な限り取り除き、中腸腺を取り出す。中腸腺を摘出する際には、できる限り周りの白い組織(脂肪)を取り除くこと。特にリアルタイムPCRを行うときには完全に取り除くこと。
(3)ホモジナイザーまたはストマッカー用のサンプリングバッグに中腸腺をいれ、次いで7〜10倍量のPBS(-)を加え粉砕する。貝類の乳剤は15%以上の濃度にしないこと。15%以上にするとRNAの回収率が悪くなる。
(4)粉砕した試料を遠心管に移す。
10,000rpm.20分間冷却遠心し、上清を新しい試験管に採る。
(5)超遠心用遠心管に30%ショ糖溶液を遠心管量の10%程度入れ、それに(4)の遠心上清を静かに重層させる(ショ糖溶液層を壊さないように初めは特に注意して少量ずつ入れる)。
35,000rpm.180分間あるいは40,000rpm.120分間冷却遠心する。
(6)アスピレーター、注射器等で液層を吸引し、沈渣のみとする。
(7)遠心管の管壁をPBS(-)で軽く1回洗い、管壁の周りの水分を滅菌した濾紙で吸い取る。
(8)沈渣に200μlのDDW(超純水を高圧滅菌後、0.22μmフィルターで濾過したもの。)を加え、浮遊させる。これをウイルスRNAの抽出に用いる。
(浮遊液に不純物が多いときには10,000rpm.20分間の遠心を行い、その上清をRNA抽出に用いる。)
(注)超遠心器を使えない時には以下の操作を行う。
2)ポリエチレングリコールによる濃縮方法(今回は用いていない)
(1)前項1)(4)の遠心上清にポリエチレングリコール6,000を8%、NaClを2.1g/100mlになるように加え、軽く撹拌し、4℃の冷蔵庫に一晩置く、または室温で2時間撹拌する。
5,000〜12,000rpm.20分間、冷却遠心する。
(2)上清をアスピレーター、注射器等で吸引し、沈渣のみとし、管壁の周りの水分を滅菌した濾紙で吸い取る。さらにPBS(-)で管壁を軽く2回洗い、その後濾紙で水分を完全に取る。
(3)沈渣を200μlのDDWに浮遊させる。これをウイルスRNAの抽出に用いる。浮遊液に不純物が多い場合には10,000rpm.20分間の冷却遠心を行い、その上清をRNA抽出に用いる。
3)貝の中腸腺の内容液を用いる方法(マガキには不適な方法と考えられる)
大型の貝(タイラギ、ウチムラサキ等)からウイルスを検出する場合は、中腸腺の内容液を用いることができる。カキ、アサリ、シジミ等の小型の貝類ではウイルス回収率が必ずしもよくないので、本法は適さない。
(1)前項1)(2)において、中腸腺を内容液が漏れないように取り出し、大きめの遠心管に入れ、ガラス棒等で中腸腺を潰した後、一度凍結融解する(-40℃以下で凍結させ、融解するときには50℃程度のお湯ですばやく融解する)。
(2)10,000rpmで20分間冷却遠心し、上層の液層を新しいチューブに採る。
(3)得られた液をRNA抽出に用いる。ただし、QIAamp Viral RNA Mini キットによるRNAの抽出では560μlまでしかサンプルを添加できないので、それ以上の量の時には2つに分けて行うか、PBS(-)で6倍希釈した後、前項のポリエチレングリコールあるいは超遠心器による濃縮を行い、200μlのDistilled waterに再浮遊させ、それをRNA抽出に用いる。
|