2.5 検知技術の検証
2.5.1 診断精度向上に関する検知技術
前述の1.調査研究の目的に記載したが、振動による異常検知には2つのメリットがあり、そのうちの1つ目のメリットとして挙げられるのが、従来形センサによる検知項目に振動センサによる検知項目を追加することで、診断精度の向上が図れることである。
言い換えると、振動を検知することで故障名を絞込めるということである。
本研究では擬似故障試験を実施することにより、内容の確性を行った。
2.5.1.1 擬似故障試験(例)
擬似故障試験の1例として「燃料供給管漏油、破損」と「燃料調圧弁異常」の例を示す。
これらの故障名を検知するための検知項目の対応を定義した「診断マップ」を示す。
表2.5.1.1-1 診断マップ
上表に示すとおり、いずれの故障名も従来のセンサでは「排気温度のバラツキ大」と「燃料圧力低下」が検知されるだけで、それ以上の故障名の絞込みはできない。
2.5.1.2 機関表面振動の変化
「燃料調圧弁異常」により、燃焼のアンバランスが発生した場合には下図に示すように、回転の0.5次成分の振動値が増加する。
図2.5.1.1-2 燃焼アンバランスによる振動の変化
したがって、従来形センサの検知結果に機関表面振動の「ブロック振動の増加」という検知名が追加されることで、「燃料調圧弁異常」と故障名を絞り込むことができた。このように従来センサだけでは分離できなかった故障名を絞り込めるようになる。
振動による異常検知の2つ目のメリットが、例えばメタル等の摩耗のような従来形センサでは検知できない機関内部の微小な変化を検知できることである。
対象とする項目は以下の3項目である。
(1)動弁系摩耗
(2)主軸受メタル摩耗
(3)ピストン摩耗
2.5.2.1 動弁系摩耗
動弁系の摩耗等が発生した場合を想定して、第2気筒の弁隙間を正常状態から+0.5mmとし、着座時のランプ域を外れて弁を着座させるようにして擬似故障試験を実施した。
計測位置は、(1)第2気筒ヘッド、(2)第2気筒横ブロック、(3)第5気筒横ブロックの3箇所である。
第2気筒の弁摩耗に対しては、以上の3箇所で計測、解析した結果、下表のとおりの結果となった。
表2.5.2.1-1 第2気筒バルブ摩耗の異常検知結果
計測位置 |
時間ゲート |
異常検知の可否
○/× |
図番号 |
ヘッド |
第2気筒 |
無し |
○ |
2.5.2.1-3
2.5.2.1-4 |
有り |
○ |
2.5.2.1-5
2.5.2.1-6 |
各気筒横ブロック |
第2気筒 |
無し |
× |
2.5.2.1-9
2.5.2.1-10 |
有り |
○ |
2.5.2.1-11
2.5.2.1-12 |
第5気筒 |
無し |
× |
2.5.2.1-15
2.5.2.1-16 |
有り |
× |
2.5.2.1-17
2.5.2.1-18 |
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1) 第2気筒ヘッド
第2気筒ヘッドでは、吸気弁、排気弁の着座のタイミング(図内赤丸部)で、正常時には見られなかった振動が検出された(図2.5.2.1-2参照)。
ヘッドでは2.4.2 振動解析アルゴリズムで記述した処理のように動弁系の着座タイミングでの時間ゲートをかけなくても図2.5.2.1-3、-4に示すとおり、現象を捉えることができた。
一方で吸気弁の着座のタイミングで、時間ゲートをかけた結果を図2.5.2.1-5、-6に示すが、時間ゲートをかけない場合と同様、顕著に現象を捉えることができた。
図2.5.2.1-1 第2気筒ヘッド(負荷0%)正常時
図2.5.2.1-2 第2気筒ヘッド(負荷0%)摩耗時
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