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2.4.3 振動解析アルゴリズム
 機関の表面振動から対象とする部位以外からの信号の影響を受けずに、精度よく内部の異常を検知するためには、適切な信号処理を施す必要がある。
 当初の計画ではTPA(Transfer Path Analysis)の応用を考えていたが、表面振動解析を用いた実用的なシステム構築を優先させるためと、煩雑なプログラミングを用いないシンプルな処理にするために、TPAを用いる代わりに、計測位置を最適化することにより、内部の微小変化を簡易な処理によって精度良く計測できることを試みた。
 今回対象とした機関は4サイクル機関であるため、1燃焼サイクルはクランク軸2回転(クランク角度720度)に該当する。その結果、1サイクル内でのタイミングチャートをもとに時系列で現象を捉えることができる。
 つまり、以下のフロー図に示すとおり、対象とする現象を1サイクル単位で処理できることになる。
 
図2.4.3-1 信号処理フロー概念図
 
 上図に示す信号処理フローは、2.4.4節で後述する信号処理装置内で行われる一連の処理を示している。
1)連続して入力される時間データを第1気筒燃焼トップ信号(以降、1FTDC)をトリガにして、燃焼1サイクル毎の処理ができるように時間データを区切る。
2)1サイクル毎に区切られたデータから、1FTDCを基準として、必要とする任意の区間で時間データを切り出す。(時間ゲート)
3)切り出された時間データを周波数分析する。(フィルタ処理)
4)周波数分析結果に周波数軸上でバンドパスフィルタをかけて、部分和(パーシャルオーバーオール:実効値RMS)を求める。
5)算出された実効値をリアルタイムで監視診断システムに送出する。
 
 一方監視診断システム内では、リアルタイムに適当な正常値を求めるために、以下に示すアルゴリズムを適用している。
 まず下図に示すとおり、機関出力と各計測値の相関を予め求めておく。その後、出力をリアルタイムで計測すれば、同時に各計測項目の正常値が求められる。
 
図2.4.3-2 機関出力(電力)と計測値との相関(例)
 
 例えば、図2.4.3-3に示す、機関出力より算出された正常値に上下限の正常範囲(実際は「注意」と「警報」の2水準で検知)を定め、計測値がこの範囲を超えた場合に異常とみなされる。
 よって、DSP内装信号処理装置では、前述の1)〜5)の処理をリアルタイムに処理しているため、監視診断システム内での自動診断が可能となっている。
 
図2.4.3-3 機関出力から算出される計測値の正常値(例)
 
 振動による監視診断を行うためには、高度な処理を高速で処理する装置が要求される。今回はThe Modal Shop. Inc. 製のMODEL SDC003 LanSHARCを採用した。
 また本信号処理装置は、昨年度のデータ収集用の市場調査船の1号機に続き、2、3号機にも同じシステムを導入した。
 外観と船内設置した場合のイメージを下図に示す。
 
図2.4.4-1 外観と船内設置のイメージ
 
1) ハードウエア仕様
(1)Absolute Maximum Ratings
Power Supply Voltage 28 bolts DC
Static Inputs Voltage Range -0.3 to +5.0 Volts DC
Digital Inputs Drive Current 10-50 mA
Solid State Relays Voltage 100 V, Current 120 mA
(2)Inputs
Dynamic Channels 1-4, Vibration or Acoustic, TEDS capable
Static Channels 0-4, 12 Bit, 0-5 V
Digital 1 Tachometer
1 Static Digital
(3)Dynamic Inputs
Voltage Range: ±2.5Vpk
ICP Interface 5±1mA, IEEE P 1451.4 support
Coupling AC -3dB @ 20Hz
Maximum Frequency Range  5kHz or 40kHz
Channel Crosstalk:  <-90db[1]
Amplitude Accuracy: <3%.[1]
Amplitude Match: <1%.[1]
Phase Match: <5°.[1]
Harmonic Distortion: <-70db.[2]
Dynamic Range: 110 dB
(4)Static Inputs
Voltage Range: from 0 to +5Vpk[3]
Input Impedance:  >100 kΩ
Maximum Frequency: 5 Hz
Coupling: DC
(5)Digital Inputs
Voltage Range: Approx. 2V @ 10-50 mA
Polarity: Any
Drive Current: (10-50) mA
Isolation: 600 V
(6)Digital Signal Processing
Primary ADC: 24-bit Delta-Sigma.
Maximum Sampling Rate: 128kHz.
Block Length: Application Dependent.
Overall Units: Application Dependent.
DSP: 32-bit Floating Point DSP Processor.
Memory: 16Mbytes SDRAM and 8Mbytes Flash
Microcontroller: 8-bit 8051 core Microcontroller
 
図2.4.4-2 内部ブロック線図
 
 本信号処理装置には、前述のアルゴリズムを忠実にソフト上で再現した後、ROMに展開しスタンドアローンで稼動させ、リアルタイムで処理された振動データを監視診断システムに送出するようになっている。
 またアルゴリズムなどの変更、見直しは現場でノートPCにより、容易に処理内容の変更が可能である。
 
 なお、以降の周波数解析結果から求める振動のRMS値は、本DSP内装信号処理装置による出力を用いている。







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