2.3.2 センサーの実用性評価
高機能センサー類の評価、使用可否の判定を表2.1.1-6に示した。
表2.3.2-1に今年度の試験に採用した高機能センサー類の診断システムへの採用に関する評価を示す。
(1)シリンダ内圧力
本センサーは昨年度、本年度の試験結果より、診断には有効なセンサーである。
しかし、センサー間の感度、時定数の同一化に手間取った。簡便な調整法の確立が必要である。また、時間経過とともに性能が変化する現象や耐久性については更に時間をかけて確認する必要がある。
(2)燃料噴射管内圧力(歪ゲージ式)
本センサーも診断には有効なセンサーである。
耐久性に問題があったため、センサー内部の部品構成を変更し、さらに内部部品の固定方法を改良した。
(3)針弁リフト(渦電流式)
燃料噴射管内圧で検知可能であるが、その初期設定を補完するために設けたものである。従って実船用としては不要となる。
(4)リング間圧力(歪ゲージ式)
リング間圧力センサーは、陸上試験では2個破損、海上試験では感度不良が1個発生したのでセンサー内部の固定方法を改良することとした。
(5)プランジャ温度(熱電対式)
順調にデータ採取できており有効なセンサーである。また、噴射管内圧力センサーより情報量は少ないが、安価でありバックアップとして使用しており、将来的には代替の可能性もある。
(6)ライナ温度(熱電対式)
順調にデータ採取できており有効なセンサーである。
海上試験中ではトラブルが発生せず、またリング・ライナの摩耗も少なく、ライナ摺動面より5mm外側であることもあり、有効な温度変化としてのデータ変化は検出できなかったため、6点/cyl、2点/cylの相違は把握できなかったが、実用化では2点/cylの予定である。
(7)給気温度(熱電対式)
順調にデータ採取できており有効なセンサーである。
表2.3.2-1に今年度の試験に採用した高機能センサーの評価を示す。
高機能センサーでは熱電対センサー以外はほとんどのセンサーで耐久性の確認が不十分であった。対策については上に記したが、センサー類の数が増えることにより、センサーの不具合発生確率が高くなったのも一因と思われる。
表2.3.2-1 高機能センサー類の評価
センサー名称 |
採否の判定 |
判定理由、採用条件 |
シリンダ内圧力 |
○ |
最高圧力、受熱率の変化など診断に有効である。
複数のセンサーの感度、時定数の調整が容易に行なえること。 |
噴射管内圧力 |
○ |
噴射最高圧力、噴射管内残圧の変化など診断に有効である。
耐久性の向上。 |
針弁リフト |
× |
校正用としての意味があったが、実船では不要。 |
リング間圧力 |
○ |
圧力波形によるリング、ライナ摩耗の診断に有効である。
耐久性の向上。 |
ライナ温度 |
○ |
リング、ライナの摩耗、損傷の診断に有効である。 |
プランジャ温度 |
○ |
噴射管内圧力センサーに比べ、情報量は少ないが、安価であり将来的には代替センサーとする可能性がある。 |
給気温度 |
○ |
吸気弁の吹抜けなどの診断に有効である。 |
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状態診断プログラムは、前述のように4種類の陸上試験結果では、一般データによる診断では不具合部品の特定まではできないが、不具合部位の検知が可能であり、一般+燃焼による診断ではかなりの精度で部品の特定までできた。さらに、波形の視認による人間の判断を加えるとほぼ完全に特定可能なことが判り、有効な診断が可能であることが判った。
海上試験においては、平成16年2月の分解・点検時の機関の状態からも判るように、不具合の発生がなかったことから、それなりの診断結果が得られている。
しかし、本年度の試験終了間際の2月9日に受信したデータでライナ温度がこれまでの最高値に上昇し、ライナ焼損の疑いが発生した。このときの一般データによる診断結果を図2.3.3-1に、一般および燃焼解析データによる診断結果を図2.3.3-2に示す。また、ライナ温度のトレンド表示画面を図2.3.3-3、図2.3.3-4に示す。
図2.3.3-1 一般データによる診断結果
図2.3.3-2 一般+燃焼データによる診断
図2.3.3-3 No.6cylライナ温度(P側)
図2.3.3-4 No.6cylライナ温度(S側)
この時の診断結果は一般データによる診断では異常項目なし、一般+燃焼データによる診断ではライナ焼損の診断が表示されたが、その確信度は0.08と低かった。また、その他の項目には異常は発生しておらず、「注意要」ということで状況を見守ることとした。結果、翌日には当該部の温度は低下し、特に異常は発生しなかった。
冷却水、排気温度、給気温度など関連項目に異常は発見できず、計測値からはライナ温度の上昇の原因究明はできなかったが、リングの合口位置とライナ温度の計測位置が合致し、ライナ温度が上昇したものと推定される。
結論として、ロガーデータおよび五感データのみでの診断では今回の試験結果から、燃焼に関する不具合の診断では不十分であり、燃焼に関する不具合の診断には燃焼解析による診断が必要であることが実証された。
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