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(2)状態診断プログラムの検証試験と結果
 表2.1.1-5の各試験において、陸上試験で機関診断を行った結果を表2.1.2-2に示す。
 
表2.1.2-2 陸上試験データによる診断結果
試験項目 試験内容 診断結果 備考
一般データ
による診断
一般+燃焼データ
による診断
ライナリング
摩耗再現試験
ライナ摩耗限界再現試験 1 不具合検知できず 1 ライナ摩耗 リングT寸法で再現
2 2 リング摩耗
3 3 リング折損
リング摩耗限界再現試験 1 不具合検知できず 1 ライナ摩耗 リングT寸法で再現
2 2 リング摩耗
3 3 リング折損
プランジャ摩耗限
再現試験
プランジャ・バレル隙(標準隙+5μm) 1 不具合項目なし 1 不具合項目なし 交換基準までの中間隙で不具合とは診断しないため
2 2
3 3
プランジャ・バレル隙(標準隙+10μm) 1 プランジャ摩耗 1 プランジャ摩耗 プランジャ、バレル交換基準
2 噴射管クラック、継手の漏れ 2 噴射時期調整不良
3 噴射時期調整不良 3 噴射管クラック、継手の漏れ
ノズルチップ
噴口閉塞試験
噴口1穴閉塞 1 プランジャ摩耗 1 プランジャ摩耗 ノズルチップ交換基準
2 噴射管クラック、継手の漏れ 2 ノズル噴口詰り
3 ノズル噴口詰り 3 噴射時期調整不良
2 LOポンプ故障 2 LOポンプ故障
3 LO調圧弁不良、調整不良 3 LO調圧弁不良、調整不良
 
 以下に、陸上試験の結果を具体的に考察する。
 
(1)シリンダライナ、ピストンリングの摩耗再現試験
 リングの摩耗限、ライナの摩耗限に相当する摩耗量をピストンリングのT寸法を減少させることで代用したピストンリングを製作し、No.2cylにそれらのリングを組込み正常状態(No.1cyl)との比較試験を行った。試験に使用したリングのT寸法計測値を表2.1.2-3に示す。
 
表2.1.2-3
陸上試験 ピストンリングT寸法
基準寸法:11.0mm
単位:1/100mm
T寸法 標準 摩耗−1 摩耗−2 ライナ内径
No.1cyl 第1リング 2.4 - - 3.0
第2リング 2.6 - - -
第3リング -3.4 - - -
第4リング -3.4 - - -
No.2cyl 第1リング -3.4 -100.6 -161.0 9.0
第2リング -0.6 -101.2 -0.6 -
第3リング -1.8 -100.8 -1.8 -
第4リング -2.2 -101.0 -2.2 -
 
 本試験は、新部品と経年変化後の部品との比較試験で、部品の状態変化とその変化によるデータの変化の相関を得るための試験である。
 摩耗−1はライナの摩耗限を再現するリング寸法での試験で、摩耗−2はリングの摩耗限を再現するリング寸法(トップリングのみ)での試験である。実際のリング、ライナの摩耗は複合して発生するものであり、メッキライナ、メッキリングなどの使用状況でそれぞれの摩耗は異なってくるため、機種、機関毎に仕様で区別する必要がある。
 
 全採取データ(燃焼解析データの波形データを除く)による機関診断結果(以下、一般+燃焼による診断と称する)では、摩耗−1、摩耗−2ともライナ、リング摩耗、リング折損が上位に表示された。
 
図2.1.2-3 リング間圧力比較(正常時)
 
 リング間圧力波形の正常時のNo.1cylとNo.2cylの比較図を図2.1.2-3、摩耗−2時のNo.1cylとNo.2cylの比較図を図2.1.2-4 に示す。また、摩耗ピストンリングを組み込んだNo.2cylの波形変化(トレンド表示)を図2.1.2-5に示す。
 
 リング間圧力波形では、摩耗−1ですでに上死点後付近(TDC〜ATDC25°)に正常時との相違が現れている。この相違はライナ、リングが摩耗していることを示すものであり、リングあるいはライナの摩耗が進行していることを示している。
 
図2.1.2-4 リング間圧力比較(摩耗−2)
 
 摩耗−2の波形では、さらに相違が大きくなっている。これを放置すると、リング折損へ進行したり、ライナ壁温度が上昇し潤滑油膜が破壊されライナ焼損にいたり、大きな事故につながる。摩耗−2が検出されれば、速やかな分解・点検、それぞれの摩耗状況を把握し、対処法を決定せねばならない。但し、過去の経験からほとんどの場合、リングの交換で対処できる。
 
図2.1.2-5 リング間圧力比較(No.2cyl)
 
(2)燃料ポンププランジャ摩耗再現試験
 プランジャとバレルの隙をプランジャ、バレルの摩耗限およびその約半分とした場合のプランジャを製作し、No.2cylの燃料ポンプに組込み正常状態(No.1cyl)との比較試験を行った。試験に使用したプランジャ、バレルおよびその隙の計測値を表2.1.2-4に示す。
 
表2.1.2-4
陸上試験 燃料ポンププランジャ隙
基準寸法:φ28mm
単位:1/1000mm
  標準 摩耗-1 摩耗-2
標準隙+5 標準隙+10
No.1cyl プランジャ外径 -3.0 - -
バレル内径 1.5 - -
4.5 - -
No.2cyl プランジャ外径 -2.0 -7.0 -6.0
バレル内径 2.0 2.0 8.5
4.0 9.0 14.5
 
本試験は上記リング・ライナ摩耗と同様、部品の経年による変化とデータの変化の相関を得る試験である。
 プランジャ摩耗−2では、プランジャにより圧縮された燃料がプランジャ・バレルの隙から漏れ、噴射圧力の低下、噴射不良、着火不良、燃焼不良を起こし、さらに進行すると非噴射に至り、機関の運転が不能になる。
 一般データによる診断結果は、摩耗−1では不具合項目なし、摩耗−2ではプランジャ摩耗が最上位に表示された。一般+燃焼データによる診断結果は、摩耗−1では不具合項目なし、摩耗−2ではプランジャの摩耗が最上位に表示された。
 噴射管内圧力波形の正常時のNo.1cylとNo.2cylの比較図を図2.1.2-6、プランジャ摩耗−2の時のNo.lcylとNo.2cylの比較図を図2.1.2-7に示す。また、摩耗プランジャを組み込んだNo.2cylの波形変化(トレンド表示)を図2.1.2-8に示す。
 
図2.1.2-6 噴射圧力比較(正常時)
 
 プランジャ摩耗−1では正常との差は僅かであり、交換基準に達していないことを示している。摩耗−2では噴射圧力が大きく低下(10MPa以上)し、正常に噴射しておらず、燃焼も悪化しプランジャ交換が必要であることを示している。さらに摩耗の進行したプランジャでの過去に実施した試験では、プランジャ下部からの漏れが非常に大きく、正常な運転ができなかった
 
図2.1.2-7 噴射圧力比較(摩耗−2)
 
 
図2.1.2-8 噴射圧力比較(No.2cyl)
 
 摩耗−2の状態を検出すれば、速やかな燃料ポンプの分解・点検、プランジャ交換が必要であり、プランジャの交換により船舶の運航不能のような重大事故は回避できる。







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