(3)針弁リフトセンサー
センサーは上記噴射管内圧センサーを補完するために装備したもので、陸上試験で使用したものは昨年度開発したもので、センサーターゲットの位置ずれによると思われるゼロ線の移動(わずか数mのずれによりゼロ線が移動する)があり、噴射時期の値に異常値を示す場合があった。このため今回の試験では、噴射開始時期、噴射終了時期、などの数値データは使用できなかったが、波形データでは問題なく視認でき、人間による診断には使用できた。
海上試験用では燃料弁の大きさが異なるため、原理は同じであるが、大きさ、取り付け方法の異なる新規に開発したセンサーを使用した。
このセンサーの場合、感度不足のためSN比が悪く、波形データを生データとして採用することは困難であったが、プログラムの変更で対処でき、実用上問題のないことを確認した。
(4)リング間圧力センサー
リング間圧力センサーは市販の高温用のセンサーで、ひずみゲージ式を採用しているため、波形は安定していたが、陸上試験時に2個破損した。データ採取は予備のセンサーで対応した。
また、海上試験時にはゼロ線の移動があり、波形としては不安定な部分があった。原因調査の結果、上記はいずれも高周波の振動加速度によるセンサー内部での繰り返し疲労による接触不良、断線であると判明した。この対策として、配線の固定方法を改良した。
また、ゼロ線の移動については、シリンダ内圧力と同様の処理をすることで、プログラムを変更する必要があった。
なお、今回の診断では、計測データをゼロ線の移動量分を差し引き、再計算して診断に使用した。
本センサーについても、破損、接触不良の問題があったが、原因は特定されており、その対策により実用上問題ないことを確認した。運転状態でのライナ、ピストンリングの異常を推測できることが確認できた。
(5)各温度センサー
陸上試験、海上試験とも、昨年度と同様のK熱電対を使用しているため、安定したデータが採取できた。
高機能センサー類の評価、使用可否の判定を表2.1.1-8に示す。
表2.1.1-8 高機能センサーの発生不具合、対処法、使用可否の判定
センサー名称 |
陸上試験、海上試験での発生不具合
/応急処置(対処)
(不具合発生原因) |
今後の対処方法 |
使用
可否
判定 |
シリンダ内圧力 |
陸上で出力不安定。
予備と交換で対処。
海上で時間経過により時定数、感度が変化、波形に乱れ発生。
アンプ調整、センサー交換で対処
(ともに、交番圧力により構成部品の接合面に発生した微小な空隙による、圧電素子への圧力伝播の遅れ) |
加工面(部品接合面)粗度の改善及び品質の安定化で対処する。 |
○ |
噴射管内圧力 |
陸上では不具合発生せず。
海上で断線。
予備センサーと交換で対処。
(高周波数で大きな振動加速度によりセンサー内部で断線) |
センサー内部配線、部品の固定方法の変更で対処する。 |
○ |
針弁リフト |
陸上ではゼロ移動により、海上ではS/N比が小さく、ともに数値化に不具合が発生。
波形の視認による数値化で対処。
(渦電流式のため周囲環境の影響によるゼロ移動、S/N比の低下) |
噴射時期の数値化で対処する。
データ採取用ソフトを変更する。 |
○ |
リング間圧力 |
陸上では破損、海上では感度不良が発生。
ともに予備と交換で対処。 |
センサー内部配線、部品の固定方法の変更で対処する。 |
○ |
プランジャ温度 |
陸上、海上ともに良好。 |
|
○ |
ライナ温度 |
陸上、海上ともに良好。 |
|
○ |
給気温度 |
陸上、海上ともに良好。 |
|
○ |
|
一般監視用センサーについては、いずれも実績のあるセンサーであり、ほとんど問題となるものはなかったが、LOおよびFO2次コシ差圧センサーのみ途中で出力不良になった。原因はセンサー内部の変形による圧力伝播媒体の油の漏れによるもので、高圧が作用したため、変形したと推定された。新センサーヘの交換で対応したが、機関冷態始動時などに発生する高圧によるもので、耐圧の高いセンサーに交換する。
(1)状態診断プログラムの作成
昨年度開発した6気筒用の燃焼解析用ソフトは、海上試験用に供し、陸上試験用に新しく3気筒用のソフトに改造・作成した。その内、燃焼解析データは2気筒のデータで診断を行った。
また、状態診断プログラムも6気筒用であるため、陸上試験用に3気筒分のデータで診断を行なえるように改造・作成した。
状態診断プログラムは大きく分けて2つの部分から成り立っている。
1つは一般監視データ(データロガーにより採取されたるデータおよびハンディターミナルより入力される五感データ)による従来方式の診断であり、1つは燃焼解析データによる診断である。
診断の流れを図2.1.2-1に示す。
図2.1.2-1 機関遠隔診断の流れ
採取されたデータは船陸間通信システムを介して陸側に送信される。
最初に、受信したデータが機関診断に採用できるか否かの判定を行なう。
航海情報により積荷の状態、気象・海象、風向・風速などにより船舶の状況を判断し、採取データの負荷状態などと共に診断に供せるか判断する。40%負荷以下のデータは出入港時の過渡的データと見做し、機関診断の対象としていない。
また、燃焼解析用のシリンダ内圧力、噴射圧力、針弁リフト、リング間圧力の各データは連続した100サイクル分のデータを各角度毎に平均化している。これらの波形データが診断に使用できる正常状態で採取されたか、診断に使用できない負荷変動が大きい時のデータかを、採取100サイクルのシリンダ内最高圧力の変化により判断する。これは診断用のデータベースが定常状態時の値をもとに作成されているためである。
機関診断は、最初に従来方式の機関一般データによる診断を行ない、その後、燃焼解析による診断を行なう2段階方式で診断できるように作成した。
機関診断は、以下のステップを踏んで行われる。
(1)機関一般データによるエキスパート診断を行ない、診断結果、結果の確信度、診断要因、対処方法を表示する。
なおエキスパート診断については下に示す。
(2)専門技術員により、診断要因のデータの初期値との比較、トレンド表示などで診断結果の確認を行なう。
(3)高機能センサーによるデータの内、数値化したデータによるエキスパート診断(気筒間の相違、各データ間の相関)を行ない、診断結果、結果の確信度、診断要因、対処方法を表示する。
(4)専門技術員による診断要因のデータの初期値との比較、気筒間の相違、トレンド表示などで診断結果の再確認を行なう。
(5)さらに、数値化していない波形データによる診断を行ない、不具合個所の特定、対処方法の最終決定を行なう。
エキスパート診断(自動診断)の概要を以下に示す。
・各計測項目は診断に使用するデータベースを持つ。
・正常値である基準値、正常と異常の境界である閾値、超えると危険を示す警報値のデータベースと、各計測項目と各故障との相関度を示す重み付け係数のデータベースから成り立っている。
・エキスパート診断は、各計測値を上記データベースと比較し、閾値、警報値を超えている項目にフラグを立てる。
・上記フラグの立った項目の重み係数の和とその故障の重み係数の総和から確信度を算定し、その故障内容と確信度を表示する。
・さらに、その故障と判断した計測項目(診断要因)やその対処方法についてもサブ画面で表示する。
なお、閾値、警報値の概念を図2.1.2-2、言葉の定義を表2.1.2-1に示す。
図2.1.2-2 基準値、閾値、警報値の概念図
表2.1.2-1 基準値、閾値、警報値の定義
名称 |
定義 |
基準値 |
設計値・設定値および就航後の運航状況により決定する診断の基準。 |
閾値 |
正常と異常の境界値で、越えると診断上で注意報を発令する。 |
診断警報値 |
不具合発生が予知される診断上の警報値。 |
船内警報値 |
規則および機関メーカにより定められた警報値で、機関の自動停止(減速)を指示する警報値。 |
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