第1章 事業の概要
1.1 事業の目的
我が国では、海上物流の効率化・再生に向けて、海上交通のIT化を積極的に推進している。その一環として、船舶の安全管理に関する技術についても、船舶検査等安全規制の合理化に際し、IT技術を取り入れて推進することが検討されている。そこで、過去の研究事業成果の活用、及び舶用工業界のノウハウを結集することにより、低価格かつ信頼性のある実用的な内航船用機関遠隔診断システムの開発研究を行うものである。
本事業では、熟練船員の減少など、船舶の安全管理技術に関する問題、及び海上輸送効率の向上が併せて求められている中で、船員の技量をサポートし、トラブルの未然防止を図る高機能な遠隔診断システムを開発し、もって内航海運の近代化・安全性の向上に寄与することを目的とする。
(1)計画の内容
本事業は、内航船における熟練船員の減少傾向により危惧されている船舶の安全管理技術に関する問題の解決、及び運航コストの削減等海上輸送効率の向上が併せて求められている中で、高度船舶安全管理システムに係わる国の総合実証実験に対応して、船員の技量をサポートし、トラブルの未然防止を図る高機能な遠隔診断システム、また、陸上支援による船上保守管理を支える高精度なセンサー技術、情報処理・通信技術を実用化することにより、国の安全規制の合理化に関する環境整備に積極的導入を働きかけるとともに、内航海運の高度化・近代化を目指すものである。
本事業では、新たな安全規制に備えた対応を遅れることなくいち早く整備するために、内航船用機関遠隔診断システムを構成する機器装置のうち次の要素システムについて、平成14〜15年度の2ヵ年にわたり開発研究を実施するものである。
(1)遠隔診断システムの開発
(a)機関の燃焼解析
これまではシリンダ毎の異常を検出し、工場成績と比較してトレンド分析を行い、故障原因に対する影響度を確信度として原因を指定していたが、今後さらに的確な判断を行うために、機関に直接取り付け可能な、耐久性の高い機関の燃焼状態を直接検出可能な高機能センサーを開発して確信度を高め、より正確な燃焼解析による状態診断プログラムを開発する。
また、小型で信頼性の高い内航船用主機関の燃焼状態監視センサーとして、新たに筒内圧センサーの開発を行う。また、シリンダ内圧力センサー、燃料弁針弁リフトセンサー、噴射管内圧力センサー、リング間圧力センサー、温度センサー等による燃焼状態監視技術の高度化を行う。
平成15年度は、平成14年度に試作開発した燃焼状態監視センサー類及び燃焼解析手法による機関状態診断プログラムを、運航中の船舶主機関、及び陸上試験機関に適用し、得られた各種データと機関主要部の損耗・劣化などのデータとの相関性を把握して、燃焼解析手法による機関状態監視診断システムを用いた点検整備の基準、部品取替の基準、故障予知の診断基準を確立する。
(b)機関の表面振動解析
コスト、搭載性の観点から優れているものに機関表面振動センサーがあるが、磨耗等による軽微な振動変化の検出は困難である。軽微な故障でも発生部位の振動は変化することが知られている。これらの変化を機関表面振動から抽出する技術を開発するもので、故障徴候を事前に把握するためには、多数のセンサーが必要となり、それらをすべて設置することは現実的には困難である。そこで、多次元伝達経路解析法技術を開発し、ブロック表面振動から内部状況を推定可能なDSP(波形解析)ロガーを開発試作して確信度を高め、より正確な故障予知が可能な監視診断システムを開発する。
平成15年度は、故障時の振動の変化を抽出する技術の高度化、及び実船データを基にした擬似故障試験を以下の通り実施して機関の監視診断システムを構築する。
・伝達経路解析を軸とした表面振動解析技術の機関へ適用した要素試験
・擬似故障試験による診断アルゴリズム開発
・摺動部の磨耗と振動との関連調査
・診断装置による実証船でのデータ収集システムの構築
(2)機関室周辺機器等管理の高度化技術の開発
周辺機器等の維持管理は主機関の安全管理上重要な要件となるが、これまで機関部乗組員の管理・点検に依存してきており、今後も主機関と同様のモニタリング装置による状態監視化などに移行することは、コスト的・技術的に実現が困難なことが想定される。
そこで、周辺機器等に対する管理点検手法の高度化技術として、携帯型情報入力端末(ハンディターミナル)を用いて周辺機器等の管理点検を実施することにより、ヒューマンエラー抑制、省力化、陸上管理を可能にするプログラムを開発し、主機関の安全管理に寄与する。
平成15年度は、平成14年度にプログラム開発を行ったハンディターミナルを入力端末とした機関区域の管理・点検システムの陸上機関、及び実船での運用試験を実施し、システムの信頼性・機能性を検証するとともに、改善要件の明確化を図り、これを基に改善製作を実施し、実効性の高い製品化を図る。
(3)高速・低コスト情報通信システムの構築
船陸間通信システムには既存技術を適用するが、エンジン状態計測データを船上から陸上に効率よく伝送するためには、センサーからのアナログ信号によるデータをデジタル変換しなければならない。そのために必要とされる、低コストのモニタリングユニット、通信プロセスユニット、高速データ処理装置、並びに航海情報収集装置を開発する。
平成15年度は、平成14年度において開発を行った機関モニタリングユニット、船陸間通信プロセスユニット及び船内ネットワーク、航海情報収集装置について、陸上試験及び船上実証実験によるそれぞれの機能試験を実施し、船陸間情報処理・通信システム全体の評価を行うことにより実用化に向けた開発・研究を行う
(4)陸上支援システムの構築
船上で収集された機関のデータは、情報通信システム経由で陸上に送られ、それを基にして、陸上側で内航船用機関の遠隔診断を行うためのシステムを開発し、一方、その診断結果を本船や運航管理者に連絡すると共に、データベースに機関の情報を蓄積して、管理計画の評価・見直しや生産者へのフィードバックなどを行う保全管理システムを構築する。
15年度は、内航船用機関遠隔診断システムを構成する機器装置のうち、14年度に一部開発試作した機器装置の改造を含め、各要素機器装置を試作し、陸上および実船において性能確認試験を実施して、陸上支援システムを含む全体システムの性能を確認する。
(2)実施の方法
(社)日本舶用工業会内に昨年設置した委員会により、次の通り事業内容を審議した。
第3回研究委員会 平成15年6月25日 開発実施計画の承認
第4回研究委員会 平成16年1月20日 報告書案の審議
第5回研究委員会 平成16年2月20日 報告書案の審議、成果の確認
また、実施にあたっては、昨年に引き続き次の6社と開発研究委託契約を締結し、上記委員会において実施計画を確認のうえ、内航船用機関遠隔診断システムを構成する機器・装置の開発研究を実施した。
開発研究委託契約6社;阪神内燃機工業(株)、ヤンマー(株)、(株)赤阪鐵工所、明陽電機(株)、渦潮電機(株)、古野電気(株)
2.1 機関遠隔診断システムの開発
図2.1.1-1に平成15年度実証試験の装置構成、図2.1.1-2に機関遠隔診断システムの構成を示す。
実証試験は、陸上、海上試験とも高機能センサーによる機関のデータを収集する燃焼解析装置、一般センサーによる機関一般性能データを収集するデータロガーシステム、機関に関する五感データや運行管理用のデータを収集する携帯型情報入力端末(ハンディターミナルシステム)、気象、海象、積荷、船舶の位置情報などのデータを収集する航海情報収集装置やそれらの収集したデータを集積し、新規開発された船陸間通信装置によって陸上ヘデータを送信する
個別の機器、システムについて以下の節に記述する。
図2.1.1-1 平成15年度実証試験の装置構成
図2.1.1-2 機関遠隔診断システムの構成
(1)内航船用主機関センサーの新規試作・改良開発
表2.1.1-1、表2.1.1-2に陸上試験および海上試験に使用した燃焼解析用および従来方式用のセンサー類の一覧表を示す。
表2.1.1-1 燃焼解析用センサー一覧
センサー名称 |
陸上試験 |
海上試験 |
センサー設置場所 |
個数 |
個数 |
シリンダ内圧力
(ピエゾ圧電素子式) |
2
予備1 |
6
予備1 |
指圧図採取弁部 |
燃料噴射管内圧力
(ひずみゲージ式) |
2 |
6
予備1 |
燃料ポンプトップフランジ部 |
針弁リフト
(渦電流式) |
2 |
6
予備1 |
燃料弁本体下部バネ受部 |
リング間圧力
(ひずみケージ式) |
2 |
6
予備1 |
ライナ内周部No.3リング下部
(ピストンTDC位置で) |
プランジャ温度
(熱電対式) |
2 |
6
予備1 |
燃料ポンププランジャバレル
外周部 |
ライナ温度(熱電対式) |
12 |
12 |
ライナ内周トップリング部
(ピストンTDC位置で) |
給気温度
(熱電対式) |
2 |
6
予備1 |
吸気枝管カバー入口部 |
計測シリンダ数 |
2cyl |
6cyl |
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この中で、本年度新規に開発・改良して採用したセンサーは、燃焼解析用では、シリンダ内圧力センサー、針弁リフトセンサーである。その他は昨年度開発したセンサーで、陸上試験では2気筒に、海上試験では6気筒に装備した。
(1)シリンダ内圧力センサーは、昨年度開発した焦電気の影響が無い圧電素子(LiNb03)を使用し、以下の改良を行ったものである。
・圧電素子締め付けねじをスポット溶接することによる緩和の防止
・断熱用セラミック柱を伸ばすことによる圧電素子加熱の軽減
・アルミ製放熱器を使用することによる圧電素子加熱の軽減
(2)針弁リフトセンサーについては、原理は昨年度の試験に採用した方式と同じであるが、海上試験では燃料弁の大きさが異なるため、新規に開発したものである。
(3)ライナ温度センサーについては計測点数の削減のため、平成14年度の16点/cyl(2断面)から陸上試験では6点/cyl(1断面)に、海上試験では2点/cylに変更した。
一般監視データ用としては、陸上試験では全て出力付のセンサーに変更設置し、海上試験ではロガーシステム用に装備しているセンサーに加え、本試験用に○印を付したセンサーを診断用に新規追加装備した。
また、通常装備しているが出力を持たないセンサーも出力付に変更して装備した。表中に※印で示す。
なお、空気冷却器給気差圧、過給機吸入空気差圧の差圧センサーは精度および価格的な面より水柱マノメータで計測し、ハンディターミナルより入力することにした。
航海情報については、陸上試験ではパソコンにより擬似データを作成し、データロガー経由でデータを採取した。
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