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第6章
面談の実際
 面談をどのように進めていくかは非常に重要である。この章では、実習をしながら面談方法について学ぶ。
 
I 目的
 講義を聞くことは重要であるが、それと同時に面談の方法を体験学習することも重要である。アドバイザーが相談者に対して良い援助をするにはどうすればよいのかを実習面談を通して学ぶ場である。そのためには、アドバイザー自身の心身の状態を知ること、認めてくれる人がいることの大切さに気づき、そして人を認めることの重要性をワークを通して学ぶ。
 
II 注意事項
 積極的に実習に参加するように努力する。講義をいくら聴いてわかったつもりでいても、実際に話し合おうとすると緊張して言葉が出てこなかったり、あいさつすらできないことがある。実習で多くの体験をして、良いアドバイザーとしての技量を高めるよう心がける。
 
III 自分を知る
 面談をするときには自分が軸になる。軸である自分がどのような心を持っているかを知っていないと援助が逆効果になってしまうことがある。アドバイザーにとって自分を知っていることは基本であり、いつでも自分を振り返って軌道修正することが求められている。それには、自分に善意で忠告してくれる人を尊重する広い心を忘れてはならない。
 
1 白分自身(心)を知る
 子育てアドバイザーはまず、自分自身(心)を見つめるように心がける。うっかりすると自分の状態に気づかないことがある。面談するときには自分自身がどういう心理状態にいるのか、すなわち疲れているのか、イライラしているのか、幸せなのか、物事が思うようにいかない状況なのかといったことに気づいていることが重要である。
 心はあなたの言葉や行動、感情をコントロールする司令塔でもある。ムッとしてその感情をストレートに言葉にして出す人、感情は出すが言葉では謝る人、感情を押し殺して謝る人、相手を無視する人・・・色々な言い方、やり方がある。その中のどれを選択するかは、あなたの心次第。心がコントロールして言葉や行動、感情にして表すのである。この仕組みがわかると、自分の言葉や行動、感情から、逆に自分の心に気づくこともできる。その「気づき」が大事なのである。
 たとえば面談が進まない場合などに、心の状況が相談者に反映して、相談者に気を遣わせてしまったり、思ったことを言うのに躊躇させてしまうことがある。
 また、あなたがあまりに幸せすぎると相談者の悲しみを充分に感じ取れないこともある。自分がどういう状態にいるかを知って面談することが重要なのである。
 
2 3つの心状態
 自分がどういう状態であるかを知る一助として、自分の中にある3つの心状態について述べる。その3つの心とは、「親の心」「成人の心」「子どもの心」である。
 成人の心と子どもの心はそれぞれ2つに分かれて、5つの心に分かれる。
 次に示す5つの心の内でどの要素が強いか弱いかを判断して、適材適所に性格を利用するというのもアドバイザーの能力の1つであると考える。
(1)規律に厳しく筋を通す心
 お金や時間に巌しく、約束や規則を守る。相手にもそのことを強要し、言い訳を許さない。命令調で言ったり、断定的であったりする。信念を持って行動する。
 姿勢は良く、身だしなみもキチンとしている。
 このような性格は、お互いが信頼関係で結ばれる社会生活の基本として必要である。しかし、その程度が問題で、これ「ばっかり」になると息苦しい。「お金や時間に厳しく、約束や規則を守る」という要素は面談の基本になり得るため、双方に必要である。しかし相手にも「言い訳を許さない。命令調で言ったり、断定的であったりする」のを強要するのはアドバイザーとしては適さない。このような厳しさをアドバイザーが自分の姿勢として持っているのは良いが、相手には求めないというような臨機応変さが必要である。
 ただ、あくまでも相手次第なので、相手があまりにルーズなときにはキチンとした態度をとるように教えることが相手に対する愛情になる場合もある。このようなことを書いたのも、最近の若者の中にはルールを教えられてこなかったり、相手の迷惑を考えない者が増えてきたりしているからである。そして、そのこと自体若者にとって不幸なことであると考える。
 こんなケースがあった。両親が年をとってから授かった子であったので、何不自由なく育て、要求されたことはすべてかなえてきた。中学生になって勉強部屋がほしくなったので、両親が経営していたアパートの1室の住人を立ち退かせてほしいと言われた。さすがに、その要求は無茶であったし、その部屋の住人はこの中学生の大の仲良しでもあった。そこで両親は初めて中学生の要求を断った。
 するとその日に中学生はこの部屋に放火した。その理由というのが、「火事になれば、その部屋の住人が出て行かざるを得なくなり、自分の部屋にできると思った」というものであった。知的には決して低い子ではなかったのだが、まさか全部燃えてしまうとは考えなかったという。彼の場合、社会性が育つ環境になかったわけで、良かれと思って甘やかしてしまった両親も、社会性を欠いたままで成長した中学生も、ともに不幸であったとしか言いようがない。「この子を救うには、親が今までの態度を改めて毅然としなくてはいけない。その決意ができなければ私たちは援助できない」という精神科医の言葉に、その決心もつかず途方に暮れたように親子3人がスゴスゴと帰っていった後ろ姿を今でも思い出す。
 このような事態に陥らないために、世の中のルールを教えるということはとても重要である。乳幼児期からのしつけが大切なのだが、しつけ方は子どもの性格や年齢などによって変える必要がある。ただ、口やかましく言えばよいというものではない。子どもの発達を見ながらしつけていくのが肝要である。
(2)優しく包み込む心
 困った人がいたらつい手を貸してしまい、ときには身銭を切ることもある。細かいことに気がつき、世話焼きである。相手を褒め、ねぎらい、道を尋ねられたときは、相手がわかるところまで案内する。
 このような性格の人は、小さな子や人に優しくしてほしいお年寄りにはとても感謝される。そして、そのことに喜びを感じてより一層親切になる。そのこと自体は悪いことではない。しかし、周囲への配慮を忘れると、ありがた迷惑になる。
 「あんなに一生懸命してくれているのに断れない」という親切の押し売りになってしまうおそれがあるのである。また、思春期の男女や自立的に生きるのが好きな人からは煙たがられたり、あからさまに嫌がられたりする。子育てアドバイザーも含めて、人をケアする人は親切であると同時に、相手がどう思っているかを敏感に察知するセンサーを働かせていることが重要である。
 人を援助するときには、自分の満足感を満たすためであってはならない。あくまでも、相談者が自らの問題を解決するのを援助するためのアドバイザーであることを肝に銘じてほしい。
(3)理性的で冷静な人心
 物事を合理的に、しかも事実に沿って判断するので、一見冷たく感じることがある。反面、純朴でお人好しの面もある。感情的にならずに物事を判断するため、実験をしたり研究をしたりするのに適している。あまり感情を表に出さないため、多くの人と付き合うよりは、少ない友人と息の長いつき合いをする。ある程度多くの人とうまく付き合うには、自分の性格を知って溶け込む努力が必要となる。
(4)天心らんまんで好奇心が強い心
 人なつこく、誰とでも友達になれる。直感が鋭い反面、言いたいことを相手のことを考えず言ってしまう。このタイプは度が過ぎると浮いた感じになり、信用されない。
(5)従順で協調性に富む心
 慎重で協調性があり、相手の立場になって考えるタイプ。相手に合わせすぎて自分が大変になり愚痴っぽくなる。マイナス面では依存心が強く恨みがましい。
 
 これらの5つの性格そのままの人はいない。5つの要素が強かったり弱かったりして紐み合わされている。なるべく良い面に焦点を合わせて自分をつくるようにすると良い。高齢になっても自分が変わろうと決意すると性格は変わり得るからである。
 しかし性格を変えるのに抵抗を感じる場合には、人と付き合う際に困る部分の性格には目を向けないで、自分の良い面に焦点を合わせて、そちらを伸ばしていくようにする。そうすることによって良い面が多くなっていき、都合の悪い性格が目立たなくなって、人とスムースに付き合えるようになる。
 また、一見悪いように見える性格も、ときと場合では役に立つことも多い。そのため、すべての要素を否定的に見るよりは、適材適所に必要な性格を取り出せるようにすると、人としての幅が広がり生活が楽しくなる。そしてアドバイザーとしての援助にも幅ができる。
 
3 自分育て
 自分育てをする方法は、成長の過程にある子どもと大人では異なる。成長の過程では親、兄弟、友達、先生など、周りの人たちによって育てられる部分が大きい。つまり、周囲がどうかかわるかに影響されるのである。
 多くの人のかかわりの中で育てられて大人になると、心育てを自分自身でする部分が広がり、性格(心)を変えることもできる。それには、まず自分の心に気づくことから始める。自分の心に気づくには自分自身が最適であると思うが、稀に自分を良く知る人の一言のほうが的確なこともある。また自分の行為に対する相手からの働きかけによって自分に気づくこともある。あなたの心をきちんと受け止め、反応してくれる人がいるからこそ、あなたの行動の行き過ぎや言葉の過不足に「気づく」ことにもなるのである。
 つまり、今までのあなたの心が周りの人たちによって育てられてきたように、「心育て」は周りの人たちとのキャッチボールの中で、進めていくものである。
 
 
4 生育歴が自分を作った
 まずは自分の心がどんなふうに育ってきたのかを振り返ってみる。
 親にどんな風に育てられてきたのであろうか? あなたが親に育てられてきた履歴を「生育歴」と言う。常に「あれをやりなさい」「これを食べなさい」「早くやりなさい」などと威圧的な態度をとる親に育てられると、自分で自分の行動が決められない子どもに育つ可能性が高い。また、いつも子どもの言いたいことを先回りして言ってしまうような過保護な親に育てられると、言葉数の少ない自己主張の乏しい子どもに育ちがちである。このように、幼児期から今まで親にどんな風に育てられてきたかによって、心の形成は随分違ってくる。
 また、親の愛をたくさん受けて育ったかどうか愛され方はどうであったかなど、心は親や育ててくれる人の愛の量、あるいは愛し方によって、まっすぐにも歪んだ形にも育つものである。愛されているという安心感が、心を安定させ、他人を思いやり愛する心を育てる。
 自分がどんな生育歴を経てきたか、考えてみよう。心が育つ過程で、あなたの親は過保護であったか? それとも放任主義であったか? あなたを取り巻く人たちがどんな人であったかなどを振り返ってみよう。それも自分を成長させるための「気づき」の1つである。決して親を非難する材料を探してしているわけではない。わかっていると思うが、親も迷ったり壁にぶつかったりしながら、一生懸命あなたを育ててきたのである。
 
5 気づきの大切さ
 人は常に、自分の思い通りに言葉を発しているとは限らない。言葉が足りなかったり、言いすぎてしまったり、思ってもいないことを言ってしまったり・・・。思い通りにならないのは行動や感情も同じである。しかし、自分の心に気がつけば、言いすぎてしまったことを謝ることも、足りなかった言葉を伝えることもできるのである。
 
6 自分を客観視すること
 あなたの言葉や感情、行動を振り返ってみる。日々の生活の中でも「どうしてあんなことを言ってしまったのか?」などと、あなたが自分について考えてみることは大切である。そうしているうちに、自分を客観視できるようになっていくのである。
 
7 きちんと発散すること
 自分を育てるためには、自分を受け入れてくれる人に向けて「発散」することが大切である。この「発散」とは、自分の心を言葉や感情、行動で表に出すことを指す。
 発散するのに一番良いと思われる方法は話をすることである。自分の感じたこと、思ったことを話し、同様に相手が話したことを聴くことによって相手の考えがわかり、あなたの心も伝えられるので関係も深まっていく。だからこそ、向き合える友だちを多く持って、たくさん話をしたほうがいいのである。
 では、心を発散できなかった場合、発散できなかった言葉や感情はどうなるのだろうか? 感情をそのままにしておくと、それは澱(おり)のようにたまっていくのである。発散できなかった言葉や感情がたまりにたまると、些細なことで火がついて爆発するか、ますます発散できなくなり何も感じなくなっていく。
 心が爆発すると、相手のことを思いやる余裕がなくなり、勢いで相手を傷つけるようなことを言ってしまったり、つい手を上げてしまったりするようになり、とても危険である。
 そうならないためには、あなた自身が社会や他人と向き合うように心がける必要がある。心を発散することは、あなたの心の健康を保ち、相手との関係をも正常に保つことにつながるのである。
 
8 感情のコントロール
 すぐにカッとなったり、場所をわきまえず泣いてしまったり、怒っているのにヒステリックに笑ってしまったり・・・爆発までいかなくても、自分の意思に反して感情が噴出してしまうことがある。しかし、絶えず自分の思いのままに発散するのでは赤ちゃんと同じである。あなたが赤ちゃんでない以上、発散していい相手かどうかを見極めTPOも考えないといけない。
 日常生活の場で、自分だけが良ければいいと思って感情をぶつけると失礼になる。相手を思いやって心を表すことは人と付き合っていく上での礼儀である。
 
9 技術で感情を変えてみる
 感情をコントロールするのは難しい。そこで、感情が伴わないで行動してみて、その行動に感情を合わせていくという「技術」を学んでみよう。
 謝ることが苦手な人が謝らなければならないときは、とにかく「ごめんなさい」と言ってみる。「ありがとう」が足りない人は、ことあるごとに「ありがとう」を言ってみる。最初は感情が伴わなくても、言っているうちにだんだん「悪かったな」という感情や、感謝の気持ちが湧いてくるものである。そうしているうちに、気がついたらちゃんと「ごめんなさい」や「ありがとう」と言えるようになっていく。これが習慣化して、さらにいたわりの感情を込めて言えるようになれば、人間関係も変っていく。
 このように、言葉や行動を技術で変えて感情をコントロールすると良好な人間関係を築くことにつながる。
 
10 言葉の使い方
 言葉は使い方を間違えると、お互いに不愉快な思いをすることがある。思い返すと、言葉の使い方は学校でも家庭でも教えてもらえなかった。相手の言葉を聴き出すことや、自分の気持ちをきちんと相手に伝えることをこの講座は学ぶ場である。







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