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6 問題解決に有用な質問法
(1)問題が生じた前後で家族にどんなことが起こったかを両親に聞く
 実際の面談に際しては様々な方法がある。
 たとえば、相談者に色々なことをやってもらうような方法は、相手が心理的に健康な場合は効果が高い。逆に、心理的な病気が重い場合には、ソフトに面談しないと危険である。つまり、ゆっくりと話を聴き、ほんの少し方向性を変えるくらいにとどめたほうが良いということである。ただ、相手がどれくらい重い病気なのかがわからないことも多いため、そういう場合はスーパーバイザーに相談しながら面談するのがよい。
 たとえば、家族の1人が登校拒否を起こしたことによって、家族にどんな変化が起きたかを両親に尋ねるとする。すると父親は、「学校へ行こうとしないで朝は遅くまで寝ているし、ろくなことはない。こんなことをしていたら良い高校へも良い大学へも行けなくなってしまう。決して良いことはない」と嘆いたりする。
 そのときこそアドバイザーの出番である。「お父さんがお子さんの将来を心配なさるお気持ちはよくわかります。でも、今は学校へ行くことができていないのですから、登校できるようになるまでの間は、家庭学習としてお手伝いをしてもらうのはどうですか?」という提案をしたり、「登校したくなると、自分から勉強を始めたり、学校の時間表を眺めたりという行動を取るものです。でも今は“学校”という言葉でも嫌な顔をしているようですから、今は登校刺激をしないほうが、結果的には早く自分の生きる道を見つけ出せるようになりますよ」と、心理教育的にかかわったりするのである。
 そして登校可能となった時期(面談を必要としなくなる頃)に「お子さんが不登校になったことで良かったのはどんなことですか?」と聞いてみると、「父親が早く帰ってきて子どもと話す時間が増えた」とか、「子どもの不登校について両親が話し合うようになり、今までより相手の考えがわかるようになった」などという返事が返ってきたりする。つまり、不登校という一見困ったように見える事柄も、見方を変えると良い面がたくさんあるということである。場合によっては、不登校をしてくれたからこそ、家族の崩壊が避けられたと思えることもある。要するにアドバイザーは、困った問題を解決する経過中に家族機能が良くなるように援助することが重要なのである。
 
(2)問題行動が起きたときに、誰がどうかかわるのかを尋ねる
 娘さんの不登校のことで相談にみえた場合に、最初母親がかかわるのか父親がかかわるのかを尋ね、もし母親が先にかかわったとしたら、そのとき父親はどうするのかを尋ねる。さらに、それによって母親はどう反応するのかと、円環的に聴いていく。
アドバイザー(以下、ア):娘さんが起きないとあなたはどうしますか?
母親(以下、母):起こします。
:そうすると娘さんはどうしますか?
:寝たふりをして起きないのです。ですから布団をはがします。
:そのときお父さんはどうしていますか?
:何とか言ってほしいんですけど、何も言わずに会社へ行ってしまうんです。
今度は父親に質問をする。
:お子さんが起きないときどうしますか?
父親:家内は私が何も言わないって言いますが、あの子は少し黙って見ていてやれば自分でできる子なんです。放っておいて見守ってやればいいんですけど、そんなことを家内に言ったらもう大変ですからね。私は何も言いません。
 このように、両親の関係が見えるようになるのである。そして、これらのズレを解決していく過程において、家族みんなが困っている問題解決の糸口が見つかるわけである。
 
(3)順位づけをする
 「患者さんの病気を一番心配しているのは誰ですか?二番目は誰?」と、これも両親に順次、聞いていく。
 この質問における家族全員の順位が一致していれば、「考え方が一致していて、とても気持ちが通じ合っているご両親」と、肯定的なメッセージを与えることも可能である。一方、両親で順位が異なっている場合には「ご両親で順番が違うことに何か理由がありますか?」と尋ねることによって、家族間の関係がわかり、問題解決の助けになることが多い。
 
(4)兄弟関係を両親に聞くなど、二者間の関係を他の人に聞く
 これは、家族メンバー間の心理的距離を知るのに大変役に立つ。ただし、聞く順序を間違えると両親を緊張させてしまうため、順番を間違えないようにする。
 一般的には兄弟仲を両親に聞くことから始めて、一方の親と子どもの関係を聞き、夫婦関係について聞くのは最後にすると抵抗が少ない。
 兄弟仲が悪い場合には、それぞれが父親と母親の肩を持ってケンカしている(代理戦争)ことがあり、夫婦仲の悪さを推測できることがある。ただし、それを知ったからといって、そのことをすぐ口にするのではなく、子どもが代理戦争をしなくてもよい状態に持って行くような課題を出したり、方法を考えたりすることが大事である。
 
(5)仮定のことについて聞く
 「このお子さんが10年後というと25歳くらいになると思うのですが、そのときはどんな生活をしているでしょうか?」などと、将来のことを両親に尋ねることも重要である。
 そして答えが返ってこないときには、「就職して結婚しているでしょうか?」などと具体的に聞いてみると、「結婚はしているかどうかわからないが、どこかへ就職はしていると思いますよ。案外しっかりしているところもあるから」などと返事がかえってきたり、「10年たっても同じ状態かもしれない」と悲観的な答えがかえってきたりする。しかし、「10年たっても同じ状態かもしれない」と答える間に、自分が焦っても仕方がないということがわかり、「今まで焦りすぎていました。これからは、ゆっくり息子を支えていきます」という気づきにつながることもある。
 もし、両親がその気づきに達しなければ、アドバイザーが「10年たっても変わらないと思われるのでしたら、焦らずゆっくりするほうが良い結果になるかもしれませんねえ」と、焦らず支えることの大切さを教えることも可能となる。「焦らないでゆっくりしましょう」という解決策を出したときは、面談間隔も開けたほうがよい。言うこととやることを一致させることも重要なのである。
 また、将来の方針が決まらないときに、「もし、亡くなったあなたのお母さん(子どもにとっては祖母)がこの場にいたとしたら、お孫さんが将来どうなることを望んでいたでしょう?」などと聞くのもよい。すると、「意外と教育お婆ちゃんだったんですよ。私が私立大学だったので、『孫は東大、東大』って死ぬまで言ってましたねえ。そういえば、私も東大とは言いませんが、国立大学へは行ってほしいと思っていました。お袋の呪文がオレにもかかっていたのかなあ。今までは夫婦で子どもの将来を決めているとばかり思っていましたけどね、実際にはお袋の思いに影響されていたのかもしれません。息子本人のことをもっと考えないといけなかったですね。息子は料理が好きで『調理師になりたい』と言っていたんですよ。別に妻は大学に行くことにはこだっていなかったみたいだったから・・・結局、お袋の呪文に束縛された私がこだわっていただけなんですね」と気づいたりする。
 この場合、アドバイザーは両親に気づかせるところで質問をやめるようにする。祖母の意志を尊重するのか、両親の考えを優先させるのか、それとも子どもの意志に任せるのかの決定は、相談に来ている両親に任せるのである。
 「仮定のことについて聞く」という中には、面談に来ていない人になって答えてもらうというやり方もある。「今日お子さんは来ていませんが、もしこの面談に参加していたら、お父さんにはどうして欲しいと言うでしょうか? お子さんの気持ちになって、お父さんが答えてみてください」などと、まずは父親に質問するのである。すると、
父親:「学校、学校とあまりうるさく言わないで欲しい」って言うと思いますよ。
アドバイザー:ああ、そうですか? ではお母さん、今度はあなたがお子さんになって、お子さんがお父さんに言いたいことを言ってみてください。
母親:僕は調理師になりたいんだよ。でもお父さんは国立、国立って言っているから切り出しにくいんだ。それに、もう少しゆっくり考えたいからグチャグチャ言ってほしくないよ。少し静かにしてくれないかなあ。
 親というものは、たとえ子どもの考えていることを知っていても、親の欲にとらわれてしまって現実が見えなくなっていることが多い。しかし、仮定の質問によって親が子どもの立場になってみると、子どもが本当に望んでいることに気づいたりするのである。
 ところで、上に示した事例では、父親へのやり方と母親へのやり方は微妙に異なっている。父親に対しては、「もしこの面談に参加していたら、お子さんはお父さんにどうして欲しいと言うでしょうか? お子さんの気持ちになってお父さん答えてみてください」と促している。一方、お母さんに対しては、子ども自身になってもらって、子どもになった母親が父親に自分の意志を伝えるという形をとっている。つまり、父親には知的なレベルで答えられるような質問の仕方をし、母親に対しては頭ではなく心に訴える質問の仕方をしているのである。どちらの方法を使うかは、面談に来る両親のタイプによる。知的に考えるタイプの人ならば、父親にしたような質問のほうが答えやすい。また、感情豊かなタイプなら、母親にしたような質問のほうが答えやすい場合が多い。
 
(6)両親がアドバイザーが望むように答えてくれないとき
 両親がこちらの望むように答えてくれないときは、アドバイザーが全責任を負う。アドバイザーの質問の仕方がまずかったと考え、両親が答えやすいように質問の仕方を変える。それでも答えたがらない場合は無理をせず、「答えたくないときは答えなくてもよいのですよ」と言う。つまり、両親を責めるようなことをしてはいけないのである。
 しかし、アドバイザーも人間であり、ときに両親を責めてしまうこともあるだろう。そうなってしまった場合は、ワンダウン・ポジションをとる必要がある。
 これは、「嫌な思いをさせて申し訳ありませんでした」とか「○○と言ったことに対して謝ります」というように、自分が1歩も2歩も下がる方法である。
 これはアドバイザーが人間的によほどできていないとできない技法である。“謝る”ということは、自分が全面的にダメということではなく、たまたま、その部分だけが欠けていたにすぎないという自信(自己信頼)がないとなかなか難しい行為だからである。「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」という俳句がある。人間として実った人は頭を下げることができるが、人間として成長していない人ほど、そっくり返って威厳を示そうとするものである。
 ただ、1点注意しておかねばならないことがある。それは、「事故にかかわりそうな場合には、謝る範囲を決めておく」ということである。すべてについて謝ってしまうと、全責任をとらざるを得ない場合があるからである。
 
(7)座る位置を変える
 いつもアドバイザーと相談者の座る位置が決まっている場合には、座る場所を変えるという方法も効果的である。相談者にアドバイザーになってもらって、問題の解決方法を聞くのである。このやり方は、意外に良い結果が出たりする。
 たとえば、喘息発作で入院している子どもがいるが、その子の両親は離婚しているため、入院に必要な身の回りの物を持ってくる人がいなかったり、入院費がとどこおったりしたことがあった。そこで、父母にアドバイザーの席に座ってもらい、アドバイザー(入院担当医)は父母の席に座って、「こういうときはどうしたらよいでしょうか?」と質問した。すると、身の回りの物は母親が用意して持ってくることに、そして父親は入院費を払うということが何のトラブルもなく決まったのである。
 このケースでは父母が、アドバイザー(入院担当医)が常に座っている席に座り、アドバイザーが父母の席に座ったことにより、父母に責任感が芽生えたのではないかと考える。これは、一般社会で成人した子どもが世帯主になったことによって責任感が生じ、なんとなく威厳が出てくるのに似ているかもしれない。
 
(8)肯定的にとらえる
 たとえ両親面談であっても、アドバイザーは家族メンバー1人ひとりの行動を肯定的にとらえた上で、家族全体の行動も肯定的に意味づけることが重要である。そのためには、アドバイザーが常日頃から物事を肯定的にとらえる練習をしておくことが大切である。
 
 
 たとえば、「口うるさく子どもを叱っているお母さん」は「子どもを心から愛しており、どうにかしてよい子にしようと一生懸命なお母さん」ととらえる。行動を見ただけで評価してしまわずに、行動を起こさせている動機に焦点を当てると肯定的に見えてくるものである。
 登校拒否の例で見ると、現代の日本によくある登校拒否のパターンとしては「仕事人間の父親と、家事教育係の母親」という組み合せである。子どもが登校拒否になると、母親は「父親が家を顧みない」と不満を言い、父親は「子どものことは妻に一切任せている」と言う。そこでアドバイザーが「じゃあ、お父さんはお母さんを信頼して任せていらっしゃって・・・、それだけ信頼できるお母さんでよかったですねえ」などと言うと、父親は「妻はちょっと口うるさいと思うんですが・・・」と本音を言う。
 一方、母親は「子どものことはお前に任せていると言っておきながら、『登校拒否になったのはお前が甘いからじゃないか?』と責められている」と言う。そして、母親は父親の帰りが遅いため、自分の姉(独身)に相談しているが、父親は妻が姉のところに相談に行くのを内心、快く思っていない――このような場合、アドバイザーは次のように肯定的な意味づけを両親に伝えるとよい。
 まず父親に対しては、「お父さんは家族のために一生懸命働いていらっしゃるため、お子さんのことについてはお母さんに一任している。ところが、お子さんが学校へ行っていないので、お父さんはとても忙しいのにかかわらず『面談に参加してほしい』というお母さん頼みを聞いてくださるし、お母さんとお子さんの関係についても『妻が少し甘いのではないか』など、ご自分の意見をきちんとお母さんに伝えていらっしゃる。とても責任感のある良いお父さんですね」と言う。
 母親に対しては、「お母さんもお父さんの信頼に応えて、よくこれまでがんばっていらっしゃいました。でも、お子さんのことで自分の手に負えないと思ったときには専門家に相談したり、自分のお姉さんにも相談していらっしゃる。お子さん思いのすばらしいお母さんですね」と言う。
 このように、アドバイザーは父親にも母親にも肯定的なメッセージを伝えた上で、「お父さんの帰りが遅いということは、見方を変えると、お子さんのことを相談するという形で、お母さんが独身のお姉さんに会う機会を多くしているようにも思えます」と、家族のシステムに肯定的な意味づけする。次に、「でも、お母さんが本当に相談したいのはお父さんなのだと私たちは思います。なので、お忙しいでしょうが、できるだけ早くお帰りください」と、家族にやってもらいたいことを宿題として出す。
 このように、アドバイザーは常に家族全体(たとえ面談に参加していない人をも含めて)を肯定的にとらえようとする姿勢が必要不可欠なのである
 
(9)非言語的なメッセージに注意を向ける
 面談中に「話している人の顔つきが話の内容と一致しているかどうか」を見ることは重要である。もし一致していなければ、本当は何を伝えたいのか、または「顔で笑って心で泣いて」という日本独特の対処を必要とする状況にあることをアドバイザーにわかってもらいたいのか、といったことなどを瞬時に判断して対応する必要がある。
 また、前にも述べたが、話し手以外の人の仕草にも注意を払わねばならない。話し手が話をしているときに他のメンバーが口をモゴモゴさせたら多分、何か言いたいのであろうし、顔をしかめれば話し手の意見に反対の意志表示であることが多いからである。
 
(10)自己開示について
 個人療法では、自己開示はアドバイザー個人の体験であり、普遍性がないため意味がないとされてきた。しかし、両親面談においてはアドバイザーが自分の体験を語ることによって両親が親しみを感じたり、「どんなことを話してもよい場」なのだと感じて話しやすくなったりする効果があるため、むしろ推奨されている。
 また、そこで語られたアドバイザー像が、両親にとって良いモデルになったりすることもある。
 ただ、自己開示ばかりしていると反感を買うこともあるため、ほどほどにすることが大切である。







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