第4章
両親面談
両親(父母)面談は子どもに関係する相談をきっかけに始まる。初めから父母同席の場合もあるが、最初に母親と面談し、父親が後から参加する場合が多い。
I 目的
父母同席の面談が必要な理由は、母親1人からの情報では客観性に欠ける場合があり、両親から話を聴くことで客観性が高まるからである。両親が疎遠の間柄である場合には母親から父親へ情報が伝わりにくいため、面接の場での母親の話によって初めて家庭内の状況を知る父親もいる。また、父親が子どもとの接し方を子育てアドバイザーから聴くことによって、父親だけでなく、2人のやりとりを聴いていた母親も子どもや父親との接し方を知ることができ、父親に協力しながら子どもと接することが可能となる。
つまり両親面談は、両親間のコミュニケーションがスムーズな場合には、どう協力して問題解決にあたるかを話し合い、両親間の関係があまりよくなく、そのことが問題解決を阻害している場合には、両親が協力して問題にあたれるようにするのである。稀に、問題が明らかになった段階で離婚に至る場合もある。その場合でもアドバイザーは、父母両者が納得するとともに子どもとの関係も壊れないような形での離婚にもっていくよう努力する。
II 注意事項
両親面談をする際に注意することを、中立性の保持、時間配分、面談中口論になったときの対応、アドバイザーが気をつけることの4項目に分けて述べる。
1 中立性の保持
数名を同室で面談する合同面談の場合には、一般的にアドバイザーは誰の味方もしないということが重要である。両親面談のときは特に中立性を保つことが重要となる。ただ、表情もなく冷たく接するのが中立ではない。表情は優しく、2人の気持ちを同じように理解しようと努力するのである。「どちらに対しても同じように味方する」と言ったほうがわかりやすいかもしれない。
2 時間配分
父親と母親が話す時間の配分もなるべく均等にする。ただし、母親としばしば面談しており、時間がとれたときのみ父親が参加しての両親面談ができるということもある。このような場合は、母親にあらかじめ「今回はお父さんがお見えになったので、お父さんからご覧になった家族の様子を主にお聴きしたいと思います」と断っておいて、父親の話を充分聴くこともある。
逆に、母親が父親に対して恨み辛みがあり、父親が来てくれたのをチャンスとばかりに、思っていることを洗いざらい話すというケースもある。
たとえば、娘の摂食障害についての両親面談時に、子どもが幼かった頃、父親が仕事も家族も放り出して遊び歩いていたことを3回にわたって訴えた母親がいた。父親から、「どうして僕はこんなことを言われるためにこの場にいなければならないのか?」と尋ねられたアドバイザーは、「自分のことを悪く言われるのを聴いているのは嫌だと思いますが、娘さんの摂食障害を改善するためのワンステップと思ってください」と言って、そのまま聴いてもらったという。
3回目の面談の後で、母親は「今まで父親に言いたかったことをすべて言うことができました。お父さんも辛かったと思うけれど、聴いてくれてありがとう。これで私はさっぱりしました。もうお父さんのことで愚痴は言いません。父親と娘と3人で、娘にとりついた病気と戦っていきたいと思います」と言った。それにより病気への協力体制ができ、病状が改善したことがあった。つまり、原則は原則として心にとどめておき、その場の状況に応じて適切な手段をとること(臨機応変さ)も必要なのである。
ところで、この母親は娘にとりついた摂食障害を、「病気」という形で娘とは別のものとして分けて考えている。摂食障害にかかった患者さんは、困ったことを色々とする。たとえばいつまでも手を洗い続けたり1日中歩き回るといった強迫行動をしたり、ささいなことで暴れたりする。しかし、それらの困った行動は摂食障害という病気が患者さんにやらせているのである。つまり、「悪者は病気であり、患者さんは病気に占領されたかわいそうな人である」と考えて対応する必要があるため、家族が患者さん(娘さん)の味方になって病気を追い出し、本来の娘さんに戻すようにみんなでがんばりましょうという方法である。これは、病気を患者さんの外に出すという発想であり、「外在化」という。
この外在化は、おねしょなどの際にも使うことができる。ただ、スリなどが警察に捕まった際に、「私は悪くないこの手が悪い」などと言って外在化を悪用することがある。そのため、日頃から人のせいや何かのもののせいにする人、アルコールや薬物依存症の人、犯罪者などに対しては使えない方法である。
3 面談中口論になったときの対応
面談中に父母が口論を始めてもあわててはならない。第三者がいるからこそ、父母は安心して口論できるのである。実際に、口論になってしまった面談後に感想を聞くと、「アドバイザーがいてくれたから、ケンカをしても事態を収拾してもらえると思った。2人だけでは決して話題にできないようなことも、安心して充分話すことができた。口論にはなったが、解決の糸口になって感謝している」などと思いがけない言葉が返ってくることがある。つまり、その場に第三者がいて、その人が問題解決を手伝ってくれると信じているからこそ、争いごとの本質について心を開いて話し合うことができ、結果としてケンカになってしまう場合が多いのである。
目の前で争いとなったときは、その争いに巻き込まれず、結果的に良い方向性を目指して収束できるような援助をすることが重要である。そのためには、アドバイザーは面談中の自分の感情に常に気を配りつつ、その感情をコントロールできるよう、客観的に自分自身を見つめる必要がある。つまり、「面談している自分の気持ちや行動、自分の働きかけが相手にどのように作用したかをもう1人の自分が見ている」という状況を作り出すのである。これを「セカンド・オーダー・サイバネティクス」という。
セカンドがあるのだから、当然ファーストもある。では、「ファースト・オーダー・サイバネティクス」について補足しておこう。
母親は、子どもが万引きをしたと聞いてかんかんになって叱り飛ばすようなときは、自分を客観的に見られない状況になっている。この状況を「ファースト・オーダー・サイバネティクスにある」と言う。この混乱した母親を見て、「もう2度と万引きはしない」と子どもが思って実行できる場合と、母親の混乱に辟易し、家出をして悪の道に踏み込んでしまうような場合とがある。前者においては、母親がファースト・オーダー・サイバネティクスになったことは子どもに良い効果をもたらし、後者では悪影響を与えたことになる。
つまり、ファースト・オーダー・サイバネティクスもセカンド・オーダー・サイバネティクスも、それだけではどちらが良いとか悪いとかという判断材料にはならないのである。ただ、両親面談中にはセカンド・オーダー・サイバネティクスがいるほうが対処しやすいと言うだけのことである。
4 アドバイザーが気をつけること
面談中のアドバイザーは見る、聴く、感じる、雰囲気を察するなど、五感を鋭く働かせることが重要である。面談のために相手の自宅に出かけて行く場合は、家のたたずまいから周囲の状況や、その家の住人の生活状況の一端を知ることができるのである。
たとえば親子3人の核家族。母親は大らかな人柄で細かいことにこだわらないタイプであり、靴も脱ぎっぱなしにしておきたいと内心では思っている。父親は几帳面で、履き物だけでなく部屋の整理整頓まで口うるさい。母親は父親の几帳面さには辟易しているが、がまんして父親に従っている。表面上トラブルはないが、2人の間は冷戦状態にある。両親がこのような関係にあり、子どもが気を遣うタイプであると、学校でのいじめなど困ったことを親に相談できないといった状態に陥りやすい。そして誰にも相談できず、いじめから身を守るために不登校になってしまうこともある。
玄関の履き物がそろっているという状態を見ただけで、様々な推測が可能となる。たとえば、「几帳面な人がいる」のではないかとか、「来客があるときは玄関を片づけておくという配慮のある人がいる」のではないかなど、色々なことを考える。このように色々と思い浮かぶことをシステム論では「仮説」という。
システム論での仮説は思い浮かぶものをすべて仮説という形で頭の中に蓄えておき、面談の中で確かめていく。違ったら仮説を取り下げればよいだけである。(それに反して、科学実験の場合に立てる仮説は、そうなるであろうと予測したものを仮説と名付ける。そしてそれに近づけるように実験していくのである)。システム論での仮説は色々な可能性を引き出すもので、面談の中で事実と合わなければドンドン捨てていけばよいのである。仮説を立てて面談することのメリットは、問題解決への時間が短縮できることである。
アドバイザーは、相手の話す内容以外にも様々なところから情報を得られるように自分をトレーニングしておくことが大切である。その際に注意することは、ある事柄を知ったからといって、すぐには言葉に出さないことである。色々な可能性を考えながら、相談者から相談される話の中でどう活用すれば良い援助となるのかを考えなら面談するのがよい。
また、両親の顔つきや手の動きなどを全体的に見るように心がけることも大切である。この際、両親双方の顔つきを同時に見ることと、話をしていない人の顔つきや手の動き、体の反応などを見ることがとても重要である。たとえば、話している人(相手)の意見に反対の場合には口をモゴモゴと動かして何か言いたそうにしたり、言って欲しくないことを言われた場合は嫌そうな顔をしたり、うつむいてしまったりする。中にはそっぽを向いてしまったり、あくびをしたりする人もいる。このような態度で自分の気持ちを表すことを「非言語的交流(ノンバーバルコミュニケーション)」という。アドバイザーは、非言語的交流にも気を配ることが重要である。
III 面談
1 初めのやりとりを大切に
初めにアドバイザーがあいさつをして自己紹介をする。話し方としては、相手が聞き取りやすいようにゆっくりとしたテンポでハッキリと。声は少し低めのほうが無難である。相談者の話し方がわかれば、相手の速度や調子に合わせるように心がける。ただ、その場合でも、ハッキリと発音して相手にわかるように話すことを忘れてはならない。
ごく稀に、相談者があまりに早口で理解できないときがあるが、そういうときにはアドバイザーがそれにペースを合わせるのもよい。相談者と同じ速さ、つまり相手が理解できない速度で話してみて、相談者に「早口で話すと話がわかりにくい」という体験をしてもらうのである。ただし、これは数回面談して気心が知れてから使う方法である。まだ信頼関係ができる前にこれをやってしまうと、単なる嫌味ととられる危険があるため、避けたほうが安全である。
次に、相手を確認する。こちらが自己紹介すると、普通は相手も自己紹介するものである。しかし、常に相手がそうするとは限らない。相手の自己紹介がないときは、こちらから「お父様ですか?」「お母様ですか?」などと確認する。
このような最初の数分間のやりとりは、その後の面談がスムーズに進むかどうかに大きく影響する。
2 面談目的(問題)の明確化
面談目的の明確化は毎回必要だが、初回では特に重要である。
互いに紹介が終わったら、「今日はどのようなご相談でしょうか?」などと面談の主題に入っていくが、その際には父親→母親の順で聞いていく(母親からうながされて出席している場合が多いため、父親をたてるほうが話がスムーズに展開しやすい。特に女性のアドバイザーの場合は、父親をたてるほうが心を開いてもらえる可能性が高い。男性アドバイザーの場合は「あうんの呼吸」で面談できるため、女性アドバイザーより気を遣わなくて済む)。
実際には、こちらの「今日はどのようなご相談でしょうか?」などの問いにすぐ答える父親は少なく、母親が脇から話し始めることが多い。その際に、「子どものおねしょについて相談したいのですが」などと、ハッキリと相談内容を言ってくれる場合はわかりやすいが、「中学2年の男の子なんですけど、友達もそう少ない方ではなくて、クラスでも人気もまあまああるんですが・・・」と状況的な話が長々と続いて話が切れず、隣にいる父親はあくびをかみ殺しているような場合もある。そのようなときには「今日のご相談は、その中学2年生のお子さんのことでしょうか?」などと、問題をハッキリさせるような質問をする。すると、「こっちの子はどうにかやっていけるので心配ないのですが、実は妹のほうが登校したがらなくて・・・」などと本題に入っていける場合がある。
3 時間の使い方
ゆっくり相手の話を聴くことも必要であるが、問題を明らかにして本論について話す時間を確保するのもアドバイザーの能力の1つである。
また、母親に相談内容を質問したら、父親にも同じ質問をすることが重要である。すると、「妻は登校しないのを心配してますけどね。そんなに休んでるわけじゃあないし・・・むしろ僕はまじめな兄のほうが心配なくらいですよ」と、2人の意見が異なることがある。そのようなとき、アドバイザーは自分の意見を言わないように心がけることも大切である。子どもたちの家や学校での状況などをゆっくりと聴いていくうちに、母親の思い過ごしなのか、父親がのんき過ぎるのか、それとも父親の言うように兄のほうが心配な子どもなのか・・・といったこともわかってくる。
時間を有効に使って効率よく解決への方向へ面談を導くことは大切であるが、同時に、結論を急がないことも重要である。可能ならば、父母自らが解決への道を見つけ出せるような質問(「それはいつのことでしたか?」「そのとき誰がどうしましたか?」など)をアドバイザーがすることが大切である。
さらに、不登校のように問題が大きい場合には、もっと小さな問題に砕くことも重要である。たとえば、「お子さんが不登校をしていることで、家の中で困っていることは何ですか?」など、日常生活のレベルの行動の中で困っていることを父親→母親の順で尋ねるとよい。その上で、困っていることに焦点を当てて面談していくと、話が具体性を帯びるため解決しやすくなる。
4 2回目以後の面談
面談に入る前に、「今日は暑いですね」など、ちょっとした世間話をすることもあるが、通常は短時間で話を聴かなくてはならないという時間の節約から、単刀直入に「今日はどのような御相談でしょうか?」などと面談の主題に入っていくことが多い。慣れてくると、こちらから問いかけなくとも待ちかまえていたように相談し始めるようになることもある。一度にいくつかの相談を持ちかけられた場合は、それらを紙に書くなどして整理し、簡単なことや緊急性が高いことから始める。あまりに問題が多い場合には、1回の面談ですべてを解決することはできないため、「面談を続けながら解決する」という約束をするのがよい。
5 ペース合わせ
面談の際に一番大切なことは、相手にペースを合わせることである。たとえば父母2人を前にした場合は、気を遣う必要のある人にペースを合わせると良い。たとえば、元気な人と沈んだ人との組み合わせであれば、沈んだ人の話す速度や声の低さにペースを合わせるわけである。
ペースの合わせ方には言葉のトーンや速度、姿勢、身振りなどあるが、あまり多くの面でペースを合わせようとすると、相手は真似をされているように感じるので、逆効果である。ペース合わせはあくまでも快適に面談するためのものであり、ペース合わせそのものが面談の邪魔になってはならないのである。
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