III 面談
まずは、どのような状況での面談なのかを把握する。
1 相談者の状況
父親1人と面談するときには、相談者がどのような状況で面談に来たのかを把握する必要がある。面談に来る父親の理由は以下のように様々である。
(1)母親から促されて面談に来た
(2)病気などの理由で母親が参加できないため父親のみの面談になった
(3)家族の責任者として問題解決のために積極的に面談を望んだ
(4)父子家庭で子どもとどのように接してよいかがわからないため、など
父子家庭の場合なら、母親とは死別なのか、それとも生別なのかによって対応が異なる。
いずれにしても、母親と父親の関係は良かったのか、それとも悪かったのか、また母親と子どもとの関係はどうであったのか・・・といった多くの側面が父子関係に影響する。生別の場合なら、子どものことで協力できる関係なのか、それとも無理な状況なのか、などを考えながら面談する。
父親がこれらの疑問に対して自分からアドバイザーに話すような場合はよいが、話題に出ない場合は話の流れの中で聞き出すよう心がける。そうするには質問事項として頭の中で常に考えておき、きっかけを逃さずに質問するのがよい。ただし、立て続けに質問して尋問するようになってしまっては心を開いてはもらえないため、注意が必要である。
さらに、このような状況にある父親には、さりげなく「大変ですね」「ご苦労なさいましたね」などの相づちを打つと話しやすくなる場合がある。
2 父親のタイプ
あらかじめ父親のタイプを知っていると、面談するときに戸惑いが少ない。
(1)過干渉の父親
何事にも積極的にかかわるという次元を越えて、うるさく手出し口出しするタイプである。そして自分の思うようにならない場合は子どもや母親を叱るため、家族を良くしたいという暖かい気持ちが伝わらず、叱られたことばかりが家族員に残って毛嫌いされる。父親自身は自分の思いどおりにならないためストレスになる。なお、一見同じようなタイプでも、現状をしっかり見ているタイプと、現状を見ないでただ自分の意見を押しつけるタイプとがある。
(2)放任の父親
もともと面倒なことが嫌いで家族にかかわらないタイプと、一生懸命かかわろうとしても家族が乗ってくれないため二次的にかかわらなくなってしまったタイプとがある。さらに最近の傾向としては、後者の亜系ともいうようなタイプも出てきた。バブル期には会社が忙しくて家族をかまえなかったが、バブルがはじけてやっと家庭に目を向けられるようになったところ、母親と子どもがしっかりスクラムを組んで生活しており、その中に割り込めないというタイプである。
ただし、放任、つまり母親任せにしている父親だからといって、自分の意見がないわけではない。意見が家の中で通らないため、家族から協力を求められて面談に来ても自分から積極的に相談する気にはならない場合もある。そのような場合には、さりげない褒め言葉が効果的である。「お父さんが働いていてくださるからお家がやっていけるんですね」などと、押しつけにならないように言うことも父親の心を開かせる。
IV 時期による子どもの特徴
1 乳幼児期
父親といっても、子どもは乳幼児〜思春期までの広範囲にわたっており、相談内容も異なる。乳幼児期に父親が困って面談に来るケースは、片親であったり、母親は子育てができない状況にあって父親がどのように育てたらよいかわからないなど、実際面での相談が多い。こういうケースでは、初めのうちは父親が1人でがんばるが長続きせず、ほとんどの場合で実家の母親などに見てもらうか施設に預けることになりがちである。
稀ではあるが、母親がマタニティーブルーで、父親が母親と子どもをどう支えたらよいかということを面談しに来ることがある。この場合、子どもの養育について、その場で答えられるような簡単なことは子育てアドバイザーが教えることも可能である。しかし、子どもをどこでみてもらうかなどに関しては保健所や市区町村の役所を紹介する。できれば子育てアドバイザーが近くの子育て支援情報を知っていて教えられるようにしておくとよい。なお、この場合の母親への対応は専門家に任せる。
2 幼稚園〜学童期
落ち着きのなさ、友達をいじめる、チック、おねしょ、登園拒否、登校拒否などが出てくる時期であり、子どもの行動が正常なのか異常なのかが心配になる時期でもある。この時期は社会の規範を教える時期でもあるため、父親の役割が重要である。
子どものことを心配した父親が、1人で相談機関を訪れることも乳幼児期よりは増えてくる。特に小学校の不登校は学力低下に直結するため、父親の出番となることが多くなる。要は、そのような父親からの相談にどう答えるかである。
3 思春期
子どもから大人へと変化する激動の時期である。子どもは早く大人として認めてもらって、何でも自分の自由にしたいと思う反面、いつまでも甘えていたいという気持ちがあり、その間で揺れ動く。特に最近では、大人のやっていることをしたいが、経済的な面や生活面では親に甘える(パラサイトシングル=独身で就職しても親の寄生虫)という虫のいい考えの青年も増えている。
親のほうも早く大人になって欲しいという気持ちと、いつまでも子どものままで実家にとどまっていて欲しいという気持ちの間で揺れ動く。近年の平均寿命の急激な伸びは、いつまでも元気で働けるという幻想を生み、子どもを自立させようという気持ちをなくさせている。
このような状況の中で「体の思春期」は低年齢化し、「精神的思春期」は遅くなった。そして、その結果として思春期の幅が広がってきている。
父親にこのような現実を教えて、子どもから大人への移行をスムーズにするためには父親の援助が必要なことを心理教育的に話すことも、アドバイザーの役割の1つである。
V 面談の実際
ここでは父親との面談時に役立つ方法について述べる。
1 心理教育的な方法
これは、相手の心理状態に配慮しながら教育的にかかわる方法である。多くの父親は、子どもが今どんな状況にいるのか、子どもとどう接すればよいのかがわからない状況にある。誰かに相談したくても、友人などに話して、それが人々の間に広まったら・・・という心配があって、なかなか話せない。そのため、秘密を守ってくれる(守秘義務を遂行してくれる)アドバイザーに相談したり教えてもらったりしたいというニーズが増えている。そして、そのニーズに応えるには、アドバイザー自身が広い知識や知恵を持っていることが重要である。そのため新聞や雑誌、文献などで知識や知恵を豊かにしておくように心がける。
[事例]
不登校の相談などで原籍校に復帰する際には、クラスメンバーや担任の先生との相性が重要である。新学期のクラスメンバーを決めるのは担任や学年主任であり、担任決定権は校長であるところが多い。そして、それらが最終的に決まるのは3月31日である。それまでに両親がそろって学校にお願いに行くと、希望のクラスになる可能性が高い。その場合に親が注意しなければならないことは、学校に「こうしてください」とは言わないことである。
そこでアドバイザーは、次のような手順を父親に教える。
(1)「来年のことについて相談するために、両親で学校に行って校長先生に会いたい」旨を、父親または母親が担任に電話してアポイントを取る。
→父親が参加することに意味がある。それは「一家の決定である」という意思表示になるからである。母親のみが相談に行った場合には、父親が賛同しているかどうかがわからないため、一家の判断とは見なされないことが多い。
(2)約束の日になったら両親で学校へ行き、日頃お世話になっているお礼と、子どものために時間をとってくれたお礼を言う。学校に対して下手に出ることに抵抗がある父親には、「“ここで学校側の心証を良くしておくこと”は交渉がうまくいく秘訣」であり、ひいては「子どもが再登校できるかどうかに関係してくる」ことを説明する。
→決して無理強いはせず、親がこだわるなら他の方法を考えることも大切。納得した場合は次に進む。
(3)好きな友達と嫌いな友達のリスト、子どもと相性のよさそうな先生のリストを用意しておき、「このような子どもと一緒だったり、担任がこれらの先生だったりした場合は、今よりは学校へ戻れる可能性が高くなると思う。ご配慮いただけるとありがたい」というような表現で希望を伝えるのがよい。
→学校側も不登校の子が復帰するのを歓迎しており、どうにか成功させたいと願っている。そのため、どういう組み合わせなら子どもが登校しやすいかというデータは欲しい。しかし、1人の生徒の希望を聞いたということになると、そのような配慮を切実には必要としない生徒や親も学校に希望を出し始め、クラス編成ができなくなる恐れがある。そこで、「希望は一応聞くが、最終判断は学校がする」というスタンスにすれば、学校主体でなおかつ不登校の子に配慮したクラス編成が可能となる。
また、親のほうも「このような子どもと一緒だったり、担任がこれらの先生の場合は今よりは学校へ戻れる“可能性が高くなる”と思う」と言っているので、希望を配慮してもらったにもかかわらず登校できなかった場合に、子どもに対して登校のプレッシャーをかけずに済む。
これらの例でわかるように、アドバイザーは色々なことをよく知っていること、相手の希望に添って良い方法を考えることが求められる、ただし、いくら一生懸命考えて薦めた方法であっても、相談者には断る権利があることを肝に銘じて置くことが大切である。そして提案を否定された場合は、代案を一緒に考えるという心の広さがアドバイザーには求められる。
2 面談時に有用な言葉掛けや行為
(1)父親を褒める
努力や協力を逐一褒めるなど、父親をあまり大仰に褒めることは逆効果になる場合があるので控えたほうがよい。ただし、気心が知れてきて、こちらの誠意が通じるようであれば、褒めることによって面談が和やかになり、話題が発展することもある。また、ゆっくりと話を聴くというアドバイザーの態度が好感を持って受け止められることも多い。父親が好感を持てるような行為や語りかけを多くすると、アドバイザーを信頼して相談に対する抵抗が少なくなる。
面談に懐疑的な父親の場合には(母親に言われて面談せざるを得ない状況にいる父親の場合に特にそうであるが)、無理に話してもらったり、焦点を絞ろうとしたりはせずに話を聴くことも重要である。この際には、話すペースや話題を相手に合わせると効果的なことも多い。
様々な方法を知った上で時と場合、そして相手によって一番適した方法を使い分ける。
(2)父親を責めない
基本的に父親は家の中のことを他人に話すことに抵抗を感じている。男の面子や体裁などがあるため、そのプライドを傷つけないように注意しながら面談することが大事である。
「もう少しお子さんの気持ちになってあげてください!」
「どうしてお子さんの気持ちがわからないのですか!」
「お父さんが変わらなければお子さんは変わりません!」
このような詰問形は禁句である。なぜなら、これらの言葉は父親を意固地にしてしまうからである。面談を続ける中でやっと「少しやり方を変えようかな」と思っていた父親でも、これらの言葉を聞いたとたん貝のように殻を閉ざし、それ以後のアドバイザーの言葉は一切耳に入らなくなってしまうのである。
逆に父親の行動を肯定したり、父親の困った行動(たとえば、子どもを怒鳴るという行為)に対して、「子どもを良い子にしようとして真剣にしつけている」というような良い意味づけをしたりすると、アドバイザーの言うことに耳を傾けるようになる。
(3)質問形で聞く
「お子さんの行動を変えるために、お父さんができることはどんなことでしょうか?」
「お父さんの気持ちをお子さんに伝えるには、どんな方法が良いと思われますか?」
「お父さんが怒ったとき、お子さんはどんな気持ちだったと想像されますか?」
「もし、お父さんが同じように言われたらどう感じるでしょうか?」
このように「質問」という形式で聞くと、父親はそれに答える間に自分がどう行動するのが良いのかということを悟ることが可能となる。
(4)抽象論に引き込まれない
父親と面談していると、相手が抽象論を展開して話がなかなか前に進まなかったり、解決策が出せなかったりすることがある。
たとえば、「今の子どもたちは何事にもいい加減で、こらえ性がない」とか「やる気がなくて、将来のビジョンもなく、何を考えているのかわかりません」などと言ったり、挙げ句の果てには「最近は物を大事にしないし、携帯電話でところかまわず長話をするなど、人の迷惑を考えない風潮がある」など、教育論を振り回す父親もいる。
そのような場合には、父親のペースに引き込まれずに、「お子さんのどんなところにこらえ性がないと感じましたか?」「あなたのお子さんとビジョンや将来のことについて話したことはありますか?」「お子さんの携帯電話で迷惑な思いをしたのはいつですか?」などと、(一般論ではなく)父親が具体的に困っていることを手がかりにして、家庭生活の話に移行していくと解決が容易になる。
それでもまだ「今の若者は・・・」など、もっともらしい教育論が続く場合には、「今の若者にも困りますね。ところで、毎日の暮らしの中でお子さんに関してお困りのことはありますか? それはどんなことでしょうか?」など、ソフトに話の方向を変える。あるいは「お父さんは、お子さんが将来どうなって欲しいとお考えですか?」「お父さんが考えているような生活になっていくでしょうか?」「そうなるにはどうしたらよいでしょうか?」などと、順を追って聞いていくと解決策に結びついていく。
話を具体的にするには「いつ?」「誰が?」「どこで?」「何を?」「どのように?」などと聞いていくとよい。また、一般論や教育論に対しては、例で示したように話の流れは変えないまま、具体的な答えが返ってくるような質問をすることが重要である。
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