6 「言いたいことが言えること」がアドバイザーにとってなぜ必要なのか?
子育てアドバイザーは、相談者の話を聴くことが仕事の一部であり、自分の言いたいことを言う立場にはない。しかし、「言いたいことが言える」ということもアドバイザーには必要な条件である。
「言いたいことが言えること」=「“NO”と言えること」と考える人は多いだろうが、これは少し違う。言いたいことが言えることも、“NO”と言えることも、英語で「アサーション」(自己肯定)と言われる行為に基づいている。しかし自己肯定とは、自分の気持ちを素直に話す勇気があり、自分自身を信じていることに通じているのである。
少し観点を変えてみよう。当たり前の話だが、相談者はアドバイザーが何でも聴いてくれる人であるということを感じない限り、肝心の話はしないものである。話をしても否定されたり、批判されたり、聴いてもらえないかもしれないと感じるだけで話さなくなる可能性もあるのである。これは気持ちの部分、つまり実際に眼で見えない部分なだけに、とてもやっかいである。ただ、見えないからといって「気持ち」をないがしろにしてはいけない。
この「気持ち」を簡単に説明すると、たとえば人の気持ちを「知識」と「感情」に分けた場合、「感情」の部分になる。この「感情」の部分は常に機能しており、また常に交流が行われているため、誰かに会ったときには、お互いの感情(潜在意識)が交流する。初めて会ったのに、なんとなく虫が好かないという人がいるのも、初めて会ったのに、すぐに仲良しになれるという人も皆、この感情の成せる技ではないだろうか。
たとえば「虫の好かない人」は、小学校のときに叱られた先生と威圧的な態度が似ているのかもしれない。知能の部分ではそのようなことは忘れていても、気持ちの記憶を記録する潜在意識ではしっかり覚えていて、我々に「この人は嫌い」というシグナルを送る。なにしろ潜在意識の知能指数は5歳児ぐらいであるため、細かく説明してはくれない。送られてくるのは簡単なシグナルだけであり、慣れないうちは、その解読が大変である。もちろん5歳児の知能といっても、その他の機能は素晴らしいものが詰まっている。想像力や好奇心、創造力、生命力、性欲、洞察力、直感力、感情等、感性のすべてがこの機能に属しているといわれる。
では、アドバイザーが言いたいことを言えると、どうして相談者が言いたいことが言えるようになるのだろうか? いくつかの理由があるが、一番の理由は、アドバイザーが「言いたいことを言う」ことができるならば、相談者も、自分も言いたいことが言えるような気がするということではないだろうか。
たとえば、アドバイザーがとても固い感じの人で怒られそうな雰囲気がある場合、相談者は話す内容を考え、自分のあるがままの気持ちを話すことができないかもしれない。また、アドバイザーが言いたいことを言える人(もしくは自分は何が好きで何が嫌いなのかを認識している人)でない場合には、アドバイザー自身が「良くない・悪い」とどこかで思っている内容の話に対して、無意識に批判的になってしまう可能性がある。そして、相談者の潜在意識は直ちにこれを察知し、「自分が言いたいことを言ったら、この人は私を批判するかもしれない」と思い、言いたいことが言えなくなってしまうのである。
これはすべてのことに当てはまる。相談者から批判的であると判断されたくなければ、まずアドバイザー自身が批判的にならないことが大切である。また、アドバイザーが自らを批判的な人間であると認めない限り、相談者は本音を話さないだろう。
では、言いたいことを言えるようになるにはどうしたらよいのだろうか? そのプロセス自体はいたって簡単である。まずは、言いたいこと・言えないことを感じとる。言えない場合には、それが思い込みなのか、それともそうではないのかを考え、次にそれは言ってもよい状況なのかどうかを考えて判断する。そして最後に、それを実際に口に出してみる。それを相手が受け入れてくれれば少し自己肯定力が増し、自信もつくはずである。
一番のくせものは、第一段階の言いたいこと・言えないことを「感じる」というプロセスである。よく、「私は、理解できないと感じました」「それは間違っていると感じました」などと言う人がいるが、これは単に、「私は理解できない」「それは間違っている」という考えに「感じます」をプラスしただけであって、本人が本当に感じたことではない。また、知的なことに関しては、必ずといっていいほど「良い」「悪い」などの判断がつく上、気持ちではなく現象についての話が多いようである。
それに引きかえ、感じることや感性にかかわる「感じ」は、そのときに感じたものであって、批判や判断がなく、相手に対する要求もない。「私は理解できない」は、「私は混乱していると感じた」と言いたいのかもしれないし、「それは間違っていると感じました」には、もっと様々な感情が含まれているかもしれない。そのため、何を感じているのかがわかるようになるまでには、繰り返し自分の気持ちを見つめる必要がある。
[例1]
朝食時に、夫が新聞を読んでいる。妻は「あなた、ご飯のときに新聞は読まないでって言ったでしょう」と言った。
→これは明らかに命令であり、感じていることではなく、知的な事柄に分類される。
[例2]
朝食時に夫が新聞を読んでいる。妻は「あなた、ご飯のときに新聞を読んでいると、私寂しいわ」と言った。
→これは「寂しい」と言っている上に命令ではないため、感じる事柄に分類される。
色々な言語が話せれば便利なように、様々なコミュニケーションの方法を身につけておくのもやはり便利なことではないだろうか。その意味で、「言いたいことが言える」ことの利点は、言いたいことを「言う」もしくは「言わない」という選択ができるようになることである。
言えないことが自分でわかっている場合は、どうしても「がまん」している気がしてすっきりしないが、言える気がすると、無理に言わなくてもいいような気がするから不思議である。さらに、「言う・言わない」の選択が自分でできると、自ずとその責任を取る気持ちにもなる。自分で責任を取るということは、結果がどうであれ、八つ当たりも、人のせいにすることもしなくなるということである。これが精神的な「自立」なのかもしれない。
言いたいことを言えるのは、とても大事なことである。何事もまず自分が「初めの一歩」を踏み出すようにしたいものである。
7 白己肯定とは具体的にどういうことか、また白己肯定力が低いとどうなるのか?
自己肯定力とは、どれだけ自分の気持ちを見つめることができるか、そして相手を攻撃したり言い訳をしたりすることなく、自分の素直な気持ちをどれだけ相手に伝えることができるか、つまり「自分を信じる力」ではないだろうか。もちろん、自己肯定力が低いことが悪くて、自己肯定力が高いことが良いというわけではない。ただ、自己肯定力が高いほうがラクなため、子育てアドバイザーには、ぜひ自己肯定力を高めていただきたい。
自己肯定力が低い人は、自分を大事にすることができない。自分を大事にできない人は他人優先の生活を送るため元気がなくなり怒りがたくさん溜まる。怒りがたくさん溜まるとイライラしてきて表向きには怒りっぽくなり、それを放置しておくと鬱状態になり、最終的には何もする気がなくなってしまう。
「がまんは美徳」であるとされている。ただ、目的のある「がまん」は目的を達成する喜びがあるが、目的のない「がまん」の場合は自分のエネルギーをがまんすることに使ってしまうため、もっと大事なことにエネルギーを使えなくなってしまう。そしてエネルギーがないと視野が狭くなり、その結果、思い込みが強くなっていく。さらに自分ががまんをしているときは、人ががまんをしていないことに関して腹が立ってくるから不思議である。自分にとって何が「有意義ながまん」であり、何がそうでないのかをチェックしていただきたい。
8 子育てアドバイザーとして、日常生活の中で心がけることはあるか?
最も大事なのは、「自分は自分のままでいい」と思えるようになることだろう。多くの人は「自分はダメだ。もっとがんばらないと、もっと人から好かれないと」などと感じているのではないだろうか。こう考えている間は、決してダメな自分を好きになることなどない。そして、自分が自分を好きでなければ、他人のことも好きにはなれないのではないだろうか。
他人を「好きにならなくてはいけない」のではないが、嫌いでいるよりは好きなほうが、自分自身がラクであろう(「自分がラク」というのは、難しく言えば「受容」、もしくは「自分を受け入れること」などとなるのだろうが、「ラク」と言ったほうがピンとくる人が多いかもしれない)。
この場合の「ラク」は、リラックスと同じような意味を持つと理解していただきたい。面接時にアドバイザーがラクでないと、相談者もラクにはなれないし、ラクでなければ思考も気持ちもあまり働かないのではないか。英語なら、「Are you happy with yourself?」(あなたは、あなた自身でいることが幸せか?)ということになるのだろうか? ただ、日本語で「あなたはハッピーか?」と尋ねた場合は、一般的には気持ちではなく状況に意識が集中してしまい、意味が少し違ってしまうかもしれないが・・・。
日常生活の中で、「自分は自分のままでいい」と思えるようになるためにできることはたくさんある。たとえばリラックスできる場をつくったり、自分にとっての「時間」の意味を考えたり、家族の話や自分の声をよく聴き、言いたいことを言う勇気を持つ練習をしたり、好きなことをみつけたり・・・できることはたくさんあるのである。
9 答えられないことがあったときはどうすればよいか?
その場で答えられないことはたくさんあるだろう。調べてわかることなら後日連絡することが可能であるし、気持ちの問題で解決できないことは(と言っても、その場で解決できないほうが多いのだが)、そのときに感じたことを話すのがよいだろう。
[例]相談者は解決策を求めて相談に来たが、解決策がなく、とても困っている
→「解決策が見つからなくて、困っていらっしゃるのかもしれませんね」、もしくは「解決策を欲しいと思っていらっしゃるのかもしれませんね。お辛いでしょうね」と言う。いずれにしろ、知識や情報以外のことで、当事者が答えられないことをアドバイザーが答えられるはずがないのである。
10 面接に来てもあまり話をしない相談者の場合はどうしたらよいか?
あまり話をしない相談者の場合、その人を刺激しないようにしながら話を聞き出すためには、相談者の「感じたこと」を言い換えたり要約したり、あるいは相談者が使った実際の言葉を返してあげるという方法がある。
この「そのままの言葉を返す」ということには2つの意味がある。1つは、相談者の発言の意味を明確にすること。もう1つは、言葉を返すことによって、話をきちんと聴いていたということを相手に伝える意味である。アドバイザーが正確に理解しているということが相手に伝われば、両者の間には信頼感と共感が生まれ、それにより話が進むことがある。
また、あまり話をしない相談者には、質問をしないように心がける。「質問」は知的な行動であり、あまり話さない相手にとっては良い感じを与えない。聞きたい気持ちはアドバイザーの好奇心から出ている。厳密に言うと、質問はアドバイザーの思考を満足させるためのものであり、相談者のためのものではない。質問をする代わりに、「それは、○○さんにとってどう感じられたのでしょうね?」、あるいは「具体的にどうだったのでしょう?」などと話を促すほうが良いだろう。
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