序章 学校・地域から世界への扉を開きましょう
はじめに:グローバル化社会における「生きる力」を育てたい
今日、この世界でそして私たちのすぐ足元で、グローバル化が経済、政治、社会、文化等のあらゆる側面で進行しています。地球のどこかで起きた出来事はあっという間に我々の生活に影響を及ぼすようになってきました。例えば東・東南アジアで発生したSARSや鳥インフルエンザの脅威は我々のすぐ間近に迫ってきましたし、アメリカで発生したBSE(狂牛病)の影響で牛丼が食べられなくなったのは記憶に新しいところです。
こうしたグローバル化の渦中で、私たちはどうやって生きていけばよいのでしょうか?そして、次の世代を担う子どもたちをどうやって育てていけばよいのでしょうか?
私たち名古屋NGOセンターはこの課題に取り組むために、中部地域におけるNGO/NPOすなわち「政府や国にとらわれず、よりよい地球社会づくりをめざす、自発的な非営利の市民組織」のネットワークとして、加盟43団体とともに活動しています。なかでも国際理解・開発教育委員会は、まさにこうしたグローバル化にともなう貧困、環境、人権、多文化共生等様々な人類共通の課題に取り組む人材(私たちは地球市民と呼びます)を育てる、とりわけ次の世代を担う子どもたちのために地球的な視野に立った「生きる力」を育てる、という強い願いをもって活動してきました。そして、こうした思いを共有する多くの小・中・高の学校、大学等の研究機関、地域の学習センターそしてNGO/NPOと連携して活動をしてきました。
本書のねらい:写真を通じて我々をとりまく世界の現実を考え、行動する
近年、学校現場では総合的な学習が取り入れられ、国際理解・開発教育もその一環として実施されるケースが増えてきました。また、地域学習の場でも国際理解・開発教育の講座がみられるようになってきました。こうした人類共通の課題に取り組む教育、すなわち外国語や文化交流だけでない、真の意味での地球市民を育成する国際理解教育・開発教育はこれまでの既存の教科の枠組みを超えたものであります。それゆえ、それぞれの学校・地域の現場では教材、教授法、カリキュラム等手探りの状態で取り組んでいるのが現状です。
そこで、私たちはこれまでの学校や地域での活動経験を通じて、国際理解教育・開発教育の最も一般的な手法である「フォトランゲージ」のための教材を、名古屋NGOセンター加盟団体の協力を得て作成しました。中部地域のNGO/NPOとしては初めての試みです。「フォトランゲージ」とは、写真を通じて我々をとりまく世界の現実を考え、行動する主体を育てる教育手法です。「百聞は一見に如かず」で、文字や言葉だけよりもビジュアルでみて感じ取っていただきたいと思います(詳しくは「教材の使い方」をご参照ください)。また、今回ご協力いただいたNGO/NPOをよりよく知っていただくための情報も「ダイレクトリー」として掲載しました。
本書の編集にあたっては、地球社会において国内・国外を問わず人類共通の課題と思われるテーマを「いのちと健康」、「学びと共生」、「安全な暮らしと環境」と設定し、3部構成としました(下記表:本書『世界への扉』の構成をご参照下さい)。
表:本書『世界への扉』の構成
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中部地域NGO/NPO |
写真で扱っている国・地域 |
写真の種類 |
PART1
いのちと健康
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1-1 ペシャワール会名古屋 |
アフガニスタン |
写真A
人々の暮らし
写真B
直面する問題
写真C
NGO/NPOの活動
写真D
子どもたちの姿 |
1-2 アジア日本相互交流センター |
フィリピン |
1-3 チェルノブイリ救援・中部 |
ウクライナ |
1-4 アジア保健研修所 |
インド、カンボジア |
PART2
学びと共生 |
2-1 東ティモール子ども募金 |
東ティモール |
2-2 ハイチの会 |
ハイチ |
2-3 キャンヘルプ・タイランド |
タイ |
2-4 フロンティアとよはし |
愛知県豊橋市 |
PART3
安全な暮らしと環境
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3-1 アムネスティ・わやグループ |
ミャンマー(ビルマ)、チベット |
3-2 ソムニード |
インド |
3-3 オイスカ中部 |
フィジー |
3-4 レスキュー・ストックヤード |
中部地域 |
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PART1 「いのちと健康」
PART1 「いのちと健康」では、アフガニスタン、フィリピン、ウクライナ、およびアジア各国で、人々のいのちと健康を守る活動をしている中部地域のNGO/NPOの活動の紹介と、それをもとにした写真教材を作成しました。
PART1「いのちと健康」をつうじて、私たちは次のテーマを考えたいと思います。
今日、地球温暖化は国や地域を問わずわれわれの生活を脅かす大きな問題であり、特に途上国では温暖化によって旱ばつが進み人々の生活を脅かしています。地球温暖化は主に二酸化炭素の排出によって起こるものであり、それは工業化による経済成長をもっぱら追及してきた結果といえます。同時にこうした経済至上主義は都市と農村の格差や貧富の格差を生み出し、農村が貧困化する一方で、都市スラムには多くの貧困層が劣悪な生活環境のもとで健康に問題を抱えながら暮らしています。さらに、経済成長至上主義はそれを支えた科学文明の行き過ぎをもたらし、原発事故等の人災を引き起こして人々のいのちや健康を脅かしていました。こうした、災いから人々の「いのちと健康」をまもるためには、その担い手となる人材の育成が重要といえます。
この、「いのちと健康」という人類共通の課題に対し、中部地域のNGO/NPOは積極的に取り組んでいます。ペシャワール会では地球温暖化による旱ばつから健康を守る活動をアフガニスタンで行っています。アジア日本相互交流センター(ICAN)では、経済成長にともなう格差と貧困から健康を守る活動をフィリピンのスラムで行っています。チェルノブイリ救援・中部では科学文明の行き過ぎから起こった原発事故から子どもたちのいのちを守る活動をウクライナで行っています。そして、アジア保健研修財団アジア保健研修所(AHI)では、いのちと健康をまもる人づくりをインドやカンボジアなどアジア諸国の人々を対象に行っています。
PART2 「学びと共生」
PART2「学びと共生」では、東ティモール、ハイチ、タイ、および愛知県豊橋市で人々に教育の機会を提供し、共に生きる活動をしている中部地域のNGO/NPOの活動の紹介と、それをもとにした写真教材を作成しました。
PART2「学びと共生」をつうじて、私たちは次のテーマを考えたいと思います。
開発途上国の多くは第2次世界大戦前に欧米諸国によって植民地として支配されていました。戦後、新しく独立した途上国は多くの課題を抱えています。新しい国づくりのためには人材育成がかかせません。また、せっかく独立しても、その複雑な歴史的・社会的背景のために人々が共に生きることができず、紛争が絶えない国もあります。また、うまく国が安定し、経済成長を遂げてもその反面で格差が生まれ、人々が地方から都市へと移動したり、グローバル化の進行により国を超えて移動したりすることもあります。日本とくに工業地帯である中部地域ではいわゆる「内なる国際化」「地域の国際化」がすすみ、多くの外国人が住むようになりましたが、日本人とは異なる様々な文化を持つ人々と共に学び生きていくことは非常に重要な問題であるといえます。
この、「学びと共生」という人類共通の課題に対し、中部地域のNGO/NPOは積極的に取り組んでいます。東ティモール子ども募金では、アジアで最も新しい独立国である東ティモールの国づくりをになう人材育成を行っています。ハイチの会では、独立後も今なお内戦が続くハイチで子どもたちの学びを支援し、荒廃から立ち上がる力を育む活動を行っています。キャンヘルプ・タイランドは、急速な経済発展にともなって、都市とは大きな格差が開いてしまったタイの東北部農村において学校建設を行い、学びの機会を提供しています。また、フロンティアとよはしは、グローバルな経済格差にともなう労働力移動によって日本に住むことになった、在日外国人と地域で共に生きる活動を、外国人の特に多い愛知県豊橋市で行っています。
PART3 「安全な暮らしと環境」
PART3「安全な暮らしと環境」では、ミャンマー(ビルマ)、チベット、中部地域、インドおよびフィジーで人々の安全な暮らしと環境を守る活動をしている中部地域のNGO/NPOの活動の紹介と、それをもとにした写真教材を作成しました。
PART3「安全な暮らしと環境」をつうじて、私たちは次のテーマを考えたいと思います。
人々が安全な暮らしを送っていく上で、まず考えなければならないのは人権です。自由を奪われ、人権が侵害されている社会では、私たちは安心して暮らすことはできません。また、安全な暮らしのためには、自然との共生も不可欠です。途上国では森の恵みが人々の生活を支えてきましたが、森林伐採など環境破壊によって安全な暮らしが脅かされてきました。それゆえ、森林の保護・再生や自然環境と調和した農業は人々の生活を安定させるうえでとても大切といえます。また、自然災害も人々の生活にとっては大きな脅威です。天災は不可避ではありますが、特に災害の多い日本では、日ごろからの防災活動は安全な暮らしを守るうえで欠かせないものといえるでしょう。
この、「安全な暮らしと環境」という人類共通の課題に対し、中部地域のNGO/NPOは積極的に取り組んでいます。アムネスティ・インターナショナル日本わやグループは、国際的な人権NGOアムネスティ・インターナショナルの地域グループとして、ミャンマー(ビルマ)やチベット等における不当な抑圧から人々の尊厳と自由を守る活動を行っています。レスキュー・ストックヤードは阪神・淡路大震災での経験を生かし、災害から暮らしの安全を地域で守る活動を、国内とくに大地震が予想される中部地域を中心に行っています。ソムニードは森のめぐみを回復し自立した暮らしをきずく活動をインドで行っています。オイスカ中部は自然を生かした農業で安定した生活を目指す活動をフィジーで行っています。
最後に:共に考え、実践しましょう
最後に、本教材が皆さんの学校や地域における、人類共通の課題に取り組む国際理解・開発教育の実践の一助となり、地球市民の育成に少しでもお役に立てることを切に願っております。そして可能であれば、この教材をお使いになったご意見・ご感想などお寄せいただくともに、私たちと一緒によりよき地球社会づくりの活動に取り組んでいただくことを祈念いたします(添付のフィードバックシートをご利用下さい)。
私たちは本教材の使い方はもとより国際理解・開発教育の教材、教授法、カリキュラムづくり等に関して喜んでサポートいたします。また、本教材掲載のNGO/NPOはもとより皆様の地元やご関心の名古屋NGOセンター加盟43団体をご紹介させていただくことも可能です(添付のサポート申込用紙をご利用下さい)。
みなさん、学校・地域から世界への扉を開きましょう。そして一緒に地球規模で考え、足元から実践していきましょう。
2004年3月31日
特定非営利活動法人 名古屋NGOセンター
理事、国際理解・開発教育委員会委員長
野田真里(編者代表)
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