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5 NIとLR(Lloyd's Register)による合同プロジェクト
 2003年10月3日付けのLloyd's Listは、「最近、海運業界におけるヒューマン エレメントの意識と理解を深めるために、NIとLR(Lloyd's Register、ロイド船級協会)による合同プロジェクト チーム(Project to improve Awareness of the Human Element in the Marine Industry)が立ち上げられた。」と報じている。
 このことは、本調査団が9月30日にNIを訪問した際、副秘書官のMr. Philip Wakeから内密に情報を受けていたところであるが、今般プロジェクトチームの立ち上げが明らかになったことから、以下Lloyd's Listの記事を抜粋引用する。
 Lloyd's Listによると、「このプロジェクトは、3年がかりのキャンペーンであり、ヒューマンエレメントの重要性についての理解を促し、設計と操作における効率と安全性の向上を支援することを目的としているが、「事故防止の可能性を高めるためのより統合的なトータルシステム」の創出にも貢献するものと考えられている。
 これまで、船舶は設計段階で利用者の観点が無視されたうえ、製造業者は生産方法の最適化だけに注目して商業的な利益を追い求め、船舶所有者は人員削減と安い労働力によるコスト削減及び過密な運航スケジュールによる利潤追求にばかり努めてきた。
 更に、監督官庁は安全性と効率性の面から変更と改善が容易であるとの理由から、船体や機関、或いは、航海機器や安全設備等のハード面にばかり力を入れてきた。
 加えて、現代社会は変化が激しく、特にITやコンピューター関連部門では使い易さといった点で問題があるうえ、使用者はそれに対する知識が十分でなかったり訓練が遅れていたりしていて、先端技術を十分に使いこなせていなかった。
 これには、経歴や慣習、風俗、言語、或いは訓練に至るまで大きく異なる乗組員の混乗が深く関係しているものと思われる。
 本プロジェクトは、このような社会状況に鑑みて、かかる問題点をヒューマンエレメントに基いた「総合的な考え方」で検討し、設計と操作における効率性と安全性の向上を支援するものである。
 内容的には、船舶の設計から、システム、機器、規制、訓練、運航等を分析対象とし、年4回、毎回5万部(将来的には7万部)発行する「Alert!」誌と専用ウェブサイトで逐次進捗状況を報告するとともに、関係者からのフィードバックも可能とする予定になっている。」という。
 分かり易い表現では、「このプロジェクトの一番の目的は、船で働く人を正面に据え、その人を中心にしてデザインを設計し、機器を配置して、システムが稼動するようにするには如何にすべきかについて関係者の検討を促す、或いは、Commercial Pressureは安全運航が第一ということで、System Ashoreに配慮を促すことにある。」としている。
 運営資金は、ロイド船級協会が負担するが、作業は、船級協会のほか、船主協会、P&I Club、ヒューマンエレメント(特に人間工学)の専門家或いはデザインのエキスパート達を集めた小規模ながら国際的な、一種のSteering CommitteeともいうべきAdvisory Groupの監督、方向付けを受けてNIが行なう。
 このCommitteeは、年に2ないし3回開催される予定である。
 このように、NIが主体となったことについては、人とマシーン、環境、それに陸上との関係等を一本化したシステムを、人間的アプローチで具体化しコントロールする中立的な機関(Neutral Professional Organization)が他に見当たらなかったからである。
 海運界では、全般的に人間が海上の安全に与える影響が十分に理解されておらず、ヒューマンエレメントの正しい知識体系が確立されていないのが現状であることから、このプロジェクトが、MARSにも一石を投じることになるものと思われる。
 
 IMOの会員(Membership)には、政府会員(Government Membership)とNGO会員(Non-Government Organization)の二つのタイプがある。
 NGOには、International Harbormasters Organization(IHO)、International Marine Pilots Association(IMPA)、International Federation of Ship Masters Association(IFSMA)、International Chamber of Shipping(ICS)等のほかGreen Peaceも含まれている。
 政府会員は、審議への参加権も議案の提案権、議決の投票権(Vote)も持っているが、NGOは委員会に出席し審議には参加できるが、提案権や投票権は持っていない。
 NIは、海上における安全確保について独自の方法で貢献しているが、IMOに参画して積極的に発言することについては何度か議論されたが、今のところ差し控えている。
 その理由の一つには、ほとんどのIMO委員会はNIと関係が認められる反面、各種委員会にスタッフを派遣するには、NIの組織が小さ過ぎること、二つには、IMO事務局員とも良い関係にあるほか、政府関係者或いはIFSMAといったNGOのメンバーとも知己であり、情報を十分に入手できるうえ、NIの意見を反映させることもできるからである、という。
 
Marine Accident Confidential Reporting
Reporting Form
 
 
The Nautical Institute
International
MARINE ACCIDENT REPORTING SCHEME
WHAT? WHERE? WHO ? WHY?
 The concept of the confidential accident report scheme is to assist in accident prevention. By sharing your experiences with other maritime professionals anonymously reproduced in SEAWAYS, you can help them to avoid similar situations.
 
 
 We want to hear about any unsafe practices, dangerous occurrences, personal accidents, near miss situations or equipment failures which you have experienced, and any methods you have adopted to prevent repetitions. Within the context of ship operations the scheme is unlimited, is international in outlook, and open to commercial, naval, fishing and pleasure users.
 
 We can assure you that all reports sent in will be treated in the strictest confidence. Providing they meet the above criteria, we will publish, anonymously, as many as possible in SEAWAYS, the journal of the Nautical Institute.
 
 The original report will be destroyed prior to publication or sent back to the originator.
 
 To submit a report, please either:
1. complete the MARS ON-LINE form, which will email your report to us, or
2. print the MARS hardcopy form and, if required, the continuation form, record your report on these forms and send to:
 
Capt R Beedel FNI
17 Estuary Drive
Felixstowe
Suffolk IP11 9TL
UK
Fax - via a Bureau (please highlight my name): +44 (0) 1394 282435
 
2003/07/11
 
International Marine Accident Reporting Form
 
International Marine Accident Continuation Form
 
MARS Report (SEAWAYS)
(1)MARS 200301
ウェイポイント(中間地点、中継点)・ナビゲーション
 
 自船は積荷満載の超大型タンカー(VLCC)、喫水22メートル、速度12ノット、ドーバー海峡の深水深航路を北東に進み、右舷船首方向でサンデティーの南西浮標に接近していた。この時点で深水深航路の幅が7ケーブル、サンデティー・バンクを右舷側に、F1浮標で表示された南西航路を左舷側に航行。自船は深喫水船として適切な昼間信号(Daylight signal 円筒形形象物)を発していた。船長はブリッジチームとともに手動操舵で操舵の指揮にあたる。他船は船籍・船員ともにホワイトリスト掲載国の大型コンテナ船で、北東に23ノットで進んでいた。深喫水船の昼間信号は見られなかった。白昼、視界も良好で、そよ風の吹く穏やかな海上であった。
 他船は左舷後方、船尾から2マイル後方にあり、自船を追い越そうとしていた。他船は後方遠くに見えた。右舷船首がはっきりと見え、CPA(自船に最も近づく距離)は左舷で0.5マイルを維持していると予測された。自船はVHFで他船を呼んだが、応答はなかった。13時27分、他船から連絡が入り、こちらの意図を尋ねられた。自船は深水深航路を航行しており、喫水が22メートルであるため、操船に限界があると応答した。航路と速度を確認したうえで、自船は、海上衝突予防規則(COLREGS)のもと、追い越し船である他船に接近しないよう要求した。ところが他船はウェイポイントを通過できるようにと、自船の移動を求めてきた。我々は移動ができない状態にあることを再三告げ、追い越し船である他船に海上衝突予防規則に従って接近をやめるよう求めた。自船はこうした状況をふまえつつも、左側に少し余裕を持たせようと、右舷に2ケーブル進路を変えた。
 13時33分、他船との距離はさらに縮まり、ついに自船の左舷正横後まで追いついた。自船はサンデティーの南西浮標を周って針路を右に小さく変え始めたが、そのとき急に他船が自船に向って急角度で右に方向転換をした。このままでは衝突しそうな勢いであった。我々は16チャンネルで他船を呼び出し、他船が接近しすぎて危険であることを告げ、直ちに離れるよう警告した。他船から応答があった。すぐには理解できなかったが、ブリッジ当直は切迫した様子だった。他船はまもなく、双方の船尾がぶつかりそうになる程の急角度で左に方向転換をし、間一髪で衝突を免れた。その後他船はF1(サンデティー南西浮標の北)ブイに異常接近し、テムズ港周辺に向かうようにして全速力で南西航路を横切っていった。
 
コメント
1. 規則13が完全に無視されている。
2. 他者に被害を与えるウェイポイント・ナビゲーションであると思われる。南西航路が空いていた場合、ブリッジ当直が注意を怠らず、スペースを把握していれば、自船に異常接近する数分前に航路を横切って左へ移動することもできたはずだ。
3. 他船はスピードを出しすぎていた。つまり、事態の展開が速すぎたのは明らかで、ブリッジ当直は状況を把握できなかった。ウェイポイントを通過する必要があるのなら、減速して自船の後方を進んでいたはずである。
4. 最終的な右への方向転換はウェイポイント・ナビゲーションでも説明がつかない。当初は左への針路変更が意図されており、最初の右方向転換は操舵ミスであったと推測される。F1浮標に異常接近した(明らかに故意ではない)事実が、この可能性を裏付けている。
5. ブリッジ当直は過剰任務の状態にあったと考えられる。船長がブリッジにいたかどうかは不明である。さらに、船長がブリッジにいながら状況を容認していた場合と、緊急時に船長がブリッジにいなかった場合のどちらがより大きな非難に値するのかも不明である。
 
(2)MARS 200311
ブリッジチーム
 豪雨で視界不良となりレーダーには何もほとんど映らない状態で船が座礁した。ブリッジチームは、港湾規則にのっとり、船長、三等航海士2名、操舵手、水先人2名で構成されていた。水先人の一人が操舵を指揮し、もう一人がARPAレーダーを監視していた。船長はブリッジチームの行動とナビゲーションシステム、および二つめのARPAレーダーを監視していた。三等航海士2名は船の位置と操舵手、テレグラフを監視し、二等水夫1名は、USCGの規則に従い船首楼甲板にいた。
 それまでの航路は穏やかであった。やがて激しい雨が視界とレーダーを遮り、慎重になんとか降雨クラッタの制御を試みたにもかかわらず、レーダーには浮標が映らなくなった。この時点で、操舵指揮を行っていた水先人が水路の中央線に対する船の位置がわからなくなり、まず左に15°変え、船首方位を161°(T)にするよう命令を出した。船首方位が146°(T)になった時点で水先人は面舵いっぱいを命じた。その後二人の水先人は、そうした極端な操船が賢明であるかどうかを話し合った。
 この時点で船長は二人の水先人に、レーダー上で右舷側に小さなターゲット(おそらく浮標)が映っていることを告げた。これにより、操舵指揮をとる水先人は取り舵いっぱいを命じ、船は船首方位200°(T)で座礁した。この区域における水路の針路は161°(T)であった。
 「コースレコーダー」「ベルブック」の記録および船長、当直、操舵手への事情聴取で、座礁前に上記のような操船が行われていたことが確認された。
 
結論
1. 当該座礁の推定原因として最も可能性が高いのは、豪雨が視界とレーダーを遮ったことで水先人が方向感覚を失ったことと、右舷に極端な針路変更をしたことである。
2. 座礁の寄与要因は、水先人が方向感覚を失ったことに気づいて、船長がタイミングよく適切な行動をとらなかったことにもあると思われる。
3. 左への針路変更と右への急激な針路変更がどちらも船にとって危険であったことを、ブリッジチームが船長と水先人に認識させなかったために、上記のミスを悪化させた。
 
是正措置
 社内手順では、水先人が操舵指揮を行う場合は、通常の状況と同じように船の進行を監視するよう義務付けている。監視は当直が行い、船長が自分自身が操舵指揮を行っているつもりで、航路の逸脱や速度の指摘を受けるのが理想的である。そうした指摘により、船長は水先人に対し臨機応変に自信をもって異議を唱えることができる。
 このインシデントではブリッジチームと水先人の関係が崩壊していることを示す具体例である。結果的に企業は、是正措置を講じ、当事者である船長と船員に対し、フルミッション型の操船シミュレータを用いたブリッジチーム・水先人関係コースへの参加を義務付ける。人と行動が安全基準の効果を左右するという認識のもと、状況の把握やリーダーシップに重点を置く予定。プログラムは12ヶ月間にわたり、グループの船長および船員全員を対象に行う。







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