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ヒューマンファクター調査研究委員会第3回検討作業部会
(議事概要)
1. 日時 平成15年9月19日(金) 午後2時00分から同4時50分
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 今村委員を除く部会メンバー
堀野委員、黒田委員、小林委員、冨久尾委員、峰委員、増田委員、吉田委員、厚味委員、石橋委員
4. 議題 演題1: プレジャーボートにおける安全対策のあり方
 演題2: CREAM手法を活用した海難調査
5. 資料
(1)座席表
(2)講演用説明資料(久保田勝委員)
(3)講演用説明資料(伊藤博子氏)
(4)マイアニュースレター9月号(第14号)
6. 議事概要
6.1 講演「プレジャーボートにおける安全対策のあり方」
 講演者 久保田勝委員 財団法人日本海洋レジャー安全・振興協会理事長
 講演目次 1.海難の現状
(1)全船舶
(2)プレジャーボート
(3)プレジャーボート海難に伴う死亡・行方不明者数
(4)プレジャーボートの船型別海難
(5)プレジャーボート海難の種類
(6)BAN救助プレジャーボート海難の種類
2. プレジャーボート海難の原因
(1)運航の過誤
(2)運航の過誤以外の原因として
(3)見張り不十分・機関取扱不良が多く、プレジャーボート海難の4分の3が人為的原因である
(4)プレジャーボート海難の発生要因
3. プレジャーボートの安全対策のあり方
(1)プレジャーボートで安全にマリンレジャーを楽しむには、根本的には、
(2)現状では、このようなシステムにはなっていない。また、このようなシステムが、直ぐには実現しそうにもない
(3)海上保安庁の役割の転換
(4)マリンレジャーの安全対策の推進
(5)具体的な実施事項
 
(1)主な講演内容
・海上保安庁の海難統計によると、海難全体が増えつつある傾向であり、その中でも増えているのがプレジャーボート海難である。ここ10年ぐらいを見ると、相当急激な海難の増え方となっている。
 用途別に見た場合、平成13年にはプレジャーボートが1位であった。
・プレジャーボートの海難とこれに伴う死亡・行方不明者数は、だいたい毎年20数名で、横ばいの状況にある。
 一方では、非常に多くの死亡者を伴い、社会的反響の大きな重大な海難となるのがプレジャーボートの特徴である。
・プレジャーボートの船型別に海難を見ると、圧倒的に多いのがモーターボート、次いでヨット、手漕ぎボート、水上オートバイ、その他の順となっている。
 海難の種類を見ると、衝突海難、次に機関故障が多い。
・海難の発生の隻数、船種、海難の種類・原因から、プレジャーボート海難の発生する背景要因を考えると、多くの場合は通常、海に慣れていない人達が、マリンレジャーを気安く楽しもうとしている状況で、海に慣れていないために事故を起こしている。
・その中で、第一に言えるのは、海上の特殊な環境、海上のルール、プレジャーボートそのものの特殊性といったものを十分に理解、把握できていない状況で海上に出ていることである。
・その次に言えるのは、プレジャーボートでマリンレジャーを楽しむために必要な知識・技術・経験が十分ではなく、マナーとかシーマンシップを全く身につけていない状態でプレジャーボートが運航されている。
・小型船舶の操縦免許を取得しただけでは安全なレジャーは確保できないと思われる。さらに、プレジャーボートの運航に必要な知識とか技術とか経験が非常に重要であり、必要である。
・海上保安庁は2、3年前にプレジャーボートに対する方針を変え、プレジャーボートをやる人に対しては、まず安全意識と自己責任意識を持ってもらわなければいけない、こういうことを啓発しなければいけないということを謳い出している。具体的な実施事項として、安全対策のためにライフジャケットの常時着用、携帯電話持参の勧め、l18番の創設等を実施している。
・海の安全情報の提供として、沿岸域の情報提供システム(MICS)、海上安全パトロールによる安全指導、訪船指導、海道の旅(マリンロード)構想等の促進を図っている。
・我が国の周辺海域で発生する船舶海難は、距岸3海里以内の沿岸海域で大部分が発生している。日頃から海上保安庁は巡視船艇・航空機による即応体制を確保して、沿岸における救助体制の強化を図っている。
・日本海洋レジャー安全・振興協会は、会員制度の下で、プレジャーボートが起こす機関故障など簡単なものは曳航や伴走で救助し、また乗船者が行方不明になった場合は、捜索活動も行っている。24時間、365日、海上の安全をサポートする事業をやっており、過去10年間で1296隻の救助実績がある。
・ライフジャケットについては、着用していれば87.5%の生存率があり、逆に着用していなかったために半分は死亡・行方不明になったデータがある。
 この数値からも、ライフジャケットは必須であり、常時着用しておくべきものである。なお、着用率は、平均すると30.5%である。
(2)講演に対する質疑応答、意見
◎プレジャーボート海難の原因は、基本的マナーの欠如といった、モラルハザード的なものが相当のウエイトを占めているという指摘があった。
 それに対して、基礎的な教育をグレードアップする必要性があるのではないか、実務教育が欠如しているのではないかという指摘があった。
 意識的には自己責任主義、プレジャーボートの世界ではオウンリスク・オウンプレイが基本との認識を強く持つべきという指摘と思う。
 また、現場での資料に対する実効性のある対応を望むという指摘があった。
◎プレジャーボートと定義されている船は日本に何隻あるのか。
○小型船舶検査機構が検査をしている小型船舶が56万隻ぐらいであるが、この中には漁船、遊漁船も入っている。
 平成14年、国土交通省と水産庁が港湾、河川、漁港の3水域にあるプレジャーボートを調査した結果があり、それによると、約22万7000隻である。プレジャーボートは、自宅保管とか陸上の適当なところにも保管しており、実数はもっと多い。
◎自動車は全部プレートナンバーで登録が義務づけられているが、同じように、行政機関として把握できているか。
○検査を受ける対象の船は検査を通っている。登録制度の法律ができて登録義務が課せられ、昨年から始まり、3年間以内に登録することになっている。いずれ正確な数字が出てくると思われる。
◎いわゆる事故率はどうか。
○母数の把握が難しい。参考までに、日本海洋レジャー安全・振興協会でやっているBAN事業の会員数は現在まだ5000隻足らずである。
◎BAN事業は、自動車でいうJAF(日本自動車連盟)と考えてよいか。
○海のJAFということで広げていきたいと思っている。なお、BANに登録している会員が救助を求めた海難の発生は、去年の率で3.7%である。
◎小型船舶操縦者の有資格者は、現在どのくらいか。
○278万人ぐらいが資格を取っている。
◎船の隻数よりもはるかに多いという理解でよいか。
○小型船舶操縦士の試験が今回改正され、船舶職員及び小型船舶操縦者法になった。免許の試験そのものを、国の委託を得て日本海洋レジャー安全・振興協会の特定事業としてやっている。そこでは正確に数値を把握しており、約278万人である。
◎基本的なところでトラブルがあるという指摘があった。つまり技量が未熟であるとか、機器故障が多いということであった。別な見方をすると、そんなに故障する機械を使っているのかという感じがする。プレジャーボートはそんなに頻繁に故障するのか。
○エンジンは非常に事故をしやすいために手入れを大事にしないといけない。そのために一般の船舶、漁船なども点検を非常によくやっている。
◎船舶機械の動的特性は基本的に非常に不安定であり、人間が絶えずサポートしてやらないと安定した性能が発揮できない機械と考えてよいか。
○メーカー側からは「そんなことはない。」と言われるかもしれないが、現実にはエンジンの事故がある。
◎人間工学の研究をしている立場からは、もっと機械の性能を安定させたらどうかと思うが。
○船のエンジン等の機械は、毎日毎日使っているものと1か月に1回とか2回とか使うものとでは、チェックの仕方も全然違い、メンテナンスの面でも中身の濃さもある。自動車と同じようなことをやったのでは、船のエンジンは駄目であろう。
◎操縦免許を取得しただけで安全なマリンレジャーは確保できないとの指摘があった。ということは、何かまだひとつ足りないものがあるわけで、まとめでは実務教育とあったが、それが義務づけられていないと考えてよいか。
○義務づけられていない。
◎制度上、そのへんに不備があるのではないか。
○免許を取ったら必要な知識はちゃんと持っているということではある。
◎そういうのは免許といわないのではないかと思うが。
○免状を持っている人が乗っているのに、自分の位置も分からなくなるということが現実にある。
◎制度上の問題があると思われる。基本的には、安易に免許を与えないほうがいいのではないか。免許をとるには、海、河川などのプレジャーボートのフィールドになじむような実務技能を持ってから、初めて免許を与えるべきである。そうでないのに免許を与えてしまうことに根本原因があると考えるが。
○そこに問題があるが、免許制度としてこれだけの仕組みとなっている。
○関連のバックグラウンドとして、かつて滞在したイギリスでは、当時、部下のイギリス人は、週末になると地域の子どもたちを連れてヨットで1泊泊まりで近くの島によく行っていた。小さい時からそういうことをやる国民かどうかで、かなり違ってこよう。そうは言っても、海技免状のハードルをあまり高くすると誰も海に行けなくなるというジレンマがある。バランスを取りながら少しは海にもなじませつつ、難しいところも徐々に教育したりして少しずつハードルを上げていったりということも必要であろう。
○仲間の水先人が、ライフジャケットを着けていなくて亡くなった例があり、着けていれば命が助かったのにと思うと非常に残念なことがつい最近あった。ライフジャケットは、着けると途端に生存率が上がってくるが、ただ言っているだけでは着けない。ライフジャケットの着用について、将来の動向はどうか。
○将来の動向については、予測ができない。今回の法律改正では、子どもについては全員が着用する義務づけになり、指導しなくても、着けていなければ法律違反ということで、みな着けるようになっていくのではないかと思っている。大人にまでは義務化されていない。
◎子どもは義務化されているのか。
○子どもは義務化されている。今後、全員の義務化に動いていくのかどうかについては、分からない。
◎ライフジャケットをなぜ着けないのか、という研究はされているか。
○古い歴史があり、特に北海道のような北の海では、海に落ちると瞬時に命を落とす、意識を失って水没していくということで、海難防止センターが音頭をとって相当早くから漁業者に、とにかくライフジャケットを着けなさいと言ってきた。ライフジャケットを着けると、漁船の船上では非常に作業の妨げになるということで着用率が悪いということであった。
 プレジャーボートはどうかというと、これもまた同様である。颯爽と潮風に吹かれていたいところに、むさくるしくてただ暑いだけのものを着けるということで、人気があまりよくない。
 最近はライフジャケットもファッショナブルになり、着けてもあまり邪魔にならないように、かなり改良したものが売り出されている。
◎そのへんがポイントではないかと思う。私もヨットに乗っており、ライフジャケットを着けるたびに、誰か研究してもっと工夫しないのかなといつも感じている。昔からこれでやってきたのだからこれでいいのだという考え方、やはり伝統の深いエリアであればあるほど、そういう考え方が強い。思いきって邪魔にならないような手軽な、あるいはファッショナブルで、しかもライフセービングに役立つという研究をすれば、もっともっとたくさん使ってくれると思う。
 強制して「使え使え」と言っても、やはり使いにくいものは使わない。やはり使いやすくして、使いたくなるような工夫も一方ではする。ヒューマンファクターの視点から考えると、そういう方向しか手がないように思われる。
○使いやすくする改良は相当研究されていると思う。ここ2、3年でも、ずいぶん軽くなって邪魔にならないものができてきている。
 もう1つは、それを着用させようという動きである。先ほどの北海道の漁業関係の指導者は、とにかく何とかして着けさせようということで取り組んだ例であり、今でも日本のあちこちの漁業組合では、何とか自分たちの組合員には100%着けさせようという運動を展開している。
 海上保安庁もモデル着用漁業組合とかモデル着用マリーナを指定して何とか着用させる意識を高めていこうとしているところである。
◎基本的な質問である。プレジャーというのは本人が好きでやることであり、プレジャーの安全というのはどこに線を引くのかということが難しいと思う。
 自分で勝手に楽しみでやっているのだから、いらないことをしないほうがいいというのがプレジャーである。したがって、プレジャーの安全は何をもって1つの線を引くのか。
 社会に迷惑をかけた、例えば最近の琵琶湖のヨット事故の場合、多くの人が捜索にあたり、そのために大変なことが起こっている。社会に対する安全を最低限にするために安全を保つのかどうか。
 今までの日本のものの考え方はどちらかというと、危ないから誰も出るな、資格を持っている者だけしか出なさいという発想だったが、数年前からだれでも遊べるようにということになってきている。
 試験がおかしいのではないかという話は規制を高める話であり、誰でも出てよろしい、その代わり安全を保ちなさいという教育をしていくのは規制緩和で、今やろうとしているところである。これらは、やがて、どこにバランスを取るところに行くのか。
○悲惨な海難が起こるということは、安全対策がまだ十分ではない。安全対策をいくら言っても、それを守ってくれないので事故が発生しているということであれば、そういったことのないところまで指導していく。
 海に出ていく以上、自分の責任で事故なく帰ってこられるようにというのが安全対策だと思うが、どこまでかと言われると、なかなか難しい。







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