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第2回 ヒューマンファクター調査研究委員会
(議事概要)
1. 日時 平成15年7月15日 午後2時から午後3時50分
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 増田委員、厚味委員を除く各委員
4. 議題
(1)事故調査体制についての日本学術会議の取り組み
(2)我が国の海難調査の現状と今後のあり方の検討等
(3)その他
5. 資料
(1)議事次第
(2)座席表
(3)資料1 第33回安全工学シンポジウム
(4)資料2-1 我が国の海難調査の現状
(5)資料2-2 関係行政機関の海上交通の安全に関する施策
(6)資料2-3 海難調査の今後のあり方
6. 議事概要
(1)事故調査体制についての日本学術会議の取り組み
 松岡委員から日本学術会議主催「第33回安全工学シンポジウム」(7月10日、11日開催)のセッション「事故調査体制」中の講演の内容について、説明資料1「第33回安全工学シンポジウム」に基づき説明した。
 清水委員から日本学術会議主催「第33回安全工学シンポジウム」で行った講演「海難審判制度の現状と時代に対応した海難調査の取り組み」について資料1に基づき説明した。
 これらに対して、次の質疑応答、意見があった。
◎シンポジウムの講演中、花火大会時の歩道橋事故について講演した弁護士の活動は、信楽高原鉄道をきっかけに組織されたと理解しているが、具体的に法律の専門家と、自然科学と人文社会科学の人たちが、同じ共通の目的のために同席して、共同体制を組んで問題解決に当たっていくという、具体的な、組織的な動きはもうだいぶ進んでいると見ていいか。同弁護士の周辺の仲間たちはオーガナイズされていると見てよいか。
○まだされていない。「事故調査体制についての日本学術会議の取り組み」の講演で『ジュリスト』の座談会を挙げているが、これは純理論的に法体系をどう捉えたらいいかという話である。やっとそちらの方面の先生方が動き出したという段階である。この中で三者という捉え方をしているが、これら現場の弁護士と理科系の人、それから法体系をつくっていく方たちとが、今後、一緒に話し合って、物事を決めて、新しい考えを構築していければと思う。
○道路交通に関して関連した話題では、道路交通法が改正されて飲酒運転をすると罰金が30万ぐらいになっている。危険運転致死傷罪が施行されて、その結果について法律の関係者は非常に興味を持っている。つまり罰則を強化すると交通事故が減る方向に寄与するのかという問題について、どうやら法律論から見ると、罰則を強化すれば事故が減るというふうな因果関係はなかなか認め難いようである。現象面では、平成14年で交通事故による死亡者数は約4百数十名減っている。全国的に減っている中で、神奈川県は52名も増えている。神奈川県においては、厳罰主義はどうも効果を上げていないのではないか、それを上回る別の要因があるのではないかという科学的な分析を行おうとしている。
○法律関係者は、法律の枠組みだけでは限界があるので、自然科学的な事故原因調査を身に付けないと、裁判もうまくいかない。今まで未着手であった事故原因の科学的解明がかえっておろそかになってしまい、事故を起こした当事者が酒さえ飲んでいることが分かれば、それで事故になったんだということで、途中を全部ブラックボックスにして、論理的にジャンプしてしまうのではないか。
○酒飲み運転を厳しく罰したら事故が減ったということであり、やはり減るのではないかと思う。神奈川県の場合には増えたということだが、意外で理解できない。
○弁護士の場合には、損害賠償を求める被害者側の方からいくと厳しい見方をするし、加害者の立場に立っている弁護士は、どうしても加害者側に肩入れしたりするので、公平な事故の分析というのはなかなかできないのではないかと思う。むしろ弁護士よりも裁判官出者とか、あるいは刑法の先生で実務経験のある者の意見は非常に参考になるのではないかと思う。
○いわゆる罰則と事故の抑止力の関係がどうあるべきか。現在いろいろな罰則があるが、これが実態としてどういう抑止力があるのか、これは検討する必要があるのではないか。
○民事責任というか、ライアビリティの問題と調査手法の相関関係の問題である。ライアビリティを追及されるということが背景にあると、本当の調査が出来ない阻害要因になっているという点をどう処理するかという問題である。
(2)我が国の海難事故調査の現状と今後のあり方の検討等
 事務局から資料2-1「我が国の海難調査の現状」、資料2-2「関係行政機関の海上交通の安全に関する施策」及び資料2-3「海難調査の今後のあり方」に基づき説明した。
 これらに対して、次の質疑応答、意見等があった。
◎確か首相が施政方針演説の中で、交通事故を今後10年間で半減すると明言している。首相自らが数値目標を出したということで、戦後日本の、国会の、あるいは行政の姿勢としては画期的だったと思っている。海上交通への応用というか、普遍化すれば、行政当局として、陸上交通事故の数値目標と同じような考えが海上交通にも適用されていると認識してよろしいか。
○基本的には自動車の話だと思う。船についてどうするかというのは、また別の問題だと思う。
○それに関連して、国土交通省のほうで、海難事故で300人の死者を200人に減らすという目標を掲げて、何か動いているようであるが。
○今の数値目標は、交通安全施策に関する計画の中でうたったもので、初めてうたったのが2年前ぐらいだと思う。
○海上の安全ということに対して、もう少し統一的な接点があってもいいのではないかというのが、外から見た素人的考えである。「もって海上の安全に資する」というような点が、非常に責任分野がはっきりしない。どこが海上保安庁で、何が審判庁の本来の仕事かという責任分野について、どうも外側から見た場合にはっきりしないという実感を持った。
◎資料の「平成15年度交通安全対策基本法に基づく交通安全施策に関する計画」の一覧表には役所の管轄がたくさん出てくる。もう少し1部局内でできないのかという議論が出てくるのではないか。
◎海難審判庁と海上保安庁の役割について記載があるが、海上保安庁の目的の一つである救助は、実際に船を持っており、職員数も桁違いである。これらに関して、海難審判庁が迅速に海難調査をして的確に事実を把握をしなければいけないというために、いま何が必要であるかということは、もう少し詰めないといけないのではないかと思う。
○海難審判庁と海上保安庁は機能的には分かれているが、今後どうするかということになれば、縦割りではなく、もう少し動けるところがあるのではないか。難しい問題ではあるが検討しなければならないことである。
◎海難が発生すると、海上保安庁は捜査をする。その捜査資料を海難審判庁の審判に生かすことはできないか。
○海難調査は事故直後の捜査が一番大切である。海上保安庁では事実関係を明らかにするため、迅速に実況見分を行っている。一方、海難審判は理事官が調査を行うが、海上保安庁より後手になってしまう傾向にある。必要な場合は、実況見分調書を理事官に取り寄せてもらうというやり方をしているが、実況見分を一緒にやったらどうかとも考える。
◎海難調査に関して、協力関係はできているか。
○そういう道筋はある。あくまでも協力していただくという形である。
◎法律の枠組みとして、海上保安庁の捜査資料を海難審判庁の審判、あるいは理事官の海難調査に貢献させるとか、そういう義務的なものはないか。
○そういう義務的なものはない。
○海上保安庁が海難に即対応して救助し、かつ調査をし、並行して捜査もするということで、海難審判庁が知らない場合に海難を処理している場合がある。海上保安庁から海難審判庁にも通報するという制度も道筋はつくられている。しかし、その捜査資料を海難審判に役立てるために積極的に提供するというような道筋は開いていない。要請があれば、捜査資料、実況見分調書等を出しているということはある。
○今さかんに問題になってきた酒酔い運転。特にレジャーボートなどが問題になっているが、飲酒をして事故を起こしたときの飲酒量は事故直後しか調査できない。これらについては海上保安庁が調べているから、そうしたものも取り寄せてもらって、今後役に立てるようなシステムが、どんどん構築されていけば、非常に海難審判も充実してくるのではないかと思う。
◎大きな海難事故の調査について、例えばダイヤモンドグレース乗揚事件のときに、どこに誰が行ったか、人員の配置などをどのようにやったかを振り返ると、よく分かるのではないか。更に、航空機や鉄道の事故調査は、どのようにされているかも参考になる。逆に言えば、鉄道とか航空はスタッフが少ないが、大きな事故の場合は飛んで行く。そういうものが船の場合はどうなっているのか、今後、そこはどうするのかを検討する必要があろう。
○自動車事故については、現在、茨城県つくば市内に限定されているが、イタルダ(ITARDA 交通事故総合分析センター)がミクロ調査と称して警察と同時に現場へ行き同時に写真を撮ったりしてやっている。ただし優先権については警察が優先している。
○いろいろなケースがあり、それを挙げてみて、どういう形でやられているかということが分からないと、言葉だけになってしまうのではないかという感じがする。
◎「海難調査の今後のあり方」について、書いていることは立派なことで、確かにいいことだと思うが、かなり大変なことである。ヒューマンファクターだけでも1年も2年もかかるし、勧告制度にいたっては、「今後の委員会の検討」と言われるが、そう簡単な話ではない。1年間でこれを全部やるのはとても不可能なことなので、方針はけっこうだが、できることならもう少し的を絞って検討するようにしていくべきではないかと思う。
◎こうした対策を講ずるときに一番大切なのは、いま何が起こっていて、それをどうやって減らすかということだと思う。海難で一番多いのは衝突事故である。そうすると、今の対策の中で、これを減らすために何が役に立っているかという、そのへんのつながりがあるかどうか。その中で海難審判庁がいろいろな対策を講じようというのであれば、どこに焦点があるのかということがはっきりすると大変いいという感じがする。







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