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第2回ヒューマンファクター調査研究委員会
(議事概要)
1. 日時 平成14年7月22日(月) 午後2時から同4時
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 堀野委員、増田委員を除く各委員
4. 議題
(1)海難審判庁における裁決書改善の取り組みについて
5. 資料
(1)座席表
(2)裁決書改善に関するご意見
(3)裁決書データベースの現状
6. 議事概要
 事前に各委員に対して裁決書改善に関する意見等を照会した結果について、高等海難審判庁原委員から資料に基づき説明が行われた。
原委員:第1回の委員会でヒューマンファクター概念に基づく海難調査と言っておきながら、突然に裁決書の改善を持ち出したことについて、当庁では1年前から検討してきたところで、これをお諮りするのに適任の先生方の集まる委員会であったことから、ご紹介したものである。突然不意打ちのようで、皆様方は驚かれたと思うが、本来であれば別途整理して、ご意見をお聞きするべきであったかも知れないと思っている。
◎裁決書改善は大賛成であるが、文章の書き方などについては法律のプロに任せて、本委員会の目的でもある、海難からヒューマンファクターをどのように取り出すことができるかの手法を検討していただきたい。
 更に、海難から出た原因をどのように活用するのか、パンフレットにして海難関係者に配付するのか、強制力を持つ勧告的なものにするのか、さらに、それが最終的には海事関係法令の改正に結びつけるものとするのかを検討していただきたい。
○裁決書改善に関しては、アウトプットとして型を変えることにより実施し、他方、海難調査の分野でヒューマンファクターの観点から、再発防止に資するような情報を取り出せるかを併せて検討していきたいと考えている。
 また、裁決書にできるだけ事実、原因に関する因果関係を詳細に記載することも必要であるが、他方、裁決書を分析して直接海難防止に簡単に役立つような成果物を作成していくことも必要と考えている。
◎原因となる因子が並列的に書かれているので、かえって分かりにくい。複雑な文章で書くより因果関係をフローチャートにまとめる方策を検討すべきである。
○大変難しいことを実施しようとしている。審判をして裁決をするということと、海難を防止するということとは、もともとは同じなのですが、その方向性が違う。
 一時、航空事故の方でも大変問題になったのは、主因、副因というものを分ける調査の方法はおかしいのではないかということで、処罰には、主因、副因を分けることは大切だけれども、事故防止のために苦労しながら主因、副因、すなわちこちらは蓋然性が非常に高いとか、こちらは低いということを分ける必要があるのだろうかという検討が何年か続いた。そこで、告示の場合は、タイム・シーケンシャルに時間の流れが移っていくときに、どこでもって次から次へといろんな問題が起こってきたのかという、タイム・シーケンシャルに、その原因を並べるべきではないかということである。
 事故防止の場合には、「過失」の場合においても言われている「予見性」、これは時系列的にずっと前のところにあり、時間の経過とともに段々と難しくなり、結果、「回避性」というのを直前でやらなければいけない。事故防止は、原因をタイム・シーケンシャルに並べていき、楽に防止ができるという場面と、段々難しくなってくる場面がつながってくる。
 海難調査においてもタイム・シーケンシャルなフローチャートを持ち、それを裁決文ということで表そうとすると大変複雑で、他人には見えない苦労と思う。しかし、それを見えるようにする努力は必要であり、審判の段階では、そういう流れを頭の中に置きながら、審理が行われていると思う。フローチャートで表すか、否かは別として、再発防止を行うために何か手段があるのではないかという気がする。
○フローチャートを利用している事故調査報告書は、原子力安全委員会ではやっているが、航空、鉄道、自動車、米国NTSBの事故調査報告書では見たことがない。二次的な加工として分かりやすくした分析は見たことがある。裁決書の書き方について法的制約はないが、フローチャートを作成する素養も必要とされるので、早急な処理には問題がある。
 また、海難審判法44条は、裁決の告知は審判廷における言い渡しによってこれをすることとなっているため、海難関係人に対して朗読するのが原則になっていること、フローチャートを審判廷において審理すること、等を考えると裁決書にはフローチャートで書くのが理想と考えるが、その実行に当たっては相当の検討を要する。
○ヒューマンファクター概念を取り入れた海難調査の手法として、バリエーションツリー、SHELモデル、なぜなぜ分析などがある。これらの手法が海難調査に取り入れられるかを検討することが主要である。その結果が航路標識や通航方式を変更するなどの「もって再発の防止に寄与する」ということになり、海難審判庁も評価、期待されるのではないか。
○ヒューマンファクターを重視した裁決を出すことになると海難審判庁の業務が増加すると思うが質的にウエイトの低い事件については、刑事における略式裁判の思想を導入して整理することも必要である。
○ヒューマンファクター概念に基づき、一つの事故を分析していくと、ある局面においては、人間は複数のファンクション中、何かが落ちているために災害が起き、これがヒューマンファクターだという言い方もあるが、私が一つ分析した中で、ある事故をそのまま操船シミュレーターで再現して、別の複数のベテランキャプテンに再現してもらい事故を起こしたキャプテンとまったく同じ行動を取ってもらった。そうすると、これは、何かのファンクションが欠けたために事故が発生したのではなく、操船者の個人特性を言うより、環境を変えない限り、他のベテランキャプテンが操船しても、その局面に来ると必ず同じような操船行動をとるという結論を出したことがある。
 つまり、このような海域では航路の形状、あるいは航行援助施設を補足することが、同じような災害を再発させない一番の決定的なやり方ということと結論づけた。このことは、先ほどの何かやらなければいけないものが欠落していたこととは、異質になってくる。
 現在の裁決録は、ひとつの事故が起きるまでのプロセスをずっと時系列的に書いている。これも実は解析するほうから言うと、それなりに非常に有効である。しかしながら、何故そのようなプロセスになったかという背景がどうしても欲しくなってくる。
 解析というフェーズが、海難の再発防止という意味では非常に重要であるが、ひとつの事故を分析して結論を出すというのはすごく手間暇が掛かり、裁決書で全部満たすことは、処理が相当負荷になってくる。従って、最低限の情報が満たされれば研究者などは、分析がしやすくなると考えられる。
 もう一つは、ヒューマンファクターというのは、どの局面で、何を捉えて、それを分かろうとするのか。いろんな意味でのヒューマンファクターが混在して議論されているような感じもするので、少し整理した方が良い。
○ヒューマンファクターというのは、あるシステムを我々が作っているときに、それがうまくいくように動かすための、人間の能力のことを言っている。我々は何か事故があった場合、ヒューマンファクターのネガティブの部分を盛んに見ている。それは非常に少ない確立で事故が起こってきているのです。また、そうではなくて、大変大きな部分は、ポジティブに整っていないシステムを実にうまく動かす努力をやっているわけです。パーフェクトなシステムでなくても、うまく動かしている、人間にはそのような能力がある。
 海難の中に、こうしたほうが非常に良いということの「・・・はず」とか「・・・するべき」とか「規則」とかいうものを一応やっているときにうまくいかず、同種のトラブルが起きることがある。それは「・・・はず」とか「・・・するべき」と言っていること自体が間違いということである。
 これは、裁決を年間800件も出しており、その中で、提案とか要望事項とかをすべて集めてみると、同じことを何度も言っていること自体が役に立たなかったという、見事な証拠となっている。それがヒューマンファクターである。
 要するに、言っても言ってもうまくいかないことの理由は何だというところに、我々ができないヒューマンファクターがあるわけです。それはどのように解決すべきかが浮かび上がってくるように、裁決などを利用できないか。それは、あるシステムの持っている大きなヒューマンファクターであろう。
 我々は、1件、1件に対して、1対1をもって対策ができるという妄想を描いているが、例えば、レジャーボートに乗っているのはみんな人間である。それをもって、種々の対策を講じても同種海難が減少しない方策はだめなのである。別のことを考えなくてはいけないという、それがヒューマンファクターの考え方である。
○ヒューマンファクターを積極的に裁決書に導入することは賛成であるが、特に下級の海技免許取得者に対しても分かるようなものを考えなければならない。
○裁決書の改善を8月実施予定としていましたが、今後、各委員、他有識者の意見等を聞きながら、内部で検討を進めて参りたい。検討結果については、適宜この場でご紹介させてもらいたい。
 
第3回ヒューマンファクター調査研究委員会
(議事概要)
1. 日時 平成14年8月26日(月)午後2時から4時50分
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 羽山委員を除く各委員
4. 議題
(1)裁決書データベースの活用について
(2)海難審判業務全般について
(3)インシデント情報の報告・活用を図る方策について
5. 資料
(1)議事次第
(2)座席表
(3)「裁決書データベースの活用」に関するご意見
(4)サンプル事件のフローチャート表示の試み(松岡委員提出)
(5)「海難審判行政全般について」に関するご意見
(6)我が国の海事分野におけるインシデント情報の報告・活用の現状について
6. 議事概要
(1)高等海難審判庁原委員より資料に基づき説明が行われた。
(2)松岡委員から裁決書改善に関するサンプル事件をフローチャート表示にしたものについて説明が行われた。
 これらに対して、次の質疑応答、意見等があった。
◎裁決書あるいは審判するものはどういう形で裁決書に表すかについては以前から論議しているところであるが、利用の面からどうか。
○海難審判庁は、海難事件に関する資料を一番持っているのであるから、それを有効に利用して、例えば海上保安庁や国土交通省と海難防止の対策を考えることが必要である。
○船会社として裁決録は、従来からオン・ボード・トレーニング(船上教育)に使用していたが、船内業務が繁忙となり、かつ、混乗船の普及に伴ってできなくなった。その他、衝突事件の責任割合の交渉に使用したり、同種海難の事故原因を比較して、情報を注意事項として周知していた。
 また、裁決例集も海難審判の当事者となった場合、典型的な事例として使用した。
○裁決書は今までどおりで良いが、年1回程度パンフレットのような5、6ページ程度のものを作成して、簡単に事例紹介や防止策を出すことが有効な手段と考える。
○一般の人が裁決書を見ることはそんなに多くはない。ヒューマンファクター概念に基く海難防止策を構築する観点から裁決書を有効に使うとなると、裁決書を10年、20年と見て、そこから答えを出し、それを公表すると同時に、場合によっては行政と一緒になって海難を押さえ込んでいくというような方策をとらない限り、一方的な公表だけでは難しい。
○審判庁の仕事は、個別の事故調査、裁決プラス懲戒、一般的な事故の分析、データベース化、再発防止策、広報活動など多岐にわたっている。これらを一つの裁決書で全部カバーしようとするのは無理がある。
○プレジャー関係については、例えばポンチ絵的なもので、このような海難がある、こういうものに遭遇する、だからこういうことに注意しよう、といった噛み砕いたものでないと、海難防止に役立たないと思われる。
○民事裁判においては、裁決書は、証拠として民事裁判に提出される。その際、裁判官が理解できるように、刑事裁判の判決のような形式にとらわれず、のびのびと分かりやすく、例えばなぜそのような事実認定に至ったのかを具体的に記載してもらいたい。
○裁決書データベースは、それぞれ目的の違う者(プレジャーボート利用者、大型船舶の運航者、法的に分析する専門者、ヒューマンファクターの分析の専門者など)に対応したものを作る必要がある。それぞれの現場の人が、「どのようにすれば海難が少なくなるのか。」が分かる情報、分析を提供する必要がある。
○裁決書本来の役割はそれなりに果たしているが、海難防止にいかに役立てるかというところで、現在の枠内での運用面、実行面での悩みがあり、それを如何に解消するかについて行動をとる必要があると認識している。
◎海難審判行政全般についてはどうか。
○審判庁に対しては、短期的には審判の迅速化、中長期的にはIMO決議と現行海難審判制度との問題、懲戒制度の必要性に対する現代の考え方など、ダイナミックな方向転換が要求されていると考える。
○海難審判庁は行政機関として、アンテナの向きが海技の技術者(運航者)に向いていて、「もって再発の防止に寄与する・・・」に関し、海事行政に対して影響を与える道筋がない、又はあっても活用できないというところに問題があるのではないか。
○個人の過失に対する免許の停止・取り消しなどの行政処分に焦点を当てるのではなく、海難原因の背景に焦点を当て、関係行政機関等に対しても改善策を勧告し、実施させることができれば、海難審判行政の存在意識がもっと評価される。
○今後、勧告制度を活用して、日本の海事行政を改革していくという方向に姿勢を変えるのであれば、海難審判行政が有用な位置付けとなるので、海員一人一人の細かい審判も必要であるが、それに止まらないで海難防止策の全体が見えるような方向に変えることが重要である。
○勧告をする以上は、客観性があり、立場の中立性がなければならない。また、どんな圧力に対しても屈しないぐらいの覚悟が必要である。
○現在の海難審判行政を分析、自己点検し、外部評価に耐えられる行政にしなければならない。例えば目標(数値目標を含む。)を設定して、戦略を組み、オープンシステムで、外部評価を積極的に受け入れるようなことを行うことが必要である。
○海難審判庁は、申立のされていない事件も含み、過去における海難調査の結果のデータを相当数持っており、また、このような海のプロの集団組織はそんなにないのだから、これまでに蓄積したデータ、プロの知識をフルに活用し、更に航海シミュレーター等を利用するなど、科学的なアプローチをしていけば、勧告の問題にしても発言力は増すと考えられる。
◎裁決書のサンプルからフローチャートで分析を行った結果から、今後ヒューマンファクター概念に基づいて調査、分析する際に活用できる。
○フローチャートは、極めて具体的なアナリシスで、海難原因の主因や勧告などを検討する際に活用できるため、これを更に進化させてはどうか。







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