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まえがき
 船舶は、経済活動の基盤である円滑な国際物流を支える要として活躍するとともに、豊かな食生活に欠かせない水産物を供給する重要な役割を担って活動しています。
 一方、船舶の活躍、活動に伴って引き起こされる海難及び海上インシデントは、船舶が自動化、巨大化、専用船化、或いは、混乗船化されるにしたがって、その規模が重大化、深刻化し、原因が多様化、複雑化する傾向にあります。
 こうした状況のもとで、海難及び海上インシデントの発生は、これを防止することが急務となっていますが、そのためには、これらの出来事の事実及び原因を究明することが、船舶及び人命の安全、ひいては、海洋環境の保全の促進に寄与することは、IMO決議にも詠われているところであります。
 ところが、従来の、海難及び海上インシデントの事実及び原因の究明に関する調査は、その重点が海難関係者個人の過失に係わる認定に置かれており、海上交通の安全という公共の福祉を目的として行われることは稀でありました。
 このことは、我が国のみならず、他のいくつかの先進海運国においても、同様です。
 一方、最近の人間工学、機械工学、システム工学、信頼性工学或いは、心理学等の学際的研究の発展は、事故の調査にヒューマンファクター概念の導入の必要性を明らかにし、また、それがあらゆる業界の各分野において実践された結果、その実効性が証明されたことから、船舶分野においても、ヒューマンファクター概念に基づいた多角的、広域的な海難調査の必要性、及び、海上インシデントの情報入手とその活用化が叫ばれるようになりました。
 このような社会的要請のもとで、当協会は、日本財団の助成を受けて、「ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活用等に関する調査研究委員会及び検討作業部会」を設置し、海運界や漁業界、学会・法曹界等において、我が国のみならず海外でもご活躍されている多数の専門家により、2年にわたって「ヒューマンファクター概念に基づく海難調査・分析手法の開発」及び「海上インシデント等の危険情報の共有化と活用化のための環境整備」について調査研究を行って参りました。
 
 今般、委員、関係官庁及び関係団体各位の多数の貴重なご意見、ご指導を仰ぎ、また、豊富な資料のご提出を受けるとともに、委員会及び作業部会では毎回長時間にわたって活発にご審議戴き、最終報告書を取りまとめることができました。
 ここに、ご協力を賜りました関係各位に厚く御礼申し上げる次第でございます。
 
1.1 調査研究の目的
 近年、様々な分野における事故調査には、ヒューマンファクター概念に基づく事故調査手法が取り入れられ、顕著な成果が報告されている。また、このような調査手法の一環として、インシデント情報を蓄積し、これを分析する手法が有効とされている。船舶分野においても国際的にヒューマンファクター概念による海難・インシデントの調査、分析手法を採り入れる動きが世界的に活発化しており、IMO(国際海事機関)において、1999年にそのためのガイドラインも設けられたところである。
 しかしながら、海難調査においては、ヒューマンファクター概念に基づく手法の導入は、まさに緒についたところであり、その本格的な展開はこれからの課題とされているところである。
 また、インシデント等危険情報の収集、有効活用の環境整備には、免責・匿名の保証など様々な要件を解決しなければならず、特に、我が国の国民性からインシデントの開示には強い警戒感・心理的抵抗感が潜んでいるため、これを本格的に実施するためには、解決しなければならない課題が山積している。
 このため、
(1)ヒューマンファクター概念に基づく、海難調査手法の開発
(2)インシデント等の危険情報を共有化し、有効活用を進めるために必要な環境の整備、構築
 について調査・研究を行うことにした。
 
◇平成14年度調査研究の内容
 
(1)ヒューマンファクター概念に基づく事故調査
 ヒューマンファクターの定義及び事故原因等の調査分析手法を整理した。
 
 我が国の海難調査の現状を調査し、ヒューマンファクター概念の導入の必要性及び導入に当たっての対策並びに今後の検討事項を整理した。
 
 米国(米国沿岸警備隊(USCG)、米国国家運輸安全委員会(NTSB))の船舶分野におけるヒューマンファクター概念に基づく海難調査の現状を調査した。
 
(1)航空分野におけるインシデント情報の報告、活用体制について整理した。
(2)我が国の海運会社等及び米国におけるインシデント情報の報告、活用体制について整理した。
(3)船舶分野におけるインシデント情報制度の導入に当たっての問題点及び今後の検討事項を整理した。
 
 
(1)海難調査手法についての講演
 ヒューマンファクター概念を取り入れた具体的な海難調査手法について、整理した。
 
 海難調査手法として、IMOコード「海難及び海上インシデントにおけるヒューマンファクターの調査のための指針」が有効であるとの評価と国際会議での海難調査の取り組みを整理した。
 
 USCGが作成した海難調査報告書から「ばら積み貨物船Bright Field号岸壁衝突事件」を解析し、ヒューマンファクターに基づく調査がどのように行われているか等の資料を作成し、検討した。
 
 我が国の自動車、鉄道、船舶、航空における事故調査体制について、日本学術会議からの提言等について検討、整理した。
 
 我が国の公的な海難調査として、海難審判庁のおかれた位置付け、及び今後の海難調査のあり方について検討整理した。
 
 船舶分野におけるインシデント等の危険情報について検討、整理した。
(1)収集に当たっての阻む要因、報告を得るための要点、必須の報告項目を整理した。
(2)共有していくための課題について整理した。
(3)活用方策について整理した。
(4)官民の役割、連携のあり方について整理した。
 
 現在、海難審判庁が保有している海難事件速報のデータを利用し、審判開始の申立以外の海難について、再発防止に資する調査・分析手法を整理、検討した。
 
 ノルウェー王国及び英国の船舶分野におけるヒューマンファクター概念を取り入れた海難調査の現状を調査した。
 
 現行の裁決録に関し、ヒューマンファクター概念を導入した裁決の場合、どのようなデータベースが必要とされるか検討した。
 
(1)委員会等の名称
 学識経験者、海事関係者、関係行政機関で構成する「ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活用等に関する調査研究委員会」(以下、「ヒューマンファクター調査研究委員会」という。)及び同委員会の下に「検討作業部会」を設置して、調査研究を実施した。
 
《委員会》
(委員長)
加藤俊平 東京理科大学教授
(委員)
堀野定雄 神奈川大学工学部経営工学科助教授
黒田 勲 (有)日本ヒューマンファクター研究所長
小林弘明 東京海洋大学教授
冨久尾義孝 (株)日本海洋科学社長
峰 隆男 弁護士(海事補佐人)
半田 收 (社)日本船主協会 海務部長
(増田 恵)
吉田良治 (社)日本旅客船協会 業務部長
厚味三樹三郎 日本内航海運組合総連合会 審議役
松倉廣吉 (社)日本パイロット協会 前会長
伊東佳宏 (社)日本船長協会 常務理事
(村田嘉隆)
久保田 勝 (財)日本海洋レジャー安全・振興協会 理事長
小坂智規 (社)大日本水産会 常務理事
今村敦隆 日本郵船(株)安全環境グループ危機管理チーム長
(喜多祐次郎)
頼成 功 (株)商船三井 海務部長
羽山憲夫 川崎近海汽船(株) 取締役
松岡 猛 (独)海上技術安全研究所 海上安全研究領域長
鈴木章文 高等海難審判庁 総務課長
(池田敏郎)
(原 喜信)
山田豊三郎 高等海難審判庁 審判官
(佐和 明)
清水正男 高等海難審判庁 海難分析情報室長
喜多 保 海難審判理事所 理事官
石橋 明 (有)日本ヒューマンファクター研究所研究開発室長兼事務局長
 
《検討作業部会》
(部会長)
松倉廣吉 (社)日本パイロット協会 前会長
(委員)
伊東佳宏 (社)日本船長協会 常務理事
(村田嘉隆)
久保田 勝 (財)日本海洋レジャー安全・振興協会 理事長
小坂智規 (社)大日本水産会 常務理事
今村敦隆 日本郵船(株)安全環境グループ危機管理チーム長
(喜多祐次郎)
頼成 功 (株)商船三井 海務部長
羽山憲夫 川崎近海汽船(株) 取締役
松岡 猛 (独)海上技術安全研究所 海上安全研究領域長
鈴木章文 高等海難審判庁 総務課長
(池田敏郎)
(原 喜信)
山田豊三郎 高等海難審判庁 審判官
(佐和 明)
清水正男 高等海難審判庁 海難分析情報室長
喜多 保 海難審判理事所 理事官
石橋 明 (有)日本ヒューマンファクター研究所研究開発室長兼事務局長
 
注:( )は前任者







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