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2000/12/21 読売新聞朝刊
[無駄を斬る]富山・熊野川 完成16年、無用のダム 水道水の需要ゼロ
◆自治体に残る借金
 完成して十六年もたちながら、いまだに水道水の供給事業が始まらないダムがある。富山県大山町の熊野川ダム。水道水の需要予測がはずれ、水が必要なくなったためだ。地元の関係市町村は一滴の水ももらっていないのに、ダム建設に伴う借金を県とともに返済し続けている。水需要は行政の予測に反して全国的に伸びておらず、利水というダムの目的も薄れつつある。
 利水のほか、治水、発電を行う多目的ダムである熊野川ダムの計画が持ち上がったのは、一九七〇年代前半。熊野川下流の富山市、婦中町など六市町村に一日計十万トンの水道水を供給する計画だ。
 ダムの建設費は総額約百五十四億円。このうち水道事業の分担は約七十一億円と半分近くを占めた。国庫補助などを除いた約三十三億円を企業債、つまり借金で賄い、水道料金で返済する計画だった。
 しかし、ダムが完成した八四年には、すでに新たな水の供給は必要とされなくなっていた。人口が伸び悩み、一人当たりの水使用量も節水意識の高まりなどで予想されたほど増えなかったためだ。困った富山県と関係自治体は協議の結果、借金の四分の三を県、残りを市町村で負担することを決めた。
 富山市水道局は「市内の川から引く水だけで十分足りている」としており、ほかの町村も同様の状況だ。
 三十三億円の借金の返済は二〇一四年度まで続く。利子がかさみ、返済総額は百八億円に膨れる。
 富山市の場合、今年度の負担は七千四百万円。これまでに約十一億六千万円を支払った。昨年度の水道会計は四千六百万円の赤字。島輝雄・同市水道局次長は「計画段階だったらやめられるが、造ってしまったから仕方ない。何とかならないものか」と頭を抱える。
 県もまた、年間約三億円を一般会計からの無利子借入金でひねり出す。水道会計の赤字に悩む県にとって、この額は負担だ。
 同じ問題は、県内に今年度完成する建設省直轄の宇奈月ダム(宇奈月町)でも起きている。県は下流域の魚津、黒部市など五市町に一日五万四千トンの水道水を供給する予定だったが、五市町とも「今は水は必要ない」とし、水道水供給事業のめどはついていない。
 県企業局水道課は「ダム建設は長期間かかり、計画と現実の間でかい離を生んだ。しかし、恒久的な水源のため必要」と主張する。
 国土庁が七八年に作成した長期水需要計画では、七五年に年間三百六億トンだった都市用水(生活、工業用水)の需要が九〇年には五百七億トンに伸びると予測したが、実際は三百二十二億トンにとどまった。同庁が八七年に同計画を見直したウォータープランでも、二〇〇〇年には四百三十億トンと、実際より大幅に上回る予測となっている。
 
 
 
 
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