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1997/05/23 読売新聞夕刊
熊本・川辺川ダム本格着工、五木の里 反発と歓迎
◆川辺川ダム本格着工 「清流を守る責任」 反対派 「地域再生に期待」 村長
 三十一年ぶりの本格着工へ、反発と歓迎と――。熊本県相良村の川辺川ダム建設予定地で、本体着工の前提となる仮排水路トンネル工事が始まった二十三日、市民団体は「環境や流域住民に何の配慮もせず強行した」と改めて反発の声を上げ、抗議行動をした。一方、同県五木村から相良村に移住した人たちや行政関係者は「一日も早く完成を」と歓迎するなど、子守唄(うた)で知られる山あいの村々は、本格着工に対する複雑な思いが交錯した。
 「子守唄の里・五木を育(はぐく)む清流川辺川を守る県民の会」の國徳恭代代表は「まだ、進める段階ではない。建設省が住民の意見をどれほど聞いたのか、不信感がある。当初の目的が失われていることを、より多くの県民に訴えていきたい。貴重な清流を守っていくことは次の世代への責任と感じている」と、怒りをあらわにした。
 「球磨川から全てのダムを無くす会」の原豊典代表も「建設省の姿勢は全く変わらなかった。環境へのダメージは取り返しがつかない。工事を延期して、住民らと話し合いを持つべきだ。環境への影響を監視しながら、工事中止を強く求めていく」と訴えた。
 十四年前、五木村から相良村に移住し、茶園を営む水没住民の渡辺和夫さん(51)は「時代の流れ。来るべきものが来た。待ち望んでいたことは事実。ただ、水が来るのはまだ先のことだし、現実の生活のことしか考えていない」と、本格着工に冷静だった。
 ダム建設後の立村計画による新しい村づくりに取り組む西村久徳・五木村長は「本格着工へ向けた工事がようやく始まり、ホッとした。村はダム建設という苦渋の選択をしたが、村の再生に向け、代替地造成工事などを急いでもらいたい」と話した。
◆地元政党、対応分かれる
 川辺川ダムの本格着工について、熊本県下の各党の見解を聞いた。環境保護と公共事業見直しで揺れる長崎県・諌早湾と同じように、着工にブレーキをかける声や戸惑う声、事業の正当性を主張する声などに分かれた。
 民主党熊本の田中昭一代表は「(川辺川ダム事業審議)委員会で、事業継続を決定した際、地元、環境に関心を持つ市民の意見を十分に聞くということだったが、建設省はその努力をしていない。諌早湾のように今、公共事業の見直しが言われている。これは国の行財政改革の核になる。環境、災害、公共事業の見直しの観点から再度、決断すべきで、着工は拙速すぎる」。
 社民党熊本県連合の野田邦治副幹事長は「うちは今まで反対の態度は取って来なかった。だが、現地では反対している党員もいる。三十年前と使用目的がどうなっているのか、変わってきているようだ。今後の進展状況については、自然と環境の問題に検討の余地がある」、自民党熊本県連の米原賢士幹事長は「手順を踏まえて、長い間積み重ねて進めてきた事業であり、必要な事業だ。反対の声が一部にあったとしても、それを大きく取り上げるのはどうか。粛々と進めるべきだ」と話す。
 また、福島譲二熊本県知事は「(事業継続は)ダム事業審議委員会が、専門家も含めて出した結論。(反対など)議論があることを承知で下した判断だと思う。地元でも『一日も早い着工を』というのが大方の期待。反対が一部にあるにしても事実上の着工は当然ではないか」と述べた。
 
 
 
 
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