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1996/07/29 読売新聞朝刊
[社説]雨だのみから抜け出したい
 
 渇水が懸念されていた首都圏に梅雨明け後、大雨が降り、水不足の不安は、ごく一部の地域を除いて遠のいたようだ。神奈川県も給水制限を全面的に解除した。
 水問題は、このように天気次第の側面が強いため、水不足が解消すると、その重要性を忘れて、とかく水をふんだんに使う生活に戻りがちだ。だが水を粗末に扱うと、いずれ手痛いしっぺ返しを受けることを忘れてはなるまい。
 日本は水の豊かな国のはずなのに、なぜ毎年のように水不足が問題になるのか、と首をかしげる人は少なくないだろう。確かに、日本の年間降水量は世界平均の二倍近い。しかし人口一人当たりの降水量は、逆に五分の一程度にすぎない。
 降水量の地域的なばらつきも目立つし、全国的にみれば最近、少雨期にある。
 ところが水の需要はほぼ一貫して増えている。工業用水や農業用水は横ばい状態だが、生活用水の使用量が伸びている。
 水不足というと、政府はダム増設の必要性を強調するが、ダム建設には完成まで長い時間と巨額の費用がかかる。環境破壊を指摘され、適地も少なくなっている。
 ダム建設を考える前に、なすべきことがいろいろあるのではないか。
 ダムからの放流をもっと適切に行えば、夏の渇水の緩和に役立つだろう。梅雨期の前などにダムの貯水量を調節することは治水上、必要だが、建設設計当時に定めたダムの水位基準だけをみて放流する機械的なやり方では、無駄な放流をしやすい。
 確度を増してきた長期予報なども参考にして、放水量を機動的に調整すべきだ。
 既設のダム同士を導水管で結ぶ仕組みも促進したい。水をためきれない小さなダムから、近くにある貯水量の大きなダムに水を送り込めば、水を有効利用できる。
 森林の保護も大切だ。山林は、「緑のダム」として水を蓄える。水源地を守るため支援していきたい。
 即効性のある水不足対策は、やはり節水だ。水道水を流しっぱなしにして歯磨きをすると、一分間で六リットル余りの水が無駄になる。朝シャンもほどほどにしたい。
 一九七八年の大渇水の教訓から、福岡市は節水要綱を制定し、水道の蛇口から出る水の勢いを弱くする節水コマや、節水型便器の使用を義務づけた。その結果、一人一日当たりの水道水使用量は、全国平均を一五%近く下回っている。こうした節水運動の輪を広げたいものだ。
 下水や産業廃水の再生利用も、欠かせない。雨水は、水洗トイレや冷房、散水用などには十分使えるが、まだそれほど利用されていない。再生利用施設づくりを税制面などでもっと後押しする必要がある。
 最近、水の量の確保とともに気になるのは水質の問題だ。ミネラルウオーターの売れ行きが好調なのも、水質に対する不信感が高まっていることの反映だろう。安全でおいしい水道水の供給が望まれる。
 八月一日から「水の週間」が始まる。限りある貴重な水資源のありがたさを、改めて考えてみたい。
 
 
 
 
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