球磨川の治水上最も重要とされる熊本県八代市の萩原堤防を、大洪水にも対応可能な強化堤防にする計画が白紙に戻されていたことが分かった。国土交通省八代河川国道事務所が毎日新聞の取材に対して明らかにした。川辺川ダム建設をめぐって反対派が「国の計画通り強化堤防にすれば、ダムがなくても八代は安全」と指摘していたことから、「ダム建設に不利になるため中止したのではないか」との声が上がっている。
国は01年3月、堤防の厚みを大幅に増したり、防水シートを施し、球磨川の治水基準である80年に1度の洪水よりも大きな洪水(超過洪水)でたとえ越流しても、急には破堤しない強化堤防の整備に着手すると発表。同ダムをめぐる住民討論集会でも、国は「強化堤防はやる」と明言していた。
国から委託されたコンサルタント会社は99年3月、200年に1度の大洪水でも堤防からあふれないため被害をゼロに抑えられ、事業費は29億円で済むとの検討結果を出している。
しかし、同事務所によると、国が02年7月に策定した堤防の設計指針と合わない部分があることが分かったため事業をとりやめ、堤防を安定させるために川底がえぐれた部分を埋める工事だけを独立して行うことにしたという。
同工事が終わった段階で新たに堤防の拡幅計画を立て直すが、超過洪水にも対応できるものにするのか、堤防の厚さが不足している部分を補うだけで終わるのかは未定だという。
これに対し美しい球磨川を守る市民の会の出水晃代表は「ダム計画を守るために中止したとしか思えない。ダムは超過洪水には対応できず、ダムを造るために強化堤防を先送りするのは時代に逆行している」と批判している。
八代市の中島隆利市長は「萩原堤防は市の生命線で、抜本的な強化が必要だ。国もその必要性を認めていると認識していたが、白紙撤回が事実であれば大変なこと。国に説明を求めたい」と戸惑いを見せた。
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