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2001/07/07 毎日新聞朝刊
[社説]ダムのムダ これが本当の水増しだ
 
 ダムや堰(せき)がいかにいいかげんな計画によって、無駄に建設されてきたか。総務省が6日に出した「水資源に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」は、その実態を明らかにした。計画の硬直性と既得権化、省庁間の縦割り、特殊法人の無駄遣い、審議会の形がい化など、国が行き詰まりを招く悪習が凝縮した例として、公共事業を進める上での教訓とすべきである。
 国土交通、農林水産、厚生労働、経済産業各省への勧告によると、7水系で六つに分かれた水資源開発基本計画を調べたところ、需要見通しに対し、実際に使った水の量は平均44%にとどまっていた。ダムは見通しに基づいて造るから、本当に必要な倍以上の規模にして、供給のあてもない水をためてきた。工業用水の場合にかい離が著しく、筑後川で需要実績が見通しのわずか2%、利根川・荒川も見通しの31%しかなかった。
 こうしたズレが生じた大きな要因は、水の需要が昭和40年代までは高度成長によって年々大きく伸びたが、横ばいとなった昭和50年代以降も、右肩上がりの発想を役所が変えずに、建設計画を推進してきたことにある。
 もし、水系別にほぼ10年ごとに計画を改定する際、実際に水をどれだけ使ったか調べておれば、愚は犯さずに済んだ。ところが、その時点で分析は全くなかった。しかも、旧厚生省が「人口が増えそうだ」、旧通産省が「工業団地を造るから」、農水省が「農地を広げる」と主張すれば、大ざっぱに積み上げた量が新たな「需要見通し」と命名され、ダム建設が必要な根拠だとされた。
 計画は決定前、国土審議会(以前は水資源開発審議会)に諮られるが、ここでも需要見通しの積算根拠や需要実績とのかい離に関する資料は、示されなかった。官僚の説明に、審議会委員も協賛するだけで、チェックの役割を全く果たしていなかったことになる。
 その後の閣議決定は計画に権威を与え、計画は途中で見直されることがほとんどないまま、水資源開発公団の手で建設が進んだ。半分しか使わない水をためるため、多くの山村が移転し、水没した。
 工業用水の需要がなければ、上水道に振り向けて利用できるのに、中央官庁の縦割りが地方行政まで貫く悪弊が、この転用を妨げた。四国の早明浦(さめうら)ダムの場合、331億円かけて建設しながら、工業用水として23年間、一滴も使わなかったのに、流域市町村が求める飲み水にも回さなかった。
 勧告は水資源開発公団が抱えている必要性のない業務の廃止、高コストを生む随意契約の見直しも求めた。国交省は既に新規のダム事業凍結を打ち出したが、勧告からみれば、同公団はその役割を終えたとみるべきである。
 総務省は需要見通しの精度を高め、計画の達成度を途中で点検することなどを勧告した。しかし、10年前の行政監察では、ダム建設を後押しする勧告をしていた。行政のお目付け役なら、もっと早く気づいてほしかった。
 
 
 
 
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