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2001/04/15 毎日新聞朝刊
[社説]ダム見直し 既存施設も聖域ではない
 
 田中康夫長野県知事の「脱ダム宣言」をはじめ、ダムの是非論議が堰(せき)を切ったように活発化している。
 高知県では四万十川の家地川ダム(窪川町、正式名称・佐賀取水堰)の水利権を3分の1に短縮することを糸口に、撤去も選択肢に入れた検討が始まった。計画、建設中のダムはもちろん、稼働中のものも聖域ではなくなった。すべてのダムを、論議のまな板に載せる時期だ。
 家地川ダムは四国電力が所有している。ここで水を取り、佐賀発電所(1万5000キロワット)で水力発電に使ったあと、別の伊与木川に流している。
 河川法に基づく通達で、発電用の水利権はおおむね30年とされる。今年は3回目の更新期だった。国土交通省四国地方整備局は3月、橋本大二郎・高知県知事らの意向も入れ、期間を10年に短縮して認めた。同時に発電用の取水を減らして、四万十川への放水量を大幅に増やした。
 家地川ダムについて、「河川環境が悪化した」との理由で、5町村議会が撤去を求める決議をしている。橋本知事も「四万十川にダムはふさわしくない」と、将来の撤去を示唆する発言をし、短縮された10年を四万十川全般を考える期間にした。
 小さな動きのようだが、与える影響は大きい。全国各地のダムには、水利権がからんでいるからだ。
 ダムは経済成長の波に乗り、建設が続いた。公共事業の中で、ダム建設を含めた治水事業は、道路整備に次ぐ位置を占める。しかし、「まずダムありき」の時代は終わった。
 ダムは治水、利水の役割を果たすが、一方で川の様相を変え、水質を悪化させる恐れがある。国土交通省が計画した熊本県の川辺川ダムは、球磨川漁協の反対で着工が難しくなった。海の汚染を心配する不知火海の漁民が、反対運動に加わったことでも、影響の大きさがわかる。
 既存のダムも含め、水資源の確保と活用、環境問題、地域開発など、幅広い視野で再検討すべきだ。
 時期もいい。1997年の河川法改正で、河川行政に環境の視点を加え、住民参加も打ち出した。旧建設省は公共事業を見直し、46のダム事業を中止した。水需要、電力事情もひっ迫はしていない。
 旧国土庁は99年、水需給計画の予測を下方修正した。ダムは長期の見通しを立てて計画、建設する。予測が外れることはある。その時には、素直に見直せばいい。
 静岡県は、着工直前だった太田川ダムの高さを2メートル程度下げることを決め、設計変更に取りかかった。水の供給を受ける市町が、減量の申し入れをしたからだ。計画段階から、人口予測や生活環境が大きく変わっている。このような状況の変化は、各地で起きている。
 国は治水に対する考え方を方向転換しようとしている。川が氾濫(はんらん)することも前提にしたうえで、住宅地などを堤防で囲む「輪中(わじゅう)」も復活させる。治水事業全体の中でダムをとらえ、一つずつ検証する必要がある。
 四万十川の将来を検討する組織には、県や四国電力のほか、関係する自治体や学識経験者も加わる。もしダムを撤去するなら、その費用はどこが負担するのか、ダム機能の代替策をどうするのかなど、議論すべきテーマは多い。
 
 
 
 
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