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2001/03/26 毎日新聞朝刊
[再考・公共事業]第1部 ダムと干拓/6止 「防災」で守る「長崎半世紀の努力」
◇「農地はおまけ」揺らぐ御旗
 「もっと知ってもらいたい諌早湾干拓事業。」
 長崎県は26日、こんな見出しの全面広告を東京の夕刊紙などに出す。防災目的を強調して諌早湾干拓事業(諌干)の必要性を訴える内容だが、もう一つの目的「農地造成」には触れていない。23日の記者会見でこの点を問われた金子原二郎知事はこう答えた。
 「私は最初から防災が主で(諌干で造る1500ヘクタールの)土地は結果的に生かさないといけなくなったと思っている。防災事業だけだと県の負担が大きくなるから、干拓事業にして負担が少なくなるよう国が配慮してくれた」
 庁内中継で聞いた農林部職員は頭を抱えた。「農地はおまけ」と知事が認めたも同然だったからだ。
 
 有明海沿岸は高潮被害の頻発地帯だ。福岡、佐賀両県の対策は高さ7メートルの防潮堤防。長崎県は干拓事業による潮受け堤防を選んだ。県試算によると、諌早湾岸に総延長50キロの防潮堤防を造った場合、建設費は1800億円、うち県負担は800億円。対して、諌干の潮受け堤防は1527億円、うち県負担は318億円だった。「福岡のような商工業地帯も、佐賀のような穀倉地帯もない離島と半島の長崎にとって、安上がりで農地まで造ってもらえる諌干は玉手箱のような話だった」と県幹部。
 農地造成にはさらに1000億円近くかかるものの、県への払い下げ予定価格は約100億円。堤防内は閉め切り後も予想外に淡水化が進まず「造成地は優良農地にならない」との指摘もあるが、別の幹部は「4000メートル滑走路が4本取れる平たん地が100億円で手に入る。県にとっては大変な財産だ」と言う。
 潮受け堤防には諌早湾横断道路という機能もある。延長7キロの堤防上には車道ができ、県は観光道路として開放する方針だ。
 
 「自主財源の乏しい田舎の役人は必要なものを安く手に入れるため、国の制度を熟知し、許認可権のある官庁に人脈を築くのが仕事。時代遅れと言われても、それが地方の現実だ。農水省が今になって『排水門を開ける』というのは1952年の大干拓構想から半世紀にわたる長崎の努力を無にすること。絶対に認められない」。諌干に長年携わってきた県関係者の言葉だ。
 県庁内では「排水門を開ければ事業変更になり、農水省の一方的な約束違反。県の負担金を返してもらう」との声も上がる。そこには「排水門開放で干潟再生を目指し、防潮堤防整備と高潮の危険が高まった際の排水門閉鎖で防災機能も確保する」という選択肢はないのだろうか。
 排水門を開けるか否か。結論は27日の第三者委員会にゆだねられている。=おわり
 
 第1部は報道部・竹花周▽福岡総局・市村一夫、西脇真一▽熊本支局・平地修、米岡紘子▽長崎支局・綿貫洋、久保田修寿が担当しました。
 
 
 
 
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