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教育上の視点から
1. 学生気質にも変化の兆候か
同済大学 851 田中恒生
 「中国は上海から変わる」という。学生気質はどうだろうか。難関を突破してきた学生たちは、大学入試まで猛勉強の日々で味気なかった、今は余裕があると。日本語学科では学習意欲継続のためクラスの入れ替えなど工夫をしている。携帯電話はほぼ全員、パソコン所有者もかなりの数である。大都市と地方出身者とは、興味関心や生活スタイルが異なるように感じる。自宅通学者はファッション、旅行、化粧などにも関心を持っている。
 日本語学科の教師は16名(日本人2名)。担当は2年会話、3年作文、4年文学と新聞、専科会話。7コマ14時間。2・3年は1クラス18名の2クラス、4年は3クラス合併の59名。日本語学科教師専用室があり、中国人教師との交流がもてる。1年は別のキャンパス、2年以降は本部のキャンパス。2年では4級試験(能力2級程度)、3年では能力1級試験、日本での1週間のホームステイ。4年では日系企業での実習、8級試験(能力1級程度)ときめ細かな過程を経る。今、大学は総合大学を目指して発展をつづけている。日本語学科もいよいよ来年度から大学院が設置される。
 
2. 流れのままに授業をすすめている
重慶医科大学 921 杉原 直
 二年目になる。今年は一般学生も対象である。講習会で使った教科書を使用している。出席もとらない、テストもしない、フリー参加の授業であるから、毎時の授業がむつかし過ぎたり、面白くなければ、学生はいなくなってしまうだろう。と、英語の先生と話していた。でも、英語は一定水準の試験に合格しないと進級できないから、授業をサボるわけにはいかない。日本語は第二外国語だから、枷がない。その点手抜き授業はできない。
 今、三つのクラスで授業をしている。月、水、金の夜は5〜8名の中級クラス。この中には教師や銀行員も含まれている。火の夜と土の午前は初級クラスで25名前後。金の夜は階段教室で100名程の一般学生を対象とした全くの初級クラス。それに木曜の午後40分間の授業を四川第二外国語学校で頼まれている。授業の準備のため、いつも30分前には教室へ行くことにしている。
 金曜の授業で「らりるれろ」と「なにぬねの」の発音を練習するために、弘田竜太郎作曲、北原白秋作詞の「雨」5番「雨が降ります 雨が降る 昼も降る降る・・・」を唱ったら、次の日、次の時間は“さくら”を教えてほしい。“あいうえおの歌”を教えてほしいなどと電話がかかってきた。
 「私が皆さんに教えることが出来ること」について最初に話しておいたから、流れのままに授業を進めていけばよいと思ってやっている。
 
3. 授業の楽しさが施設・設備の悪さを補っている
天津商学院 836 久下順司
 私の主たる授業は夜間の自由選択の初級講座(有料)である。昨年までは1クラス75人と大人数であったが、今期から1クラス39人と改善された。週2回半年コースなので、ちょっと日本語がわかりかけたところで終了、心残りな授業と成っている。OHPテープレコーダー。毎日行う小テストのプリントなど、すべて個人負担で教材・教具の面では決して整っているとは言えないが、学生は礼儀正しく、熱心で、授業を行うこと自体が楽しく、施設・設備の悪さを補って余りある。
 他に中学・高校で6年間日本語を勉強してきたという中級のクラスをも担当しているが、知識の量に比べて聞く・話す力は極めて貧弱。会話を中心に授業を進めているが、ここでもテスト対策としての聴解(四肢選択)の技術の習得を望む声が多い。
 教師のクラスは特定の教材を使わずに、日々の出来事を題材にフリーに話し合う中で助詞、単語、表現の添削・助言・指導を行っている。
 
4. 教師増員で勤務条件改善
山西師範大学 931 前田潤子
 昨年度は、日本語学科生27名及び英語学科の日本語副専攻生300名弱に対し4名の教師で対応していたため、全員オーバーワークの惨状。今年度は、日本語学科25名分の学生数増に対し、日本語教師1名、中国人教師3名の増員があり、持ち時間上の勤務条件は大幅改善。但し、中国人教師は、日本語学科主任以外、全員日本在留経験もなく、日本語習熟度に問題あり(学生の優秀な者に及ばず)、予定の担当課目変更の余儀なしなど、10月半ば現在で担当課目及び時間数が未確定。また上記の事情により、さまざまな形で中国人教師のレベルアップに当たらざるをえず。同クラスを教える教師間でも情報交換皆無など面食らうことも多いが、反面、全面的に任されているのでやりやすくもある。学生はおしなべて素朴かつ勤勉、欠席はほとんど無し。劣悪な環境(外国語学部専用のビル建設が予定されてはいるが実現は数年先。目下は教室不足で学生は自習の場なし。そして学内図書館の座席は有料!など)で精励する彼らを見るにつけ、こちらも勢い懸命にならざるをえず、という状況。
 
5. ご多分に洩れず女子学生数が男性を圧倒
長春工業大学 989 氏名 前田充教
 長春の名園「南湖」と隣接して、大きな道路が東南面を走り、終日多数の車が行き交っている賑やかな環境の側に本校があり、バスで15分ほど離れた所に芸術学部及び外国語学部の校舎がある。本校は前名を吉林工学院と言い、昨年創立50周年を契機に、現在名に変更した。学生数はおよそ、12,000名で、その大部分は本校校舎で学習するが、前述の学部学生は別校舎が主な学習場所となっている。教師の授業の移動については、本校舎と別校舎間に、講義時間に合わせて大学の専用定期バスが運行されていて通学には便利である。
 学生は、全国各地から来ていて、真面目な受講態度で教室に臨んでいる。外国語学部の学生の大半はご多分に洩れず女性の数が男性を圧倒していて、受講生のおよそ三分の二は女性である。真面目で真摯な学習態度ではあるが意欲の面から言えば必ずしも、首肯出来ないのではないかという面がかいま見える。
 周囲には吉林大学や長春外国語学院やその他の大学、学校があって、交通の便はもちろんのこと、学生の生活面、学習面での不便、不安はほぼ皆無ではなかろうか、と想像することができる。
 
6. 躍進する学院
黒竜江東方学院 973 廣瀬辰夫
 ハルピン市郊外にある本校は、故小平主席の改革・開放政策に則り設立された私学の学校である。本年度10月20日、創立10周年の記念行事が開催された。現在、約6,300人の学生が在籍し、将来的にはこの倍が計画されており、現在建設中である。躍進する学院という印象をうける。
 外国語学部日本語学科は3年目と、その歴史は浅い。試行錯誤を重ねながら、教育課程や教育内容などをより充実させていくという発展途上の状況である。それだけに日本人教師に対する期待は大きいようである。
 ほとんどの学生が大学に入学してから日本語に接するため、既に中・高で日本語を履修した学生との学力差が大きいので、本年度より習熟度別の学級編成が実施された。しかし、教材は学生の実態に即したものではないように思われる。
 今年度より「外国語まつり」が実施され、スピーチコンテスト・エンターテイメント・講座など日本語を使っての表現や聞く力をつけようと頑張っている学生の活動に感動した。
 まず「日本語を話す」次に「正しい日本語」そして「美しい日本語」をモットーに教えている積もりが、逆に学生達に教えられている。まさに「教えることは学ぶことである」ということを寒き異国の地で痛感している。
 
7. 改めて教育の原点を思う
山西師範大 905 寶島敏子
 本科生の日本語科が開設されたのは現三年生が初めてと聞く。隔年募集で一年生のクラスができた。学生の急増(卒業生の倍の新入生とか)で宿舎建設が間に合わず、10月10日前後に入校。サーズの影響があったというが、宿舎に入った時点でなお生活上の水まわりをはじめ、居室以外は未完成であった。教育以前の問題に思える。そんな環境の中でも健気に通学してくる学生達がいとおしく思える。
 一年生が入校するまでと、毎日自宅で行っていた自主講座の「会話」で語った三年男子学生の言葉。「小・中・高校を通じてテキスト」などで学んだ日本や日本人は嫌いだった。大学は英語を希望して外国語学部を受けたのに、意に反して日本語に回された。でも、それが人生の転換でもあった。換えてくれたのは献身的な日本人日本語教師である。今では日本も日本人も好きだ。留学もしたい。」
 他の学生達もうなずく。一時的な世辞だけではなさそうだ。改めて私以前の日本人教師に感謝。教育の原点、人とのつきあいの原点はここにあると思う。
 
8. 中・朝・英・日の4カ国語の人材育成
延辺大学 965 橋本理市
1. 広くて清潔なキャンパスの東側に外国部学部の建物があり、日本語、英語、ロシア語、朝鮮語学部がある。日本語学部は3階に2室、5階に1室あり、日本人教師専用の部屋がある。各種書籍、雑誌、ビデオテープ(VHS、DVD)などが備えられている。但し各教室にテレビは設置されていないので、ビデオを見せる時は専用の部屋を使う。
 日本語教師専用の部屋ではインターネットはできない。プリントはすべてコピー機で行い、印刷機のようなものはない。授業は新館や師範学部の建物で行うので移動が大変である。
2. 生徒は、日本語学部の場合、ほとんどが朝鮮族で、漢族はクラスに2〜3人しかいない。従って生徒が常時使用しているのは朝鮮語である。1クラス25人位で、女生徒が2/3を占め、みんな純朴で従順、勉強熱心で、授業は毎日が張り合いのあるものである。礼儀正しく、長上を敬い、気持ちよく仕事ができる。
 中学校から日本語を習いはじめて中高で6年間勉強してくるため、大学へ入った時には大体日常会話に不足はない。しかし、近年英語を外国語として教える中高が増え、日本語を全く知らない生徒が大学に入ってきている。中国語、朝鮮語、英語、日本語の4ヶ国語の話せる人材育成という新しいテーマに現在とりくんでいる。
3. 日本語教師は私を含めて3人、大学院生とJICA派遣の先生がいる。3人が同じ宿舎にいるので、時々情報交換の会をもっている。日本語学部の主任はじめ先生方が大変気をつかって丁寧に対応してくれるので何でも相談できる。
4. 課外活動やクラブの顧問(短歌会や新聞部)をたのまれることもあり、時間の余裕のあるかぎりそれらの活動にも出席して指導をしている。
5. 生徒はほとんど携帯をもち、メールアドレスも持っているので、それを通して指導をすることもできる。
 
9. 日本語でモノを思えるように
中国人民武装警察隊学院 862 宮野和代
 本年担当する初対面の二年生(概ね日本語学習歴一年未満)に簡単な自己紹介を書いてもらった。何と三クラスの大半がしっかり日本語を勉強して、日本を訪れる夢を抱いているという。最近、先の「七三一部隊」への風当たり(夜のゴールデンタイムにTVでも特集を組んでいる)が強い中、〈しかも当院は軍校〉うれしく有難いことである。
 そこで、漢字、語彙、コミュニケーション、聴解の各実力テストを行ったところ、正答率は前記の項目順に下がっている。誤りは専ら中国語で考える日本語の読み書き学習を物語っている。日本語本来の意味、響きを習得させる工夫をこらす必要がある。〈願わくば日本語から日本人の発想を知っていただきたい。〉
 分かり易くする為に、実物、絵、ジェスチャーを多用すると、理解が深まるようだ。二ヶ月目に入ると、質問をしに来る。(質問デキルヨウニナッタ)学生も現れて喜ばしい。何とか「日本語でモノを思エルように」を目標に、ロールプレイや作文を課したり(自発的な日記等の添削依頼者がふえている。)して体得させたい。
 ともかく、根気強く。多角的なドリルが肝要と思う。因みに日常会話に不可欠な敬語はその都度教え、挨拶を交わす折りはお辞儀もする。







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