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若狭湾3 小浜
魚の食べかた・小浜編
 
浜焼きサバ ©(社)農村漁村文化協会
 
 
ホウボウの刺し身
 
 
ヘシコ(左)とナレズシ(右)©(社)農村漁村文化協会
 
 
ヘシコの断面
 
●魚の流通と保存
 今はオーストラリアから生きたタイを空輸して、刺し身で食べることができる時代である。かつては海からどのくらい離れているかによって、魚の食べかたもちがっていた。魚にもよるが、刺し身で食べられたのは、漁村や魚市場の周辺だけで、海に遠い多くの人は塩魚を食べていた。さらに山間では干し物が多くなる。
 またさまざまな保存方法もある。サバを塩とぬかで漬けこんだのがヘシコ。ヘシコをさらにこうじに漬けて発酵(はっこう)させたのがナレズシ。いずれも新鮮なうちに加工しなければならないので漁村でつくられていた。
 豊富な魚たちをいつでも、よりおいしく食べようとする工夫が、さまざまな調理方法を生み出してきた。
 
サバ
 
 
 サバは世界の海に分布し、人びとの食卓をにぎわせている魚である。この魚、上半身に波のような模様がある。よく見ると透明の皮の下、つまり肉の表面に、この模様が入れ墨のように入っている。不思議なことに、ウロコがない魚かと思ったのは、スーパーの生サバを見たからで、小さなウロコは水あげされるときに、ほとんどが抜け落ちるという。
 
 30年ほど前、佐渡島で定置網(ていちあみ)の網あげを手伝ったことがある。この時、ひとりの漁師のじいちゃんがとれたてのサバを船上でサッと刺し身にして、口に放り込んだ。私も真似すると、脂(あぶら)が舌の上でとろけ、甘みが広がった。1匹のサバをまたたく間に平らげた。船頭やほかの漁師たちが心配顔で見ていたのは「サバの生き腐れ(いきぐされ)」を気にしてのこと。人によってはジンマシンがでることもあり、刺し身ではあまり食べない。
 このじいちゃん、気にする風もなく、つぎつぎと口に放り込んでいたが、つぎの年、サバの刺し身に大当たりした。会いに行くとゲッソリやせ、かつてのふっくらとした姿ではなかった。聞けば十日も前からで、食べ物はすべて直通。そう言いながらもまた、フラフラしながらトイレにかけ込んでいった。
 
 日本人は古くから刺し身を食べていたが、これは新鮮なときだけに限られた。刺し身にはならない魚も、毒を持つ魚もある。日本の沿岸にはいろいろな魚がとれるので、さまざまな食べ方を体験して、刺し身、煮物、焼き物、酢じめ、つけ物、干物など多くの調理方法と保存方法を開発し、魚食の文化を発達させていった。







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