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Q & Aセッション
Q: 生活習慣病はその土地の社会性や文化と結びついており、撲滅は難しいと思われるがどうすればよいか
A: 土地の人々の生活環境やライフスタイルを変える必要がある。タバコを例に挙げれば、学校教育を徹底したりタバコの広告を廃止したり税金をかけて値段を上げたりする。アルコールにしてもそうだが、それに依存してしまう背景には社会情勢や暮らしの不安定さがある。その解決なくして生活習慣病の撲滅はできない。
 
 生活習慣病というからには、やはり病気を単に治せば終わりというのではなく、その病気に至った背景の生活にまで注目しなければならないのであろう。Galea先生の話から、そのことの必要性を学んだのと同時に実践することの難しさが感じられた。
 
14:00〜14:30 Reproductive Health
Dr. R. Pang, Regional Advisor, Reproductive Health
 
 Reproductiveとは「生殖の・・・、多産の・・・」という意味である。よってReproductive Health(以下RPHと略す)は日本語で言うところの母子保健に近いのであろうか。
RPHの定義
 完全なる身体的、精神的、社会的に健康である状態のもとに、安全な性生活及び家族計画をすることができること。
 
具体的には
・家族計画の教育、コンサルト
・妊産婦に対するケア
・不妊予防と治療
・AIDS予防
・安全な妊娠中絶 など
 
西太平洋地域での現状(問題点)
・妊産婦死亡数の多さ
・幼児死亡数の多さ
・周産期死亡数の多さ
・避妊具普及率の低さ
・望まれない妊娠と危険な妊娠中絶など
 
解決すべき課題
・RPHに対する遂行義務、約束事の欠如
・質のあるサービスと情報提供の不十分さ
・RPHに関係しうる他の機関との連携の乏しさ
・RPHの受け入れに対する社会的文化的なバリア
 
目標設定
・2015年までに妊産婦死亡率を1990年の値の25%以下にする。
・新生児死を減らすことにより幼児死亡数を減らす。
 
方法
・RPHのガイドライン作成のためのワークショップ開催
・情報の流通システムの改善(現地語で書かれたパンフレット作成など)
・各病院施設に対する教育と臨床的な訓練士の養成
・他施設との連携した共同計画の作成、情報提供、指導など
 
 以上のことから、RPHの普及の前には多くの問題が存在していることがわかる。しかし、失敗点や問題点からは挫折を学ぶのではなく、今後の教訓を学ぶことが大切である。Pang先生のレクチャーも過去の経験が活かされた内容であった。妊産婦死亡という悲しいことがこれ以上起こらないようにするためには、法制定をきちんとし、それを実行に移すこと、他機関との連携とネットワークをつくること、一方的な押し付けの計画では実現しないことをふまえておくことなどが大事であることを学ばせていただいた。
 
14:30〜15:00 Tobacco Free Initiative
Dr. S. Mercado, Regional Advisor, Pharmaceuticals
 
 西太平洋地域では毎分2人がタバコ関連疾患で死んでいる、という強烈なインパクトを持った事実がある。それと同時に、すべてのタバコ関連疾患は防ぎうるということをMercado先生は始めに強調された。タバコは世界の死因の高血圧に次ぐ第2位である。また、麻薬やアルコール以上にタバコ依存による死のほうが大きな問題であるといわれている。
 なぜタバコはこれほどまでに大きな問題を引き起こしているのであろうか。その理由として先生は大きく2つ述べられている。
・タバコにはタール、ニコチン、窒素酸化物など4000種類以上の毒素が含まれており、それらが病気を引き起こし死へと向かわせるということ。
・タバコの体への害を知りつつもやめられない10代の若者が多くいるということ。
 
 ではなぜ喫煙をやめられないのだろうか。その答えは以下のようなものが挙げられる。
・社会的に喫煙は容認されている
・法律による緩慢な規制
・タバコ会社の巧みな販売戦略
・ニコチンの依存性
 
 しかし、タバココントロールの方法はいくつかある。
・タバコ税の引き上げ
・タバコの広告と販売促進活動の禁止
・反タバコキャンペーンの実施
・タバコのパッケージに健康への害についてはっきりと記載する
・公共の場での喫煙禁止
 日本のことを考えてみただけでも、タバコ広告や販売促進運動は盛んに行われているし、パッケージにはタバコの害について曖昧な表現を表示するに留まっている。タバココントロールに関して日本は発展途上国といえる。また、みながタバコの害について知っているといっても、正確なニコチンなどの毒性や体への影響を知っている人は少ない。
 Mercado先生は、タバコの無い世界を作れるかどうかは、我々若い世代の者たちにかかっていると最後に強く述べられた。さっそく今からできる個人的な行動として、喫煙者はタバコをやめる、正しい知識を得てタバコの恐ろしさを知る、周囲の人に禁煙を強く勧めるなどが考えられる。今回の講義を聞いた今こそ、実行に移すべきときなのではないだろうか。
 
15:00〜15:30 Communicable Diseases Surveillance and Response
Dr. H. Oshitani, Regional Advisor, Communicable Diseases Surveillance and Response
 
 押谷先生はWHO西太平洋事務局の感染症地域アドバイザーとしてCommunicable Diseases Surveillance and Response(以下CSRと略す)を扱われていらっしゃる先生で、最近ではSARS特別対策チームのチームリーダーとして活躍された。今回の講義では前半はSARS対策にご尽力なされたときのエピソード、後半は先生ご自身が国際保健に関わるようになられたその経緯と、さらには我々学生に対するアドバイスをお話しいただいた。
 
〜Communicable Diseases Surveillance and Responseとは〜
 Communicable Diseasesには6種類の分類がありCSRはその一つである。主に新興感染症を扱う分野で、アウトブレイクを起こす病気の流行を防ぐことが大きな仕事である。今回のSARS以外にも最近ではベトナムでの日本脳炎、サモアでの風疹、マーシャルでの麻疹などの対策を現地の人と共に行った。
 
〜SARSについて〜
 今回問題が大きくなった理由として、21世紀の感染症 vs 19世紀的対策という構図があった。SARS自体は航空機などの交通機関により全世界へ感染拡大する恐れがあり、またインターネットなどにより誤情報が広がり人々の恐怖を煽る恐れがあるという、いわば21世紀的な感染症である。それに対して人類が取れ得る対策としては検疫、隔離、接触者追跡という昔ながらの方法しかなかった。
 しかし、SARS問題がどうにか沈静化したのはWHO西太平洋事務局の力によるところが大きい。その対応策は、SARS対策特別チームの立ち上げ、疫学情報の収集、ガイドラインなどの作成、各国の対策のサポート、現地への専門家派遣などであった。
 
〜国際保健について〜
・英語力は当然必要である。WHOでは英語で電話会議もこなさなければならない。
・国際保健にも各専門分野があるのだから、世界で通用するようになるためには自分の専門性をはっきりさせるべきである。
・10年、15年後に自分は何をしたいのかということを基に、将来のプランを立てるべきである。(しかし今の日本では医局制度や家庭のしがらみなどのために、自分のキャリアプラン通りにはうまくいかないという問題点がある。)
 
15:30〜16:00 Stop TB and Leprosy Elimination
Dr. S. Barua, Medical Officer, Stop TB and Leprosy Elimination
 
 Barua先生は講義のために多くの準備をしてくださり、配布資料も多数用意していただいていたのだが、予定時間を大幅に超過していたため、ご自分の講義時間を我々学生主催の懇親会の準備時間に充ててくださった。そして、資料の内容に質問等があれば後日尋ねてほしいとのことであった。以下は資料を配布されながら先生がお話しになられた内容である。
・アジアの中にはハンセン病が問題になっている国がまだまだ存在する。そして、それらの国では根強い差別が残っている。
・ハンセン病の診断に、日本では顕微鏡などで菌を確認するという方法がとられているが、発展途上国ではもっと簡単な方法が用いられている。例えば皮膚の色の変化、変色部位の触覚を調べるなどにより早期診断が可能となっている。診断の仕方を教える1日だけのプログラムが用意されているところもある。
・西太平洋地区全体で1日1000人程度が、中国では1日700人程度が結核で死んでいる。
・HIV/AIDSも大きな問題である。
(文責:倉田智志)
 
2)学生主催懇親会
 WHOでの講義が終わり、ホテルへと戻るや否や、休む間もなく懇親会の準備へと取りかかった。今回我々がお招きするのはDOH(Department of Health)、UP(University of the Philippines)、WPROの方々であった。苦労したのは来られた方々をどのテーブルにお連れするかで、どうしても同じ組織の方々で集まってしまい、また、「あの人と同じテーブルはいやだ」といわれる方もおられて、ホスト役の思うようにはいかない難しさを体験した。
 われらがリーダー水本のスマイルたっぷりの挨拶で和んだあと、Dr. Richard Nesbit氏の乾杯で幕開けした。われらがマドンナ是永が着物姿で司会を進め、尾身先生、フィリピン大学副学長のDr. Orlino O. Talen氏のお言葉を頂戴した。そして、それぞれの出し物の発表となった。フィリピン大学の出し物はフィリピンのラブソングを男女1組でデュエットしてくれた。素晴らしかった。続いて我々の出し物となった。われらが最年少小橋がステージの上で「茶道」を披露し、フィリピン大学の学生やDOHの方にお茶をふるまった。隣にいたフィリピン大学の子に「日本では毎日こういうことをやっているの?」と聞かれた。その後我々全員がステージに上がり「上を向いて歩こう」を大合唱した。この曲はフィリピンでも有名であるらしく、メロディーを一緒に口ずさんでくれる人たちもいた。発表後、尾身先生に「なかなかよかったじゃないか」とのお褒めの言葉をいただいた。最後にわれらが副リーダー、マジシャン丹藤の締めくくりの挨拶で、楽しい時間を過ごして懇親会は幕を閉じた。
(文責:七條光市)
 
押谷先生と
 
8月11日 今日のひとこと
 
藤川:今日のレクチャー、パーティともにとても印象的でエキサイティングな一日でした。尾身先生の語る言葉は、深くてかつ説得力もあり背中を押されました。
板谷:尾身先生の話を聴いて、かなり迷走してたものが多少すっきりした。英語やばい・・・。
倉田:尾身先生の話は共感できる部分が多かった。ということは自分の心の中にはもともと先生と同じ考えがあったのかもしれない。それをスピーチとして言葉に出せたり、ポリシーとして常に気をつけていたりすることが大事なのではないだろうか。さらなる成長のためには。
七條:今日は英語のシャワーの連続で疲れた。尾身先生は思っていたより、いい意味で特別な人なんではないと思った。
丹藤:国際的なパーティでスピーチをさせていただくという良い機会をいただきました。本当に良い経験ができて、課題も見つけることができました。
鶴岡:WHOはすごかった。強烈でした。パーティは知らないことだらけだってことがわかった。これから勉強だ。
喜多:尾身先生の率直な語り口に魅了されました。
小橋:今日のパーティはいろいろ勉強になった。WPROでのプレゼンテーションはあまりに濃くて、まだ消化し切れていない。
是永:久々に浴衣が着られて楽しかったです。吉川先生ありがとうございました。初司会でドキドキだったけれど、楽しかった。パーティ大好き。
 :尾身先生の人生論はとても興味深かった。会議で発言をするのは非常に難しいと思った。今日はいろいろと学ぶことが多い日だった。
水本:目指すべきスタイルが見つかりました。ありがとうございました。
串間:えいご・・・えいご・・・えいご・・・。
対話・・・対話・・・対話・・・。
マンゴスチンとマンゴー美味!!
武山:緊張や興奮のためか全く眠れませんでした。尾身先生のお話ですっきりした気分になりましたし、自信を得ました。
石岡:DOHの人からの名刺を大切にしていきたいと思います。尾身先生のお話しには感銘を受けました。







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