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8月9日(土)
本日のスケジュール・内容
1)日本出国
2)バルア先生のレクチャー
3)初めてのフィリピン
 
1)日本出国
 早朝、大雨の中、多磨全生園を成田空港に向けて出発した。成田空港からJAL便でマニラに出発した。マニラのホテルに着いてからは、現在、現地のWHO西太平洋地域事務局に勤務しておられ、今までフェローに関わってこられたスマナ・バルア先生から、国際医療協力の分野での人生論についてお話を伺った。
 
空港での出迎えてくれたWHOの公用車
 
2)バルア先生のレクチャー
 現在、WPROで結核・ハンセン病担当官を務めるスマナ・バルア先生は、過去二十数年にわたり、故郷バングラデシュの農村地域で、また、医学生として過ごしたフィリピン・レイテ島等の各地で女性の健康と出産、そして、寄生虫学に関する地道な研究支援活動に取り組んできた医師である。特にレイテ島においては、フィリピン大学医学部レイテ校に在籍しながら助産士として働き、村々を廻って多くの子どもたちの出産を介助する診療活動に従事されてきた。1993年、東京大学医学部大学院国際保健計画学教室に在籍してからの数年間は、論文執筆の傍ら日本各地(埼玉県、長野県、神奈川県等)で外国人労働者への「医職住」の生活支援活動に、医療ボランティアとして取り組まれた。研究者としては、WHOのコンサルタントとして、アジア各地(インドネシア、ミャンマー、ベトナム、ネパール、バングラデシュ)の現地を歩き、農山村で働く保健婦や助産婦への指導を通じて、村でのヘルスワーカーの育成にあたってこられた。プライマリー・ヘルスケアの実践者として、母子保健分野と感染症対策の現場で確かな足跡を残されている。1999年、東京大学医学部より取得した博士号の論文テーマは「ミャンマーハンセン病対策プログラム」だった。
 バルア先生はご自分の人生をふり返りながら、医師としての生き方について語られた。例えば、きちんと自己紹介をできるようになること、目標を持つこと、生きて行く際に持つべき夢を見つけること、広く深い生き方を見つけるために、どのように苦労して探していくかなどのお話しを伺った。
 セルフアイデンティティを探ることの重要性をご自分の経験を交えながら話された。それは非常に実感をもって共感できた。
 バルア先生のレクチャーの後、私たちはそれぞれの部屋に荷物をおき一旦落ち着いた。
 
熱く語って下さったバルア先生
 
3)初めてのフィリピン
 夜は、近くのショッピングセンター内にあるフィリピン料理のレストランで食事をした。どういう材料が使用されているのか分からず、大騒ぎの夕食であった。夜の反省会では初のフィリピン料理のことも話題として取り上げられた。反省会ではみんながそれぞれ昼間には言いにくいようなことをお互いに伝えることができる。ちょっとした摩擦もここで解消していこうという意見が出た。また、それぞれの感じ方の違いなどを知ることも新鮮であった。
 
8月9日 今日のひとこと
 
藤川:フィリピン初上陸!やっぱりアジアからは底知れない熱気を感じるなぁ。バブさんから地道な活動に根付いた公衆衛生の姿を見ました。本当にお話しが聞けて良かったです。
板谷:初のフィリピン料理は・・・微妙だったなぁ。
倉田:バブさんの言いたかったこと。それは常にどこにでも学ぶチャンスはあるってことかなと思った。だからいろいろ体験すればするほどそのチャンスは増えていくわけやね。
七條:今回のメンバーは我が強いと思う。出し物の歌の内容を決めるのに苦戦。オメーラ、もっとジコチュウな行動はつつしみやがれ!!(怒)
丹藤:はじめての異国の風景、食事、人々。カルチャーショックを受けまくりです。バブさんはバブさんの道を見つけ突き進んでいる。僕は僕の道を進むだけだ。
鶴岡:早朝の雨はすごかった。はじめてのフィリピンで興奮ぎみ。バブさんのお話で私は何をしたらいいのかなぁ・・・と。明日からいろんなものを見て感じて考えていこう。
喜多:バブさんが、自分の哲学に合う教育をしている医学部にいくまでのストーリーに感動した。
小橋:初フィリピン!!イメージ通りだった。今のところ。バブさんのお話は自分にとってフリーズしていた思考回路を再起動してくれた様な気がする。食事は・・・まだまだ入国一日目!明日以降に期待
是永:初めてのフィリピン。空港からホテルへの車の中から見たものは謎の公衆トイレ、裸足でお金をもらうためのカップを持って歩く子ども、無秩序に立つ家々。明日から本格的に見学がスタートするのが楽しみです。
 :早朝の大雨には驚いたけれど飛行機が無事に飛んでくれて良かった。お金をほとんど使わなくても、現地の人々の役に立つ援助が可能であるという、バブさんの話は印象的だった。
水本:バブさんにとっては常識で、僕たちにとっては「非」常識。どうすればこの差は埋まるんだろうなぁ。
串間:初アジア。ストリートの子供たち、ふつうに食事をしている人々。そしてバブさんの話。様々なことを考えました。まだ消化しきれない。フィリピン料理も消化しきれない・・・。
武山:アジアの夜の熱気の中で、様々な生活を見かけました。久々の海外にはしゃぎ気味だったのですが、バブさんの説得力のあるお話しに心打たれた、素晴らしい経験でした。
石岡:マニラはイメージしていたものよりキレイであり、暑くなかった。バブさんに出会い医者の使命、ヘルスケアの基本などをわかりやすく説明いただきました。日本を嫌いな方を説得して下宿してもらうことにより、憎しみを溶かす事例をきき、感動しました。
 
8月10日(日)
本日のスケジュール・内容
1)KPACIO金光教平和活動センター(NGO)訪問
2)マラボン市バランガイヘルスセンター訪問
3)家庭訪問
4)貧困地区巡回、トロッコ列車に乗る
5)高級住宅街のモールで休憩
6)フィリピン料理店での歓迎会
 
1)KPACIO金光教平和活動センター(NGO)訪問
 今日は現地に住む日本人の穴田さんにガイドをしていただいた。穴田さんは、もともと文章を書くのが好きで地方新聞の新聞記者であったそうだ。フィリピンでは、コーディネーターとしてNHKなどの番組制作に関わっているとのことである。穴田さん同行でホテルからバスで移動し、スペイン風建物の2階にあるNGO、金光教平和活動センターインフォメーションオフィス(KPACIO)を訪問した。KPACIOは、岡山の農家の金光教信者からの寄付により活動を開始し、現在は郵便貯金や税金の一部を使用して活動しているとのことである。マラボン市などの貧困地域に住む人たちのために地域をベースにした活動を行っている。スタッフのハリエットさんからは、フィリピン国内での活動について説明(コミュニティヘルス活動や子供の教育に関してアシスト)を受けた。特にマラボン市では700家族を対象に、コミュニティヘルス活動を行っているそうである。経済の専門家であるジャックさんからは、家族への口約束による資金の貸付の方法などについて詳しく説明していただいた。
 
2)マラボン市バランガイヘルスセンター
 次にマラボン市バランガイ(バランガイとは、フィリピンの最小行政単位で、日本の字や区に相当するが自治体機能を持つ)ヘルスセンターを皆で訪れた。バランガイヘルスセンターでは、准看護婦兼産婆(midwife)が勤務しており、出産介助、家族計画教育、避妊薬・避妊具の配布、母子保健教育、乳幼児健診、予防接種、結核治療、栄養失調児へのビタミン剤支給等の簡単な治療や保健指導などが行われ、日本ではいわゆる地域住民に総合的な対人保健サービスを行う市町村保健センターに近いものと思われる。
 そこではKPACIOのChild Care Learning Program(CCLP)という教育プロジェクトで支援されている幼稚園の先生と母親たちからなる、ボランティアのヘルスワーカーたちから地域の実情の説明を受けた。CCLPとは、マラボン地区にある幼稚園の園児たちに教育・給食の支援を行うプログラムである。マラボン地区のスラム街では、フィリピン産サンミゲールビールの工場裏にある非住居地に6000家族、約42,000人が住んでいる。こちらのセンターでは、幼稚園に通う101人の園児の家族を対象に、地域健康調査を毎年行っており、簡単な病気や治療の疫学調査の結果を表にしたものを見せてくれた。調査の結果としては、1世帯の平均人数は4人(子供2人)が最多、B型肝炎を含む予防接種はまだまだ不十分であること、common diseaseは風邪が最多であり、家庭薬はパラセタモールや抗菌剤使用が多く、病気時はクリニックのドクターにかかることが多い(バランガイヘルスセンターの近くにある古い公立のクリニックを利用するようだ)、といったようなことが分かった。ボランティアで働く母親ヘルスワーカーのモチベーションは高く、活動の内容としては地域に住む教育者として、健康について知識を深め、対象地域住民に対し、リプロダクティブヘルス、病気予防、一般疾病、歯科衛生、子供の栄養や衛生教育などについて、さまざまな指導を行っているとのことだった。(実際にボランティアの一人は、カレッジを卒業して小学校教師のライセンスを持ってた。)
 
バランガイヘルスセンターにて
 
 特にリプロダクティブヘルスについては、我々学生から質問が相次いだ。もともとフィリピンで信仰されているカトリック系キリスト教の影響により、中絶は法律で禁止されている。しかし、中絶を要すればHirotと言われる地域の代替医療者にお腹を揉んでもらう、あるいは木の皮を薬にして飲むなど、危険を伴う堕胎方法が存在するとのことである。また、日本では一般的に避妊具として使用されるコンドームはあまり使用されていない。その理由としては、使い慣れない、男女ともに嫌がる、などの理由もあるが、宗教上、避妊さえも禁止されていることが最大の障害とのことである。







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