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8月8日(金)
本日のスケジュール・内容
国立療養所多磨全生園にて研修
高松宮記念ハンセン病資料館訪問
 
9:00〜10:00 「ハンセン病の現状と国際協力」
国立感染症研究所 ハンセン病研究センター長 松尾 英一 先生
 
 ハンセン病には差別と偏見が伴う。この問題を解決するには、現在のハンセン病だけではなく、過去の、そして、また世界中のハンセン病についても知る必要がある。
 ハンセン病は旧約聖書にも、それと思われる病気が記されているし、中国でも唐の時代から麻痺する病気、麻風として知られていた。スルホン剤が開発されてからはハンセン病は治療できる病気となり、現在ではMDT(多剤併用療法)により治療される。
 社会の過剰反応が偏見を生み、患者を苦しめてきたわけであるが、あってはならないことである。このような偏見が生まれた背景の一つに、病因学が欠けていたことが挙げられる。病因学はその大切さとは裏腹に、現在の医学には欠けている。病気には原因があるわけだが、その原因が一つであることはきわめて稀で、必ずと言っていいほど複数存在することを忘れないで欲しい。世界のハンセン病の現状として、有病率は減少しているのに対し、新患率は増加している。これは我々の知らない病因が存在するということである。これらのことはハンセン病だけにおける問題ではない。
 
松尾先生の講義
 
10:00〜10:50 「ハンセン病の基礎と臨床」
国立療養所多磨全生園 皮膚科医長 小関 正倫 先生
 
 らい菌は1873年にノルウェーのアルマウェル・ハンセン医師によって発見された。抗酸菌であり結核菌の仲間である。生育温度は30-34度で感染力はきわめて弱い。未だin vitroでの培養は不可能である。
 ハンセン病はらい菌による慢性の感染症であり、一時的に末梢神経、二次的に皮膚やその他の臓器にまで障害が及ぶことが多い。患者はらい菌に対してのみ免疫能力が弱く、他に対しての免疫能力は普通である。診断は知覚障害の伴った皮疹、末梢神経の肥厚、らい菌の証明によってされる。ハンセン病は少菌型と多菌型の大きく二つに分類され、その治療法は異なる。早期発見、早期治療ができればほぼ後遺症もなく治る。
 
10:50〜11:30 園内見学
 
青崎先生の説明に聞き入る参加者
 
 
 青崎園長のご案内のもと、治療棟、リハビリ棟、病棟を見せていただいた。治療棟を使用されるのは主に園内の患者さんだそうだ。園内に住む元患者さんは、ハンセン病は完治しているが、あとは後遺症をどう克服していくかであり、その方々の生活の質をどう上げていくかが今後の課題とのことである。園長は入所者の残りの人生を楽しんでもらいたいと考えていらっしゃる様子がよくわかった。建物は、新しいものと古い物が混在していたが、比較的、恵まれているのではないかとおっしゃっていた。目の見えない方々専用の歩道があったり、豊かな自然にも恵まれ、地域の住民が往き来できる食料品店などもあり、今となっては快適なコミュニティーのように見えた。
 
13:00〜14:00 高松宮記念ハンセン病資料館見学
 
 資料館では、資料館運営委員の佐川修さんにハンセン病の回復者としての人生のお話しを伺い、涙がこみ上げてきた。資料館ではハンセン病患者への誤った認識による、いわれのない差別・迫害の歴史に関する展示を見学した。
 現在の全生園は、閑静で設備も整っており、過去に重い歴史があるとは想像できないほどである。
 
ご自分の経験についてお話下さった佐川さん
 
14:30〜16:30 「開発途上国と結核対策」
(財)結核予防会結核研究所国際協力部 部長 須知 雅史 先生
 
結核とは・・・
・飛沫核感染(空気感染)
・感染を規定する要因としては排菌量、咳の程度と持続、社交性、環境条件がある。
・感染と発病は別である。感染後生涯にわたり発病するのは10%〜20%にすぎない。リスクが大きいのは塗抹検査で陽性の人で、発病するのは感染から2年以内に約80%で、その後は散発的にでるのみである。
・治療は、かつては気胞療法、肺切除もあったが、現在は複数薬の併用による化学療法がメイン。
世界における結核
・世界人口の1/3が既感染である。日本における感染率はネパールなどの国よりも高く、先進国の中では群を抜いて多い。特に大阪府など。
・難民が出るとき、結核は緊急を要する課題ではないので1日死亡1/10000人にならないと対策を始めない。それまでは、はしか・下痢など水系感染の疾病や髄膜炎などに留意する。また、少なくとも6ヶ月留まると考えるときだけで、結核では塗抹陽性患者が優先である。
WHOの結核対策 DOTS(Directly Observed Treatment, Short Course)
分析
・喀痰塗抹陽性の患者の発見と治療、出産直後のBCG接種という効果的な戦略も、充分な保健医療にかかれないアクセスの悪い地域では効果があがらない。
方針
・結核対策への政府の取り組み
・喀痰塗抹検査による患者の発見
・喀痰塗抹陽性の患者に対する短期化学療法の導入など
広がり
・148の国でDOTSを採用(2000年)
・367万人の全結核患者が届出(2000年)
・153万人の喀痰塗抹陽性の患者が届出(2000年)
・STOP TB Initiative: 結核高負担国を重点的に行う。
 
研修2日目終了後の懇親会
 
8月8日 今日のひとこと
 
藤川:今日の感染症の第一線で活躍されている先生方のお話はとても興味深かった。佐川さんの思いから、本やマスコミからは伝わらない苦しみや思いを強く感じ、これからの私たちの世代にとっても何をすべきか考えさせられる良い機会でした。
板谷:差別されてきた人の話を聴いていて胸が詰まった。そういう立場になったら自分はどうかと考えた。自分には強い信念なんてないなぁと思った。
倉田:ハンセン病・・・。明日はがんばります。飛行機で。え、ちがうって?明後日からがんばろーっと。
七條:回復者の佐川さんの話にはすごく心打たれた。正しいことは正しいと将来胸を張っていえるようになりたい。
丹藤:ハンセン病回復者の方の生の声を聞けたのは良い経験だった。ハンセン病は一医療従事者として決して忘れてはならない事例だと思う。
鶴岡:資料館でのお話しはとてもリアルだった。生の声を伝えていくことはとても意義が深いと思った。展示品もすばらしかった。勝ちT当てるぞ!!
喜多:全生園に来るのは三回目だけど、今回もあらためて衝撃を受けました。
小橋:佐川さんの話に涙が出そうになった。辛い経験を語るその一語一句にずっしりと計り知れない重みを感じた。明日はついにフィリピン出発の日。様々な思いを胸に日本を飛び立とうと思う。
是永:園内、資料館見学がすごくためになりました。今も残る食事の出入り口や資料館の展示物を見て、死よりも辛かったであろう差別の存在を実感しました。
 :人権に対する意識はごく最近広まってきた概念で、身近にまだひどい話は存在しているのかもしれない。佐川さんの話を聞いてそんなことが頭に浮かんだ。
水本:本に載っている講義なら資料で充分学べる。ここでしか体験できないもの、それは対話する時間であり、だからこそ、ハンセン病の回復者の方々との時間がもっと欲しかった。
串間:ハンセン病資料館での話を聞いて、なぜ佐川さんはこういう状態でここまで来ることができたのか。なぜ、辛かった思いを伝えることができるのかと思い、でもそれは「ハンセン病に限らず、様々な疾病において同じ事を繰り返して欲しくない」という強いメッセージが込められているからだと感じた。
 国内・国外参加者交流会では、皆と話すことができて楽しかった!明日からはフィリピンに場を移すからがんばってこうね。
武山:眠さに支配された一日だったが、ハンセン病資料館でのお話しがとても印象的だった。ニュースで聞いたりはしていたが、本当に心迫るものがあった。これからもハンセン病のことを考えて出来ることをしていきたいと思う。交流会をつぶして眠ったので夜ご機嫌で語りました〜♪
石岡:資料館の佐川さんの実体験に基づくお話しは深く感動をもたらすものであった。病気を治すのみではなく、患者さんが直面する様々な問題についてももっと積極的にサポートすべきだと考える。これが全人的治療に通ずる道である。







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