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8月7日(木)
本日のスケジュール・内容
国立国際医療センターにて研修
 
9:30〜9:40 開会挨拶
国際保健協力フィールドワークフェローシップ 企画委員長
国際医療福祉大学 総長 大谷 藤郎 先生
 
 フェローシップも今年で第10回目を迎えた。もともと、医学部の学生に国際性を身につけてもらいたいという趣旨で始まった。フィリピンではいろいろな方々にお世話になって、現地の学生とも交流して、多くを学んできてほしい。フィリピンへは限られた人数しか行ってもらえないが、他の人の分も頑張ってきて欲しい。
 このフェローシップができた経緯を述べるために歴史を話そう。第2次大戦後、アメリカに習って日本でも、大学医学部卒業後1年間、大学病院や認定された教育病院で臨床の実地修練を積んだのちに、はじめて国家試験の受験資格が与えられるインターン制度が始まった。しかし、外国の場合は原則として住込みで、ある程度の給与も保証される場合が多いのに対して、日本では、この期間中は無給で身分も保証されておらず、その上、研修条件も不備であったため、発足当初からインターン制度に対する不満が存在していた。大学紛争が激化した1968年に医師法改正によってこの制度は廃止され、戦前と同様、大学医学部卒業後、ただちに国家試験を受験できるよう改正された。
 この当時、大谷先生は厚生省の課長補佐としてこの問題に関わっていた。先生は、この制度の改正の結果、もともと閉鎖的だった医学部がますます社会に対して閉鎖的なものになったと感じていたそうだ。このような経験を経て、医療と社会との接点を医学部教育に取り入れ、医学部の社会性を回復することが必要だと実感した。健康とは、決して病気のないことをいうのではなく「社会的な健康」という概念が欠かせない。これを学生に教育するために、冬期大学というものを始めた。武見太郎先生、日野原重明先生などにご協力いただいて、学生に社会性や国際性などの教育をするようになった。また、その当時はWHOで働く日本人はほとんどいなかったが、そこへ行けるだけの人材を育てようという意図もあった。その冬期大学が本フェローシップへと発展した。
 最後に、フィリピンでの研修に参加する14名へエールを送られ、研修参加者全員へ、この2日間を通して国際性・社会性を養うような研修をして欲しいと述べられた。
 
9:40〜9:50 来賓挨拶
国立国際医療センター 総長 矢崎 義雄 先生
 
 今は、学生の関心の渦中にある、厚生労働省の臨床研修を改革するための委員会で座長を務められているというお話しから始まった。その後、国立国際医療センターの海外派遣事業について述べられ、日本にいては分らないことや、あり得ないことが海外で起こっているので、自分の目でそれを体験してきて欲しいとおっしゃられた。
 
9:50〜10:35 「アジアと日本―我が国の国際協力」
前駐中国日本大使 谷野 作太郎 先生
 
 国際化が進む中、世界の1/5は絶対貧困層(1ドル/日以下の収入)であるように、富める国と貧しい国の格差がますます激しくなっている。経済援助の理由として、(1)相互依存の視点と(2)人道的視点が挙げられるが、(1)では底辺である貧困層を支えること、つまり運命共同体であること、(2)では「苦しんでいる人を放っておけない」という人間としての自然の感情がある。しかし、日本における国際協力の現状の特徴で、(2)の視点を忘れて(1)の視点が際立っている。例として、特に中国のODA予算を削減するなど日本の有益を第一に考える人々が増えてきたということが挙げられる。むしろ現在はNGOの活躍が目覚ましく、そこでは人の持つ知識・技術を共有して初めて資金・器材が生きるという、人をつなぐ協力が特徴的である。
 谷野先生の経験を通して
 (1)自分の考えをもつこと
 (2)自分の考えを明確に伝える術をもつこと(ときにユーモアを交えての英語力が必要)
 (3)好奇心を持つこと(異質の文化に心を開き交流を持つ)
 (4)問題にぶつかったとき、気持ちをそこにおいて立ち向かうこと
 以上の4点を、今後国際協力に携わる私たちに述べられた。
 
10:40〜11:20 「日本の国際医療協力の現状」
国際協力事業団医療協力部 部長 藤崎 清道 先生
 
 (1)日本の援助の歴史、(2)援助の基本理念、(3)ODAについて、(4)JICAの活動についての講義であった。
 
 (1)日本の国際協力援助は1954年のコロンボプランに始まり、ODA実績は1989年から去年まで世界1位であったが、今年はアメリカについで2位となった。
 (2)1992年のODA大綱決定閣議において日本の援助の基本理念が打ち出された。
・人道的配慮
・国際社会の相互依存性の認識
・環境の保全
・自助努力の支援
 (3)ODA(政府開発援助)の形態別分類
2国間贈与:技術協力・・・
研修員受け入れ
専門家派遣
器材供与
技術協力プロジェクト
開発調査
青年海外協力隊派遣
国際緊急援助
その他
無償資金協力・・・
経済開発等の援助
食糧増産等の援助
2国間政府貸付等:
国際機関への出資/拠出等
 
 (4)JICAは1974年に設立され、今年10月1日から独立行政法人(半民間)となる。
主な活動内容:
(a)開発途上国への技術協力
・研修員受入
・専門家派遣
・機材供与
・プロジェクト方式技術協力
・開発調査
(b)青年海外協力隊員の派遣
(c)無償資金協力(調査・実施の促進)
(d)開発協力(投融資等)
(e)海外移住者・日系人への支援
(f)技術協力のための人材の養成及び確保
(g)国際緊急援助隊の派遣
(h)援助効率促進
があり、その特徴として自助努力と自立発達の政策志向のもとに、
・支援的役割
・プロセス重視アプローチ
・経験・技術の活用
・南々協力の推進
の4点がある。
 また今後の課題として、援助資源の有効活用、専門家の養成・確保、教育分野や社会分野と合わせたプロジェクトの形成があげられている。
 
11:20〜11:50 「国際医療協力の現状」
東京女子医科大学 客員教授/笹川記念保健協力財団 理事長 紀伊國 献三 先生
 
 「国際協力」に関心のある学生の研修なのだからと、先生は英語で財団の創設者である笹川先生の話と、国際協力の要素を述べられた。
 国際協力の要素は、世界は一つの家族であるということ、看護・医学の根底は技術・科学であること、ボランティア、パートナーシップ、の4点があり、冷静な頭脳(判断力)とあたたかい心が必要であることを私たちに伝えてくれた。
 
11:50〜12:30 「開発途上国における寄生虫症の現状」
杏林大学医学部感染症学教室 客員教授/広島大学 名誉教授 辻 守康 先生
 
 フィリピンでの研修に参加する学生を対象にした感染症に対する知識を中心に、海外旅行時の健康上の注意、亜熱帯・熱帯地域の感染症、開発途上国特に熱帯地域で最も問題となる寄生原虫症(主にマラリアについて)、開発途上国で気をつける必要のある内部寄生虫症の概要について述べられた。
 日本では寄生虫学講座が年々減少傾向にあるが、日本にも寄生虫は存在するということである。
 最後に、2つの文章を提示された。「伝統なき創造は盲目的、創造なき伝統は空虚である」−伝統は文献、創造は研究に置き換えることができる。「書かれた医学は過去の医学である。目前に悩む患者の中に未来の医学書の中身がある」−このように患者と接しているのなら、患者−医療者の対等な関係を形成できる。
 
13:30〜14:10 「WHO: その内外における役割と活動」
WHO健康開発総合研究センター 所長 川口 雄次 先生
 
 WHOについて限られた時間での話であったが、まずWHOのエンブレムには医療の原点となるギリシャ神話の蛇が形づけられている。1947年WHO憲章にある「健康」とは、“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity”(「健康とは完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病及び病弱の存在しないことではない」)とあるが、現在“spiritual”をいれるという提案もある。また、WHOは総会、執行理事会、本部事務局、専門家諮問会・専門家委員会、地域委員会・地域事務局という構成からなっており、海外研修先であるマニラには西太平洋地域事務局がある。その他、研究機関としてフランスのリヨンにがんの研究所、日本の神戸に健康開発の研究所が設置されている。
 最後に、現在のデータだけではなく将来的な判断力が必要であることを私たちに伝えてくださった。







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