4. 各段階における調整効果の比較
連邦財政調整は、以上のような4つのプロセスからなっているが、このうち州間における財政力不均衡を縮小する機能を持つのは、第2段階から第4段階までの3つのプロセスである。各段階で行われる調整の水準は次の様に整理することができる。
(a)売上税の配分では、州税収連邦平均の92%に相当する税収が保障される。
(b)州間財政調整では、調整額測定値の95%が保障されるよう課税力測定値が調整される。
(c)不足額補充交付金では、調整額測定値の99.5%が保障される(特別補充交付金によって各州の歳入は調整額測定値の100%を超える)。
図表9: 連邦財政調整の拠出・受領額(2000年)
単位:百万ユーロ1)
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出所:Bundesministerium der Finanzen, Finanzbericht 2002,
Bundesanzeiger Verlaggesllschaft, 2001, p.164-166およびStatistisches Bundesamt, Statistisches Jahrbuch
2000 für die Bundesrepublik Deutschland, Metzler-Poeschel, Stuttgart, 2001, P 532より作成。1)出典にマルクで表示されている場合には1Euro=1.95583DMで換算した。2)正値は調整交付金の受領額を、負値は拠出額を示す。3)売上税については州取得分総額、連邦補充交付金については給付総額を示した。州間財政調整については、州相互間の資金移動であるため、財政力の移動量(受領額総額、拠出額総額)を示した。4)旧西ドイツ地区も含む
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図表10: 連邦財政調整の1人あたり調整額(2000年)
単位:ユーロ1)
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出所:筆者作成。連邦補充交付金及び州間財政調整の給付額・受領額についてはBundesministerium der Finanzen,
Finanzbericht 2002, Bundesanzeiger Verlaggesellschaft, 2001, p.164-166を参照した。また人口及び売上税の税収割り当て額についてはStatistisches
Bundesamt, Statistisches Jahrbuch 2000 für die Bundesrepublik Deutschland, Metzler-Poeschel,
Stuttgart, 2001, P.45およびP 532を参照した。1)出典にマルクで表示されている場合には1 Euro=1.95583DMで換算した。2)売上税収一人あたり割り当て額の連邦平均との差額。負値は連邦平均を下回った額を、正値は上回った額を示す。3)正値は調整交付金の受領額を、負値は給付額を示す。4)旧東ドイツ地域に属する州。ベルリンのみ旧西ドイツ地区も含む。
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5. 財政調整をめぐる近年の動向
連邦財政調整制度は、1998年から1999年にかけて連邦憲法裁判所に提訴され、1999年に改正を求める判決を受けるにいたったが、その背景にはドイツ再統一に伴う負担の変化がある。
図表11: 旧東ドイツ諸州の参加による州間財政調整の変化
単位:百万ユーロ1)
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1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
(旧西ドイツ諸州) |
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バーデン・ヴュルテンベルク |
-770 |
-518 |
-210 |
-1,433 |
-1,289 |
-1,232 |
ヘッセン |
-942 |
-1,094 |
-934 |
-1,101 |
-1,657 |
-1,610 |
ノルトライン・ヴェストファーレン |
-2 |
16 |
80 |
-1,763 |
-1,598 |
-1,564 |
バイエルン |
28 |
-6 |
-342 |
-1,295 |
-1,463 |
-1,586 |
ハンブルク |
0 |
58 |
31 |
-60 |
-246 |
-140 |
ザールランド |
219 |
215 |
222 |
92 |
120 |
104 |
ラインラント・プファルツ |
338 |
398 |
336 |
117 |
118 |
151 |
シュレスヴィッヒ・ホルシュタイン |
206 |
95 |
37 |
-72 |
8 |
-3 |
ブレーメン |
262 |
325 |
291 |
287 |
325 |
179 |
ニーダーザクセン |
661 |
510 |
490 |
231 |
283 |
344 |
(旧東ドイツ諸州) |
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ブランデンブルク |
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442 |
529 |
504 |
メックレンブルク・フォルポーメルン |
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394 |
438 |
431 |
ザクセン |
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|
|
907 |
1,005 |
981 |
ザクセンアンハルト |
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|
574 |
635 |
601 |
チューリンゲン |
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|
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521 |
576 |
574 |
ベルリン2) |
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|
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2,159 |
2,217 |
2,266 |
拠出額合計 |
1,714 |
1,618 |
1,486 |
5,724 |
6,253 |
6,135 |
旧東ドイツ諸州受領額合計 |
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4,996 |
5,399 |
5,357 |
旧東ドイツ諸州の比率 |
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0.87 |
0.86 |
0.87 |
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出所:Bundesministerium der Finanzen, Finanzbericht 2002,
Druckerei Heenemann GmbH, 2001, p.164-166より作成。※正値は調整交付金の受領額を、負値は拠出額を示す。1)1 Euro=1.95583DMで換算した。2)旧西ドイツ地区も含む。
違憲訴訟の内容
原告
バーデン・ブュルテンベルク、ヘッセン、バイエルン
原告の主張
(1)現行制度は調整が行き過ぎている(適正範囲の逸脱、財政順位変更禁止への違反)。
(2)課税力や財政需要の算定方法に問題がある。
判決の内容
(1)立法者には財政調整の一般的で明確な原則を定める義務がある。
(2)立法者には租税配分額や財政調整額を算定するための具体的な基準を設定する義務がある。
(3)2003年1月1日までに一般的で明確な原則を定める「基準法」を制定・発効させること。
(4)基準法に基づいて財政調整法を改正し2005年1月1日までに発効させること。
(5)基準法の制定・発行ならびに財政調整法の改正・発効が期限までに行われない場合、現行制度は違憲とみなされ、無効となる。
基準法の内容
売上税の垂直的配分
「充足比率原則」に基づいて行う。
売上税の水平的配分
(1)売上税収州割当分の4分の1を調整的な配分に充てる。
(2)調整的な配分は、売上税収を除く税収が連邦平均を下回る州に、差額が縮小するように行う。
州間財政調整
(1)諸州の独立性と連邦の連帯性とを同時に配慮する。
(2)課税力は、州と全ての市町村の税収を基準とする。
(3)財政需要は、州と市町村の人口を基準とするが、追加的な需要を考慮するため、補正を行う。
(4)都市州に加え、過疎州にも追加需要を認め、人口補正を行う。
(5)追加的な需要を人口補正に反映させることが不可能な場合には課税力を割り引く。
(6)州間の財政力格差を完全に除去すること、財政力順位を逆転することを禁じる。
連邦補充交付金
(1)州間財政調整を補完するものであり、州間財政調整の規模を上回ってはならない。
(2)一般交付金は財政力の完全な平準化を行ってはならない。
(3)特別需要交付金は、特別な事情に基づく負担を補償する場合に限り、受領州の財政力を平均以上に引き上げることも認める。
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