提言(2)
「この子」の居場所は?
―学校経営、学級経営にこの問いを―
和歌山県和歌山市立有功東小学校 校長 片桐清司
1. はじめに
本校は、平成5年に和歌山市の北東部和歌山平野を一望できる標高45mの地に開校する。四季折々鮮やかに彩られる和泉山脈と、和歌山の母なる川紀の川、中上流がまだ清流の千手川に囲まれた自然豊かな地域が校区である。
本年5月1日現在、児童数が464名、教職員数32名。
開校以来、学校運営方針のひとつを「だれもが、どこまでも、わたしの居場所がある学校にしていこう」とし、学校に関わる凡ての者が力を合わせて学校づくりに努めてきている。
2. 提言について
提言
学校経営・学級経営に、「『この子』の居場所があるか?」の強い問いを
ここでの「居場所」とは、単に心が癒される場所というだけでなく、そこに確かに自分の存在感をもち、自発性をも期待できる場や時とする。そうなれれば、その後は主体的で問題解決的な生活や学習を自ら行い、その経験を重ねていくことで人間として必要な能力が培われ、その学習法も体得していくと考える。
3. 居場所づくりの具体
居場所づくりの基本としているのは、「みんなちがって みんないい」である。
(1)生活環境での居場所づくり
(1)「有功東小学校は動物園みたい」
本校の飼育動物は、うさぎ、チャボ、かめ、うずら、アヒル、マガモ、毛巻きモルモット、セキセイインコ、ハムスター、それに、トカラヤギ4頭、犬のシロ、ポニーのラッキー、鯛、カワムツやザリガニなどの川の生き物 等々。
うさぎ好きがかめ好きとは限らない。ヤギの世話を楽しくできる子が、シロに近寄らない。飼育動物でも「この子の居場所をつくってやろう」となると、種類を増やし、数も多くなっていくのは必定、限界がどこかむずかしい。
同じ営みからのものとして
・児童が使うパソコン台数59台
・複製名画等23点(ミニギャラリー、育友会が毎年ベルマークで2〜3点購入)
・読書コーナー(図書室・教室以外)が各階に1〜2か所
・各種ボール、竹馬、一輪車、けん玉など、体育用具など最低40個を自由使用に
・自然池造りと校地内学年栽培園とは別に、校外に田と農園を借用 等々
(2)運動会開催日は10月第3日曜日
和歌山市の学校の中では、極めて遅い開催日となっている。この日にしているのは、天気が最も安定する時期ということなどもあるが、運動会や運動会に向けての期間に、一人ひとりが居場所をもつにはどれくらいの日数が必要かと考えた末での選択結果である。
諸行事や学習においても、この視点を大事にして、内容や期間を考え、実施している。
(3)人、自然との出会い
毎月第2と第4火曜日には、おり紙の高木さんが、始業時から下校時まで、校舎のなかよしホールで来る子たちを待っており紙を教えてくれる。
本校には、実にたくさん方々が学校に入り、子たちにいろいろな機会をつくってくれている。
・低学年には月1回のボランティアグループ「お話ころころ」の方々による読み聞かせ
・学習でのゲストティーチャーの職人さんたち、栽培や図書室、学習の手助けをしていただく地域や保護者のスクールサポーターの皆様
・土曜日の小学校区センターの教室やイベント手話、囲碁、将棋、卓球、ペタンク、英会話、水墨画、語りと演劇、読み書き計算、日本舞踊、竹笛などの工作や手芸、バレーボールなどの教室、イベントとしては、映画会やハイキング、野外料理教室など、盛り沢山の機会がつくられ、たくさんの方々との出会いがもてる。
また、自然との出会いに恵まれた本校は、遊びに、学習に、川や野山、田畑にと気軽に出かけてもいる。自然とのかかわる機会も、居場所がつくられるとの意味で強くすすめている。
(2)学習のなかでの居場所づくり
児童が学校生活で最も長い時間を過ごし、最も自ら拓く機会を得られる一時間一時間の授業のなかでこそ、「この子」の居場所がなくてはいけないと思う。しかしこのことに努めつづけることは、むずかしい。
本校の現職教育(教職員教育研究)は、「この子の居場所があるか」の問いに応えることに焦点をあてている。
(1)研究主題
『子どもが自らの世界を拓く学習』
―“わたし”が主体的に学習をすすめ共に学び合う学習をめざすなかで―
(2)研修しなくてはいけない状況をつくる
テーマに迫る研修の必要性はよく分っていても今の学校の現状ではなかなかできない。そこで自ら厳しい状況をつくっている。
○研究指定を受ける
平成6・7年「生活科研究学校」県指定
平成8・9年「教科等研究学校」県指定
平成11・12年「教育課程研究学校」市指定
平成13・14年「新しい教育課程に対応する情報教育研究学校」市指定
平成15・16年「新しい教育課程に対応する環境教育研究学校」市指定
○研究発表会をもち、学校の姿勢を世に問う
平成7年、平成9年、平成12年、平成14年、そして本年と、大きな研究発表ならびに研究協議会を開催する。
○本年度の主な取り組みで
・全教員が年1回以上提案授業を行い、その協議会をもち、考察を加え各自まとめる。
・11月学習研究会 提案授業7と協議会
全体講師 早稲田大学 藤井千春助教授
・2月学習研究会 提案授業3と協議会
全体講師 立教大学 奈須正裕教授
(3)研究の方途において
・独自学習(一人勉強)と相互学習(話合い、考え合う授業)の連続性の研究
・「書く(表現)」ことと体験の重視
・着目児など、個に焦点をあてての授業分析と考察、指導法の改善 等々
(3)学校・学級づくりのなかでの居場所づくり
学校づくりや学級づくりのなかでも、「この子」が主体的に参画するように努めている。
(1)学校目標のひとつ
「世界一素敵な学校を一緒につくっていこうね」
(2)毎朝の代表委員会で
毎朝の10分間、全学級代表が集まり、気づいたこと、すすめたいこと、考えてほしいことなどを出し、その日から解決に向かう。生活面での問題解決体制をつくっている。
学級会や委員会活動の活性化を願っているが、まだまだ不充分である。
(3)子どもによるクラブが本年より発足
4年以上全員参加するクラブ以外に、ヤギ隊や合唱クラブ、シロお散歩隊、タイ隊など自由参加クラブがあったが、本年、パソコンクラブと千手川プロジェクトクラブが子どもだけで発足した。見守り応援してやりたい。
4. おわりに
テーマと少し離れた提言になったかも知れない。しかし、子ども一人ひとりが学校生活を生き生きとし、教職員が指導に確かな手応えを感じ、自らを見直し、地域の方々と共に子どもを育成することの楽しみを覚えてきたとなれば、小学校段階でのひとつの価値ある提言になるのではないかと僭越だが考える。ご賛同、ご意見をいただきたい。
提言(3)
主体的に行動する力を高める教育
―意欲を高める心の醸造をめざして―
神奈川県川崎市立御幸中学校 校長 垣東節夫
1 はじめに
21世紀は、急速な科学の進歩を引き金に従来とは比較にならない速さで様々なことが変化していく。子どもたちの生きるこれからの時代は、激しい変化と将来の展望を持ちにくい予測不能の時代といえる。経済的に繁栄した日本の豊かさは、豊かになった環境なりの家庭教育もあまりなされないまま、必ずしも心の豊かさを生まず、逆に「努力する」こと、「我慢する」こと等を軽視し、主体的に行動する意欲を希薄化させてしまった。
ITの進歩は、子どもたちの体験、経験を少なくし、友達との本当の関わりを減らし、現実とバーチャルの世界の混同も生みつつある。
ある精神科医は、最近の思春期の若者の様相について「しんどい」「くたびれて何もやる気がしない」「私は何の役にもたたないつまらない人間です」「好きな人もやりたいことも何もない」という現状が目につくと語っている。
平成14年度から始まった「ゆとり」の中で自ら学び、自ら考える力などの「生きる力」の育成を基本とする学習指導要領は、このような子供の成長をめぐる危機的な状況やその背景にある人間と教育の危機の深さをとらえて解決の道を探そうとしている。
このような状況の中で、今なんとしても自ら学び、自ら考え、主体的に行動する意欲と力を高める教育を進めていかなければならない。
そこで主体的に行動をする意欲と力を高める原動力としての一つとして「心の醸造」について提言したい。
2 意欲を高める心の醸造をめざして
中学校の3年間は青年前期にあたり、小学校段階と比べ心身の発達が著しい。自我意識が高まり、生徒の能力、適性、興味関心等の多様化が一層進展するとともに、内面的な成熟へと進み、性的にも成熟する。知的な面では抽象的、論理的思考が発達するとともに社会性なども発達してくる。さらに学年による生徒の発達段階の差異も大きい。
これらの青年前期の特性を考えると急激な心身の発達ゆえにおこる、不安定で脆い精神も見えてくる。自信と劣等感、自己理解の不足、情緒の不安定、自我の暴走、傲慢、ひとりよがり、内面の成長の差異による焦りや必要以上の背伸び等不安定な要素だらけである。
また、この時期はまだ成人にくらべ生活体験が不足しており、さらに人間関係や連帯感の希薄化、集団や社会の一員としての自覚や責任感の低下、目標の喪失、自信の喪失、自分を大切にできない、努力できないなどの問題を多種かかえている。人間を育てるのは人間であり、本気で人間同士がぶつかり合う中で、人は成長する。しかし、学校生活の中では、本気で働き生きている人と触れ合うことは少ない。そして、子どもたちは、とかく正面からぶつかり合うことから逃避する現代の風潮に流され、人として成長する機会を逃している。人はぶつかり合い本気で生きる人々と出会う時、様々なことを考えるようになる。考えることは、次の新しいステップヘ進むことにつながる。その新しいステップに入ることが、すなわち主体的になることでもある。また経験しないことを新たに経験することで、思いもよらないことがおきたり、新しい考え方にぶつかったりする。そのことが、考え、行動する機会にもつながっていく。これらの問題点を克服し、「主体的に行動する力を高める」には、まず初めに学ぶ、行う意欲を育てることが大切である。学べる、やれる、できる、わかる・・・そういう喜びと、わかった、できた・・・という自信が大切になってくる。今まで不足していた自然や文化との触れ合い、様々な経験、体験やクラス、学年、学校の仲間や地域の人々等との幅広い人との触れ合いや協同の取り組み等、豊かな人間性を育む多彩な体験等により作られる「意欲を高める心の醸造」が大切である。さらに経験、体験の中で「世界でたった一人の自分」に気づかせ、自分発見(自分の良さの発見)、自分の生きる道の発見、自分の生かし方の発見、人生の目標の掌握へと主体的に考える心を醸造したい。主体的とは、単に積極的に行動したり、ただ心のおもむくままに能動的に活動したりすることでなく、自分なりのめあて、夢をもって、その実現に向けて取り組んでいくことであれば、自分の生きる道の発見に向けて、様々な方法をもとに意欲を高める心の醸造をしていくことこそが大切となる。
意欲を高める心の醸造は、様々な体験の中で仲間と参加し、受け入れられ認められる喜び、つまり人間関係の中で得られる喜びからも生まれる。反対に自分の方を見てくれる友達がいないとき、自分をわかってくれる友達や教師がいないとき、心は開かず意欲も高まらず、醸造も高まらない。様々な経験や体験を学校教育の中に組織し、主体的に行動する力を高めたい。
3 ヒントとしての具体的取り組み
(1)進路指導
自己実現に向けて目標の設定
(1)職業調べ (2)職業人の講話
(3)職場訪問 (4)職業体験
1年生から3年間を見直しての計画的取り組みになる。それぞれの職場の中で誇りと自信をもって取り組む人々との触れ合いは生徒達に大きな変化を生む。様々な体験を通して自分をみつめ、自分の良さを発見し、その良さを生かしていくこと、一人一人のかけがえのない人生であり自分の良さを生かして生きる道があることを理解させる。
また、(4)職業体験では、自分で体験したい職場を自分であたり、学校の援助のもと自分で体験場所を決め、体験させてもらうところまで取り組ませたい。
(2)ひとりひとりボランティア(N中)
自分のやりたいボランティア活動場所等生徒達が交渉し許可をもらい段取りを完了してくる。全校集会の場でそれぞれが開拓してきたボランティア活動の説明をし、賛同者をつのり、夏休み中を中心に活動する。
(3)昼休み合唱団
文化部の生徒の不足は深刻。運動部にも文化部にも入りたいが両立しない部分を克服した取り組み。基本的には、希望者が昼休みに活動し、文化祭等で発表する。
(4)ゴミバスターズ(K中)
生徒会が中心になり学校周辺のごみ拾いを呼びかけ有志でゴミを集める。月1回実施。
(5)地区生徒会
4月に学区の町内会別の生徒会を組織し、夏休み前に町内会の町会長さん、委員さんに来ていただき、生徒と意見交流ならびに町内会の行事の紹介、参加呼びかけ、生徒からのお願いなど行う。
(6)学校教育推進会議(学校評議員)
川崎市では、地域住民、学識経験者、PTA、教職貝、PTAOB会に生徒の代表を入れ、学校教育について話し合っている。
(7)生徒会リーダー宿泊研修
市内の2年生を対象に、次年度生徒会候補者を中心に情報交換、生徒会についての討論会、新聞作りや発表等の講習会を行い、視野をひろげ、今後の生徒会活動の発展充実をめざす。
4 おわりに
行動力を高める一番の原動力は、意欲を持たせること。意欲を持たせるためには、興味・関心を持たせること。面白さを知り、目標を持つこと、達成感・充実感を味わうこと、くやしさを感じること、基礎学力を持つこと等たくさん要素はある。ここでは、経験・体験を中心に行事的要素の蓄積から、意欲の高まる心の醸造を取り上げたが、その前提として、日常繰り返される授業の中で生徒主体の授業展開がなされ、興味・関心が高まり、行動力がつくことは必須の条件になる。
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