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“魔法の楽器”の使い手たち
写真・文 木之下晃◎写真家
photo & text by Akira KINOSHITA
 
 日本人でストラディヴァリウスを手にして話題を呼んだ最初の人は、戦前に天才少女としてその名を馳せた諏訪根自子さんである。この楽器は第二次世界大戦中、ナチスの宣伝相を務めていたヨーゼフ・ゲッベルスから同盟国の絆としてプレゼントされた。
 ストラディヴァリウスがマスコミで話題になったのは、1973年に辻久子さんが自宅を売って手に入れた時で、当時2,500万円の楽器1挺の値段が家1軒分と騒がれた。辻さんは1703年製のこの楽器を、「子供がいないので、これが子供なの」と慈しむ。その他、家を売って買った人に大阪在住の高橋満保子さんがいる。彼女は1684年製の「永遠の恋人」を手に入れたと喜んでいる。海野義雄さんも73年にマンションを売って、1698年製の「トゥーロー」を求めた。
 篠崎功子さんは1684年製の「ウェップス」を持っている。修理のため、日本の楽器商のところに来たところにたまたま出会ったのがきっかけだった。それがどうしても欲しくなり、親戚縁者四方八方に借金を頼み込んだそうだがこれが駄目。ガックリして、近所の子供の時から知り合いの近所の焼き鳥屋で、ため息をついていたら、そこの親爺さんが「商売道具だろう。俺が貸すから買いな!」と気前よく大枚を貸してくれたという。千住真理子さんは1716年製「デ・デュランテ」を弾いている。
 海外にいる人で、ロンドン在住の服部豊子さんは1698年製「テオンビュー」。ニューヨークを本拠に活躍する竹澤恭子さんは1707年製の「ハンマー」。その他、ロンドンの宗倫匡さんは1692年製、ロスアンゼルスの松田洋子さんは1711年製、ヘルシンキにいる新井淑子さんも“ストラド”を弾いている。
 
川久保賜紀
 
小林美恵
 
豊嶋泰嗣
 
庄司紗矢香
 
神尾真由子
 
東京カルテット
 
岩崎洸
 
諏訪根自子
 
新井淑子
 
 ストラディヴァリウスと言うと、どうしてもヴァイオリンに目がいくが、チェロとなると数も少なく逸品揃い。岩崎洸さんがその珍しい楽器の1727年製を持っている。また、東京クヮルテットが使っている「パガニーニ・クヮルテット」は、所蔵する日本音楽財団から貸与されている物だが、4つが揃うクヮルテットとなると世界に6セットしかない。ロリン・マゼールが日本音楽財団が所蔵するその「パガニーニ」を奏でた時、「まるでパガニーニと対話しているみたい」と感動していた。







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