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第5章 NGOと地域社会との連携の可能性
5-1. はじめに
 今日、地域においても自治体やNGOによる国際協力活動、途上国問題や多文化を理解しようとする教育活動が注目されるようになってきた。それには次のような背景が考えられる。
(1)草の根のNGO/NPO活動が目立つようになった。(2)それら草の根のNGO/NPOがネットワークを形成するようになった。(3)JVC(日本国際ボランティアセンター)、JCNC(日本ネグロス・キャンペーン委員会)、シャプラニール=市民による海外協力の会など先駆的なNGOが地域展開をするようになった。(4)自治体が「国際交流から国際協力へ」を提唱するようになった。(5)外務省、JAICA(国際協力機構)、郵政公社、農水省など政府機関が地域の国際協力や開発教育に資金を提供するようになった。(6)地域の国際交流協会が国際協力や開発教育を促進する活動の拠点となってきた。(7)「総合的な学習」の開始により地域や学校で開発教育/国際理解教育が元気になってきた。
 ここでいう「地域」とは、人口数千から数万の市町村、人口数十万から100万の都市、そして道・県の規模を念頭に置いている。
 
5-2. 地域における国際協力の現状
 地域においても自発的なグループによる国際協力活動が見られるようになった。会員数が数十人ながらバングラデシュの農村にある中学校の生徒に奨学金を供与したり図書を寄贈する活動をするグループ、フィリピン・マニラのスラムに住む子供たちを支援するグループ、モンゴルのいわゆるマンホール・チルドレンの問題に関わって募金活動をするグループなど、地域を活動の場としながら途上国の諸問題と向き合っている。地域で誕生し他県にまで広がりをもった活動をするようになったグループもある。佐賀県で生まれた「地球市民の会」は全国に会員をもっているし、チェルノブイリ原発事故で犠牲となった子供たちを支援する秋田県生まれのNGOはその活動が発展して「日本ベラルーシ協会」というグループ名に改名した。1984年に岡山県で設立された国際医療ボランティア組織のAMDAは、東京と大阪に国際医療情報センターをもち、神奈川県、兵庫県、沖縄県に支部を展開するようになり、今や全国的なNGOとして知られている。
 また、主に東京に事務局を置く大手NGOが、会員を中心とした地域グループを組織している。こうした組織は、東京を中心としたピラミッド型の全国組織に組み入れられるためにあるのではなく、地域の主体性を尊重した地域発の主体的な活動を展開している。地域の会員は基本的には事務局を財政的に支援しているが、もとより潤沢な資金があるわけではないので、一般的には、地域のイベントに参加したり開発教育の活動に参加している程度で、途上国の現地と直接的に関わっているグループは多くない。そんな中にあって新潟国際ボランティア・センター(NVC)は例外的である。毎年、バザーなどで100万円単位で資金を集め、ベトナムやカンボジアで小学校建設の国際協力を行ったり、定期的に現地にスタディ・ツアーのグループを送り込んで、実践的な開発教育も行っている。
 自治体も農業技術支援などを中心に途上国に直接的な国際協力をしている。青森県の車力村はモンゴルに初めて稲作を成功させたり野菜栽培技術を支援すると同時に、現地から研修生を招いている。同じく板柳町は中国の昌平県にりんご栽培の技術支援を行いながら中国からも研修生を受け入れている。島根県横田町は日本一のそろばん生産地として、NGO(日本民際交流センター)の協力を得てタイの小学校などにそろばんを提供し、教員を派遣して生徒を指導するほか指導者を養成している。県レベルでは一般的に、JAICAの委託事業としての「研修生受け入れ」が国際協力の中心であることが多い。例外なのが高知県である。フィリピンのベンゲット州に野菜栽培の技術支援をすると同時に研修生を受け入れている。両地域の関係は、姉妹提携協定を結ぶことにより継続している。
 
5-3. 啓蒙・人材育成としての開発教育/国際理解教育
 今地域で、国際協力への理解を促進する開発教育/国際理解教育が浸透してきた。これは開発教育協会(DEAR=会員約900名)がこの10年展開してきた地域における開発教育セミナーの実績が貢献していると考えられる。外務省からの委託事業をDEARが受けて、全国を6つに分けたブロックでそれぞれ毎年1回、地域セミナーを開催し開発教育の実践を重視した啓蒙活動を行っている。このセミナーでは、会員ばかりではなく教員、NGO/NPO活動家、国際交流協会スタッフ、青年海外協力隊OB会、主婦や学生などさまざまな参加者が開発教育の手法を学びその普及に関わる機会を作り出している。このセミナーをきっかけに全国で大小様々なボランタリーな開発教育/国際理解教育あるいは地球市民教育のグループが誕生しそれぞれ活動している。
 地域でのこうした開発教育運動には、前述したように国際交流協会、協力隊OB会、学校(教員の個人参加)、ボランティア団体など多彩な組織が関わっていることがその特徴である。地域のグループは財政的には細々したものであるが、大規模なセミナーやイベントには外務省、JAICA、AICAF(国際農林業協力協会)などがより積極的に地域のこうした活動に資金的な支援をする傾向にある。
 
5-4. 地域に伸びる「官」の支援事業
 たとえば先の車力村がその活動を認められJAICAより支援を受けたように、「官」が自治体の国際協力活動に注目し積極的に支援する体制が確立するようになった。自治体ばかりではなくNGO/NPO、民間企業、大学などの国際協力にもJAICAは地域展開を始めるようになった。各地の国際交流協会には、「国際協力推進員」と称する地域の国際協力のアンテナになり、また開発教育の推進者にもなるJAICAのスタッフが派遣されるようになった。地域のNGO/NPOは自分たちの国際協力や開発教育の理念や目的との違いを考えつつも、こうした支援を歓迎し受け入れる傾向にある。
 外務省系のAPICやJAICA、総務省系のCLAIRや国際ボランティア貯金、農水省系のAICAFなど、「官」の地域展開は目立ってきている。
 
5-5. 国際交流協会が果たす役割の再評価
 今日、県レベルのみならず、市や町にも国際交流協会が設置されるようになった。全国に国際交流協会が設置されるきっかけとなったのが、1989(平成元)年2月に自治大臣官房企画長の名前で各都道府県・指定都市国際交流担当部局長宛に出された「地域国際交流推進大綱の策定に関する指針について」である。この「指針」では、「大綱」を策定することと同時に、中核的民間国際交流組織として「地域国際化協会」を設置することが促されており、次のように明記されている
 「地域レベルの国際交流においては、民間部門が積極的に活動することが望まれる。このため、各地域の国際交流の中核となる民間組織(いわゆる地域国際化協会)が、地域における国際交流活動の中心になって主体的・創造的な活動を行うとともに、民間団体、住民等との連絡調整を行うことが望ましい。」
 そしてその役割および活動内容については、国際交流情報の収集および地域への提供、各種民間交流組織との連絡・調整および同組織が行う事業への支援、生活情報の提供等在住外国人に対する支援事業、各種国際交流・協力事業の企画・推進、ボランティアの育成および組織化、民間資金の中核的受け皿としての役割、などが挙げられている。このように幅広い活動内容がすでに想定されてはいたが、当時は、現在のような地域のNGO/NPOの台頭や開発教育/国際理解教育の普及までは期待されていなかった。結果的に、国際交流協会(地域国際化協会)が抱える仕事が多くなり、地域の拠点としての役割もますます重要視されるようになったのだが、地域住民も自治体もその役割の重要性にまだあまり気づいていないようだ。
 当時の自治省が「国際交流から国際協力へ」を掲げ、「自治体国際協力元年」を“宣言”したのは1995年であった。途上国の飢餓、貧困、開発、人権、環境などの諸問題がメディアによく取り上げられるようになり、全国的にNGOの役割が注目されてきて、青年海外協力隊のOB会も地域に根ざして活動するようになった頃であった。国際交流協会のスタッフにも協力隊OBやOGが採用されるようにもなった。これまで姉妹都市関係の仕事が中心であったり、主として先進国との交流事業をしていた国際交流協会が、次第に途上国やグローバルな問題に関心をもつようになってきたのである。
 前述したように、最近ではJAICAが主に協力隊OGを中心に、県レベルの国際交流協会へ「国際協力推進員」を常駐派遣するようになった。彼らは、地域の市民、自治体、大学、研究機関などの国際協力プロジェクトに注目して資金支援をしたり、国際協力セミナーや開発教育事業に人的・資金的協力を推進する役割を果たしている。今年度は、各県にほぼ一人づつ派遣されている。国際交流協会のこうした傾向に、私たちはより注目し、再評価しなければならないであろう。
 
5-6. これからの課題
 これまで述べてきたように、地域における国際協力/開発教育の活動環境はこの10年間で大きく変化したように思う。下記の課題を考える時代となったのではないか。
(1)「官」からの財政的支援をどのように評価したらよいのか。
(2)地域のNGO/NPOを財政的に強化し実力をつけるためにはどうしたらよいのか。
(3)地域におけるJA、JC、商工会議所、学校、教会、寺社、ガールスカウト、ソロプチミスト、ロータリークラブ、労働組合、生協、企業、NPO、CBO、国際交流協会など潜在的な国際協力のアクターをどのように結び付けられるのか。
(4)自治体、市民・地域グループ(CBO)、NGO/NPO、学校、などが協働して行う地域主体型国際協力(CDI)のコンセプトをどのように作り出せるのか。
 
(図5-1)地域主体型国際協力の構図(P61 参照







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