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第8章 新しい捜査体制の改編と捜査手法の確立
第1節 組織改正と対策の施行
 外国人や暴力団による組織の増加に対応するべく警視庁に組織犯罪対策部が新設された。新たな部制が警視庁に設けられたのは報道によると36年ぶりという。組織犯罪への総合的、統一的対策が急務との認識に基づいての適切な処置といえよう。先述のような外国人犯罪の急増、凶悪化する中国人の犯罪増に対応しての全国に先駆けての組織改正で、時代の動き、犯罪の危機的状況に照らして適切なものとわれわれも考える。われわれの担当経験した事件の中には何回も予め下見をし、見張り、侵入実行犯、被害者制圧などの役割分担も定め、身軽に動けるようにとの配慮からカンフーシューズを履き、覆面、手袋をなし、緊縛用の粘着テープや凶器、バールなどを準備し、金を持つ家について情報を得て押し込んでくる中国人を含む強盗グループがある。又ピッキングはおろか、サムターン回しの方法をも用いて侵入、根こそぎ金品をさらっている悪辣な中国人をはじめとする窃盗団はますます頻度を高めている。
 同部は6課、1特捜隊により構成される。外国人組織の実態の把握や内偵、発生した事件の処理、暴対法に基づく諸活動をはじめ、暴力団を一手に引受ける、銃器、薬物の発見、検挙、情報収集、新宿歌舞伎町周辺の外国人犯罪を取締り、蛇頭などの中国マフィアを標的とするなどに向けてほぼ千人態勢がとられたという。組織に相応した、精力的で緻密な捜査を大いに期待したいところである。第一線の各署にもこれに相応して関係課が置かれたが、本庁と各署の協力連携、関係機関との共同摘発等が十分に機能することが望まれる。
 このところ諸々の事情に基づく検挙率の低下が強く指摘されている。最良の治安対策は発生事件の100%検挙であるとその昔からいわれていたが、犯罪の手口、態様等の様相の変化、不良外国人の跳梁、暴力団と外国人組織との協力関係の定立等激変する犯罪に対する総合的な対策、その実施が可及的速やかに検挙率(一時は19%台に下がった時期もあった)を限りなく100%近く飛躍的にアップさせ(従来でも7〜8割に達していた時期も長かった)、首都をはじめとする国内治安の確たる維持が枢要の課題であるといえよう。論者のいうように、又しばしば先述したように人員を増やすのみならず犯罪抑圧のための数々の知恵と工夫と方法も考案され、両者相まっての対策の施行が不可欠であることはいうまでもない。
 
第2節 警察活動の充実
 東京都も全国に先立って治安対策を重視し、このところ諸々の施策が講じられつつあることは喜ばしいことである。願わくは掛け声だけに終わらず速やかに実効性が挙がることを期待したいところである。さらに犯罪の広域化、地方拡散化に対応した、地方の警察活動が充実する方へ向かうことでなければなるまい。
 捜査のゆるやかなところ、警察力の弱いところで犯罪が多発するようでは、鬼ごっこのようになる。出来うべくんば、全国均質の方策が地方の実情に合わせた形でとられることがベストであろう。平凡ながら犯罪は割に合わぬもの、悪を行えば必ず露見し、捕まるものという認識、状況が現出することが、犯罪の予防、抑止につながるものといえよう。
 
第3節 中国人の組織犯罪の状況
 ここで、犯罪数の多い中国人の組織犯罪特に窃盗について少し詳しく見てみよう。その昔、泥棒は単独犯が多かったといわれる。昨今はボスを中心としたグループ犯罪が組織としてなされる例が少なくない。どういうわけか、来日不良外国人のうちでも中国人にこれが多いという。先にも少し触れたように、下見はもとより、ピッキング開錠、サムターン回し、バールでこじあけ等の実行行為を分担し、見張り、逃走用運搬用の車の運転にも役割分担がなされ、盗んだ金品の運び役、盗品の処分なども一つの組織が担当する。犯罪の手口としては、いわゆる空巣ねらい、居空、事務所荒し、車上狙い、金庫破り、店舗荒し等がひとまずあげられるが、盗む対象は足がつくのをおそれた現金盗もさること乍ら、貴金属、宝飾品、手形小切手、株券、預金通帳、キャッシュカード、運転免許証、パスポート、高価な衣類品、車など一切合財ごっそり持ち出すというのが特徴的である。
 家人が帰ってくる、電話があったなど危ないと思われる要因があるとみるや指揮者の指示のもと、さーっと引き揚げていくというのも彼等の特質である。不幸にして帰った家人には凶器をつきつけて居直る、殺傷に及ぶというしかも残虐な方法を用いての実行をためらわないというのがわれわれの経験する事例である。
 ピッキング盗については、古く平成12年9月に、最重要課題として総合対策本部が設置され、多くの逮捕者もみられた。このため窃盗グループは、広範囲に地方に拡散したともみられている。その実情は先に統計でみたとおりである。犯行場所は、比較的、中・高層のマンションが多く、逃走経路のため非常階段の出入りがしやすいところが選択されるようである。
 
第4節 新たな捜査手法の確立
 これらの新たな犯罪事象に対して新たな捜査手法が確立されねばならない。まず、問題点であるが捜査のプロの指摘するところに依ると、次のようなことがいわれる。
1. 計画性のある周到綿密な犯行であるため、初動捜査の実効があがらない。
2. 犯人は不法滞在者、密入国者が多いため、住所、居所、行動形態、グループの実体等の実情が把握できない。実行行為者達が役割分担というか分業をしているため、一部を検挙しても、共犯者にたどりつくまでが大変でその帰趨がわからない。そもそも共犯者の特定性に欠ける。仮名を使うし、住居を明かさない。必要なときには携帯電話で連絡し合い、或いはパチンコ屋など居場所を予め決めてつなぎをとるため、しっぽはおろか頭までつかめない。盗品の処分先やグループのリーダーの所在が不明のため、核心に迫る捜査ができない等といわれる。
 従来の捜査方法では間に合わぬ、検挙摘発につながらないといったことで検挙率が総犯罪のそれをひっぱって下がるということになるようである。よもや捜査能力が体制的にも個人的にもその水準が下がったとは思いたくもない。
3. その他、犯行特徴を集約すると、マンション1階の出入口や反対側の路上等に必ず見張りを置く、下見をくり返す、内と外でたえず携帯電話で連絡を取り合う。対象物は現金、貴金属・金券類は勿論、テレビ、パソコン、高級バック類、背広等一切合切を奪取する。家人等に発見された場合は、催涙スプレーを吹き掛けたり、サバイバルナイフ等の凶器で脅すなどしてたちまち事後強盗等に変身する。
 盗品は、わざわざ被害者方のバックや紙袋等を使用して搬出する。被害品の通帳による預金の払戻しは勝手知ったる日本人に行わせることも少なくない。もっとも払戻役に持ち逃げされないよう、実行犯が銀行や郵便局周辺で見張りをする。盗品の処分は、身分証明のある日本人や同国人を使って、質屋や古物商へ処分したり、国際的なブラックマーケット等で売却するといったことがあげられる。
4. かくて従前の捜査手法ではたちゆかぬ、目的を達成できなくて歯ぎしりをするという事態が出現する。ではどうするか。
 第一にかつての犯罪手口制の活用で犯人の割り出しが難しいが故に、常日頃からの監視摘発態勢の強化が不可欠である。来日外国人相手では的をしぼりにくいということに他ならない。
 第二に現場の遺留指紋、足痕、遺留品などが仮に確保されても、外国人犯人まで到達し難い。もともとその動静が把握できてない連中だし、国外逃亡されれば跡かたもなく消えて、追求できないということになる。この点は如何ともし難いが、それでも平素の来日外国人の不断の日常的把握が重要であるし、地域重点的なじゅうたん爆撃的調査も大切といえよう。
 第三に従来の盗品捜査では如何ともし難い面がある外国人による場合、盗品を質屋や古物商へ持ち込むという例は殆どないといわれる。大抵は闇のルートや盗品マーケット、同国人の故質屋へ物が処分されるが故である。賍物の線を追ってそこから足がつくということは通常ない。かくて質屋回りは無駄足となる。犯人発見の端緒となるべきものをできるだけ確保する以外に方法はなかろう。
 第四に犯人の面取りができていても、外国人のそれの場合、確実に或いは正確に犯人と特定しうることは通常至難である。皆似たような顔をしており、識別がむつかしいのである。ことは目撃者がいても同様である。
 ほんの一例を挙げただけであるが、人を見て法を説けで、新たな事象に即した科学的捜査方法、犯人のあぶり出しのための先述来の諸施策の実現と活用が望まれるところである。







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