第4章 いわゆる国民総背番号制の確立について
第1節 背番号制の創設と活用
背番号制とは、政府が国民全部一人ひとりに背番号コードをつけ、全国共通の国民登録証(いわゆるIDカード(アイデンティティーカード))を発行し、これを所持させるという制度をここではいう。
納税、病気治療、そして本稿の主題とする犯罪、とくに外国人犯罪防止に役立つものとして構想される。今回立法された住民基本台帳法改正法とは根本の思想を一にするが、目的は専ら犯罪外国人あぶり出しの方策として、あらたにこの分野に限って使用されるものとしてここに提言する。
住民基本台帳法とは整合性をもつものと思われる。生涯不変、一人一コードを原則に背番号コードを付し、出生したときにこれを受付けた住居地(本籍地)の市区町村長がこれを付する。移動(住居変更)、結婚、養子縁組、離婚、氏名の変更等の身分変動があってもその同一性に変更はなく、この背番号コードは死ぬまでその人についてまわる。ここで確保される背番号コードには氏名、本籍、住所、性別、生年月日の人に関する同一性識別の基本データが、全国ネットのコンピューターシステムで管理される。一人ひとりに全国共通のID(同一性識別)もしくは平たくいえば身分証明が発行される。人々はこれを所持することが義務づけられる方法が望ましい。
今回の住民台帳に関する立法は10桁の背番号が付与されることになっている。われわれはこれと同じ理念のもとに犯罪、治安維持、犯人発見の端緒となる制度を創設活用しようとするのである。別に論ずることになるが、いわゆる指紋登録をもこれに合わせるとその効果は抜群のものとなるに違いない。世の中が進めば、これに顔写真(パスポートのそれのように)瞳孔等の紋様がこれに加えて或いは替わって確保される方法も同様に検討されるべきである。
ただし、そのプライバシーは完全に保護、保障される体制がとられなければならない。そのためにはこれに汎用性を持たせない。日本人と外国人を識別することのみに利用される。大胆なと云われるのを承知でいえば、現実におこなわれている外国人登録証制をより有効ならしめるため、登録制度を広くわが国民に拡げようとする考え方である。何を時代錯誤の方法を考えつくものかな、とんでもないと思う人は、今のわが国の治安の危なさを真に理解してない人の申し条であると思われる。
なるほど、プライバシーを侵害すること甚だしい、人の基本的な要素を公のものとし、それをぶら下げて歩けといわんばかりの手法は基本的人権が全く無視されるではないか、いやそれのみならず人間の尊厳の問題という本質にかかわることではないか、漏洩されない保障はない、紛失や盗用、偽造などが防げるのか、そんな危いものをたかが治安という名のもとに許されていいはずがない、危険が大き過ぎる、健康保険証・パスポート等で足りるではないかというような反論はあるであろう。何も悪事を働かねば恐るるに足りないというつもりは我々もない。
しかし、ヒステリックにものをいうのではないが、かつて水と安全は只といわれた神話は完全に崩壊している時代、社会である。しかし、バランスのとれた人権感覚(犯罪者の権利を重んじ、被害者の権利をかえりみない、外国人にはよりやさしく、基本権は守らねばというようなことでなく)の下でいうならば、今やこれを提言、主張しなければならぬ程の犯罪社会、秩序混乱、悪質外国人の跳梁跋扈がまかり通る社会環境になっていることを忘れてはなるまい。恐ろしいことをいう人だという観念論での非難は程々に願いたいものである。
ちなみにこれはわが国だけの独自の発想では必ずしもない。既に隣国韓国では制度化されている由であるし、スウェーデンでも背番号制は採用されている(ただしカードを発行していない)ところである。番号化社会(キャッシュカードを想起されたい)と稱されるようになった程の社会とはいえ、更にこれをいうことがそのような社会を助長することにはならない。ただし、カード情報保護のための諸施策は厳しく実施されねばなるまい。そのギャランティがなくしては発想をし、提唱し難いものではある。
平成15年5月30日に公布された個人情報の保護に関する法律は、この点に配慮したものと考えてよい。利便性の高い社会を重視した手法を考慮するとともに、個人の人格に密接にかかわる個人情報が不適切ないし違法に取り扱われることになると、国民の不安はつのることになる。
例えば病歴情報のような個人情報が漏えいしたり、悪用されたりしないような制度的社会的な基盤が整備される必要が、高度なものとして求められる。個人情報の特性に配慮しつつ、個人の権利、利益の保護についての万全の措置をとる必要はあるのである。個人情報の利用方法からみて個人の権利を害するおそれが少ないものについて、過剰な規制やIT社会の発展の妨げとならぬよう利用目的の制限、通知、第三者への提供制限、公表、開示規定などについて、高いレベルでの個人情報の保護に資せんとするものである。
同法にいう個人情報についての手当は、この法律によって一応の防波堤が築かれたものといってよかろう。総背番号制にも有効な手段と思われる。
犯罪が発生した、犯人発覚の端緒をえたいとした場合、これがあればふり分けが直ちに可能となる。識別が加速化され、整理がより早く進んで、外国人による犯罪の犯人にたどりつくことが一段と速くなり、犯罪の鎮圧、不良外国人の放逐、治安の維持に有効な手だてとなる。今議論されている納税者番号、立法化された住民台帳システムとは違ったものを構築する必要のあることは喫緊の課題といってよかろう。
もっとも、犯罪のみならず税務、医療、介護等の効率化、透明化を図る手だてとしても、本来は或いは将来において、国民総背番号制の採用が導入されてしかるべきものとわれわれは思う。其新聞的論調を真似したような論理や、建前論的にきれい事を言い、耳ざわりの良い反対論をぶつ、評論家風発言に惑わされてはなるまい。
現に先進各国の多くは態様、細部においてこそ違え、諸外国では既に実施済みのところが少なくない。どのような問題にこれを活用するかは国により異なるとしても、他の項でも触れるように社会保障制度の適正な運用のために番号制をとる国、例えばカナダ、アメリカのように。住民票番号を用いるのは韓国、デンマークなど数カ国。納税専用番号を活用する国としてイタリア、オーストラリア、などなどを例証として挙げることができる。総背番号制は金融、証券の分野でも考慮されて然るべきであろうし、番号によるいわゆる名寄せによる統一的把握が利便性を発揮するに違いなかろう。
ただ既に述べたように強力な包括的な個人情報保護のシステムが構築されることが肝要である。政府税調でも、日本オリジナルの納税者番号制導入がはっきりした方向性をもって検討されている由であるし、問題は論者の反論にもかかわらず、少しずつ進展しているやに見える。
本稿はいわばこれに先がけて提案するものである。アメリカにみられるRICO法(連邦法典第18編、(Racketeer Influenced and Corrupt Organization Act)のような進んだ犯罪捜査手法がない日本において、犯罪捜査専用の指紋押捺制の導入は、今日の社会的状況の下で国民のコンセンサスを比較的得られ易い方法といえるのではなかろうか。
ちなみに、韓国では住民登録法に基づいて、全ての国民に統一的な共通番号を付与し、この番号を幅広い行政分野で利用していると、「現代マリア」1985年7月の253号に記載されている。そしてこのように住民に統一的な番号を付与する制度は、韓国に限らず各国で実施されていると説明している。
社会保険制度の給付及び保険料納付の状況を管理するために番号を付与するアメリカ、カナダ型、住民登録等に基づき全ての国民に番号を付与するスウェーデンなどの北欧型、納税を管理することを目的に税務当局が国民に番号を付与するイタリア型などがあるという。いずれの制度も、この番号が幅広い行政分野で利用されている。韓国の番号制度はこの北欧型に該当するとされる。論者によれば、今回の日本の住民基本台帳番号制度も、この北欧型に最も近い制度という(ただし韓国は13桁、日本は10桁である)。
第2節 韓国の共通番号制度の概要
韓国における共通番号制度は、住民登録法を根拠とする住民登録制度である。その目的は、行政機関が住民を統一的に登録させ、住居の居住状況と異動実態を把握し円滑な事務処理と国の人材管理に能率を期するようにすると理解されている。行政の合理化、効率化を図るという点ではわが国の住民基本台帳制度に相応する制度であろうが、統一的な共通番号の付与、IDカードの発行及び情報の利用状況について差異があるようである。
古く1968年に住民個人々人に番号が付与され、18才以上の者に住民登録証の発給を行うようになり、1975年にはその年齢を17才に引き下げ、かつ受給を受けることを義務化した。1980年の改正で、住民登録証の所持義務が定められ、これが本格的にIDとしての役割を果たすようになった。1991年には電算処理が始められ、目的外利用など不当不法に処理をした者に対する処罰規定や、個人情報の保護に関する規定が新設された。
ちなみに諸外国における共通番号制度についてはジュリスト1069号によれば次の如く示されている。
諸外国における共通番号制度について
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番号の種類 |
実施時期 |
人口 (万人) |
付番対象者 |
付番主体 |
番号を利用している 行政分野 |
アメリカ |
社会保障番号 |
1936年 |
2億5,800 |
全ての市民、永住者、労働許可のある外国人 |
社会保障庁 |
税務、社会保険、年金、運転免許証(一部の州)等 |
カナダ |
社会保険番号 |
1964年 |
2,730 |
全ての市民及び永住者等 |
人材管理及び開発省 |
税務、失業保険、年金等 |
デンマーク |
住民登録番号 |
1968年 |
514 |
全国民 |
内務省中央個人登録局 |
税務、年金、住民管理、諸統計、教育等 |
スウェーデン |
住民登録番号 |
1968年 |
856 |
全国民 |
国家租税委員会 |
税務、社会保険、住民管理、諸統計、教育等 |
ノルウェー |
住民登録番号 |
1970年 |
424 |
全国民 |
登録庁 |
税務、社会保険、諸統計、教育、選挙等 |
シンガポール |
身分証明番号 |
1948年 |
293 |
全国民及び永住者 |
(国民)
国民登録局
(外国人)
入国管理局 |
各種行政分野 |
イタリア |
納税者番号 |
1977年 |
5,766 |
納税者 |
財政省 |
税務、諸許認可等 |
オーストラリア |
納税者番号 |
1989年 |
1,728 |
所得税の対象となる所得を有する者及び社会保障を受ける者 |
国税庁 |
税務、社会保障等 |
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出所:ジュリスト(No.1069)「住民基本台帳制度と住民基本台帳について」
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