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東京財団研究報告書2004-5 外国犯罪の動向とその対策-若干の提言-

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


第5章 国民総指紋登録制の採用について
第1節 指紋登録制の効用
 この問題を提言しようとすると、まず生理的といってよい程反発する人が多分少なくないであろう。人権問題だ、プライバシーの侵害だと叫ぶ人もいよう。屈辱的な制度だという人もいよう。とんでもない暴挙、専制国家のようだ、かつての外国人登録証の指紋採取の問題のときの議論とさわがしさをくりかえすのか、との非難もあるかも知れない。だが今日の社会状況にかんがみ、外国人犯罪の防止、抑圧、国民が安全、安心の下でできる日常生活のための有効な手法の一つとして敢えてここに提言する。
 なるほど何も悪事を働いたわけでもないのに指紋採取を義務づけるとは何故であるかと直ちにいわれるであろう。だがしかし、冷静に今日の社会環境を、昨今のそして将来の一層の国際化、グローバル化を考えてほしい。試みに毎日の新聞の社会面を見られたい。外国人犯罪の増加(日本人もそうであるが)、治安の悪化、検挙率の低下、等々今までの日本ではとうてい考えられぬような来日外国人による凶悪犯罪の発生や激増等が報じられぬ日は殆どあるまい。
 このようなときに国民が指紋採取に協力することでこれらの社会事象の鎮静化に役立つのならば、青筋を立て、目くじらを立てる程の問題かどうかよくよく勘考願いたい。指先を黒い墨のようなインクに染め、十指指紋を任意的でなく義務的に取られるのを侮辱ととる人は少なくないであろうことは確かである。それにいわば最大の個人情報の開示である。その後の濫用、盗用、等を危倶する人もいよう。
 だがこの方法を措ることで犯人確保の道筋がより確かなものになることは火を見るよりも明らかである。不法入国した所在もつかめぬ外国人の指紋はそもそも採れないのに、何程の意味やあらん「害あって益なし」、第一、国外逃亡されればそれまでではないかという論者もいるかも知れぬ。だが悪者を逃がすことに手をかすことに加担はできない。この制度を採用すれば、指紋検索によってたちまち、消去法によって犯人が絞られるという効用は否定しえない。遺留指紋の発見が直ちに犯人の特定、確保につながることもそうである。指紋制度は最も安価で簡便な犯人発見の道具であることを十分に認識してほしいものである。
 たったそれだけのためにというなかれ。日頃の不良外国人への監視の眼を怠ってはならぬことが前提の一つではあるが、足どり地どり捜査、賍物探索、犯行現場の遺留指紋の識別がどれほどたやすくなるか、考えてもみられよ。もっとも12才以下の子供或いは80才以上の高齢者についてはこの問題からは除外してよいと思われる。犯罪の低年齢化の傾向は著しく、他方高齢化社会の進展とともに老人による犯罪も少なくない今日でも、この年齢層の不良外国人が罪を犯すこと、来日してそのまま不法に滞在することは、随伴者としてはともかく単独ではまず考え難いからである。
 コストの問題、費用対効果の問題もあるところである。われわれの最近経験した事例だが、年金生活の79才の老盗が女性二人の居宅に侵入、73才の老女に取り押さえられたというケースがある。女もここまで強くなったかという思いと共にいくつになっても犯罪をする愚か者もいるということを改めて知った次第。とはいってもレアケースといえよう。
 
第2節 指紋の歴史
 そもそも指紋が人の区別のために用いられたという事実は遠くバビロニア、アッシリア時代において記録上既にみられる。例えば大英博物館にはバビロニアの軍人が被疑者の逮捕と指紋の採取を上官から命ぜられたという記録が保管されている。又、11世紀初め中国新彊省南西地方で発掘された古代文書によると、更に実用的で古代中国でも借用証に印鑑の代わりに自分の指の印象を描いたと思われる指痕跡が残っている。現存する中国の指紋押捺の最も古い文書として知られているのは、12世紀ころの土地契約書で、ここでは渦状紋が押されている。わが国では奈良朝前期に畫指として用いられた由である。「日本紀」に手掌押捺の記録もあるという。
 これらの歴史を経て今日の指紋法が個人識別の必要上確固たる地位を固めたのは後世のことである。終生絶対的に不変のもの、他に同一のものがないこと、という特性に着目し、ある紋様が前に登録されているであるかどうかをたやすく知りうる分類と整理がなされていることが指紋法の意味とされるが、これを活用しようというのである。
 もっともここでは1991年ころのわが国の指紋押捺の問題が想起される必要がある。当時外国人登録法では、他人の登録証明書の不正使用防止を目的とし、一定の外国人登録に際し指紋を押させるという方法のみが行われていた。世界の各国でも多く実施されているところであった。これが犯罪人扱いにする、人権侵害として不当不法であると論じられたのである。その結果在日韓国人について指紋押捺を行わないとされたことは記憶に新しい。本来は、不正登録の規制に役立ち、抑止効果を含め採取指紋により登録制度の正確性を担保することに有効であると理解されていたものをである。
 しかし指紋の採取(その代替方法例えば写真、掌紋、瞳孔模様、を含む。)は、今後もわが国にとっても外国人にとっても大切なことであるといえよう。従来から憲法14条、国際人権規約13規約26条に定める平等原則、憲法13条に定める個人尊重の法理、右規約7条に定める品位を傷つける取扱い禁止条項に違反する旨の議論がなされたことはご承知であろう。
 判例は、平等原則について、憲法14条の許容範囲内とし、しかるが故に右規約26条にも抵触しないとしている。この指紋押捺制度は年々法改正が実施され、適用を緩和する措置がとられたとして、改善される方向に進んできた。例えば在留期間一年未満の者の押捺免除、登録証明書の切替間隔を5年に延ばした、回転指紋から平面指紋に改める、黒インクに代わり無色透明のインクによる押捺制の採用、指紋押捺を原則として最初の一回とし、爾後の登録証明書には指紋の転写に止めた等の改正が順次行われた。そして「多年にわたり在留する外国人の立場を配慮しつつ、外国人登録制度の在り方及び指紋押捺代替措置等、その基本的問題について検討を加え、改善を図ること」との国会内における附帯決議がなされ、平成に入っても政府の方針が示されている。いずれも主として在日韓国人に関する事柄であるにせよ、このような趨勢を視野に置いたうえでの議論をしなければならないことは承知の上である。いわばタブーへの挑戦といってよかろう。
 しかし前述したように出入国管理をめぐる、わが国内治安をはじめとする各情勢が厳しさを増している今日、出入国管理行政の重要性はいわずもがな、信頼性、妥当性、客観性のある外国人登録制度や指紋制度の見直し、確立も又喫緊の課題といえよう。現在の出入国管理及び難民認定法23条等によれば、在留の条件が定められているが、指紋押捺は義務的なものとはなってはいない。しかしこれは来日外国人に対する上陸規制の一方法であって、日本国民については国益に沿った在り方が本人把握確認の方法について議論の対象となることは何ら差し支えあるまい。
 目下政権政党のマニフェストにも治安問題の重視が掲げられている。各論的にいえば国と国民との契約を治安問題について交わすということであってみれば、これが具体化されたとき、国民も又契約当事者の一方として何をなすべきかについて、本来真剣に考えねばならぬことである。指紋の問題もその有力な一つといえよう。しかしいずれにしても、立法政策、法律事項である。周到にして綿密な検討が必要である。その引き金の役割を果たしたい。
 ただ、政党や政治家のように警察官の人員増を声高に叫べばよいというものではない。人員の増加も有用な方法の一つであることを否定できないが、それをもって事足りるとするのは仏作って魂いれずの弊を免れまい。経済より治安に不安を感じるとの世論調査の結果が東京の下町で出ていると聞知したことがあるが、われわれも同感する。渋谷や六本木に行けば多くイラン人がたむろし、そこへ行けばクスリ(麻薬や覚せい剤)が彼等からたやすく買える、歌舞伎町には外国人の売人、風俗嬢、売春婦が蛇頭等或いは暴力団の縄張りをバックに多数潜在していると聞く度に、一体日本はどうなっているのだろうと思わぬ人は多分あるまい。
 
第3節 韓国の指紋制度
 韓国のそれは南北分断、両者の緊張関係という国情もあっての制度と思われ、事情を異にするわが国ではいかがなものかとするむきもあるかもしれない。だが十分参考にすべき制度である。ただ住民登録制の一環としてなされ、その制度の中に包摂された形になっている。われわれは独自の制度として考えてみようという点において趣きを異にする。
 現在韓国で施行されている住民登録法は(紆余曲折を経て1997年改正住民登録法が一部改正されたあと現行住民登録制が施行されている。)によると、以下のとおりである。
 現行住民登録及び住民登録証制度によれば、すべての国民は自身のあらゆる指紋を国家に提供することになっている。右手親指指紋は住民登録証の必要的記載事項となっており、住民登録票の作成過程で10指すべての指紋が採取されて保管される。
 もっともこれに対しては文献によれば住民の動態把握と行政業務の効率性のための住民登録制度の目的にてらすと、あらゆる指紋を採取して保管することは不適切であるとの批判がたえずなされている由である。これは現実的に住民登録制度の一環で採取された指紋は、住民登録業務と直接の関連のない警察庁で統合され管理されるようになっているからである。
 しかもこのような慣行は法的根拠なしになされている由である。住民登録情報の提供などに対する手続規定は、現行法でおかれているけれども、指紋採取については規定が用意されていない。われわれの知る限り現在、全国民を対象に10指紋を日常的に採取する国は韓国だけのようである。犯罪者の発見捜索において有用であるとしてもである。
 このような社会的有用性が、国民すべての指紋を採取して保管することの合理的で正当な事由となるとすることは、十分でないとする向きもある。大地震、オームのような大事件による死者等の身元確認のためには便利とはいえても、それは指紋制度の副次的効果であって、指紋制度の本来の目的ではない。犯罪人の捜索等についての利便性有効性も、ひいては全国民を犯罪人扱いにすることになり、韓国憲法第27条4項の無罪推定原則に矛盾するとの議論がなされている。のみならず、指紋制度は人間の尊厳と価値を傷つけられ、屈辱を感じるような制度でもあるとされる。そこで韓国でも現在指紋押捺制度に対する社会的拒否感が広まっているという。しかし実際は定着していると聞知している。
 そのような制度をわが国でも採用せよというのかとの反論は確かにあるであろう。だが第一に、わが国では立法によって確たる法的根拠が与えられる。第二に、汎用性がない。多目的利用が禁止される。犯罪捜査に有効である場合のみに効用を発揮するものとして制限的なものになる。第三に、濫用、漏えいの懸念は十分に払拭されるものとされる。第四に、国民的コンセンスの存在が前提となるといった点で、韓国における右のような批判勢力の声を十分に超克できるものと思われる。
 確かに韓国では、国家保安治安維持を目的として国民をコントロールする制度として機能してきた側面が強かったらしい。南北問題ではなく、来日外国人による犯罪増に対する対策の一つとして機能させるというわれわれの主張が、荒唐無稽のものとは思われないし、重大かつ現存する危険に対するこれらの事態に対して、最も有効でかつ合理的現実的なものと考えることは、むしろ今日的ですらあるといえる。お目出たい日本人を装うことは大概にというのがわれわれの考察である。







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