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東京財団研究報告書2004-2 日本人の安全保障に関する新構想

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


[3.0 軍事・安全保障企業は世界で何をしているか]
3.1 安全保障企業:PMCの先駆者、コントロール・リスクス社
 この章では実際に軍事・安全保障企業がどのような活動をしているのか。具体的に見ていきたい。まずは最初のカテゴリーである「安全保障企業」である。これはクライアント向けに各種の調査業務を行ったり、安全保障・危機管理プランニング、リスク評価分析や企業インテリジェンス・サービス等、安全保障に関するさまざまなサービスを提供する企業のことである。通常、多くの軍人たちは、情報収集の方法やサバイバルの技能、戦略的な思考を身につけ、安全保障のための技能を軍隊の中で訓練されている。戦争や平和維持活動などの現場での経験と合わせると、彼らは安全保障コンサルタントとして完璧な適性を備えていると言える。
 そんな適性を活かしてユニークなコンサルティングを行っている企業の一つが、前述した英コントロール・リスクス社である。すでに述べたように同社はロイズ保険と組んで人質解放交渉のコンサルティング業務で長い歴史を持つ。同社はこれ以外にも企業のリスク・セキュリティ戦略全般に関するコンサルティングを行っており、企業などの組織がその人員、情報、設備などの資産に対するさまざまなリスクをいかにして軽減できるかを助言したり、鉱山や建設現場、石油関連施設などに「安全保障コーディネーター」と呼ばれる警備要員を手配することなどを行っている。また企業が活動を行う国に関する政治リスクを分析したり、競争相手の背景を調査したりといった調査業務も手がけている35
 同社には元軍人だけでなく、地域専門家の学者グループ、保険などのビジネスマンが集まっており、今では軍人色は薄く、ビジネス・コンサルティング企業としてその名声も確立されているので、最近ではPMCのカテゴリーには含められないこともあるが、「軍人たちの能力を商業的に活かす」道を切り開いた先駆者として、軍事・安全保障業界の歴史の中で重要な位置を占めているということができるだろう。
 
3.2 軍事コンサルティング企業:米軍の別働隊、MPRI社
 アメリカのMPRI社は、軍事コンサルティング業界の中でもっとも名前が知られ、評価の高い企業である。1987年に設立された同社は、冷戦後の軍事のアウトソーシング、民営化の流れと共に成長していった企業の典型でもある。同社のウェブサイト36によれば、「MPRIの使命は、最高のクオリティの教育、訓練、組織的な専門知識と世界中の指導者育成」であり、軍事訓練や戦術・ドクトリン開発、シュミレーションやウォーゲームの支援、装備の実地訓練、民主化移行支援、平和維持活動や人道支援、反テロリズムなど幅広い軍事サービスを提供している。同社の最大の特徴は米政府との緊密な関係であり、米陸軍の最高レベルの元高官たちを多数スタッフとして抱えているという強みを持っている。2000年7月以降は米大手防衛企業L-3コミュニケーションズ社の子会社となり、現在800名のMPRIの契約者たちが世界の現場で活躍している。クライアントから受ける具体的な仕事内容に応じて、その任務に適した人材を12,500人とも言われる陸軍出身者の膨大なデータベースを使って選抜し派遣している。
 MPRIが最初に国際的な注目を浴びるようになったのは、90年代前半にバルカン半島で起きた戦争においてだった。1994年、MPRIは国連のセルビアへの経済制裁を監視するため、セルビアとボスニアとの国境沿いに45名の元軍人たちを派遣する契約を米国務省と結んだ。ボスニアのセルビア人地域にセルビア本国から物資が運ばれているとの批判を受けた当時のミロシェビッチ・セルビア大統領が、「そんなことはない、だったら監視をおいて自分たちで確かめればよい」と要求したことから発生した任務で、当初米陸軍に誰かを派遣するよう要請があったが、陸軍が断ったためMPRIにこの仕事が回ってきた。当初2週間だったこの任務は結局18ヶ月間、95年デイトン停戦合意の締結まで続けられた37
 これに続いて94年、MPRIはユーゴスラビア連邦からの独立を宣言したばかりのクロアチアへ軍事アドバイザーとして赴いた。1994年3月、クロアチアの国防相が米国防総省に書簡を送り、MPRI社との間で「軍・民関係に関する訓練を受ける許可を求めた」とあるが、実態は「クロアチア軍を旧東側の“モスクワ・ベオグラード型軍隊”から、“西側のアメリカをモデルとした軍隊”へ再編する」のがその主たる目的だった38。クロアチア政府とMPRIは同年9月に契約に調印し、12月には国務省がこの契約を認可した。そしてMPRIのメンバーが実際にクロアチアを訪れる数日前には、国防総省高官からブリーフィングがあり、その後もこのプロジェクトの進行状況は国防総省に逐一報告されたという39
 このMPRIのビジネスが、米政府との緊密な調整の下でなされていたことから分かる通り、この契約は米政府の方針と合致していただけでなく、MPRIという民間企業が米政府に代わって行った軍事支援であった。米政府はクロアチアやボスニアの軍事能力を向上させることにより、セルビアとの勢力均衡を作りたいと思っていたのだが、1991年に国連が課したユーゴスラビアへの軍事制裁措置により、旧ユーゴ内のいかなる勢力に対しても、武器や軍事訓練、アドバイスなどを与えることが禁じられており、米政府は安全保障理事会でこの制裁案を承認していた。このためクロアチアやボスニアへの公然たる軍事支援ができなかったので、「国家が公然とはできないことを、民間を使って行う」という伝統的な手法をとってMPRIに仕事が回ったのである。
 MPRIがクロアチアに到着した頃、同国の領土の約30%がセルビア軍の支配下にあったのだが、MPRIがクロアチア軍に協力し始めたのとほとんど時を同じくして、クロアチアが領土の奪回に次々と成功をし始める。1995年5月にはザグレブの南西部を取り返し、続いて西スロヴェニアの一部も奪回した。そして1995年8月にはクラジナ地方を奪回するため、クロアチア軍は有名な「オペレーション・ストーム」を敢行した。この作戦はそれまでになく洗練された攻撃で、わずか1週間でセルビアの防衛を崩壊させ、クラジナ地方を取り返してしまった。この作戦は典型的なNATO式の軍事作戦だと言われ、MPRIが背後で糸を引いたのではないかとの憶測を広めた当時国連のオブザーバーミッションでクラジナ地方を訪れていたイギリスの大佐は、「これは教科書通りの軍事作戦だ。もちろんユーゴ軍の教科書ではない。誰がこの計画を書いたにせよ、その人物は北米か西欧のNATO関連の軍事大学に行けばAのスコアをとるだろう」とコメントした40。MPRIはこうした見方を真っ向から否定しているが、クロアチア軍の明らかな戦力の向上はMPRIの名声を高め、同社は続いてボスニアでも契約を取ることに成功した。
 この契約はボスニア戦争の停戦協定であるデイトン合意で定められた「訓練と装備プログラム」を実施することであり、具体的にはボスニア軍が、定められた一定の軍事能力を備えるまで同軍に軍事訓練を施し、兵器の実地訓練を行うことだった。この時もアメリカの正規軍はNATOの「履行部隊」とそれに続く「安定化部隊」への参加が決まっていたため、「訓練と装備プログラム」で軍事訓練を行うことができなかった。そこでここでも国軍に代わって民間企業が任務を引き受けたのである41
 このようにMPRIは米政府と緊密に協力し、米政府の方針に反する仕事は受けないし、さまざまな政治的理由で米軍が関与できない軍事支援などを請け負って、米政府の外交・軍事政策を側面から支援する役割を担っていると言えるであろう。
 
3.3 軍事コンサルティング企業:米大使館の警備まで担う英DSL
 英特殊部隊「特殊空挺連隊」(SAS)のOB3人が立ち上げたディフェンス・システムズ・リミテッド社(DSL)は、途上国で活動する企業や政府機関に対して、軍事コンサルティング企業がどのような安全保障上の貢献をしているかを示すよい例を提供してくれる。DSLも軍事的技能をクライアントに提供するが戦闘には参加しない。訓練をし、装備を整え、助言はするが、戦いはしないタイプの企業である。現在は米ArmorGroup社の傘下に組み込まれており、より一層「コンサルタント」色を増している。
 DSLが獲得した西側政府との最初の大きな契約は、米政府との間で、バーレーンの米大使館の安全保障を向上させるコンサルティング業務だった。当時の多くの大使館と同様、アメリカの大使館も2段階のセキュリティ・システムを整えていた。第1段階のセキュリティは大使館の建物への出入り口をコントロールする米海兵隊の警備兵で、第2段階は、建物の周りを囲む壁と正面ゲートを守る複数の海兵隊員の存在だった。この警備態勢を見たDSLのコンサルタントは、壁の外側に対するコントロールがまったくないのは大きな弱点だと気がついた。脅威がやってくるのはもちろん壁の外側からであり、そこに少しでも影響力を保持する必要があると、このコンサルタントは考えたのである。ところが米海兵隊員は、法律上米大使館の外側で活動することはできない。そこでDSLは、「第3の部隊」というコンセプトを思いついた。これは民間企業を雇って大使館の壁の外側をパトロールさせ、何か脅威が迫ったら壁の内側にいる海兵隊員に直ぐに伝えて警告を与えるというシステムである。こうしてDSLはネパールの特殊部隊グルカのOBたちを「第3の部隊」として雇うという新しいコンセプトを生み出した。このコンセプトは米政府だけでなく、他の政府の大使館警備にも採用され、DSLはこの後、数多くのコンサルティング契約を獲得したのだった42
 DSLはまたコロンビアにおいてイギリスの石油会社ブリティッシュ・ペトロリアム社(BP)とセキュリティ・コンサルティングに関する契約を結んだが、これはメディアからさんざん叩かれることになった。コロンビアと言えばコカイン生産の一大拠点であり、麻薬戦争の最前線としてその治安の悪さは世界でも有数である。人権団体は同国で過去10年間で25,000人の市民が政治的な理由から殺害されたとし、誘拐されて行方不明になっている人の数も3,000名を超えると報告している。コロンビア政府の治安組織は、親政府派の武装民兵組織と手を結び、左翼ゲリラと泥沼の戦いを続けている。
 BPは南半球で最大の油田と言われるカサナーレ地方の油田開発を手がけ、この国で最大の投資をしている企業だが、それだけに反政府勢力からは目の仇にされている。反政府ゲリラは当然、この同国最大のプロジェクトを妨害しようと画策し、BPの石油パイプラインへ定期的に攻撃を繰り返していたのだ43
 BPとコロンビア政府はこのゲリラ攻撃から大事な石油施設を守るため、3,000名からなる大隊を組織して警備にあたらせることにした。が、悪名高い武装民兵と手を組み、弾圧と腐敗で有名なコロンビア軍は、一般市民に対して人権侵害を繰り返していると人権団体に糾弾された。こうした中でDSLは、BPの事業を守るために雇われたのである。DSLはコロンビアの治安機関に対してテロリスト対策の訓練を施したのだが、あるときBPの事業に反対する地元住民が何者かに殺害される事件が起きた。BPは反対デモに参加する住民の情報をコロンビアの治安機関に渡し、警察がDSL仕込みの手法でこの住民を殺害したのではないかと疑われたのである。真相は不明だが少なくともマスコミにとっては絶好の報道ネタであり、BPとDSLは猛烈なメディアバッシングを受けた44
 このようにPMCがかかわる仕事がその性質上「紛争」「戦争」の現場で行われるため、「真相」に関して第3者からの評価が困難で、それゆえ責任の所在も明確にできない点は後に触れるようにPMCの大きな問題点の一つと言える。コロンビアはそうした真相解明が困難な国の一つであるが、この国にはDSL以外にも多くのPMCがかかわっている。続いては、アメリカ政府の反麻薬作戦に雇われている米PMCの活動を紹介しよう。
 
3.4 軍事コンサルティング企業:米ダイン・コープ社の麻薬戦争
 「アメリカの軍隊の一部ではない部隊を持つのはとても便利なものだよ、明らかに。もし誰か殺害されたり、何か困ったことになっても、それは米軍の人ではありません、と言えるからね45」とマイルス・フレチェット(Myles Frechette)元駐コロンビア大使が本音をのぞかせたように、米政府にとってPMCはきわめて便利な存在である。米軍本体を動かすことなく、米政府が世界に介入することをPMCが可能にしているからである。ここでフレチェット元大使が「便利な」存在と言ったのは、バージニアのレストンに本拠を構えるPMCダイン・コープ社のことである。同社は「インフォメーション・システム、インフォメーション・テクノロジー・アウトソーシングとテクニカル・サービス」の専門であると自社を売り込んでおり、一見すると普通のIT企業のように見える。しかし同社のほとんどの社員は元軍人であり、同社の収益の半分は国防総省との契約からきており、同省以外にも国務省、FBI、DEA(麻薬取締局)、国家麻薬政策オフィスなど30以上の政府関係省庁とビジネス関係にある。軍事の「技術とサービス」の提供を売り物に年間売上は18億ドルで未処理の契約の山は44億ドル、世界に23,000人の社員を有している。
 1991年以来、ダイン・コープ社は国務省の国際麻薬法執行局と契約し、コロンビアの麻薬撲滅作戦の一部を請け負っている。米政府はコロンビア政府が進める麻薬撲滅作戦を全面支援しており、その中でダイン・コープはコロンビア警察や軍の訓練、空輸、偵察飛行、探索と救出、航空機のメンテナンスなどさまざまな任務を請け負っている。
 米国務省はケシやコカの葉の栽培や不法麻薬の取引きを絶滅させることを目的に、コロンビア政府が麻薬密売組織を解体させ、コカインやヘロインの精製施設を破壊せしめ、合法的な薬品を不法なチャンネルに流させない能力を強化するのを援助している。具体的にコロンビア国家警察は国務省の国際麻薬法執行局の支援を受けて、ケシやコカの葉の栽培地を絶滅させるための空中散布を行っている。これに使われる薬品の空中散布用飛行機は国務省が提供したもので、この飛行機の操縦はダイン・コープ社の契約者が担い、同機をエスコートする武装ヘリコプターや「探索と救助」用ヘリコプターには、ダイン・コープの契約者とコロンビア国家警察の混成チームが乗り込んでいる。例えばパイロットや副操縦士、それに補助的な医療従事者はダイン・コープの契約者で、機内に装備されたマシンガンを扱うのはコロンビアの警察官というようなチーム編成になる。こうした航空機やヘリコプターの整備やメンテナンス、訓練にもダイン・コープ社の社員があたり、アメリカ人以外にも現地のコロンビア人やペルー、グアテマラなどの軍出身者のパイロットが任務についている。また国務省はコロンビア軍に対して武装ヘリコプター「UH-1H」を提供し、同軍の反麻薬作戦に従事する3個大隊の能力強化に貢献しているが、ここでも25名のダイン・コープ社員が訓練やロジスティクス支援を行っており、現在総勢300名以上の同社社員がこのコロンビア麻薬戦争に参加している46
 以上、MPRI、DSLとダイン・コープという欧米「軍事コンサルティング企業」の代表的な3社の活動を見てみた。次は「軍事サポート企業」の最大手KBR社を見ていく。
 

35 コントロール・リスクス社社員とのインタビュー、2003年11月13日
37 Harry Ed Soysterとのインタビュー、2003年12月3日
38 ibid.
39 Deborah Avantとのインタビュー、2003年9月11日
40 Peter W. Singerとのインタビュー、2003年9月15日
41 Eugene B. Smith, The New Condottieri and US Policy: The Privatization of Conflict and Its Implications, Parameters, Winter, 2002-03
42 Davis, 2000, pp. 104-105
43 BP's Secret Soldiers.
(http://www.blythe.org/nytransfer-subs/97cov/Colombia:_BP's_Secret_Soldiers_)
及び Michael Gillard, Ignacio Gomez and Milissa Jones. BP hands 'tarred in pipeline dirty war', The Guardian, 17 October 1998
44 ibid.
45 Jeremy Bigwood. DynCorp in Colombia: Outsourcing the Drug War.
Corp Watch, 23 May 2001.
46 The Center for International Policy's Colombia Project.
(http://www.ciponline.org/colombia/dyncorp.htm) および
(http://www.ciponline.org/colombia/052201.htm)







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