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東京財団研究報告書2004-2 日本人の安全保障に関する新構想

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


[2.0 民間軍事・安全保障業界を解剖する]
2.1 冷戦崩壊が新たなPMCに対する需要を生み出した
 この時代に軍事・安全保障業界が急成長した背景には、冷戦が終結したことによる国際安全保障環境の大きな変化がある。半世紀以上にわたって文字通り世界を二分していた米ソ対立の終焉が意味したものは、「力の空白」による不安定とある種の秩序の崩壊だった。冷戦中、米ソは競うように世界各地に介入し、お互いに対立する勢力を支援してきた。しかし米ソがバックにいて力の均衡を保っていたために抑制されていた対立や争いが、冷戦秩序の崩壊を受けて表面化し、民族紛争などの内戦が多発する結果となった。そこでそれまでは大国の支援があったから鎮圧することのできた反政府活動を抑えることができなくなって内戦に陥いる国が出たり、不安定化を望まぬ超大国によって抑制されていた独立への願望が爆発して独立運動が激化する国が出るなど、対立・紛争が世界中で増加したのである。反政府活動を鎮圧したい小国は、もはや大国の支援を受けられなくなったため、代わりにPMCに助けを求めるようになった。また独立を希望する勢力も、正規軍を倒すために外部の援助を請い、PMCを頼るようになった。
 またこれは旧ソ連圏に属した中・東欧諸国に見られた現象だが、西側の軍事機構、特に北大西洋条約機構(NATO)に加盟するために、自国の軍隊を西側並に近代化する必要に迫られる国が出てきた。そうした国は当然NATO標準の軍隊へアップグレードするために必要な的確な助言を必要とするようになり、ここでもまたイギリスやアメリカのPMCの活躍の場が出てきた24
 さらに冷戦秩序の崩壊により、国際犯罪が増加したこともPMCに新たなスペースを切り開いた。東西の壁がなくなったことにより、新たなグローバル化の波が起こり、資本や人の国境を越えた往来が激しくなったが、それに伴って国際的な組織犯罪もグローバル化を急速に進めたのである。東欧やロシア・マフィアの脅威が西側世界に広がったり、国際テロリストの脅威も増大し、民間企業やNGO、それに一般の民間人グループなどまでがPMCのクライアントになる時代となった。しかも東欧や旧ソ連邦の共和国が崩壊し、その武器庫から大量の武器が闇市場に流れたことで、犯罪者やテロリストに危険な武器が容易に入手可能な環境ができてしまい、より安全保障上のリスクが高まったのである。つまり民間人の間で、より「安全」を求める声が高まったのだった25
 
2.2 軍人に民間での活躍の場を与えたさまざまな要因
 このように冷戦体制崩壊による不安定化が、PMCに対する需要を増大させたのに対し、供給側でも変化が起きていた。冷戦の終結が世界中で軍隊の縮小化、ダウンサイジングを押し進め、1990年代には世界中の軍隊で600万人もの職が失われた。その結果、膨大な数の軍事的技能を身につけた個人が民間市場に流れ、民間の軍事・安全保障企業に吸収されていった。また新たに企業を設立する動きにも拍車がかかり、中には旧南アフリカ軍の32偵察大隊や旧ソ連軍のアルファ特殊部隊のようなエリート部隊が、部隊ごと軍から抜けて民間企業をつくった例も登場した。軍人だけでなく、旧KGBの職員の70%近くが民間のPMCで再雇用されたという記録もある26
 このように民間市場に元軍人たちが大量に流れて、PMCがサービスを提供する準備が整う一方で、冷戦体制が崩壊したことで紛争やテロリストなどの脅威は増大し、こうしたPMCのサービスに対する需要は急上昇した。しかも本来は各地の紛争などを沈静化させるべき軍を送る役割を果たしていた大国が、もはや自国の国益に直接かかわりがない地域に派兵することに消極的になっていった。つまり紛争の種を抱えた多くの小国に、大国からの軍事援助がなくなったことで「力の空白」が生じ、その「安全保障のギャップ」を埋めるべくPMCに対する需要が増大したわけである27。もちろんこの「ギャップ」を埋めようとしたのはPMCだけでなく、テロリストまがいの武装勢力やいわゆる「ならず者国家」も同様だった。そこでテロリストやならず者国家の魔の手に小国が落ちてしまうことを防ぐためにも、アメリカやイギリスはむしろPMCを積極的に活用する道を選んだのであった。
 アメリカのPMC大手MPRIの元バイス・プレジデントをつとめたエド・ソイスター氏は、冷戦後に小規模な紛争が続発し新たな脅威が登場したにもかかわらず、米陸軍は冷戦時の79万人から48万人へと大規模に人員が削減されたため、「実際に陸軍のマンパワーだけでは新しい事態に対応できなくなった」のだと証言している。そこでそれまでは非軍事の分野に限られていた民間の参入を、軍事分野であっても直接戦闘と関係しない分野には認めざるを得なくなっていったのだという。「全盛期には陸軍16個師団あったのがいまではわずか10個師団しかない。全盛期にまかなえたこと全てを少ないマンパワーでこなすことはできない。しかも軍の任務は新たな脅威の登場と共に増えたのだから」と説明している28
 民間の軍事・安全保障業界が成長した理由は他にもある。それは戦争自体が革命的とも言える大きな技術的進歩により変革していることである。先のイラク戦争でも見られたように、特にアメリカの戦争はさらに一段とハイテク化が進み、戦争遂行に際して洗練された軍事システムを動かす民間のスペシャリストの存在が不可欠になっている。情報通信関連などの高度な技術を取り扱う専門の民間人の助けなしに今やハイテク戦争の遂行は不可能とまで言われており、こうした軍事革命のトレンドを受けて、軍事技術の専門家集団としてのPMCも活躍の場を広げることになった29。こうしてさまざまな要因が重なり、PMCが大きく成長する環境が整ったのである。
 
2.3 PMCの特色
 古代から存在する傭兵と違い、今日世界各地で見られるPMCはより洗練され、よく組織化されており、たいていの場合政府に登記され、政府の営業認可を受けもちろん税金も払ってビジネス活動をしている。たいていのPMCは他業種の企業との違いを最小限に抑えようと一般企業とまったく変わらないような企業形態を整え、それゆえことさらにメディアなどの注目を浴びて警戒されることを不思議にさえ思っている。PMCは他業種の企業と同様、自社のポジティブなイメージを作ろうとPR活動につとめ、企業イメージを向上させてさらなる契約を獲得したいという動機が、従業員たちに世間が心配するようないわゆる「傭兵」的な行動をとらせないと主張している。多くのPMCがホームページを持ち、彼らが提供するサービスを解説し、国際ビジネスのアクターとしての正統性を得ようと努めているのである30
 イギリスのPMC大手のサンドライン社は、近代的なPMCが伝統的な傭兵集団とどう違うのかを箇条書きで以下のように説明している。
1. PMCは企業アイデンティティを有する法人組織である
2. PMCは第1世界に本部をおき活動をしている
3. PMCは(会社として)定めている活動規範に従っている
4. PMCは誰のために働くかそのクライアントに対して選択的である(誰のためにでも働くわけではない)
5. PMCの社員は第1世界の軍隊の基準で行動している
6. PMCの行動原則はきわめて厳格に適用されている
7. PMCは国内及び国際法の枠組の中で活動をしている
8. PMCは喜んで法の下で規制されたいと思っている31
 兵器生産に携わる伝統的な軍需企業と違い、PMCは主に情報通信やインテリジェンスを含むハイテク戦におけるサービスの提供、ロジスティクス分野での支援、戦場での軍事訓練や戦略企画などの軍事関連のサービス、つまり兵器などのハードではなく軍事的なソフトやノウハウを提供している点にその特徴がある。元軍人をリクルートして、反テロリスト活動や麻薬取締り活動にあたらせたり、武装した兵站支援サービスから平和維持活動、人道援助活動、地雷除去活動など実にさまざまなサービスを、外国政府や国際機関、国防関係省庁に対して提供している企業だと考えればいいだろう32。多くの場合、本社を構える国の政府や軍隊との結びつきが緊密であり、正規軍の補佐、支援、別働隊として機能している。一民間企業として、政府より何事も素早く行動できるし柔軟であるのもその特色と言える。
 現在世界110ヶ国で少なくとも90社に及ぶこの種のPMCが操業中であることが確認されている。1994年以降、米国防総省は3,000億ドル以上に相当する3,061件の契約を12社の米PMCと結んでいる33
 
2.4 PMCの4つのタイプ
 国際軍事・安全保障業界の理解を深めるために、この業界に所属する企業の扱う業務に応じて大きく4つのタイプに分類し、実際にどんな業務を行うどんな企業がこの世界で活動しているのかを見ていきたい。
 まず大きな区分けとしては「安全保障」と「軍事」のカテゴリーに分けられる。「安全保障」分野は日本でいう「警備保障」の業務と一部重なってくる分野であり、「セキュリティ」に関するサービスを主に企業や政府のクライアント向けに提供している企業たちのグループを指している。この分野の企業は、元軍人たちによって構成され、軍事の知識や技能を用いるのだが、実際の業務は軍事的な活動や軍事力を支援するような活動ではない。クライアント向けの各種調査業務であったり、危機管理プランニング、リスク評価分析や企業インテリジェンス・サービス等を主に行うが、トレーニング・サービスやボディーガード、保安用品の供給から保安技術のサポートまで含まれる。前述した英コントロール・リスクス社はこのカテゴリーの代表例である。
 もう一つの「軍事」のカテゴリーは、さらに(1)「軍事コンサルティング企業」と(2)「軍事サポート企業」そして(3)「軍事戦闘企業」の3種類に大別できる。(1)の「軍事コンサルティング企業」はさまざまなクライアントに対し軍事訓練、カウンター・テロリスト訓練、情報収集訓練、軍事技術研修、装備・兵器の提供や軍事的専門技術・戦略・戦術分析や助言を提供する企業群のことで、このグループに含まれる決定的な条件は、直接的な戦闘には加わらないという点である。戦闘をするか、しないかは大きな分かれ目といえる。代表企業は前述したビネル社、米MPRI社、米ダイン・コープそれにイスラエルのレヴダン社などである。
 (2)「軍事サポート企業」は軍事兵站、輸送、情報収集などのサポート、紛争地での医療、警備など、軍隊にとっての中核業務ではないためにアウトソーシングの対象となっている分野を担う企業群である。米ハリバートン社の子会社ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート社などはこの分野の代表的企業だが、このカテゴリーには地雷除去などを行う企業や衛星・情報通信関連の企業も含まれる。
 (3)「軍事戦闘企業」とは、軍事戦略の立案やアドバイスの提供から実際の戦闘行為までを含めたサービスを提供している企業で、このグループがもっとも議論を呼び起こし、「現代の傭兵」として非難の対象となり、「民間軍事企業」と聞くと多くの人がこのタイプの企業を思い起こすのだが、実際にこのタイプの企業は全体から見れば少数派であり、しかも最近はますます減少傾向にある。南アのエグゼクティブ・アウトカムズ社(EO)や英サンドライン社がこのグループの代表選手である。(1)の「軍事コンサルティング企業」との決定的な違いは「戦闘行為」という一線を越えるか越えないかの違いである。実際の戦闘業務を請け負うということは、一民間企業としては企業の名声、社員の人命保障などさまざまな面から極めてリスクが高いことであり、この一線を越えているかいないかは大きな違いであると言える34
 もちろん特定の企業が「コンサルティング」業務と「戦闘」業務を両方行うことは珍しくないし、厳密に言えばこうした分類をするのは困難である。そもそも「PMC」という呼び方自体もメディアや学者たちがその様に呼び出したため定着しつつあるが、何もその様な法的な根拠やステータスがあって呼んでいるわけではない。ただ普通の企業と同じような装いをしているが、その業務は明らかにかつては国家の軍隊が担っていたものであり、その様な業務を商業的に行っているユニークな企業が多数登場してきているので、彼らを便宜上「PMC」と呼び、それを前述したようにさらに細かく分類して分析しているのだという点をお断りしておく。そうすることでこの業界に対する理解が深まると確信するからである。
 それでは次章ではいよいよ、こうした企業たちが地球上で実際にどんな活動を行っているのかを、具体的に見ていきたい。
 
2.5 まとめ
 90年代にPMCがブームを迎えた背景には、冷戦が終結したことによる、新しい世界の安全保障環境の出現があった。冷戦時代の秩序が崩れたことによる内戦や民族紛争、国境紛争の続発。それにもかかわらず「平和の配当」を求める欧米では軍隊のダウンサイジングが行われ、大量の軍人たちが民間市場に流れた。実際冷戦後の世界には小規模紛争やテロ、国際犯罪のグローバル化など不安定な要素が増大したが、軍隊の規模は縮小し、正規軍はそうした新たな脅威に全て対応する能力がなくなった。そこで民間に流れた元軍人たちが、新たな安全保障上のニーズにこたえるべくPMCを設立したのである。危機管理やリスクコンサルティングの分野で企業のセキュリティ・ニーズにこたえる安全保障企業。軍事訓練や戦略アドバイスを売りにする軍事コンサルティング企業。軍の後方業務を肩代わりする軍事サポート企業。それに内戦の危機に陥った小国などに直接戦力を提供する軍事戦闘企業が、21世紀の安全保障環境で新たな活路を見出して登場したのである。
 

24 Deborah Avant. The Market for Force: Exploring the Privatization of Military Services, prepared paper for discussion at the Council on Foreign Relations Study Group on the Arms Trade and the Transnationalization of the Defense Industry: Economic versus Security Drivers.
(http://www.cfr.org/public/armstrade/privmil.html)
25 Singer, 2003, pp. 49-51
26 P. W. Singer. Corporate Warriors: The Rise and Ramifications of the Privatized Military Industry. (International Security, Vol. 26, No. 3, Winter 2001/2002)
27 Robert Mandel. Armies without States, the Privatization of Security. (Lynne Rienner Publishers, London, 2002) pp. 55-56
28 Harry Ed Soyster とのインタビュー、 2003年12月3日
29 Singer, 2003, pp. 62-68 及び Jack Kelly. Safety at a Price: Security is a booming, sophisticated, global business, Post-Gazette National News, 13 February 2000,
30 Mandel, 2002, pp. 9-10
31 Sandline International. An Open Letter, September 1998
(www.sandline.com)
32 Erin Solaro. Army For Hire: Private Military Corporations, The Seattle Post-Intelligencer, August 17, 2003
33 Mafruza Khan. Business of the Battlefield: The Role of Private Military Companies. Corporate Research E-letter, No. 30, December 2002
34 Davis, 2000, pp. 29-33 and Singer 2003, pp. 88-100







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