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東京財団研究報告書2004-2 日本人の安全保障に関する新構想

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


1.3 初期のPMC
 PMCは冷戦後に急速に成長しているが、その「走り」とも言える存在は冷戦時代にすでに誕生している。初期のPMCの代表としてビネル(Vinnell)社というアメリカの企業を見てみよう。この無名の会社の創業は1931年となっているから、この業界の中では老舗の一つである。同社はもともとロサンジェルス州周辺を拠点とした建設会社で、初期の成長はロサンジェルスの無料高速道路フリーウェイの建設やグランド・クーリー・ダムそれにドジャーズ・スタジアムの建設によるものと言われている。その後の歴史は不明なところが多いのだが、第二次世界大戦末期にはすでに軍事ビジネスに乗り出しており、北京の共産主義体制に追われた蒋介石軍に武器を提供したり、燃料を供給してその反共活動を支えたと言われている。
 また同社は、沖縄、台湾、タイ、南ベトナムやパキスタンの空軍基地建設にかかわり、この頃から米軍と密接になっていた。1960年代にはCIAのケース・オフィサーがビネル社の社員を装ってアフリカや中東で活動をしていたことが報告されており、ベトナム戦争には5,000人のビネル社員が米軍と共に戦争に参加していたことが記録されているので、この頃から軍やCIAと緊密に連携していたのは間違いない18
 そして1975年にビネル社は米国防総省の委託を受けてサウジアラビア政府との間で、サウジ国家防衛隊(SANG)を訓練する契約を結んだ。SANGはサウド王家を守り、サウジの油田を警備することを主たる任務としている軍隊である。7,700万ドルといわれたこの契約の下、ビネル社はベトナム戦争から帰ったばかりの約1,000人の元米特殊部隊員をサウジに送り、26,000人のSANG隊員の訓練にあてた。これは「アメリカがサウジの安価な石油を確保し、換わりにアメリカがサウド王家を軍事的に支える」という両国のギブ・アンド・テイクを具体的に裏付ける戦略的なディールだった19。サウジの軍隊をアメリカの私企業が訓練するというこの契約は米議会でも論議を呼び、親イスラエル派の議員の中には同契約に反対するものもいたが、結局この契約は締結され、ビネル社はその後26,000人のSANGを70,000人の強力な軍隊に作り上げるのに貢献した。同社はSANGを「訓練する」というだけの契約を結んでいたのだが、1979年に反乱軍がメッカのグランド・モスクを占拠してサウジ体制に動揺を与えた時、ビネルの契約者たちがサウジ軍の展開する軍事作戦の調整に暗躍していたことが報告されており、「訓練」以上のことをしていたとの噂は絶えない。
 こうした背景からビネルは反サウド王家の勢力からは敵視されており、1995年11月それに2003年5月にリヤドで起きたアル・カイダのものと見られる爆弾テロ事件では、ビネル社の契約者も多数被害を受けており、同社はアメリカによるサウジ支援の象徴的存在と見られている。このビネル社とサウジ政府の契約は今日に至るまで継続しており、米・サウジ関係を裏で支える役割を果たしている20
 このビネル社の契約は、第二次大戦中に中国を助けたシエンノートの民間空輸会社(CAT)のそれと同様、「政府が公然とできないことを民間企業が肩代わりして行っている」わけであり、米外交政策の延長線的な性格が強い。歴史的に「傭兵」は政治的に敏感な秘密工作や特殊作戦など政府が自国の軍隊を使えない時の最後の手段として機能してきたが、PMCも同様に政府のカバーとして動くことがあると言える。
 もう一つ、冷戦時代に生まれたPMCの先駆者的な存在は、日本でも有名なイギリスのリスク・コンサルティング企業コントロール・リスクス社である。同社は1975年に創業し、現在では130ヶ国で5,300以上のクライアント(その中には米「フォーチュン」誌トップ100社中の86社が含まれる)を抱えるリスク・コンサルタントの世界最大手である。同社はイギリス陸軍の特殊部隊「特殊空挺連隊」(SAS)に所属していた二人の将校によって設立され、イギリス、アメリカの軍、情報機関、警察や政府機関出身者、学者、弁護士、会計士、ジャーナリストなど幅広いバックグランドのスタッフからなり、政治・安全リスクのコンサルティング、各種調査業務から危機管理サービスなど総合的なリスク・コンサルティング・サービスを提供している21
 同社はもともとイギリスの世界的な保険引受組織であるロイズ保険協会との関係が密で、ロイズ仲立人の老舗ホッグ・ロビンソン社が安全保障会社KMSと協力して設立した企業である。ロイズは当時、誘拐事件の続発を受けて新たに身代金支払いに対する保険という新事業に参入していたが、保険契約者が身代金の請求に対し限度額を超えた支払いを行わないように防止するため、誘拐犯の請求する身代金の限度額をチェックし、しかも最終の支払い額を一セントでも減らすため、「誘拐交渉人」もしくは「人質解放交渉人」という特別なコンサルタントを必要とした。この役割を担って登場したのがコントロール・リスクス社であり、ロイズの身代金保険に加入すると自動的にコントロール・リスクス社による誘拐交渉コンサルティング・サービスが提供されるシステムができ上がった22。コントロール・リスクス社はこの誘拐交渉の分野で他の追随を許さない圧倒的な経験と実績を物にし、これを手始めに上述したようなさまざまな分野へと活動の幅を広げていった。
 SAS出身で誘拐交渉人になったマーク・ブレスは、「SASで受けた訓練や実際の工作で学んだ軍事上の諸原則は後年、誘拐ギャングがつくり出す一連の問題を処理する際に役立つ知識をあたえてくれた。(中略)都市部や農村部におけるさまざまな犯罪者の過去歴やパターンを研究してきたし、彼らの犯罪動機や能力について相当の知識をえた」と述べ、「こうした陸軍での作業が、誘拐ギャングのライフスタイルを理解するのにひどく役立った」と記している23
 このように冷戦時代には、サウジの軍事支援という政府が公然とは行えない政治的に敏感な問題に対して攻府の役割を肩代わりして行うビネル社や、軍人たちの持つ知識や技能を人質解放交渉という意外な分野で役立てたコントロール・リスクス社のような現代のPMCの先駆け的な存在が誕生していた。しかしこうした初期の頃のPMCはまだ秘密性が高く、ほとんど公には知られることのない、陰の仕事人的な存在に留まっていた。こうした状況に変化が訪れるには、冷戦という一つの時代が終わるのを待たねばならなかった。
 
1.4 まとめ
 「傭兵」は古代から現代に至るまで常に存在しており、第二次世界大戦の頃までは一般に受け入れられた存在だった。現代のPMCは「傭兵」の定義には当てはまらないが、「政府が公然とはできないことを肩代わりして行う」行動パターンなどは共通しており、「傭兵」の現代版とみることもできる。冷戦時にはそんな現代版傭兵のビネル社や、軍人の持つ特殊技能をユニークな形で活かしてコンサルティング業務をはじめたコントロール・リスクス社など、PMCの原型がすでに登場していた。
 

18 William D. Hartung. Bombings Bring U.S. Executive Mercenaries into the Light, Los Angeles Times, May 16 2003.
19 Dan Briody. The Iron Triangle, Inside the Secret World of the Carlyle Group. (John Wiley & Sons, New Jersey, 2003) pp.60-80
20 Suraya Dadoo. Private Armies, Public Wars. Peacework, October 2003
(http://www.afsc.org/pwork/0310/031009.htm)
21 Control Risks Group. RiskMap 2004, pp.162-163
22 マーク・ブレス&ロバート・ロウ著、新庄哲夫訳「キッドナップ・ビジネス」(新潮社、1987年)pp.18-20 及びR・クラッターバック著、新田勇他訳「誘拐・ハイジャック・企業恐喝」(読売新聞社、1988年)pp.350-351
23 ブレス&ロウ、1987、pp.22-23







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